遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(20)[CAVE 1F]

〜 マンティコアと恐い赤ずきんちゃん 〜

 「きゃっ!」
その扉を開けたとき、翼のついたライオンのような赤い魔物が、いきなりクレールに日を吹き付けてきた。間一髪でその直撃を避けたものの、すぐ横をものすごいスピードで飛んでいったその炎はものすごい高熱だった。
「まともに受けるとかなりやばいかもしれないわね?」
遊び感覚のまま進んできたクレールは、気を引き締め直す。
「ぐるるるる・・・・」
鋭い歯をむき出し、敵意丸出しで威嚇するその魔物に、クレールは考え込む。
よほどテリトリー感覚がしっかり植え付けられているのか、ドアの外までは追いかけてこようとはしない。姿が見えれば中へ入らなくても炎を吐いてはくるが。
「えっとーー・・・やっぱりここは魔法よね?」
炎を吐く魔物にファイヤーボールは効くのだろうかと思いつつ、一応試してみる。
−バボン!−
猛スピードで飛来する大コウモリで腕と目を鍛えたあとである。大型の獣といった感じのその魔物の移動速度は比べものにならないくらいゆっくりだった。クレールは自分に攻撃が来ないようにと戸口を横切りながらその魔物に向かってファイヤーボールを放つ。そして、すかさずマジックルーペで相手の状態を計る。
−ピコン!−
魔法の虫眼鏡であるそれは、それで覗くとその魔物の生命力を数値にして現してくれる。
「オッケー!HP減ってるわっ!」
自信を持って、クレールは続けざまファイヤーボールを放つ。
「・・・・あまりたいしたことなかったのね。」

そして、次へと進む。

『欲深き者の墓場』
マンティコアの守るエリアが続いていた。そして、少し広い通路でクレールはプレートを見つける。そこは通路伝いにいくつもの宝箱が置かれているところ。
「欲深き者の墓場って・・・・つまり、中の宝物を取ると何かトラップが作動するとかなのかしら?」
しばらくクレールは考えていた。
確かに1つ目の宝箱は、魔法か何かでカギがかかっていた。
「どんなトラップなのかしら?」
が、ともかくクレールはその1つ目の宝箱以外全部開けてみた。通路の先でマンティコアと会ったが、曲がったところで出会ったため驚いた拍子にサンダーを放ってしまったクレールによってロストした。
「あら・・・サンダーなら1発でよかったの?・・・な〜んだ・・・・。」
そして、難なくその先のドアもあく。
「でも・・・・」
が、クレールは開かなかったカギのかかった1つ目の宝箱が気になっていた。
ドアを一度は開けたものの、クレールは来た道を引き返す。
「あ、あら?簡単に開いたわ!?」
フレームソードが入っていたそれは、簡単に開いた。
「どうなっちゃったのかしら?確かにさっきはカギがかかっていたのに。」
考えながら歩くクレール。
そして・・・
「あ、あら?どうしたの?さっきは開いたのに・・・。」
その宝箱の並んだ通路の先にあったドア。それが押せども引けどもびくともしない。ついさっきは簡単に開いたのに。

「そっか!」
しばらく考えていたクレールはぴん!とくる。
「欲深き者の墓場ってそういうことだったのかもしれないわね?」
洞窟の7Fの泉に囲まれた小島。そこでの経験を思い出したクレールは手を叩いて納得する。
が・・・・せっかく手にしたのに、今更宝箱へ戻すのも損なような気がして、そうしようとした手を止める。
「・・・だから、欲深き者はってことなんでしょうけど・・・・・あ!そうだわっ!」
ぱん!と今一度手を叩くとクレールは、宝箱の中には何もいれないまま蓋を閉めた。
1つまた1つと、全部の宝箱の蓋を閉めていく。
「発つ鳥あとを濁さずっていう言葉があるっていうから・・・きちんとしておけばいいんじゃないかしら?」
果たして、そんなのでいいのか・・・・・・
その結果は・・・・開かなかったドアはすんなり開いた。
「やったわっ!」
かくして、欲深き者であるにもかかわらず、そこは墓場にもならず、クレールは先へと進むことができた。


「あ、あの・・大丈夫ですか?」
その先でクレールは大けがをした剣士を見つけ慌てて駆け寄った。
「あ、ああ・・・この先にとてつもなく手強い奴がいて・・・」
「それにやられたの?」
「そう・・だ・・・・・せ、せっかく・・こ、ここまで・・きたの・・・に・・・・」
「あ!剣士さん!・・剣士さんっ!」
血塗れのその剣士は、クレールの膝の上で息を引き取った。体格からしてかなりの腕だと思えた男だったのだが。
(そんな強い魔物が、この先に?)
男の冥福を祈ると、クレールはそっとその先のドアに近づいた。
「いないみたいだけど・・・」
警戒しながらそっとドアから中に入っていくクレール。
中央に奥へのドアまで続く道があり、周囲は例の如くぽっかり穴があいている。そして、その道の中央あたりに上への階段が格子の間からみえるドアがあった。
「えっと・・・」
開けようとしたが、空かない。カギ穴があるわけでもない。
−シュシュシュッ!−
「きゃっ!」
不意に飛んできた円盤形の刃物のようなものにクレールは驚く。
「あ・・・・・」
咄嗟によけたクレールはバランスを崩してしまった。
「きゃあ・・・・・・」

が、ストッ!と1階下に着地する。
「あ、あら?ここって3階から上がって来た階段の前じゃない?」
しばらくクレールは考えていた。ワープで既に中身は手に入れてしまったが、位置関係を確認して1Fから落ちれば、宝箱の横に落ちることができるかもしれない、と思う。
「たぶん、そうよね。でも、簡単にはそのポイントは分からないんでしょうけど。」
下の階への落下は、途中の空間がねじれている。真下へ落ちるとは限らない。
「もうマジックポーション少ないし・・・飲みたくないし、それに、もうサンダーも魔法取っちゃったからいいわよね?」
どこから落ちたら宝箱の横に行けるのか、試そうとも思ったが、ワープ魔法でポーションの浪費するのもいやだったし、飲みたくなかったクレールは、そうすることを止めた。

そして、再び1Fへと駆け上がる。
−シュシュシュッ!−
「きゃっ!」
戸口に近づくと同時に、またしても円盤形の刃物のようなものが飛んでくる。
−ストッ!トトトッ!−
それはクレールの横をかすめ、背後の壁に突き刺さった。
「十字型の刃物?」
そっとその一つを壁から抜き取り、クレールは見つめていた。
−シュシュッ!−
「きゃっ!」
敵の視野の中にいると危ないと感じたクレールは、見えないところまで後退する。
そのクレールを追いかけてこないところをみると、彼らもまたテリトリー意識が強いらしい。
自分に任された場所を死守する、そんな感じをクレールは受けた。
「確かにこんなものがすごい勢いで回転して飛んで来ては・・ダメージなんてものじゃないわよね?」
その鋭い刃を見て、クレールはぞっとしていた。
「どうしようかしら?」
少し考えたクレールだが、そこは例のごとくなのである。
テリトリーから出てこないのなら、断然有利な方法。クレールは遠くからファイヤーボールを放つことに決めた。

もしもの時のために、ダメージを軽減させるため、一応防御魔法で身の回りに結界を張って、ドアに近づく。
−シュシュシュ!−
クレールの姿が見えると同時に、相手は手裏剣を放ってくる。
「え?あ、赤ずきんちゃん?」
その手裏剣を避けつつ敵を確認したクレールは思わず自分の目を疑った。
一カ所に数秒と立っていない素早い動きの魔物は、上から下まで真っ赤な装束で身を覆っていた。
「こ、恐い赤ずきんちゃんがいたものね・・・。」
驚きのあまり攻撃をすることを忘れてしまったクレールは、今一度身を潜めて体勢を整え直す。
「よし!」
例え赤ずきんちゃんであろうと何であろうと、魔物は魔物。そして、倒さなければ先はない。クレールは意を決して向かっていった。

「あ、あら・・・・3人くらいいたと思ったのに、1人だったの?分身してたのね?」
ここでも大コウモリで培った動体視力が功を奏したようだった。コウモリよりまた数段とすばやいその身のこなしは、なかなかクレールのファイヤーボールを受けてくれなかったが、それでも数打てば当たる・・・エリア外から攻撃というクレールの攻撃方法は確かだった。

「急ぐ必要はどこにもないのよ。安全地帯からじっくり確実に行けばいいのよね?」

その先のイリュージョンの壁も抜け目なく見つけ、クレールは、その赤い装束の忍者を倒さなければ開かなかったはずのドアを簡単に開けて上への階段を上がっていった。

** to be continued **


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