遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(19)[CAVE 3、2F]

〜 ジャンプ、ジャンプ、ジャ〜ンプ! 〜

 「うふ♪それならもう回ってきちゃったわよ。♪」
「え?ほ、ほんとかい?」
CAVE3Fの武器屋で、クレールは少し得意になっていた。
というのもそこは他の階と比べるとまるで壁に囲まれ、一回りか二回り狭く感じるところ。その壁を通した向こう側には、明らかに魔物の気配がしている。
武器屋の店主は、店に立ち寄ったクレールに、情報として上下の階のどこからか入る道があると話したところだった。
そう、普通ならその情報に感謝するところなのだが、ワープに次ぐワープですでに浮き床の向こう岸(?)からの階段を上がって先に壁の向こうへ出ていたクレールにとっては、必要のない情報となっていた。しかも店のあるその真ん中のエリアに来たのは、通常、その階へ繋がっている階段ではなく、壁の向こうからである。隠しスイッチで壁の向こう側とこっち側は繋がっていた。
「そ、そうだったのかい・・・。」
店主は目を丸くして驚いていた。
「し、しかし、ワープの魔法書なんてよく買えたな。」
最も高い呪文書、ワープのそれは、普通ではとてもではないが買える代物ではなかった。
「だって、ここに来るまでに見つけた宝物は、1つも使わないできたの。あ!ヒールポーション(体力回復ドリンク)はそれまでに使ったし、ワープの魔法の発動に必要だったからマジックポーションは使っちゃったけど。あとはそうねー、大金槌は必要だったから使ったわ。」
このエリアに壁の向こうから来るまで、いくつの壁を崩したか・・・おかげで、この洞窟へ落ちた頃は、金槌が重くて使えなかったクレールも、いつの間にか使えるようになっていた。早々上手い具合にいつもアレスが近くにいるとは限らない。ふらふらしながらもがんばって壁を崩しているうちに金槌も使えるようになったのである。変身しなくてもずいぶん力がついたものである。
にこにことクレールは店主の問いに答えていた。
「1つも使わずに?あ、あんた一番したの廃墟から来たって言ったよな?」
「ええ。」
そのにこにこ顔のクレールの顔を、店主は思わずじっと見つめてしまった。いや、顔だけでなく上から下までじっと。
どこを見てもか弱い少女としか見えなかった。
「うふ♪こうみえても私、魔法には少〜し自信があるのよ。」
「そ、そうかい?」
屈強な戦士でもここまで這い上がってくることは滅多にない。まさか魔物が化けて?と店主は一瞬考えてしまっていた。が、店内には強力な結界が張ってあるため、魔物は入れないはずだった。
そう、この迷宮のどこの店でもそうだったが、特殊な石をその基礎に使うことにより、魔物はいかなることがあっても入れない造りになっていた。
「だが、気をつけるんだよ、この先はもっと手強い魔物がいるらしいからね。」
「はい。ありがとうございます。」
クレールは上機嫌で店を後にした。

そして・・・・
「きゃあっ!」
そこは、もう1つ上がったCAVE2F、階段をあがったところはぽっかりと大きく穴をあけた空洞が広がっていた。そして、そのところどころを床石が飛び石よろしく点在していた。
「こ、これを飛んで向こう側に行けっていうことかしら?」
ちょうど人一人立てるくらいの大きさの飛び石。そして、その向こうで燦然として輝く宝箱がクレールを呼んでいた。
その向こう岸(?)の宝箱をじっと見つめていたクレールは、近づいてきた金色の大コウモリに気づくのが遅くなり、謝って足を滑らせてしまったのである。
「あ!あれは・・・・」
ひゅ〜〜〜っと落ちながらクレールの目に一つの宝箱が見えた。
それは、1階下のどうしても行くことができなかった狭いエリア。いくら四方の壁を調べても崩れかかってもいなければ仕掛けもなく、たった一カ所行くのを諦めた場所である。そこに、宝箱があったのである。

「もう1歩横から落ちれば宝箱の横に着地できるわよね?」
ストッ!と4Fの床に見事着地したクレールはそう考えていた。
「あら・・・ここって・・・・」
そう、そこはクレールが苦労して(?)ワープにワープを重ねてようやくたどり着いた浮床の対面。
「あんなところからここへは来れたのね?」
ふ〜〜っとクレールは大きなため息をつく。
「エリア全部回ってからだなんて、意地にならないでさっさと上へ行ってしまえばよかったのね。」
が、それも偶然の産物。もしもあそこでコウモリを払おうとしてバランスを崩さなかったら落ちなかった。落ちなければその穴がここへ繋がっているとは分からなかったのである。
「そうね・・・一応コウモリさんい感謝ってとこかしら?途中に宝箱があるのも分かったし。
そう思いつつクレールは見知った道を走った。

そして、その1歩横から飛び降りてみる。
「あら?」
が、またしても宝箱をすぐ目の前にしながら同じ場所へと落っこちた。
「ど、どういうこと?目測だけど確かにあと1歩なのに。」
再びクレールの挑戦が始まった。
いちいち歩いて行ったのでは時間がかかる。クレールはワープで移動してはそこから落ちるということと何度となくまたしても繰り返した。

が・・・・
「うっぷ・・・・も、もうマジックポーションをこれ以上飲むのはイヤ・・・。」
またしても飲みすぎでこみ上げてくる吐き気。
その宝箱が見える2Fの落下地点の周辺は全て落ちて試してみた。が、どうしても宝箱の横には着地しない。
「単に落ちるんじゃなくて、途中で空間がねじれてるかなにかで落下地点が決まってる・・・。宝箱には届きそうで届かない・・・。」
確かにそれまでもそうだった。階下へ落ちる落とし穴は、不思議なことにいつもそのポイントは決まっていた。

「しかたないわね・・・・・。」
クレールは最終手段。3Fでその宝箱のある狭いエリア。周囲を壁で囲まれているところへとワープした。そう、ワープ可能範囲は、実際にその足で踏みしめた部分より1歩おまけがつく。そのおまけの部分に宝箱の横にある床は入っていた。
「オッケーーー!最初からこうすればよかったかしら?」
そんなことを思いながらクレールは宝箱を開ける。
−カチ−
苦労して開けた宝箱。いつもより何かとってもその音が嬉しかった。

「サンダーの魔法書だわ!」
が、クレールはすでに買ってもっていた。
「ああ〜〜ん、同じものが2つもあっても・・・・」
しかし、結構高値で売れることも確か。クレールは資金の足しにできることで満足する。

「さてと・・・・」
魔法力はまだMAXまで回復していなかった。
「落ちて歩いていけばいいのよね?」
ぴょん!と穴へ飛び降りると、クレールはその下へ着地する。

「さーて、上へ行きましょ♪」
慣れた道をクレールは進んでいく。

「なにぐずぐずしてんのよ、アレス!・・・って、あれ?なんだ、クレールちゃんじゃないの?」
「あら、・・・え?ドーラ・・・さん・・・・?」
ようやく進んだCAVE2F、アレスを待ち伏せしていたはずのドーラと会ったクレールは、姿を現したとたんに、例のごとく(?)スイッチを踏んで大岩に追いかけられて(?)悲鳴と共に姿を消したドーラに感謝しながら、その先を進んでいった。
「いつも親切だわ、ドーラさんって。今回も岩で壁を崩してくれたのね。」
ドーラが大岩に追いかけられていったその先、行き止まりだったらしい壁に大きな穴をあけ、その大岩は止まっていた。
「でも・・・ドーラさんはどこへ?」
あちこち探したが、どこにもドーラの姿は見あたらない。
「いつもおくゆかしいんだから、お姉さまって。」
クレールはそんなドーラに感心しながら、そして、感謝しながら先を進んだ。

「慣れると面白いかも?」
底なしの(といっても階下へ落ちるだけ)空間に浮かぶ小さな浮石。クレールは子供の頃遊んだ石蹴りを思い出しながら、ピョンピョンと面白そうに石から石へと跳び移っていた。
「あっ!コウモリさん、邪魔しないでっ!」
時には次の浮石へちょうどジャンプした時に大コウモリが目の前に飛んでくることもあった。コウモリに邪魔されぶつかってしまったときは再び下からやりなおしだが・・・・それさえクレールは遊び感覚で楽しんでいた。

「ケンケンパッ!ケンケン・・あ!また邪魔するんだから〜、コウモリさんったら!あんまりしつこいとファイヤーボールお見舞いするわよ?!」
「ケンケン・・・あら?行き止まり?こっちに来ちゃいけなかった?」
浮床渡り(?)がすっかり気に入ったクレールである。

そして・・・
「きゃ〜〜!またしてもクリーンヒット!」
浮石から浮石へと飛び移りながら、その暗闇の中、遠くから攻撃しようと猛スピードで近づいてくる金色の大コウモリの狙い撃ち。
何かが違ってるような気もするのだが、クレールの楽しそうな声がしばし洞窟に響いていた。

** to be continued **


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