●裏追跡簿[6] 熱き恋、それは特大の火球のごとく?
「ちょっと!どこに崩れかかってるところがあるっていうの?」
そこは城をぐるっと囲んだ塀中。城の中へ潜入しようとしてここまで来たドーラだが、正門から入れるはずはなく、他の出入り口を探して塀沿いにぐるっと回っていたのだが、裏口もそして、あったもよさそうな下働き用の通用門も見あたらない。
そこで、その塀の影に隠れて立っていたような怪しげな人物に1000Gもの大金を払って情報をもらったのだが・・・・。
「ほら、そこ!姐さんのすぐ後ろの壁・・・今にも崩れそうでヤしょ?」
1000G金貨を鷲掴みにすると、その男はにやっとしてドーラの後ろを指さす。
「どこよ?」
ドーラの目には、崩れかけた壁などどこにも見あたらない。ひょっとしてイリュージョンの壁でも?と思いつつ、その壁に近寄って手で確認したのだが、見つからない。
もしかしたら騙された?と男が立っていた場所を振り返ったドーラの顔が怒りで真っ赤になった。
そう、そこはもぬけの殻。怪しげな人相のその男は、ドーラが壁の方を振り返ると同時に一目散に逃げていた。(勿論足音なし)
「あ、あいつ〜〜・・・・怪しいと思ったらやっぱり・・・・」
十中八九ガセネタだと感じていた。が・・・どうにも城への潜入口が見つからない。ドーラは藁をもつかむ気持ちでその男の情報に賭けたのだが・・・・。
−ヒュン!−
そんなドーラをちょうど運良く・・いや、運悪く・・しかも最悪の心理状態のドーラを発見した弓矢兵がくせ者だとばかりに矢を射る。
−ごあっ!−
が・・その矢は、それほどの威力で焼かなくてもいいだろうと思われるほどの巨大な火球に飲み込まれ、あっというまに焼失した。
「そんな細い弓がこのドーラ様まで届くと思ってんの?」
−ごごごごご・・・・−
彼女の全身から燃え上がる怒りの炎は、矢を飲み込んだ火球よりすごかった。
「ひ・・・・・ひぇ〜〜〜・・・・」
弓矢兵は、持っていた武器を投げ捨て腰を抜かしながら逃げていった。
「まったく・・・・どいつもこいつも!」
1000Gは痛かったが、これで穴埋めできるからいいか、とドーラは兵士が落としていった剣を拾い上げる。
「グラディウスか・・・・まーまーの代物ね。でも・・なんで手にしていた弓を落とさないで、わざわざ腰についていた剣を落としていくのかしら?」
不思議に思ったが、そんなことはどうでもいい。塀に沿って行った先にある城下町で換金できるというものである。
「でも・・もう1本くらいほしいところよね?」
なぜか1000G以上なければ気が済みそうもなかった。
「ちょっと遊んでから街に行きましょ。」
などと思わなくても結果としては同じである。つまり、城下町までの道、それは城壁づたいに行くということ。兵士は山盛りいる。
「でも、城壁に近づく者全て攻撃してくるなんて・・・・中ではよほど怪しげな事してるのかしら?」
弓矢兵以外に槍兵が守備兵として城壁を守っていた。が、どの兵士も焦点の合わないような瞳でまるで操り人形のように同じところを行き来しているのみ。
それは、守備範囲を守るという自分の任務を忠実に実行しているとは言い難かった。そこに意思は全くないように思われた。
「同じ服装は兵士だから分かるとして・・・背格好や顔も同じだなんてねー・・・・本当に人間なのかしら?」
ぼんぼん!と火炎を投げかけて倒しつつ、ドーラは呟きながら進む。人間と思えない彼らを火に巻くのは、気楽だった。
「式神的な操り人形なのか・・魔物が化けているのか・・それとも、クローン?・・・・」
どっちにしろ、この城の主は普通の人間ではなさそうだ、と実感しつつ、ドーラはますます潜入しなくては!と決意していた。
「そんな怪しげな奴に私のプラネットソードを使わせてなるものですか!」
そして、城下町に入る。お城の膝元だから、やはりそこでも兵士がわんさかいて取締も厳しいだろうと思いきや・・・兵士は人っ子一人いない。全くの自由自治区のようにみえる。
抵抗グループがいるわけでもない。怪しげな城とはまるで無縁とでもいうように、平和でのどかな街・・・城下町と呼ぶには小さすぎる町だった。
「よー、べっぴんの姉ちゃん・・闘技場へ入りたいってか?」
「え?・・・闘技場なの、ここ?」
町のあちこちを調べていたドーラは、大きめの建物の前で中の様子を伺っていたところを、大男に声をかけられる。
「そうさ。冒険者じゃ剣士が腕を競うところだ。まー、姉ちゃんには関係ないだろな?」
「関係ないってどういうことよ?」
私が弱いとでも言うの?と少し視線をきつくして詰め寄りかけたドーラの、男はにやっとしながら言った。
「姉ちゃんのような美人にゃ、怪我なんぞしてもらいたくねーからなー。」
「あ、あら・・」
理由が違うようだとドーラのつり上がりそうだった目尻が自然と下がる。
「ほら、見物ならそっちの入口から入んな。」
「あ、ありがと。」
示された入口から入ると、そこは闘技場の正面。
「お?べっぴんさんのご来場だな。」
入り口付近にいた男が、即声をかける。
「応援か?あんたのいい人でも出るっていうのかい?うらやましいねー・・」
その言葉に、ドーラの脳裏にふとアレスの姿が浮かんだ。
「そ、そんなんじゃないわよ!」
アレスが浮かんだことに焦りと怒りを感じ、ドーラは思わず怒鳴る。
「まー、どっちでもいいさ・・・恋人でなくても、あんたのような美人に応援されりゃ、その気にならない男なんていないんじゃないか?今日の優勝は、あんたが応援した奴だろうな。」
「そ、そんなことないでしょ?」
そう言われてドーラも悪い気はしない。
「ねー・・・」
「ん?」
「それはいいけど、全然奥へ行けないじゃないの?ここじゃ何も見えないわよ?」
そう、人垣でそれ以上全く奥へ進めない。
「ああ・・」
にやっと笑い、男は続けた。
「奥へ行くにはこれを払ってもらわなくちゃな。」
男は手で金をよこすようにとジェスチャーで請求する。しかも法外な値段。
「なによ?ただじゃなかったの?」
「ここまでは『ただ』なんだ。」
−ごあっ!−
「うおっ?!」
「今これしか持ってないのよ、これじゃだめ?」
きつい視線と共に、ドーラの手から特大の火球が燃え立ちあがっていた。
「い、いや・・・・そ、その・・・・・」
たら〜っと冷や汗が男の全身を流れる。
「さ、参加者は向こうの入口だぜ?ま、間違えてくれちゃ困るな。」
腰を抜かし、男はどもりながら小声で言った。
「番人がこれじゃ、闘技会っていってもしれてるわね?どうせ八百長試合ばかりなんでしょ?」
ドーラはすっと火を消すと、男に蔑視の視線を投げかけてから闘技場をあとにした。
「おおーー!べっびんの姉ちゃん、どうだ近くの酒場でオレと一杯?」
「およ?!べっぴんさん、どこへ行くのかな?近頃山賊や怪しげな覆面男が出るらしいからな。あんたのような美人は、即狙われちまうぞ?危ないからオレん家来ないか?」
「何?城へ入りたい?あんなとこ行ったってろくなことないぞ?そんなことより、カジノでも開こうと思ってんだ。ここは娯楽がないからなー。どうだ、そこで呼び込み嬢しちゃくれないか?あんたなら千客万来!男共がわんさとくるに決まってるぜ。でもって色気でごまかしゃ、もう、うはうはもんだぜ?」
「・・ったく・・なんなのよ、ここは?」
町のどこかに城への抜け道があるだろうとドーラは第六感で感じていた。が、町の住人は極めてお気楽のんびり人種ばかりで話にならない。
町のそれらしき片隅を調べていてもこの調子で、すぐ見つかってしまう。
「まさか・・・見張ってるんじゃないでしょうね?」
人の良さそうな住人達・・・・もしかして、兵と同じで誰かに操られている?
探索も暗礁に乗り上げた形となってしまっていた。
「ホントにもう!・・アレスがさっさと来ないからいけないのよ!」
こうなったら迎えに行こうか、とも一瞬思ったドーラだったが、そんなことをすれば、誤解されかねない。ただでさえ監獄からの脱出に手を貸したのである。誤解されることは、ドーラにとって一番頭に来るそして屈辱なことでもある。
「アレス!早く来なさいよね!」
ドーラは城壁の続く崖の上から、漁師村を睨むように見下ろして叫んでいた。
いや・・おそらくドーラの目に写っているのは村ではなく、アレスなのだろう。
「アレーース!」
怒りで叫んだドーラの手には、作ったつもりはなかったのだが、その怒りを表すかのように特大の火球が燃えさかっていた。
そして、そんなドーラの姿に、町の人々は納得する。
「なんだ、あのべっぴんさん・・あれだけの美人なのにどうして一人でいるんだろうと思ってたが、恋人を待ってるのか。なるほどなー。」
「どうりでオレ達が声をかけてものってこないはずだぜ。」
「だよなー・・・・早く来るといいな、その恋人。」
「ああ、きっと王さんに例の監獄島にでも無実の罪で入れられたんじゃないのか?」
「そうか。それで漁師町の方を見て叫んでるんだな。」
「逃げて来れるっていや、あそこからだもんな。・・・今までいないけど。」
「再会できるといいな。」
「そうだな。」
「で、どんな奴なんだろう?」
「あれだけの美人だろ?・・・でもって性格は・・結構きついよな?」
「結構、というより、かなり、だけどな。・・・うーーん・・・恐れをなして来ないのか、なんなのか・・」
娯楽のない町で目立つドーラは、注目の的。そして、住人達による尾ひれの付いた噂はますます拡大誇張リメイクされて広がっていく。
『今もっともお熱い恋人・声よ、かの人に届け!想いは炎の如く!』
そのタイトルがついた噂が彼女の耳に入ったとき・・・・ドーラの全身は特大の怒りの炎となってそれまで以上に燃え上がった。
「どうしてそうなるのよーーー?・・アレスのばかーーーーーっ!」
ドーラが時折立ち寄って怒鳴っていく漁師町の見えるその崖には、兵士たちでさえ近寄らなくなっていた。
が、それとは反対に、時々こんなこともあった。
にこにこ顔の人の良さそうな町の老婆がドーラの肩をぽんぽん!と叩く。
「え?なーに、おばーちゃん?」
にこっと笑ったドーラに、老婆は慈愛のこもった笑みを返す。
「頑張るんだよ、いつかきっと会える日が来るってもんさ。諦めちゃいけないよ。ほら、これでも食べて元気をおだし!」
つまり・・・恋人(アレス)を待ちわびているドーラを気遣い、励ますのである。
「あ・・・違うのよ、おばーちゃん、私はね・・・」
訂正しようとするドーラに、老婆は一段と慈愛を込めて話す。
「いいんだよ、あたしにゃ、よーく分かってるよ。ほら、おいしいんだよ、このリンゴ。恋人が戻ってきたとき、病気にでもなっていたら目も当てられないだろ?」
「じゃーなくてぇ・・・・」
どんなに訂正しようとしても老婆は頭から噂を信じ込んで、照れているとしか取らない。
そして、やさしく諭すように言う老婆を、さすがのドーラも怒鳴るわけにはいかなかった。
そして、恋人を待つ健気な女性として、ドーラの噂はまたしてもバリエーションが増える。
「アレス・・・・いい加減に来ないと爆発するわよーーー!!」
今日も崖の上でドーラの怒りの炎が勢いよく燃えあがる。
参:おしゃべりアレスその9
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