遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(13)[TOP of the TOWER、CAVE 10F]

〜 ニクシーさんとお茶会 〜

 「きゃああああっ!」
行き止まりとなっていた通路の片隅に、魔法陣があった。
そこに乗って出たところに・・・・4本の腕に大きく、そして鋭利な剣を振りかざした大男が2人いたの。
あたしは・・・あたしは・・・・それを見ただけで、恐くなって、その魔法陣から出てすぐまたそこへ乗って、通路へと戻った。

「こ、恐かったわ・・・・あ、あんなのがいきなり目の前で剣を構えてるなんて・・・・ちょっと心臓に悪いわよ。」

へたへたと通路に座り込んでいると、あたしの傍をすっと通り過ぎていく影があった。
「アレスさん!」
地獄で天使を見た気がしたあたしは、それまで恐怖でひきつっていた顔が一気に明るくなったと自分でも感じたわ。
アレスさんが一緒なら心強いわ!
あたしは、立ち止まることなく魔法陣に乗って姿を消したアレスさんの後を追いかけようと、それに足を踏み入れようとした。
−ドスン!−
「・・・・すまん。」
「え?」
きゃーーーー!!ア、アレスさんの声を聞いてしまったわっ!・・ち、ちがうっ!そうじゃないってば!
「ご、ごめんなさい。」
なんと、魔法陣に乗ろうとしたあたしは、転移先から戻ってきたアレスさんとぶつかってしまったの。
それなのに、初めてアレスさんの声を聞いて、そっちに気を取られてしまったわ。はずかしい・・・・謝るのが先よね?
でも・・・低くて・・・男らしい声よねーー・・・じゃないっ!・・・今はそんなときじゃないでしょ!

あたしは、自分自身を叱咤しながら、そっとアレスさんの様子をうかがった。
しばらく休んでいたアレスさんは再び魔法陣で転移していった。
勿論、今回はあたしもすぐその後を追ったの。そしたら・・・・

「ア、アレスさんって・・・こまめというか・・・・なんといったらいいのかしら?」
2人いるその魔物さんは、なんと魔法を弾くらしいの。で、アレスさんったら・・・自分の魔法防御を上げるために、魔物さんに魔法をかけ、跳ね返ってくる魔法をわざと受けていたのよ・・・・。
確かに魔法力の強い魔物が増えてきていた。だから、きっとこのまま進めばもっと強い魔法力を持つ敵が現れると思ったんでしょうね。あたしもそれは予想してたけど・・でも、自分で自分を攻撃してなんて、あたしにはできそうもないわ。

そんなことならあたしに言ってくれれば、喜んで強力してあげるのに・・って・・・アレスさんが言うわけないわよね。

「え?え?・・・・・」
そんなことを一人で考えているうちに、アレスさんは通路へ戻っていた。気が付いたとき、あたしは・・・その魔物さん2人に囲まれていた。しかも魔法陣は1人の魔物さんの向こう。

「あ・・・・ど、どうしよう?」
真っ青になっておどおどしてたあたしの視野に、去っていったアレスさんの姿が。
−ズバッ!ザクッ!シュピッ!−
あっという間に1人、そして、もう1人と続けて斬り倒し、術で封印されていた奥の扉からその力が消滅したのを感じたのか、すっと扉に近づき、アレスさんはそこから出ていった。

「あっ!アレスさん!」
お礼をいう暇もなかった。
「でも・・さすがだわ・・・。」
息も乱れていなかった。扉の番人だったらしいその魔物さんの放つ気もすごかったのに、アレスさんはそんなのは、ものともしなかった。
あたしは、しばらく呆然として倒れた魔物さんを見ていた。
魔法が効かないなんて、あたしだったら逃げるしか・・・そ、そりゃ、獣人化すればいいんだけど。・・・・・
この先どうなるんだろう?と心配になってきた。アレスさんを見習ってわざと獣人化して、自分を見失わないように慣らしておくべきなのかしら?・・・でも、自分の意志でなるときって最後まで意識があるし・・・問題は、何かの拍子になってしまったときなのよね・・・その時あたしがあたしでなくなってしまったら・・魔物でなく人を傷つけてしまったら・・・それが未だに恐い。

それはそれとして、とにかく気を取り直して先に進んだあたしを待っていたのは、薄暗い洞窟だった。
塔はあそこまでだったらしい。で、この洞窟はどこまで続いてるのかしら?
つい外の景色を懐かしく思い出していた。

「え?」
ぼんやりしていたあたしの耳に、なんとも心地よい澄んだ歌声が聞こえたの。

「こっちからだわ。」
あたしは、その歌声をたどっていった。

「こ、こんなところに湖が・・・。」
底まで透き通ったきれいな湖だった。あたしは思わず淵に座って手を入れてみる。
「冷たくて気持ちいいわ。・・・そうだ!」
すっと両手ですくって飲んでみた。
「おいしい!」
のどごしさっぱり、まろやかさもあってすごくおいしかった。
「回復剤よりよっぽとリフレッシュした感じ♪」
もう一口飲もうと、手を水に入れたとき、ガチャガチャと音がして、あたしは後ろを振り返った。

−カタカタカタ−
そこには、如何にも嬉しそうに歯をかたかたと会わせた骸骨さんが!!しかもその手には剣・・その刃の鋭利さを誇っているかのように、きらっと輝く。そして、それに合わせて骸骨さんの歯も・・・・。

「いやーーーー!!」
あたしは叫んでしまっていた。
「フ、ファイヤー!!」
「ボン!・・・ブスブスブス・・・」
あっけなくその骸骨さんは煙を出しながらぐしゃっと地面に崩れた。
「見た目より弱いのね?」
そう思いながら見つめていた。
−カタカタカタ・・・−
「え?・・・ええ〜〜〜?!」
バラバラのようになっていたのは、ほんの少しだけだった。しばらくすると、カタカタ、ガシャガシャと、その骨はまるで組み立て体操でもしているかのように、形を作っていき、あっという間に元の骸骨さん・・・つまり、スケルトンというアンデッドモンスターの姿に戻っていた。
「そ、そんなの卑怯よ〜!!」
あたしは、勢い良く振り下ろしてくる剣を避けながら、そして、ファイヤーボールを投げながら後退していた。


「いけないっ!後がないわ・・・」
すぐ後ろは水面だった。
ええーーい!仕方ないっ!
あたしは、ところどころに顔を出している岩の一つに、思い切ってジャンプした。

こうもりさんが襲ってはきたけど、スケルトンさんみたいに剣も持ってないし、復活もしないので、遠くから向かってくるこうもりさんを見つけると、先手を打ってファイヤーで丸焼きにして、あたしはその湖をぴょんぴょんとひたすら岩伝いに進んでいった。

そして・・・・

「何やってんのよ、クレール?」
「あっ!ドーラお姉さま。お姉さまも一杯いかが?」
「・・・・呑気ね〜・・・・で、アレス、見なかった?」
そうは言いながらも、ドーラさんはクレールに手を差し出した。
「私は見ませんでしたけど。」
紅茶の入ったティーカップをドーラに渡しながら、クレールは微笑む。
・・・いいわよね、あの時のお返しといってはなんだけど、見なかったってドーラさんに言っても。

今あたしは水の精霊さん、ニクシーさんとお茶してるところ。
だって、やっぱり水の精霊さんがいるだけあって、とっても澄んだ綺麗な水で、まろやかみがあっておいしいの。で、ちょうど道具屋さんがここのエリアにあったから、お茶道具一式借りて、紅茶やミルクを買ってきて・・・・え?そんなもの売ってたかですって?・・そ、そこは、あたしの色気(?)で特別に分けていただいたのよ。うふ♪
というのは冗談で・・本当はファイヤーボールで焼いたこうもりさんがおいしかったらしく、それと交換してくれたの。・・・あたしはこうもりの丸焼きなんて気持ち悪くて食べられないけど、お店のおじさんは大好物らしいの。

「なかなかおいしいお茶ね。」
「そうでしょ?」
よかった。ドーラさんも大満足みたい。
「ところで、ニクシーさんでしたっけ?」
「あ、はい。」
水の精霊ニクシーはティーカップを置いて、ドーラににっこりと素敵な笑顔をみせる。
「あなたも、アレス知らない?」
「アレス?」
「そう。剣士なんだけど・・・25,6の無愛想な男。」
「ひょっとして前髪が長くて顔がよく見えない男性?」
「ええ、そうよ。やっぱりここを通ったの?」
「ええ。」
ニクシーは今一度微笑むと、南東の方に視線を向けた。
「ここへの水は上から流れ落ちてくるのですが、それを魔物に塞がれてしまい困っていたところ、アレスさんがその魔物を倒して水の流れを元にしてくださったのです。」
「え?」
ドーラは驚いていた。またしても親切アレス?・・・じゃなくて、そんなの誤解に決まっている!とドーラは即断する。
「そんなのただ単に行く手に魔物がいたから倒しただけなんでしょ?」
きっぱりと言い切ったドーラに、クレールは、ガディーの話をする。
「え?とすると、ホントにアレスが教えたの?・・・わざわざ戻ってまで?」
「そうらしいわ。」
わからない・・・ドーラは考えていた。敬愛する師匠を殺したにっくき仇。血も涙もない冷徹非道な殺人者のはずなのに・・・とあれこれと考えていた。
「まーいいわ・・・とにかくアレスは上へ行ったのね?」
「そうです。」
「じゃ、私はもう行くわ。」
すっと立ち上がって、ドーラは3人がいまいる岩まできた方角とは反対の方角に見える小さな岩を見つめる。
「こっちの岩を渡っていけばいいでしょ?」
「ええ。」
「ごちそうさま。あなたもいつまでものんびりしてるんじゃないわよ?」
「は、はい。」
ドーラはクレールに少し呆れたような微笑みをみせると、軽くジャンプして岩々を伝っていった。

「それじゃあたしもそろそろ・・」
「・・せっかくお友達になれましたのに、残念ですが・・仕方ないですわね?」
「そうね。いつまでもここにいるわけにもいかないし。」
クレールは、少し寂しげなニクシーの微笑みに後ろ髪を引かれる思いも感じたが、
カップを片付けると再び道具屋へいって道具一式を返却し、上へと向かった。

** to be continued **

注意:ゲーム上ではここでドーラとは会いません。勿論お茶会もありません(笑



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