遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(15)[CAVE 8〜6F]

〜 厄災のモンスター 〜

 「うう〜〜ん・・・気持ちいいわ、そうそうそんな感じ。・・・でも、もう少し電圧あげてくれるともっと嬉しいかも?」
−シビビビビ〜〜・・・−
洞窟の一角で、あたしはマッサージ師さんを発見したの。7Fでね、黄金の鎧を見つけて嬉しくなって黄金の剣士してたら、肩が凝ってしまったんですもの。やっぱり身に付け慣れてないものを無理して着るというのは大変ね。いつものローブがとっても軽く感じたわ。
でも、黄金の鎧を身に付け、黄金の盾と剣を装備した格好ってカッコいいと思わない?神に選ばれた剣士みたいで・・・・え?そんなの単なる成金趣味ですって?・・・・そ、そうかもしれない。巫女としては俗物化した考えよね。・・・クレール、反省します。

でも、捨てないわよ。強度はないけど資金源にはなるんですもの。結構高く売れるみたいだから、四次元ボックスに入れて大切に保管しておくわ。
え?どこにマッサージ師さんがいたかって?それはね、風の属性のモンスターさんだと思うんだけど、いつもパリパリ小さな電磁波を発生している青色の半透明な雲・・・そうね、綿菓子のような形をしてるモンスターさんよ。
え?・・・マッサージじゃなくてそれは敵を殺すための電撃なんだろって?
そうね・・・・そう言われればそうかもしれないけど・・でも、あたしにとっては、とっても気持ちがいいの。もううっとりして眠くなるくらいで。ちょうど肩も凝ってたし、足もむくんでいたので大助かりよ。
でも、ところ構わずやってくれるというのが難点ね。おかげで自慢のストレートヘアがチリチリになってしまって・・・後でなんとかして元に戻さなくっちゃ。あたしのイメージが変わってしまっても・・・いけないわよね、やっぱり。/^-^;


「い、いけないっ!アレスさんっ!」
肩の凝りも全身の疲れもとれ、るんるん気分で探索を続けていたクレールの目に、アレスが通路の奥の牢のようなところの扉の前にいるのが映った。鉄格子のはまった扉の窓から見えるのは、一人の女性。どうやらその女性を助けるべくアレスはどこかで入手した鍵で施錠を外し、扉を開けるところだったらしい。その光景に、クレールはなぜかその女性のなまめかしさに良くないものを感じ、アレスに叫んでいた。
−ブバッ!−
「ああっ!アレスさんっ!」
が、クレールのその叫びは一瞬遅く、扉を開けたアレスの全身を変身を解いたその女性の口から出た糸があっと言う間にぐるぐる巻きにしていた。
美しい女性は変わり身、実は巨大なクモ女だった。
糸で身動きできないようにした後、アレスの血をたっぷり吸おうとしていたクモ女は、走り寄っていくクレールをいまいましげに睨む。
「アレスさんを殺させないわよ!」
アレスには何度も助けてもらっている。(アレス本人はそうは思っていないのだろうが)クレールは、ここぞとばかりに恩返ししようとはりきって杖を構える。
「生きのいい戦士の血もいいが・・・・純な巫女の血もまたさぞかしおいしいだろうね?」
近くに立ちはだかったクレールが巫女だとわかると、クモ女は考えを変え、クレールに向かって糸を吐こうと大きく息をすった。
−ズバッ!−
「な・・・?」
その瞬間クモ女は驚きを露わに、すぐ横のぐるぐる巻きのままのはずのアレスを見た。
「な、なぜ動けるのだ?・・・・」
粘着性の強い彼女の糸で巻かれた者は何人であれ、彼女がその鋭い口で切らない限り、普通ではそこから自由になることは不可能のはずだった。いくらもがいても糸はもがけばもがくほどきつく縛り上げるはずだった。確かに剣を手にしていた事は知っていた彼女だが、その剣を握る腕も拘束されているはずである。それはつまりアレスの力が彼女の糸の強度より勝っていたということだった。
−ズン!−
続けて入った二太刀目でクモ女の息は切れていた。
−ズシャッ!−
「アレスさん!」
ぐるぐる巻きではなかったが、まだ全身のあちこちにからみついている蜘蛛の糸をいかにもうるさそうに手で払っているアレスに、クレールは駆け寄る。
「さすがだわ、アレスさん!こうなることを予想してたのね。あたしの手助けなんていらなかったわね。」
一言も言わなかったが、それでも、感心したようにじっと自分を見つめるクレールの肩をぽん!と軽く叩くと、アレスは中にある宝箱を調べる為に牢屋の中へと足を踏み入れた。
−カチャリ−
「あ!それは!」
中にはクレールが塔の7Fで手に入れた悪魔の盾と同じデザインの鎧が入っていた。
しばらくそれを見て考えていたアレスは、ともかく試してみようと思ったらしく鎧を外し、それを身に付ける。
「う・・・・・」
「え?・・・ア、アレスさん?」
鎧を身に付けた途端、そのままの格好で静止したアレスにクレールは驚いて近寄る。
「だ、大丈夫ですか?アレスさん?」
悪魔の盾は体力を奪った事から、その鎧は装着した者の自由を奪うのだろう、と判断し、クレールは慌ててアレスの身体から鎧を外そうとする。
が、留め金も重いうえ、しっかりとはまりこみなかなか外せない。そして、そうしている間にもアレスの身体から生気が失せていくのを感じ、クレールは焦る。
(動けなくするだけじゃなく、体力も奪うの?)
焦りながらクレールはひたすら力の限り留め金を引っ張っていた。

「ふ〜〜・・・・・」
1つ、2つと留め金を外していくと拘束性も弱まるのか、アレスの自由も少しずつ戻り、どうにか倒れる前に悪魔の鎧を外すことができた。
が・・・・
「大丈夫ですか、アレスさん?」
鎧は外したものの、その場へ座り込み荒い息をしているアレスにクレールは慌てて回復ポーションを差し出す。
が・・・・ポーションが効かない。勿論回復の術も効かず、クレールは困り果ててアレスを見つめる。
オレに構うな、先に行け、とでも言うように顎で出口を指すアレスに、クレールは大きく首を振る。
「いいえ!こんなアレスさんを置いてなんて行けないわ!」
今はまだ周囲にモンスターの姿は見られない。が、いつここまで来るのか分からない。いつものアレスなら心配などしないが、今の状態のアレスを置いていくことはクレールにはできなかった。
「・・・そうだっ!ちょっと待ってて下さいね!あたし、すぐ戻って来ますから!」
ぱむっ!と手をたたいてからそう言うとクレールは慌ててそこを後にし、そのエリアにいる蛇の頭を持った蛇女、メデューサを捜して走った。
「まむしの黒焼きってわけにはいかないけど・・でも、同じ蛇なんですもの、きっと効くわ!あれなら体力だって生気だって戻るはずよっ!頭に何匹でもいるんですもの、1匹や2匹くらいわけてくれるわよね?」
そんなことを考えながら、クレールはメデューサを探し回る。

そして、数十分後・・・・・

「あ!メデューサさん!」
目を輝かせて喜んで自分に駆け寄ってくるクレールに、メデューサは驚き、そして、慌てて石化光線を彼女に照射する。
−ビーム!−
「あっ!」
しまった!と思った瞬間、クレールは固まっていた。
「え?」
が、それまでの修業のたまもの、アンチウイルス・・・ではなく、アンチマジックの耐性がいつの間にか信じられないほど上がっていたクレールのその石化状態はすぐ解ける。
「なにっ?!」
ぎょっとして彼女を見つめ、すぐさま次の石化光線を浴びさせようとするメデューサの背後にすっと回ると、クレールは、彼女の頭にいる何十匹という蛇をじっとみつめた。
−シャ〜〜−!−
彼女の頭の蛇はそろって敵意むき出しでクレールを睨みながら、毒を吐きかけようとうごめく。
「えっと・・・やっぱり髪の毛と一緒で痛いのかしら?ちょっと我慢してね。」
アレスの事しか頭にないクレールは蛇のこと等少しも気に留めず、メデューサに微笑みながら断るとぐいっとその中から一番元気よく自分に向かってきた蛇を鷲掴みにして一気に引き抜く。
「ぎゃっ!」
思ってもいなかったことをされ、引き抜かれたところを手で押さえて涙の滲んできた目でメデューサはクレールを睨む。
「あ・・ごめんなさい。やっぱり痛かった?でも、髪の毛と一緒ならまた生えてくるでしょ?」
そう言いながら、クレールはもう1匹引き抜いた。
「ぎゃぁ!」
「うーーん・・・どのくらい必要なのかしら?」
左右の手に気絶した蛇を1匹ずつ持ち、クレールは考えていた。
「ね、悪魔の鎧で奪われた生気を戻すにはどのくらいあったらいいのかしら?」
無邪気な微笑みでそう聞かれたメデューサは、元々青色だった顔色を一層真っ青にして硬直した。
「あら・・・もしかして、抜かれても痛くないように自分を石化してくださったの?」
そして、勝手にそう解釈したクレールの手によって、彼女の頭からきれいに引き抜かれた蛇たちは、その場で黒焼きにされた。

「ありがとう、メデューサさん、今度何かお礼しますね。あ・・・やっぱり食事はカエルが一番なのかしら?」
もしもここにメルメラーダがいたら、巨大カエルを召喚してもらうのに、と思いながら、クレールは蛇の黒焼きが入った袋を大切そうに持つと、呆然として立っているメデューサに丁寧におじぎをしてからアレスのところへ急いだ。


「良かったアレスさん!」
モンスターに襲われた形跡もなく、アレスはそこでじっと座っていた。
クレールが得意げに広げて見せた蛇の黒焼きには驚いたものの、せっかく苦労して(?)手に入れてきてくれたものである。効き目には半信半疑だったが、アレスはともかくそれらを口にほおばった。

「どう?アレスさん?・・・え?」
しばらく経っても少しも変化がないような気がして聞いたクレールは、突然すくっ!と立ち上がったアレスにびっくりする。
「あ、あの・・・」
アレスはクレールなど全く無視し、さっさと鎧を身につけると悪魔の鎧を自分の四次元ボックスの中へとしまい、すたすたと後ろも振り返らずいつにもまして足早に立ち去っていった。
「ど、どうしたのかしら、急に?」

それは、蛇の黒焼きの山を目の前に置き、これで回復するはずだと言わんばかりに目を輝かせて微笑みながら自分を見つめているクレールに、思わず全部たいらげてしまったアレスを襲ったその効果の現れによるものだった。

純真な巫女であるクレールに恩を仇で返すわけにはいかない。アレスは回復しすぎたパワー消費の為、いつにも増して鬼神のごとき勢いで視野の中に入ったモンスターを倒し、洞窟を進んで行くのだった。

** to be continued **



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