遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(12)[TOWER 8、9F]

〜 戦士ガディーの恋と珊瑚の謎 〜

 「あ、あの・・・・・・」
「ん?」
「あの、大丈夫ですか?」
塔の9F、クレールはようやくのことで8Fの穴のトラップをあちこちにあったスイッチを踏んで解き、道をつくってここまで来た。
9Fの奥の部屋。怪我をして座り込んでいた男を見つけ、当然のごとく、クレールはその部屋に駆け込んだ。
「ああ・・・大丈夫だ。ありがとうよ、お嬢さん。」
「でも・・・血が・・・・」
包帯が巻いてあった彼の腕からは、まだ血にじみは徐々だったが広がっている。
「あの、これ。」
クレールは慌てて回復剤を袋から取り出しす。
「いや、オレはいい。それより魔物はどんどん強くなる。お嬢さんが持っていた方がいいだろう。」
「あたしなら大丈夫です。どこも怪我してませんし。」
「いや・・・・」
「でも・・・・」

しばらく水掛け論をしていた。
「はははっ、強情なおじょうさんだな。」
「だって・・・・」
「そうだな、じゃー、正直に話そう。」
「え?」
何を話すつもりなのかときょとんとしていたクレールに、ガディと言う名のその戦士はにっこりと微笑んだ。
「実はな、賭をしてるんだ。」
「賭?」
「ああ、そうだ。」
「回復剤を使わず塔から脱出できたら、無事外に出ることができる。そう賭けているんだ。」
「そうなんですか?・・・でも、なぜ?」
クレールの質問に、ガディーは照れながら話し始めた。

「お嬢さんは立ち寄ったかな?塔の1Fの武器屋なんだが?」
「あ、ええ、ゲイラさんのお店ですね?
にこっと笑ったクレールに、ガディーは少し頬を染めたようにみえた。
「あ・・・もしかして?」
こういうことに疎かったクレールも進歩したものである。そのガディーのわずかな顔色の変化を見逃すことなく、そしてその理由にも気づく。
「明るくていい人ですよね、ゲイラさんって。」
「あ、ああ・・・そうだろ?さっぱりしてるっていうか・・あんなところで店など開いているが。」
ガディーのいかつい顔がほころんでいた。
「あの気っ風の良さに惚れてしまってな。」
「そうなんですか。でもそれと回復剤なしとどういう?」
ははは、とガディーは頭をかいて照れ笑いする。
「ここから出てオレと一緒にならないかと言ったら、証拠を見せろと言われたんだ。」
「証拠?」
「ああ、そうだ。『ここの魔物は生半可じゃない。塔の頂上には恐ろしい化け物が番人としているらしいし、その上はもっと強力な魔物がいるはずだ。だから、ここを回復剤なしで脱出できたら、つまり、塔の外へ出られたら、考えてやる。その時は迎えに来い。』そう彼女に言われたんだ。」
「そうだったんですか。」
「他人が聞けば馬鹿げた賭けだと思うだろ?」
「いいえ!」
「そうか。」
きっぱり言い切ったクレールにガディーは嬉しそうに目を細めた。
「で、お嬢さんのような子が一人でよくこんなところを?」
「あ・・。」
そう思うのも無理ないわよね、とクレールは思う。
「あたしこうみえても術が使えるの。」
「そうか?・・・今日はどうやら日がいいらしい。」
「日がいい?」
「ああ、少し前に美人の魔法使いが飛び込んできたしな。美人にかわい子ちゃんなんて、こんなところじゃ願ってもお目にかかれるものじゃない。」
「あら・・・ゲイラさんに言いつけるわよ?」
「おいおい・・・それはよしてくれ。美人を美人、かわいい子をかわいい子と言うのは当然だろ?」
「いいの?」
「う・・ま、まー・・オレにとってはゲイラが一番なんだが・・・。」
顔を赤くして小さく言ったガディーに、クレールは微笑んでいた。
「じゃー、ドーラお姉さまももう通ったわけね?」
「ドーラと言うのか?」
「そうよ。アレスさんを追いかけてるらしいわ。」
「アレス・・・奴か。」
「え?アレスさんを知ってるの?」
「いや・・・知っているというほどでもないんだが・・・」
ガディーはクレールに微笑みながら、少し前にあったことを話した。
「史上最高額の賞金首となるのも時間の問題だろうと噂のアレスだからな、オレはてっきり極悪非道の大悪人だと思ってたのさ。」
「極悪非道・・・・」
「だがな、結構親切というか、律儀な奴だった。噂ほどあてにならないものはないというのは本当だな。」
「律儀?」
「ああ、この先にある広い部屋の奥に開かずの扉があってな、『閉ざされし扉 サンゴによって開かれん』と書かれたプレートがあるんだ。その謎が分からなくてな・・・で、そこで受けた傷を癒すためにここまで戻ってきたんだが・・・アレスにその謎が分かったら教えてほしいと頼んだんだ。」
「で、アレスさんはきちんと教えてくれたのね?」
クレールの言葉に、ガディーはにっこりと笑う。
「ああ、そうだ。わざわざ戻ってきてくれてな。」
「そうよね?ドーラさんはお師匠様の仇とか言ってるけど、私も悪い人には思えないの。」
「・・だよな?結構いい奴だと感じたぜ。きっとその仇というのも何か理由があってのことなんじゃないかな?」
「間違いとか、誤解とか?」
「ああ、そう思う。・・・くくくっ・・・・」
「どうしたの?」
急に笑い始めたガディーに、クレールは不思議に思う。
「いや・・悪い。単なる思い出し笑いだ。・・・それであの美人はあんなに怒っていたのか?・・・・」
くっくっくっと堪え笑いしているガディーをクレールはじっと見つめていた。
「い、いや・・なに・・・この部屋に飛び込んでくると同時にだな・・・・」
ガディーはその時の話を始めた。


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「見つけたわよ、アレス!覚悟なさいっ!」
宝箱の間にうずくまっていたガディー鎧姿に、それをアレスと思いこんだドーラは、部屋へ飛び込むと同時に魔法の杖を付きだして叫んだ。
「今度こそあの世へ送ってあげるからねっ!」
「ん?」
「え?」
顔を上げたガディーと視線が合い、ドーラは人違いだと分かって焦る。
「あ、あら・・・アレスじゃなかったのね・・・ご、ごめんなさい。鎧が見えたものだから、てっきり・・・」
「いや・・・」

そして、クレールと同じような展開があった。

「そんなの何かの間違いよ!嘘よ!」
「嘘じゃない。現にその先の部屋の奥の扉は開いているはずだ。」
「アレスがわざわざそんなことするわけないでしょ?人違いじゃない?」
にこやかに話すガディーを、ドーラはきっと睨む。
「いや、オレも手配書を見て知っている。あいつは確かにアレスだ。」
「いいわ!とにかくこの先の部屋を調べてみる!あいつが正直に教えたとは思えないわ!」

そして・・・・

「やっぱり嘘だったんじゃない?」
険しい形相でガディーのいる部屋へドーラは飛び込んでくる。
「は?」
「扉なんて開いてなかったわよ!」
「そうなのか?」
「そうよ!あんたもあんな奴の言うこと信じちゃだめよ!で、もしかして何かお礼にあげたとかじゃないでしょうね?」
「あ、いや・・・この宝箱にあった鎧を・・」
「奴にやったの?」
ガディーの言葉尻をとってドーラは目を三角にして叫んでいた。
「ばっかじゃないあんたって!?」
「そ、そうか?だがオレは・・」
嘘を言ったのではないと思うと続けようとしていたガディーの言葉など、もはやドーラの耳には入っていなかった。
「・・・サンゴで開くって・・・すぐ下の魔法屋に売ってたっけ?・・・」
「あ、その事なんだがな・・・」
「待ってなさい、アレス!今追いついてやるからねっ!卑怯者のあんたの首を今度こそ取ってやる!」
「あ!おいっ!」
ガディーがその意味を教えようと口を開きかけたにもかかわらず、ドーラは風のような勢いで部屋から走り出ていった。
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「ドーラさんらしいわ。」
「ははは、彼女らしいのか。なんともにぎやかな女だったな。」
「で、それでドーラさんは?」
「さーてな、それから会ってないが・・・」
「そのサンゴの謎って?」
「ああ、床にスイッチがたくさんあるんだ。そのスイッチをどう踏むのかオレは分からなくてな・・・だが、これが、教えて貰ったらなんとも簡単な事だったんだ。」
「簡単な?」
「そうだ。サンゴというから、てっきり海にあるあの珊瑚だと思ったんだ。それがだな、
そうじゃなくて、東方のある国では、数字の3を『さん』5を『ご』と言うらしい。で、床にあるスイッチをちょうどその数字になるように踏むってことだったのさ。」
「そうだったんですか。よかった、私もそんな数え方知らなかったから。」
「そうだよな?あちこち放浪しているだけあるということだよな?」
「そうですね、さすがアレスさんだわ。」
にっこりと笑ったクレールに、ガディーも笑みを返す。
「じゃー、私、行ってみます。どうもありがとうございました。」
「ああ、気をつけてな。」
ぺこりと頭を下げるとクレールはガディーのいた部屋を後にした。

そして、
「この部屋ね・・・」
開いたままになっていた戸口から、部屋の中を覗くと奥の扉も開いている。
(ドーラさんでも開けていったのかしら?)
そう思いながら、クレールはすっと部屋への入口へと足を進める。
−ガコン!−
「え?・・・な、何?」
気が付くと部屋への扉の前の床にあったスイッチを踏んでいた。
だが、目の前の扉はそのまま開いている。
「おかしいわね?何のスイッチなのかしら?」
首を傾げながら部屋の中へ入っていくと・・・開いていたはずの奥の扉が閉まっていた。
「え?・・・じ、じゃー、ひょっとして・・・?」
この部屋へ入る手前のスイッチを踏むとリセットされる?
「ドーラさんもきっとあたしと同じ事をしてしまったのね?」
クレールは確信していた。
「でも、3と5になるように踏めばよかったのよね?」

−ガコン!−
「やったっ!やっぱりそうよ!」
念のため入口のスイッチを踏まないようにとガディーさんに教えて上げよう!、そう思ったクレールは、謎とアレスへの誤解が解けたことに喜びながら、部屋から走り出る。
−ガコン!−
「きゃあっ!い、いけないっ!あたしったら、またリセットスイッチ踏んでしまったわっ!」
しらばく足の下のスイッチを眺め、クレールは自分のバカさかげんに、おっちょこちょいさにため息をついていた。

「もう一度3,5に踏めばいいことなんだけど・・・・」
だが、体重の軽いクレールにとっては、それは重労働というか、結構な運動だった。
普通に踏んだのでは1mmも沈まない。思いっきりジャンプして一つ一つ踏んでいったクレールにとっては、またしても時間もそして体力をも要する事だった。しかも時々ジャンプしすぎて、踏まなくてもいいスイッチを踏んだりもした。それを元に戻すには再びジャンプして勢いをつけて踏まなくてはならない(TT)。(ゲーム上では大嘘です。)リセットスイッチは、普通に上に乗るだけでいいというのに。
「こうなったら、気づかれないように回復魔法をガディーさんにかけちゃえば・・・ガディーさんなら普通に踏むだけでいいはずよね?・・・・・」

(ううん!クレールのおばかさん!そんな他力本願でどうするの!)
がっしりとした体躯の良いガディーの姿を思い出し、ふと考えてしまった卑怯な手を、クレールは慌てて否定する。
−ガツン!−
「いった〜〜〜・・・・・・」
自分を叱咤し、勢い良く殴ったその痛みに頭を撫でつつ、クレールはガディーに事の仔細を話すため彼の休んでいる部屋へと向かった。

** to be continued **



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