
その22・3対1の悲哀?
「ホントに女って・・・変わるもんだよなーーー?」 港町で興行を終え、そして無事国都へ着き、そこでの興行も終えたミルフィーたち一行。 水不足に悩む山間の村へと向かう前、国都の雑踏へ姿をくらませてしまおうという計画の準備中、宿の一室でラードはミルフィーと相談しているジャミンを見ていた。 水龍の歌姫の護衛なんだから、という主張に対抗して、自分ばかりずるい!と散々責め立てたミルフィーに負けて鎧を脱ぎ、女物のドレスに着替えたジャミンがそこにいた。 剣士姿でいるとき、時には恐ろしいほどの闘気を全身から放つこともあるこの2人は、確かに伝説の神龍の騎士なのである。 が、こうしていると、ジャミンも到底騎士にはみえない。 ただ、ミルフィーのようにくったくなく誰でも気さく接することができるという雰囲気とは違っていた。普段着でもジャミンには、そこに普通人ではないようなそれがあった。本人が気を引き締めているというのだろうか、ある種近寄りがたいような雰囲気があるようにも取れた。 といっても別にお高くとまっているというわけではない。ミルフィーやセイタと一緒になって彼女もよく朗らかに笑う。 が、そこにどこかしら表情の奥深いところに緊張感があるようでもあった。 「いや、そう思ってしまうのは、大人の女性として完成された彼女の品の良さからくるのかもしれないな。」 ラードは一人そんなことを考えていた。 細かいところまで配慮が届いた落ち着いた考えと行動。それは、いかに剣の腕では勝ち、金龍の騎士であるミルフィーでも対抗できないことだった。 今ではすっかり歌姫のマネージャーとしての役目もジャミンが担っていた。山のように来る依頼をお人好しのミルフィーでは断れきれず困っていたのを、ほいほいと簡単に整理してしまった事から自然とそうなっていた。ジャミンに任せておけば間違いなかった。 「結局、人生経験の差・・・つまり、年の差か?」 「なにが、年の差?」 「え?」 一人考え込んでいたラードは、不意に目の前にあったミルフィーの顔にぎくっとする。 「どうせ私は年増だって言いたいんでしょ?」 「あ・・・い、いや・・そうじゃなくって・・・」 そのミルフィーの背後にはジャミンが腕組みをしてラードを軽く睨んでた。 今の格好では女性らしく楚々とした感じではあっても、龍騎士であることには間違いない。その実力は推して知り得ることである。 (な、なんでオレの回りは、こう手も足もでない女ばかりなんだ?) 慌てて苦笑いを残してその部屋から退散したラードは、廊下で大きくため息をついていた。 (龍騎士でさえなけりゃ、まさに両手に花っていうか・・・2人とも申し分ないほどの美人なんだけどなー。まー、確かに例えそうじゃなくっても、ジャミンはオレじゃ釣り合いがとれそうもない感じはあるけどな・・・。) 大人すぎて、とラードはまた別のため息をつく。 「どうしたの、ラード?」 「あ・・セ、セイタか・・な、なんでもない。」 不意に後ろから声をかけられ、ラードはその主がセイタだったことを認めるとほっとする。 「ホント?」 「な、なにがあるってんだよ?」 「ラードのことだから、またミルお姉ちゃんをからかったかして言い換えされたとかなんじゃないの?」 「なんだよ、それ?それじゃいつもオレがそんなことしてばかりいるみたいだろ?」 「ラードって、女の子の扱い、下手なんだもん。いっつもお姉ちゃんの気にさわることばっかり言ってるから。」 「い、いつもって・・・」 「そうでしょ?お姉ちゃんの気を惹こうとして、反対の事ばかり言ってるもん。」 「セ、セイタ・・・・そ、それはだな〜・・・」 「照れてしまって無意識に反対な事が口に出る、なんて通用しないわよ?」 「セ、セイタ?」 チッチッチッとセイタは右手の人差し指を立てて少し眉間にしわを寄せるようにして言う。 「お姉ちゃんもそういう事に関しては結構鈍感みたいだから、きちんと口で言わないと通じないわよ?」 「あ、あのな・・・セイタ?」 ラードはすっかりセイタにたじたじになっていた。 「それに、ファンもますます増えてきてるから・・気を付けないと誰かカッコイイ男の人に横からさらわれちゃうわよ?」 「さ、さらわれるって・・セイタ・・・オ、オレは、別にミルフィーの事なんて・・・」 「ああ、あたしのことなら気を使ってくれなくても大丈夫よ。」 「へ?」 全く頭になかった事を不意に言われてラードはきょとんとする。 「あたしにとってラードはやっぱりお兄ちゃん・・かな?」 「事実、お兄ちゃん・・だろ?」 「うん。でもこういうことに関しては、手のかかるどうしようもないおっきな弟?」 「お、弟・・・・」 「ステキよねー・・・金騎士のミルお姉ちゃんの横に銀騎士のラードがいる、な〜〜んて♪」 「お、おいセイタ?」 胸の前で手を合わせ、一人夢見心地で呟くセイタをラードは呆れ返って見つめる。 「でも、その前にやっぱりもっと剣の腕を磨かなくっちゃね。お姉ちゃんに『うん』と言わせる為に!」 「『うん』って・・・あのな、セイタ?」 「それから、やっぱり頭一つくらい背が高い方がいいわよね?ラードってまだ伸びそう?」 「セイタ・・・あのな、今はそんなこと考えてる時じゃないんだぞ?」 「いいのよ。世界のことは世界のこと。この事はこの事で。」 「セイタちゃん?そこにいるの?」 カチャとドアの開く音がして、ミルフィーが部屋から顔を出した。 「あ、うん。」 「おいしいビスケットがあるのよ。一緒にお茶しない?」 「あ、は〜い♪」 にこっと返事をしてセイタはラードをちらっと見る。 「ラードは?」 「あ、オレ、ちょっと気になることがあって、聞き込みに。」 「そう。じゃ、気を付けてね、ラード。」 「あ、ああ。」 嬉しそうにセイタが駆け込んでいった部屋のドアを、ラードはしばらく見つめていた。 「ちぇっ・・一人くらい男の同行者が欲しいよなー?」 年が近ければそれにこしたことはないが、この際贅沢言うつもりはないから、誰かいないかな、とふとラードは思う。 一般的に言うやきもちとは違っていたが、3対1。そしてその女同士の3人は、本当に仲がいいのである。時にはラードの存在など忘れ去られていないかと思えるくらいに。 知識や腕、行動力などで自分の存在(男?)を誇示できるというのならまだしも・・・彼女たちは、普通の女性ではない。今のラードにはどれをとっても誇示できるものなどなかった。 だから、せめて同性の仲間が欲しいとふと思ってしまったことも無理ないと思える。 もっとも一応同性の仲間はいるのだが、そうとは言え、シモンでは同行者と呼ぶには・・・いろんな点で差がありすぎるし、単独行動に徹すると言っていた彼が同行するとは思えなかった。 「うだうだ思っててもしかたないし、今やるべきこと、オレにできることからきちっとしていくしかないよな?」 ぼりぼりと頭をかきながらラードは階段を下りていった。 一見お調子者にみえるが、その気持ちの切り替えの早さと責任感の強さは、小姑(?)セイタ(笑)の太鼓判ずみである。 |