Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その29・未だかつてないやばくて面白い話 
 

 「ドクトル、情報の抽出はできたか?」
立ち入り禁止というプレートが掲げられたメディカルルーム内にある治療室の1つ。
その部屋には、患者・・いや、ドクトル・ミーナにとっては研究対象と呼べるモルモット?を収めたベッド代わりのポットとそれを取り囲むように医療用他、様々な機器があった。
そしてそのポットの横のサイドテーブルに向かい、分析結果を表示するモニタを食い入るように見つめているドクトルがいた。
「ドクトル?」
通常ならば即返事をするドクトルがデータに気を取られてイガラに応えない。それは非常に珍しいことだった。
「なにか面白そうなことでもみつかったか?」
イガラはそんなミーナに気分を害するわけではなく、その反対に、そこまでミーナを集中させていることへの興味を示す薄ら笑いを浮かべ、彼女に近づく。

「ああ・・イガラ」
自分の横に人の気配を感じたことでイガラの入室に気づいたミーナは少し照れたような笑みをみせ、イガラに視線を合わせた。
「なかなか興味深いことが判明したの。これはたぶんイザムやあの子のおねーさん、それから、そうね、あたしたち人類の未来に関わるっていうか、未来がかかってることの一部なんじゃないかしら?」
「ほう、そんな重要なことがあいつの記憶にあったのか?」
「そうよ。」
あいつとは、イガラの命を狙っているらしい刺客!”シズル”のことである。数日前に立ち寄ったステーションで、前回の、いや、それまで数回の失敗にも懲りず、またしてもイガラをおそったのである。
が、通常生命体反応とは違う反応を示すシズルに興味を持ちはじめたミーナにより、シズルの待ち伏せは、ステーションへ降りる前にイガラ側は把握していた。
ということで、シズルの目論見の裏をかき、彼女の捕獲に成功し、ミーナの管轄下(モルモットか?)に置かれたのである。

「データを見てもらえばわかることなんだけど、要約するとね・・・」
データを見せれば済むことだったが、すでにデータに目を通し、詳細を把握した自分から要点のみを先に聞きたい風なイガラを心境を察し、ミーナは話し始めた。

「まず、そうね、最初に話しておきたいことは・・・シズルにあなたの抹殺を依頼した黒幕は、単にあなたの賞金目当てやじゃまだからという理由じゃないみたい、ということよ。」
「というと?」
「宇宙のへそ伝説くらいは知ってるわよね?」
「宇宙のへそか・・・・ここまで宇宙進出を果たしているオレたちでさえもその全体像を把握しきれてないというか、まだまだほんの一部らしいが、ここいらの宇宙を含める個々の宇宙をひっくるめた総称、大宇宙の創世神だか、管理している超生命体だかがいるっていうあのへそか?」
「そう。そこにいる神なり超生命体なりの意に添わない種族がはびこると、彼らの下僕である宇宙の掃除屋、スイーパーという戦闘種族の手によって宇宙から抹殺されてしまう。その判断を下す神々の中の大神がいると言われているあの宇宙の聖域伝説よ。」
「ふむ・・・とすると、シズルはその手のものとでもいう結果がでたのか?」
「ちょっと違うわ。」
「違う・・とは?」
「それは、そうね、私の口から説明するより、この件についてシズルに問いただしたときの解答を聞いてもらったほうがいいわね。」
ミーナはテーブルの上に円形の機器を置くと、パネルを操作した。
まもなくその円形の機器の中にミニチュアサイズのシズルのホログラフィーが現れ、徐々に彼女の周囲の光景ができあがっていく。
「これは、彼女の記憶回路から抽出した記憶のワンシーン。誰かと通信している時の彼女の様子なの。彼女の前面に通信パネルがあるわ。その相手と通信内容を観察してちょうだい。」 参考:その13:危ない奴ら

「ふむ・・・通信内容、相手、スクリーンに映っている機器ともに興味深いな。」
「でしょ?でも彼女もあまり詳しくは知らないみたいなのよ。」
「こうして連絡を取り合っていてもか?」
「たぶん、宇宙のどこかで向こうが目に付けて依頼したくらいでしょ?」
「正体は明かさずにか、ま、そんなところだろうが。」
「ただね、通信相手が宇宙の掃除屋という異名を持ち、母星を持たず、一族単位で超大型戦艦を生涯の住居としている戦闘民族であることは、聞かされたみたいよ。その特異な環境下で生殖機能を失った彼らが、自分たちの未来、種の存続を計る為、宇宙のあちこちで同じような調査を行っているってね。」
「ふむ、オレたちの未来の是非を勝手に決めるという宇宙のへその神とかいう奴の手先、とまでは言わないってか?」
「まーね、でも、限りなくイコールに近いような気がするの。」
「ふむ・・・いずれにしろ、奴らはこの銀河に向かってきているということだな。」
「そう。だからさほど遠くない未来、ネオエイリアンと遭遇できてよ。そしてね、これは、シズルからのデータを幾通りも確認してから出した私の仮定なんだけど。」
その先を予想したような笑みを浮かべたイガラに、ミーナもまた意味深な笑みを返す。

・・・もしも彼らが本当に宇宙の大神のスイーパーで、今の環境下に置かれたことが、種の存亡という危機を招く結果を引き起こした原因で、また、命を受ける宇宙の神?にとって、彼ら種族は、ただ単に戦闘員としての使い捨てのコマとしてだけの扱いだという考えに達していたら・・・そこから、もしも、彼ら種族が今置かれている立場から脱出したいと、通信先の指導者が考えていたら・・・スイーパーはこちら側にとってスイーパーでなくなり、共通の敵を持つ同志になりうるかもしれないことになる。

「超生命体だか宇宙の神だか知らないけど、自分たちの物差しだけで判断して勝手に多くの種族の未来を決める最強の敵?と派手な喧嘩ができそうよ?」
「ははは。面白そうだ。奴らのリーダーに会える日が楽しみだ。」
「彼らにモルモット扱いされなければ、込み入った話もできそうね。そこまで運ぶのが難しいかもしれないけど。」
「そうだな。まずは彼らに引けを取らない自己主張が必要か?たぶん、何も行動を起こさないままなら、単なるモルモット扱いで終わっちまうだろう。」
「そうね、イザムのおねーさん探しをしつつ、守りと戦闘力のいっそうの充実・強化を図らないとね?」
「そうだな。奴らの懐まで飛び込んでいってナシ(話)をつける必要がありそうだからな。単なるサンプルとして捕獲されちゃー、オレのメンツがたたねー。」
「あら?単なるサンプルとして捕まって、あちらの司令官と対面という手もあるわよ?」
「生きたまま連れていってくれるなら、それでもかまわんが?」
必要な遺伝子サンプルが採れるなら生死は問わない・・・確かに向こうはそれで十分である。当然のことだと判断できた。が、死体あるいは、身体の一部分では意味がない。サシで話す必要があった。



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