◆第九話・ぎぶみぃ防寒服!◆
  

 −びゅ〜〜〜〜〜〜・・・・−
(うっ・・・・・)
床板とレッツダンスした次のエリア。重厚な扉を開けると同時に流れ出てきた爽やかな風と共に、美しく彩られた花園がアレスの目に飛び込んできた。
その風は明らかにそれまでの湿気とカビ臭さを含んだ地下洞窟独特の臭いとは異なっていた。
そこは甘い花の香りとすがすがしい空気で満ちていた。
そこには、その美しさゆえ神に愛され忘れ去られた少年の祠があった。
花園の中の祠。そして、そこを流れている地下水は、それまでの疲労をすっかり取り除いてくれた。

そして、出会ったその少年の霊の言葉に耳を傾けたあと、その先にあった『手動開き自動閉じ』のドアで少し時間をとられた事を除き、アレスは順調に進む。そう、その扉は少し離れたところのスイッチを押して開け、一定時間開いた状態になっているうちに通らなくてはならないという扉。アレスなら悠にクリアできるものなのだが・・それは行く手に邪魔者がない場合である。
スイッチを押し、ドアを抜けようと走る・・・・どういうわけかそういうときに限り、そしてどこから湧き出た?と思うように巨大カエルが鎮座していた。
周囲の魔物は全て倒したというのに、もしかしたらスイッチを押すとどこからか転移されてくる?思わずアレスの脳裏にそんな疑問が湧いた。(ゲームではそんなことはありません。)
ともかく、気の長い?アレスの堪忍袋が切れる前になんとかクリア。そして、階段を上って出てきたところは・・・氷の世界・・というほど広いわけでなく、つまり、床、壁そして天井は全て分厚い氷でできているのである。おまけにそこからの抜け道がなく、そしてその床は落とし穴で一杯なのである。が、灯りがないので目を凝らし、足下に気を付けながら進まないとならなかった。灯りがなにので数歩先の床がどうなているのかも判断できない。
そして、その上水晶型の氷の結晶の魔物がそこには無数に浮遊していた。彼らは凍る息をふきかけてくるか、体当たりしてくるのである。結果落とし穴へ落ちる。
落ちたところはスケルトン兵士のたまり場。加えて吸血巨大コウモリのすみか。そのど真ん中へ落ちるのだからたまらない。普通ならそこであの世行きだと思われる。が、そこはアレスなのである。
スタッと着地すると同時に群がってくるスケルトン兵士や吸血コウモリをあれよあれよという間に倒していく。
が・・・・アンデッドであるスケルトン兵士は、倒しても倒しても少したつと息を吹き返す。それは・・・・後から来る兵士が地に伏すころ、先に倒した兵士は復活するのである。
(いいかげんにしてくれよ。)
それでも落ちてくる上の階は氷の部屋だが、そこは少なくとも氷はない。多少は上より温かい。周囲は湿気が多いのか苔で覆われている。
(空気がよどんでいるな・・それにこの湿気・・・仕方ないといえば仕方ないか・・・。だが・・・上の寒さよりはいいかもしれないな。)
アレスはそんなことを思っていた。だが・・・道を見つけ、階段を見つけて上がっていったところは・・・あの氷の部屋だった。
(おいおい・・・・単にぐるっと回って来ただけだっていうのか?)
さすがのアレスも寒さには勝てなかった。
とはいっても、負けてもいないが・・・ともかく、人間、寒いより温かい方がいいに決まっているのである。できたら氷のエリアは早く脱出したかった。

「ん?ちょっと待てよ。」
数回落とされたとき、アレスは上の氷の部屋と苔の部屋の作りが非常によくに似ていることに気づいた。そして、下の部屋の周囲を四角と考えると、その中央辺りで部屋を仕切っているように伸びている細長い通路があるらしい事に気づいた。何度歩幅で計っても確実に人一人通れる通路がある。(つまり、そこがこの堂々巡りの部屋からの出口?)

さっそく上に戻ったアレスは、ここでもまた歩幅で計り、その位置を探す。つまり通路の真上に当たる落とし穴を見つけ、そこから落ちるのである。それ以外道もドアもない。

が、邪魔をするのは氷精の魔物である。ただでさえ寒いのに、全身凍らせられてはたまったものじゃない。その氷の息を避けつつ、そして、体当たりに気を付けながらアレスは1歩1歩進む。

そして、無事計画通り下の階の通路に落ちたアレスは、予想通りそのエリアを抜けきる。だが・・・またしても氷のエリアがアレスを待っていた。

(アイススケートする気分じゃないんだが・・・・)
最もアイススケートしたくてもスケートシューズがあるわけでもないのでできないのだが。

ともかく氷のエリアから極力早く出ようと、いつにも増してアレスの足は速くなっていたのだが・・・・氷の巨人まで出てくるようになり、これはますます寒くなるのか、とふと心配が過ぎる。

そして・・・・

「また剣か?」
宝箱を見つけるたびに、アレスは毛皮のコート・・とまでいかなくても、いや、コートだと動きが制限されるから邪魔になる。上着か胸当てでもいいからないものかと思いながら開けていた。
常にまるでサバイバルを援助してくれるかのように、必要としているものをその中に潜ませている宝箱。しかし・・・・防寒着はどの宝箱の中にもなかった。

「また金塊か・・・・・闇屋でもいてくれれば、買えるんだが・・・この辺りにはいないようだな。いや、たとえいたとしても、防寒着など売っていないだろうな。」
アレスはそんなことを考えながら金塊を懐にしまった。
俗に金のないことを懐が寒いという。その考えからいくとアレスの懐は温かかったが・・・感覚的には冷たかった。

「たき火でもして一度温まりたいものだな・・・・」
氷と湿気との相乗効果。身体はますます冷えていくばかりのアレスは火が恋しくなっていた。氷精の魔物や氷の巨人を火炎の術で溶かしても、自分に向けて火は放てない。

そのエリアにある宝箱は、ご丁寧にそれも氷でできていた。せめて木製なら燃やすことが出来たのに・・・と空になった宝箱を恨めしげに見つめていたアレスの脳裏に浮かんだ姿があった。なぜ彼女のことなど思い描いたのかと笑いながらアレスはふと考える。
(そうだな、あの寒そうな格好からつい連想したというところだろうが・・・ドーラか・・・だが、彼女なら温めてくれるどころか、黒こげにされるのがオチだろうな。)

『そんなに寒いのなら暖めてあげるわ!・・この特大の火球でね!』
恐ろしいくらい勢いよく燃える炎をその手に、アレスを睨みながら叫ぶドーラの姿が、まるで目の前にいるように鮮やかにアレスの脳裏に浮かんでいた。

参:ワンポイントドーラその6


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