その33・これがホントの大団円?
***ミルフィア編***

 

 「お嬢ちゃん・・・・」
森に囲まれた坂道を上りきる前、カルロスは視野の中に入った老婆の家、そして、その庭先で花に水をやっているミルフィアの姿を見つけ、無意識にそう呟くとその足を速めていた。
まだ数メートルあるその距離を超え、カルロスの心はすでにミルフィアの元へと行っていた。

そう、金龍からどちらかを選べと言われ、カルロスはミルフィアを選んだのだった。どちらにするべきか・・確かに甲乙付け難く迷いに迷ったが、惹かれたきっかけ(厳密には双子の兄であるミルフィーなのだが)でもあり、そして、舞踏会での己に誓った決意も彼女を選んだ理由だった。
が、何より自分自身に惹かれ始めていたミルフィアの方が無難だと、無意識のうちにカルロスが心の奥で算盤を弾いたのが真実かもしれなかった。なにしろミルフィーには散々からかわれ続けていたのだから、そう判断しても仕方ないとも言えた。


「お嬢ちゃん!」
喜びに輝く顔で駆け寄るように足早にミルフィアの傍に行くカルロス。
「あ・・え?・・・カルロ・・ス?」
「お嬢ちゃん・・・覚えていて・・くれたんだな?・・」
喜びと満足感で満たされ、カルロスはそっとミルフィアの頬へ手を伸ばす。
「フィアになんか用か?」
−キラっ!−
カルロスの手がミルフィアの頬へと滑り込むその直前、カルロスの目の前に光ものが写った。
しまった、ミルフィアを選んだ場合は、もれなくついてくるおまけ(笑)・・そういえばそんな存在もあった・・・と思いつつ、カルロスは鋭く光るその鋭利な刃物を伝って声の主に視線を移す。
「用・・と言われても・・だな・・オレは・・・」
「フィー・・」
が、双子の兄のミルフィーに止められた事より、そのミルフィーを見て、いかにも安堵したようなミルフィアの表情に、カルロスは一抹の不安を覚える。
そのカルロスに鋭い視線を投げかけながら、ミルフィーはさっとミルフィアを自分の後ろへと下がらせる。
「あ・・だからだな・・ミルフィー・・・・」
それまで呼び慣れたその名。少女への呼称として使っていたその名前を、男に向けることがどことなくおかしいような感じを受けながらもカルロスは、当然だろうという表情で話始めようとした。
が、それより先にミルフィーがきつい口調で話し始めていた。
「確かにあんたにはフィアが世話になった。だけど、これとそれは別だ。あんたがどう思おうと、オレの目の黒いうちは、あんたのような奴には絶対フィアを渡さない!」
「ちょっと待ってくれ。オレが真剣なのはあんただって分かってるだろ?・・それとも何か?2人に戻って記憶がないのか?」
「オレの身体を取り返す事ができず、オレとフィアが1人の人物になる決心をしたところまでは覚えている。その後は・・・残念ながら記憶がない。ただ、ここで目覚める時、その1人になった人物から、オレたちの生を返すと言った言葉を聞いた。暗闇の中で、もう1人のフィア?・・いや、オレとフィアの生まれ変わりといってはおかしいが、ともかくオレたちそっくりな女が笑顔で言っていたのを覚えている。全てに満足したようなすがすがしい笑顔が印象に残ってる。後は、レオンからいろいろ彼女の事を聞いた。」
「なるほど・・・とすると、キートとティナの兄妹と出会った時に戻ったということでいいのか?」

「これこれ!人の家の庭先で何にらみ合っとるんじゃ?」
「おばば・・」
「だけど、ばーちゃん・・・」
3人は、家から出てきた老婆に促され、ともかく中へと入った。

「あ、あのだな・・お嬢・・・ちゃん?」
が、確かに最後は、カルロスに惹かれ始めていたようなミルフィアだったが、その態度は、あの時と違っていた。
「フィー、どのお茶にする?」
「フィー、薪がもうほとんどないの。お願い、裏の小屋から持ってきてくれない?」
「フィー・・・お夕食なんにする?あとからお買い物に連れてってくれないかしら?」
そう、目の前のミルフィアには、カルロスなど全く気にかけている気配はなく、アウトオブ眼中・・・まさにそれだった。
最初こそ、照れているのかとも思っていたが、どうやらそうでもなさそうだ、とミルフィアの態度を見ていてカルロスは感じ始める。
(あの時は、兄がいなかったせいだというのか?兄の身代わりとしてオレを頼り始めていたわけ・・だと?・・・恋心などではなく?)
絶望的な考えがカルロスの心の中で生まれていた。
事実、いつも張りつめたような表情だったミルフィアのそれは、柔らかくそして、安心感に満ちていた。そして、その視線はカルロスではなく、常に兄であるミルフィーに向けられていた。


「残念だったな。」
「あ?・・・レオン・・か。」
窓辺のイスに座って、ミルフィーとばかり話しているミルフィアに視線流していたカルロスは、レオンに声をかけられはっとする。
「まー、なんだな・・・・シスコンにブラコンもあそこまで息が合ってちゃ、入り込むすきまなどからっきしなさそうっていうか・・・だけど、あんたはやっぱり彼女よりミルフィアだったのか?」
少し蔑視したような光がレオンの瞳にはあった。もちろんレオンの言う彼女とは、少女のミルフィーである。
「あ・・・い、いや・・・」
「最後の最後まで彼女、ミルフィーは言ってた。あんたは、彼女の中のミルフィアを探してるってな。・・・オレは、そんなことはないって言ったんだが・・・どうやら彼女の方が当たってたようだな。」
「い、いや・・だから、あの時はミルフィアではなく、真剣に彼女を・・・」
「じゃ、なぜ彼女を追いかけなかった?なぜこっちに戻ったんだ?」
「そういわれても困るんだが・・オレはミルフィアを生涯守ると己に誓っ・・」
−ダン!−
カルロスの頭越しに勢い良くレオンの拳が壁にぶつけられた。
思わずびくっとするカルロス。
「いや・・・悪かったな・・・オレが怒ることでも・・言うべきことでもないな。」
すっと壁に打ち付けた手を引き、レオンは天井を見上げる。
「全てを白紙に戻し、ミルフィーは新しい人生をスタートしたんだ。あんたのことも含め、そして、オレたちのこともすべて白紙に・・・・これで良かったんだろう。何よりも彼女が願った事だ。」
「・・・レオン・・・」
「シスコンが移っちまったかな?・・はは、オレにとって、あのミルフィーは・・ホントの妹のようだった・・・・いや、それより近い・・彼女はオレにとって兄のミルフィーであり、またミルフィア・・・親友であり妹であり、命を貼った冒険の仲間だった。」

「オレもできるならそのミルフィーに会ってみたい。」
「あたしも。」
不意にミルフィーとミルフィアに声をかけられ、レオンとカルロスははっとして2人を見る。
「オレたちが自分たちという個の消滅とひきかえに、1人になることを決心したときとはまるっきり反対になったわけなんだけど・・・・彼女がすっきりしなかったように、オレたちも・・・なんか・・こう・・・」
ミルフィーの言葉に、ミルフィアも小さく頷いていた。
「しかし・・」
それは不可能だとレオンも、そしてカルロスもその表情を陰らす。

−バタン!−
「フィー!フィア!朗報ですよ!朗報!」
そこへ勢い良く玄関の戸を開けて駆け込んできたのは、レイミアス。
「ま、まさかレイム?」
「ええ、そのまさかです!」
乱れた息を直すため、大きく呼吸をしつつ、レイミアスは嬉しそうに続けた。
「夢幻の館のリーパオを通し、そして、銀龍を通して話をつけてきました!」
お互いを力強く見つめているレイミアスとミルフィーとミルフィアの3人を、レオンとカルロスは不思議そうに見ていた。

「やっぱりまだ間に合いました!それで、金龍を通して、もう一度彼女に考えてもらったんです。」
レイミアスの言葉に、うんうん、と頷くミルフィーとミルフィア。
「なんだ?何を隠れてやったんだ?」
レイミアスに聞くレオン。
「あ・・すみません、確信が得られるまで、できるなら話さない方がいいと思って。」
「確信?」
「ええ。あのミルフィーの事なんです。フィーとフィアに頼まれて。」
「頼まれた?」
「はい。つまり、あのミルフィーは、確かに、この2人、フィーとフィアの過去の上からなりたってます、記憶も経験も。でも、その記憶を有するミルフィーでなければ、また彼女ではなくなるということも、考えられますよね?」
「お・・・そ、そうだな?」
はっとするレオン。
「ようやく誰も犠牲にせず、解決するんですよ。」
「誰も犠牲にせず?」
「はい。」
まだ不思議そうな表情のレオンに、レイミアスは笑顔で答える。
「だから、生き返るんですよ、あのミルフィーも!ミルフィーはミルフィーのあのままで!」
「そ、そんなことができるのか?」
「ええ!できるんですよ!ですから、誰の犠牲もなく解決ということになるんですよ!」
「そ、そうだな?そういうことに・・・なるよな?」

「で、今度はレイム、お前が何かを犠牲にするんじゃないだろうな?」
ようやく話の全貌が分かり、嬉しそうに言ったレオンの言葉を、ミルフィーが遮った。
「え?」
そのミルフィーの言葉で、レイミアスはぎくっとする。
「レイム・・・」
やっぱりという表情のミルフィーに、少し青くなりながらもレイミアスはそれを否定する。
「あ、でも・・たいしたことじゃありませんから。」
「たいしたことじゃないって・・・だけど、何か見返りは要求されるんだろ?」
「・・・・・・」
全員の注意はレイミアスに集中していた。
「あの・・ホントに大したことじゃないんです。」
「じゃ言えるだろ?」
ちらっとミルフィーを見てから、レイミアスは頭をかきながら明るく言った。
「聖龍の法力と引き替えといいましょうか・・・全法力を放出しないとダメなんだそうなのですけど・・・」
「全法力って・・・レイム、それでお前は大丈夫なのか?」
「あ、ええ・・・そ、そうですね、聖龍の術は二度と使えなくなってしまうそうですが、それ以外は、その疲労のため、しばらく眠り続けるだけで、命には別状ないから大丈夫だとリーパオは言ってました。」
「命には・・って、ホントか?あいつ、今ひとつ信用おけないからな?」
ミルフィーの言葉に、レオンも頷く。
「でも、今回は、時の止まったあの館を借りてミルフィーの再生を試みるんですし、信用してもいいとぼくは思います。何かあったら、創世龍が黙っていないでしょう?」
「そ、そっか。それがあったな。」

複雑な表情、そして、心境のカルロス以外、全員の顔は喜びで輝いていた。


そして・・・・・


「おはよう、ミルフィー・・・・・どうだ?長い眠りから覚めた気分は?」
「・・・レオン・・・わたし・・・ここは・・・?・・あ・・・」
夢幻の館の一室。目覚めたミルフィーの目にやさしく微笑むレオンの顔が写っていた。そして、レオンの肩越しに双子のミルフィーとミルフィアが見える。
不安と期待が混ざったその2人の表情が、徐々に喜びのものに変化してきていた。
「あ・・・・は、初めまして。」
「あの・・・こんにちは、ミル・・フィー・・さん?」
「フィーと・・フィア?」


不思議な初対面だった。どこかくすぐったく、そして、心からの喜びを感じた瞬間だった。


「おばーさん!ただいまっ!」
「ミルフィー!無事目覚めたと手紙をもらってから、どれほど首を長くして待っておったか。」
「ごめんなさい、おばーさん。なかなかレイムが眠りから覚めなくて。」
「まー、なんにしろ良かったよかった。」
「おばーさん。」
「お帰り、ミルフィー・・まったくほんにこのおてんば娘は、婆に心配かけおって・・」


フィー(兄のミルフィーをこう呼んで区別することにした)、フィア、ミルフィー、レオン、レイミアス・・・5人はしばらく老婆の家でのんびりと過ごすことにしていた。
長い長い旅を終えたばかりだから。
ようやく長く厳しいトンネルを抜け出た3人。心の底からの笑顔が戻っていた。

が、カルロスだけは、少女のミルフィーが無事目覚めたその日、自分の気持ちを整理する為、そっと1人旅立っていた。
いつか彼らのところへ戻ってくるのか、それとも二度と戻らないのか・・・それは誰も知らない。カルロス本人でさえ。

カルロスが立ち去ったことは、残念だとも、そして、これでもうあの手の騒ぎはなくなると、ほっとした安堵感も感じた彼らである。
というのも、問題の2人、ミルフィーもフィアもどうやらカルロスに特別な感情を抱いているわけでもないことが判明したからでもあった。
女同士、ミルフィーとフィアがお互い自分を見つめながら、話しあった結果はっきりしたことでもある。
こういう結果になり、カルロスの心に傷を負わせてしまったかもしれない、と悪いとは感じつつ、それだけはどうにもならないことでもあった。
道は別れてしまったが、彼らはカルロスの今の状態からの早期復活を祈った。

「大丈夫ぢゃて。なんといってもカルロスのポジティブ精神はすごいんぢゃ。どんなに落ち込んでもすぐ復活する。・・・そうぢゃな・・今頃もう完璧復活して、どこか他の地で、理想の女を見つけてくどいてるかもしれんぞ?」
老婆の言葉に、全員苦笑いしながらも頷いていた。


 


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