遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(16)[CAVE 7F]

〜 指名手配、凶悪犯クレール? 〜

 「み、みんなどうしちゃったのかしら?」
それからというもの、なぜか洞窟内のモンスターたちはよそよそしかった。(笑
それがよそよそしいと言うのならだが・・・。ともかく、それまでは、姿を発見すると嬉々として近寄ってきたものだが、(勿論攻撃する為)、クレールの姿を見かけると、さっと姿を隠すようになってしまった。
特にメデューサはそうだった。ちょうど丸頭にされたのが、筆頭クラスのメデューサだったらしく、クレールのその無邪気な凶暴さはあっという間に洞窟中を駆け回り知れ渡った。

まさかそんな酷いことをしたとは全く思ってない当の本人は、不思議に思いながら洞窟を進んでいた。

「ぎゃあっ!」
そのエリアにカギのかかったドアがあった。辺りを探したが宝箱にはカギはなく、そして、イリュージョンの壁も崩れかかっている壁もない。
どうしようか?とクレールがため息をついていた時、壁の向こうから1匹のメデューサが出てきて、そして・・・クレールと目が会った。
「あ!」
メデューサは悲鳴を上げてカギを持っていたことも忘れて両手ばんざいの格好で一目散に逃げていく。そして、クレールは、そんな彼女に不思議さを感じながらも、彼女のいたところに小さく光っているものを見つけ小さく叫んで駆け寄った。
「やっぱりカギだわ!」
そのカギを拾うと、クレールはメデューサが走り去っていった方を向き、ペコリとおじぎをする。
「ありがとう、メデューサさん。おかげで先に進めれるわ。」
勿論、彼女がクレールの言葉など聞いているはずはない。
「ここのエリアのモンスターさんってみなさん親切なのね。」
クレールはにこっと笑うとそのカギを手に先に進む。


「えっと〜・・・・・あ!メデューサさ〜〜〜ん!!」
クレールは今ぐるっと泉に囲まれた小島にいた。その小島に渡るときは、隠し通路の先のスイッチで岩を浮かして飛び移ってきたのだが、気が付くとその岩がない。きょろきょろ周囲を見渡していたクレールは、対面にメデューサの姿を見つけて手を振って叫ぶ。
「・・・聞こえないのかしら?メデューサさ〜〜〜ん!!」
−ぎくっ!−
クレールに気づいたメデューサの全身から血の気が失せた。そう、青い血がさ〜っと失せ全身真っ白・・を通り越し、彼女は紙粘土と化した。
「え?・・・・あ、あたし、石化の呪文なんてかけてないわよ?」
おかしいわ、とクレールは首を傾げて考える。
「手にそれらしきアイテムも持ってないけど・・・・。」
ひょっとしてそうとは知らずに手にしていて発動してしまったのか、と両手を開いて見たが、何もない。
「おかしいわね。」
ぶつぶつ呟きながらクレールはその小島の中心へ戻ってくる。
そこには小さな祠があり、そこにあった宝箱の中に3つ目の四次元ボックスを見つけ上機嫌だったのに。
「行きはよいよい、帰りは恐いって・・このことなのかしら?」
ストンと祠の傍の瓦礫に腰をかけ、クレールはため息をつく。
しばらくそこに座ったまま、ぼんやりと対岸を見つめていたが、いつまでたってもらちがあかない。紙粘土のように石化したメデューサも動きそうもない。
動き始めたらスイッチを押してもらおうと思っていたクレールは、それを諦め、この島にもスイッチがないかもう一度祠の周囲を調べることにした。

「え?『代償・・を。惜しむもの・・に、道・・は無し。』・・・・・これって?」
祠の入口と正反対の方向。その壁に半分朽ち落ちているプレートを見つけ、クレールはなんとか文字を判読する。
「代償を惜しむ・・・・ということは・・・・ええ〜?あの四次元ボックスっていただいちゃいけなかったの?」
慌ててごそごそと四次元ボックスの中のボックス・・・の中のボックスを取り出す。
手のひらサイズになるとはいえ、3つも持ち歩くのは邪魔のような気がし、クレールは入れても入れなくても持てる量はいっしょだから、とボックスの中へボックスをというように、入れ子状態にして持っていた。
「もう2つとも一杯なんですもの・・・・ここで見つけた時、これで助かったって思ったのに・・・。」
ふう、とため息をつき、クレールは心から残念そうにそれを元に戻そうとした。
が、その瞬間・・・
「そうよ!何もこれを入れなくてもいいのよ!中のものを持っていくな、とは書いてないわ。代償を惜しむものって書いてあるんだから。」
そして、クレールは四次元ボックスの中身を1つずつ確認し始める。
「えっとー・・・これはいるし・・・あれもいるし・・・・・あ!これなら使わないからいいかしら?」
そう言って目を輝かせながら取り出したのは、Hポイズン。ぐいっと一口飲めばたちどころにお迎えがくるという代物である。
「でも・・安いけど一応お金にはなるのよね・・・・どうしよう?」
そのHポイズンの瓶の中身が少量なら、即決まったかもしれない。が、それは30回分ほど入っている。
「空き瓶もないし・・・・。」
一回分を移すわけにもいかなかった。

「どうしよう?」
ずらっと並べたアイテムを目の前に、クレールは考え込んでいた。
「これは・・記念に取っておくのよね。で、これは・・・高く売れるから・・・それから・・・」
アイテムを吟味しながらクレールは四次元ボックスに一つずつ入れていく。
どれもそれなりの価値があるようで、決められない。
「あ!そうだわ!」
不意にはっと思いついたクレールは、適当な大きさの瓦礫を1つ運んでくる。
「入れるだけじゃだめなのかしら?ちょっと実験ね♪」
コトン!と宝箱の中へそれを入れ、岩が浮き上がってくるかどうかクレールはじっと水面を見つめる。
「だめ・・みたいね。」
せっかく名案だと思ったのに、とクレールは大きなため息をついて項垂れる。
「でも、どうしてアイテムとそうじゃないのと分かるのかしら?この宝箱ってミミック?」
宝箱が生きているのかとクレールは注意深く観察してみる。
が、どうやらそうでもないらしい。
「ポーションや剣などのきちんとしたアイテムを入れると岩は浮いてくるのよね?」
数回実験を繰り返し、クレールはますます考え込む。大きさも軽さもまちまちなのに
なぜ判断できるのか、不思議だった。

「流れがもう少し緩やかなら泳いで渡っていくんだけど・・・。」
水の中へ入れば条件反射で人魚になるクレール。普通の泉なら最初からそうしている。が、小さな泉ではあるが、湖底ががどこかと繋がっているのか激流が渦巻いていた。

その渦をしばらく見つめていたクレールははっとあるアイデアを思いつき、ダメで元々。彼女はさっそく行動を開始した。

その島にあるのは、瓦礫の山。そして周りを囲んでいるのは水。
その瓦礫が物語っていたとおり、島の中央付近は粘土質の土だった。
それを掘りだして水と混ぜ、力任せにとにかく練る。そして、器の形にすると、火炎の術でそれを一気に焼いた。
「できたっ!」
形はいびつだったが、ともかくなんとか器に見えるそれを、クレールは嬉しそうに眺め回し、そしてさっそくそこへ、最も価値の低いHポイズンを入れる・・・・と思いきや、クレールは泉の水をその中へ入れた。
「あたしが誠心誠意、心を込めて作ったお茶碗よ。これがアイテムじゃないなんて判断したら・・・・・クレール、怒ってしまうかもしれないわよ?」
半分脅しのように独り言をつぶやきながら、そっとそれを宝箱の中へ置き蓋を閉める。もっとも誠心誠意心を込めてというのは、まんざら嘘でもない。泉を渡りたい一心で、真剣に作ったものなのである。


−ザザッ!−
水流を切るようにして、切に願った岩が浮上してきた。
「やったわっ!」
心の中でVサインを出しながら、クレールは慌てて荷物を手にすると、浮き出てきた岩へジャンプする。
「え?」
が、クレールが着地すると同時に、それはすぐ沈み始めた。
ぐずぐずしていては岩と共に湖水の中なんてことになってしまう。クレールは即大きくジャンプする。
−すたん!−
一瞬でもそのジャンプを迷っていたら、対岸まで届かなかったと思われた。が、そこはクレール、その身軽さで無事着地。
「もしかして、きちんとしたアイテムじゃないってばれちゃった?」
泉の中央に浮かぶ小島を見つめ、クレールは舌をぺろっと出して笑う。
そう、そのクレールの予想は当たっていた。なんとか器の形にはなったものの、素人が適当に作ったもの。しかも素焼きであり、上薬も塗ってない。一応数秒間はもったものの、水がにじみ出てきた時、アイテムではないと判断した(だから、誰が?)のが、その理由らしかった。

ともかく再びクレールは洞窟を進む。
「こんにちは〜!」
「へ?」
「上へ行くのはこっちでいいのかしら?」
にこやかに話しかけるクレールに対して、洞窟内のモンスターは冷や冷や、なるべく遠くから愛想笑いして彼女を見送る。

「角を曲がる時は気を付けるんだぞ。そこにあの人間の尼さんがいたら・・・・もうダメだと思え。・・・・幸いにも逃げるすきがあったら、いいか?笑って逃げるんだぞ!笑顔で!」
不思議なくらい親切なモンスターばかりだとクレールは、上機嫌で洞窟を進む。
その洞窟の要所要所には、手配書と思われるクレールの似顔絵と共に注意書きの張り紙が貼ってあった。
それには、『WANTED』と書かれた上に、青い血文字で、『見たら逃げろ!』と書いてあった。

しかし、その張り紙はモンスターでないと目に映らない。

クレールは行く。地上を目指し、そして、数々のトラップを面白楽しく遊び感覚でクリアしながら。

** to be continued **



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