遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(22)[FORTRESS 1F]

〜 気分はアレスとデート? 〜

 「な・・なんなのかしら、この臭い?」
ここの迷宮を抜け出すのが目的だったことをようやく思い出したクレールが、カジノを後にして上への階段をあがった。(勿論、階段を上がる前に悪魔の鎧は脱いだ。)
そこは、不気味なところだった。まるで獣の胎内にでもいるのでは、と思えるようになまあたたかさ。周囲は腸の壁のように蠕動運動をし、床のところどころには強酸の泡がわき出ていた。胃酸の臭いと腐臭が混ざったようなそれは、吐き気をも感じる。

「ホントに何かのお腹の中・・・だったりして・・・でも、まさかね〜〜〜・・」
腐臭というより生ものの臭いのような消化不良の胃液を吐き出したときのような臭いなのかもクレールは思う。

「でも、気持ち悪いからといって先に進まないわけにはいかないのよね?」
時間が経てば少しはこの臭いにも、そして、腸壁のような壁や床にも慣れるのだろうか、とふとクレールは思っていた。

「あ!お店がある!」
ハンカチで鼻をふさいで歩いていたクレールは、その店へ飛び込んだ。
「へー、よくここまで一人でこれたわね!私はとなりのエルフと組んでココまで来たけど、魔物が強すぎてついにここでギブアップ!彼の強力な魔法をもってしても無理だったわ。あなたも覚悟を決めて行きなさい。一瞬の油断が命取りになるわよ。」
クレールの顔を見て、店にいた女性は真剣な表情で言った。
「魔法じゃだめなんですか?」
「ここからはね、魔法が効かない魔物がわんさといるのよ。このすぐ向こうもね、奥への入口を守っているヘッドレスが2匹いるんだけど、1匹は魔法が効くんだけど、もう片方はぜんぜん魔法を受け付けないのよ。」
「おびき寄せるとかではダメなんですか?」
店員は悲しそうに首を横に振る。
「それはあたしたちも試したわ。でも、あいつは入口から離れないのよ。だから透明化の薬、『透物化秘薬』で姿を消して行こうって試してみたんだけど、すり抜ける隙間のないくらい入口ぴったりに立っているのよ。それにたとえ一緒に守っている相棒が死のうとも動こうとしないわ。」
「そ、そんな・・一緒にいる人が死んでもなんですか?」
「魔物だからねー。」
「・・・・・」
うなだれてしまったクレールに、彼女はにっこりと笑いかける。
「だからね、武器は揃えておきなさい。でも、あなたじゃ・・・」
後ろの壁に飾ってある剣を指し示しながら言った彼女は、クレールからそれも無理らしいと思って口ごもる。
「じゃ、せめて隣の彼の店で、魔法をごっそり買っておくのね。」
「でも、魔法は利かないって?」
「だから、攻撃じゃなくって、さっき言った透物化秘薬で姿を消すとか、あとは、そうね、物体硬化液などで、一時的だけど身体の強度を増して相手からの攻撃を弱めると同時に、こっちの攻撃威力を上げる・・・といったところかしら?」
「あ、そ、そうですね。」
「あとは・・・防御魔法?魔法書より指輪の方が威力が高いって知ってた?」
「そうなんですか?」
「そうよ。ファイヤーでもなんでも。」

クレールは彼女にお礼を言ってから隣のエルフの店へと入り、武器屋の彼女が言った薬を購入する。
「もうこれより先には店はほとんどないはずです。ここで買えるだけ買った方が良いと思いますよ。これは商売ぬきの忠告です。なんせ、魔物の強さもけた違いですからね。私も地上を目指し夢やぶれた一人なんですよ。」
店主であるエルフの青年はため息をつきながら話すと、クレールを引き止める。
「私たちエルフは、魔法が効かなかったらひとたまりもありません。ここまでは隣の彼女の物質攻撃と私の魔法攻撃でなんとかなったのですが、この先の魔物はダメです。彼女の腕が悪いとは思いません。でも・・・普通の達人レベルでは効かないほど、強いのです。」
クレールはその言葉に、ふとアレスを思い出していた。アレスならたとえ今まで誰も倒したことのない魔物であろうと、大丈夫なはず、クレールはそう確信していた。
そして、「幸運を祈ってます。」という青年の言葉に送られ、クレールは奥への道を進んだ。


「きゃあっ!」
店屋で聞いたとおり、少し広いスペースに、筋肉モリモリのヘッドレスが2匹。1匹は周囲を歩き回って警戒し、もう1匹は奥にある通路の入口にぴったりとくっつくようにして立っていた。もちろん動き回っていた1匹は遠くからファイヤーの魔法で倒した。が、やはり問題はもう1匹の方。魔法は全く無効である。加えて・・・その大きくてごつい拳から繰り出されるパンチは、痛みもだが、心臓が飛び出すほどのショックを受ける。防御魔法で結界を張り、軽減されているはずのショックでもかなりのものだった。

「ど、どうしよう?」
ヘッドレスが立っている入口の反対側。そこに隠し通路をみつけ、横道が?と喜んでそこに入ったクレールは、行き止まりだったことにがっかりしながら、戻ってくる。ただし、奥にあった金塊はちゃっかりもらった。


「物質攻撃しか受け付けないって・・・・・」
そこが土や岩に囲まれた洞窟なら、天井や周囲の壁を崩して攻撃するという方法もあった。が、ここは生き物の内蔵のように柔らかく、うごめいている不思議なエリアなのである。しかも、そうするための爆弾などもない。
「そ、そうよ!そうだわっ!」
入口に立ち、じっとクレールを睨んだまま微動だにしないその魔物。が、その先に進まない限り、事態の進展はありえない。クレールは武器屋へと走った。

「はー、はー、はー・・・・・」
手に抱えられるだけの剣を買ってきたクレールは、それらをファイヤーの魔法に乗せてヘッドレスに攻撃する方法をとった。
勿論ファイヤーの魔法は全く利かないが、その威力、スピードに乗せて攻撃してみようというものだった。そう、単にクレールが投げただけでは、簡単に落とされてしまうのは目に見えて分かっていた。

「よ、よーーしっ!」
−バシューッ!−
炎に乗せて剣を放つクレール。
が、そのくらいのスピードと圧力では、筋肉モリモリのヘッドレスには、効かなかった。
−バシッ!バシッ−
「ああ、だめだわ、簡単に払われてしまう。もっとスピードが・・威力が必要だわ。」

買ってきた剣もそこをつき、へなへなとその場へ座り込み、どうしようかと思案に暮れていたクレールの横をすっと通り過ぎた人影が一つ。
−ザシュッ!ズン!ドシュッ!−
「あ・・・・・・」
勿論その人影はアレス。そして、アレスのたった3回の攻撃で、ヘッドレスは息絶えていた。

クレールを振り返ろうともせず奥へ入っていったアレスを呆然と見つめていた彼女は、しばらくしてからようやくはっとし、急いで投げつけた剣を回収して武器屋まで運んでそれらを売ると、アレスの後を追いかける。
というのも、ここから先はアレスと一緒の方が、叉はアレスの後をついていった方が安全とクレールは判断したからである。
修行中の身としては、あってはならない依存心だが、魔法がこうまで効かなければどうしようもない。獣人に変身すればあのくらい、とも思ったが、なるべくなら変身したくないクレールは、楽な方法を取ることにした。

「いいわよね?世の中持ちつ持たれつって言うから。お互い苦手なところをカバーしあえば?」
アレスにはクレールの援助など必要はないのだが、今はこうでも思うことで、クレールは自分をごまかすことにした。


「アレスさん!待ってっ!」
案の定、洞窟ではクレールの魔法をきちんと(笑)その身に受けてくれたマンティコアや赤ずきんちゃんと同じ種の魔物がいたが、同じように見えても、中には魔法をものともしないものがいた。
「よ、良かったわ・・アレスさんと一緒で。」
別にアレスは一緒にいたつもりはないのだが、目的が同じなのである。進もうと思った方向こそ時には違えども、最終目的は同じ。クレールはアレスからはぐれないようにと、必死になってアレスの後を追いかけていく。
動きも歩幅も違うアレスの後を追いかけていくのは、かなりハードだったが、それでも先に行くアレスはどこかで魔物と事を構えることになる。遅れて分からなくなっても戦っているその音や魔物の咆吼、断末魔の叫びなどを辿ってなんとかアレスを見失わずに追いかていくクレール。当然宝箱は空ばかりだが、一応身の危険はかなり軽減されている。宝はほしいが、この場合しかたない、と自分を慰めつつクレールはアレスを追った。

−ズゴゴゴゴ〜〜〜・・・−
「え?な、なに?この地震は?」
隠されていた魔法陣によるテレポートに次ぐテレポートの先は、広い空間。
マンティコアとヘッドレスがむこうにもこっちのもノシノシと歩き回っているそこで、隅にあった円形のボタンのような突き出た箇所を踏んでみたクレールは不意に起きた揺れに驚く。

『振動の後に広間に異変あり。その中のあやしきものを見定め、北に向かい手をかざせ』
その広間と書かれていた広い空間の周囲にぐるっとあったその円形のボタンを全部踏んでからそのプレートに気付いたクレールはショックを受ける。
「え?これって・・・全部踏む必要なかったの?」
途中でヘッドレスやマンティコアに邪魔されたとこもあった。踏んでもへこまないそれに疑問を感じながらも、全部踏んでみたクレールはバカみたいである。


「ああーーっもうっ!はめられたわっ!」
別にはめられたわけではない。クレールが勝手に全部踏めば何かが起きると思いこんだだけである。が、ともかくクレールはそんな自分の怒りと恥ずかしさをその言葉に乗せて発散させた。

「あ!これだわ!これよ!アレスさんっ!」
クレールの独りよがり。すっかりアレスと同行しているつもりになっていた彼女は、地震の後にできた異変の印を見つけて嬉しそうに叫ぶ。
それは、最初その空間へ転移してきたときにはなかった、柱。地震後にいつのまにか現れていたその柱を北に見て、クレールは手を翳す。

−ズズン!−
一瞬にして柱は床に引っ込み、その後に新たなる魔法陣が現れる。

「アレスさん!魔法陣よ!」
2人に群がってくるヘッドレスやマンティコアを一手に引き受けて(ざるをえなかった?)戦っていたアレスにそう叫ぶと、クレールはその魔法陣の上に乗る。
その空間にいたそれら魔物は魔法もOKだったのだが・・・このエリアでは魔法はだめだと頭から思いこんでいたクレールのおかげで、全部アレスが面倒をみることになってしまっていた。

勿論アレスはその事には気付いていたが、わざわざクレールに言う必要もない。それにアレスにとって、このくらい容易いことでもあった。
黙って彼らを倒し続け、そして一段落ついてから、ふっと軽く笑いをこぼすと、クレールが転移していった魔法陣にアレスは足を踏み入れた。

** to be continued **


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