Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その28・イザムの決意 
 

 「セレス、セレス・・飛んで!ずっとずっと遠くまで・・・」
イザムはセレスに乗り、真っ暗な宇宙空間を突き破るかのような勢いでひたすら突っ走っていた。

 それは、事の詳細をかいつまんでだが、ドクトル・ミーナから話してもらい、衝撃を受けたことからのとっさの行動だった。
もちろん、クルーたちは、そんなイザムを黙って見守っている。レーダーで追跡して。/^^;
セレスがついていれば、セレスに乗っているのなら安全だと誰しも判断していたのである。本体からの思考波の分析をする為、メディカルルームのベッドに横たわり、機器に繋がれた状態のリオもまたそうだった。

少しずつ話そうと思ってたドクトル・ミーナだったが、イザムの貪欲なまでの探求心?真実を追い求めるその心に、彼女の説明が途切れるたびに、矢継ぎ早に口から出てくる質問に押し流されるように、突き出されるように、ついついほとんどの真実を彼女は話してしまっていた。
当然、イザムは全てが自分のため、自分を守る為、自分が原因だと知り、ショックを受けた。

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「マイ・・マイは・・・・・それでいいの?それで?」
「・・・・イザム・・・・・・」
「自由は?マイの楽しみは?学校や、友達と喫茶店へ行ってだべったり、ファンシーショップでお買い物は?・・・・なにより、なにより・・・・・それを決めたとき、マイは、まだぼくを見たこともないんでしょ?生まれてもないのに・・・・・・」
「イザム・・・・・・」
精神を融合し、セレスの記憶回路の奥深くにいるマイにイザムは思わず激しく問いただしていた。そのイザムを記憶の中の遠いマイは、堅くそして愛情を込め抱きしめる。
「見たこともなくたって、会ったこともなくても、私にはかわいい弟よ。たった一人の身内なんですもの。私が守らないでどうするの?」
「マイ・・だって!」
「それにね・・」
それを否定し、自分を責める悲しげが色を放つ瞳のイザムの顔をやさしく撫で、マイは微笑む。
「宇宙は広いわ。そして、人類も数え切れないほどその宇宙へ広がって発展しつづけている。でも、その歴史・・つまり時の流れの中では、その人類という種だって・・ううん、その中のそのまた粒の1つである個なんて・・・・・宇宙の中では砂粒と同じなの。それが、その砂粒の1つである私やあなたに、私たちにとっては大きな個である人類という種族の未来が託されるなんて・・・すごいことじゃなくて?」
「・・・それは・・それは、分かるけど、でも・・・・・ぼくの・・ううん!マイの幸せは?」
「私の幸せは、イザムの幸せ。」
「そんな!」
「イザムったら・・・・」
くすくすっと笑うマイを変わらず悲痛な表情で見続けるイザム。その両手はぶつけどころのない怒りの為か小刻みに震え、マイの洋服の裾をぎゅっと握りしめている。
「それにね、ずっとじゃないの。あなたが、自分の考えをしっかり持って、他人の悪意にも決して流されない自我を持つまでだし・・・そうね・・・・・イザム、あなた、ずいぶんしっかりしてるわ。それも、最初にここで会ったときより、なんだか急速に成長してるみたいよ?」
そのことに気づいた記憶の中のマイは、わざと驚いた表情をオーバーに見せ、それから、今一度イザムをきゅっと抱きしめた。
「そうね・・いろいろあったものね。」
「だから、だから、ぼく、マイを迎えに行くよ!いいでしょ?もうぼく、大丈夫だから、マイを自由にしてあげられる!」
「イザム・・・・・・」
「彼らは・・その超生命体は、マイをどうして開放してくれないの?ぼくは、もう大丈夫なのに。それとも・・ぼくは、彼らから見たらまだまだ成長が足らないの?」
「そうね・・・・」
マイは暫く考えてから答えた。
「彼らは・・・・・・・・・・最初から・・この状態を作ることだけが・・目的だったのかも・・・しれない・・・・?」
「え?それって?・・それって、後は、マイのことはほっぽっておくってこと?・・・マイ・・・ねー?・・・・・あれ?・・・・・」
それは、ドクトル・ミーナがイザムの精神状態から危険を感じ、融合を解こうとしていたわけではなかった。また、イザムが、あるいは、セレスが融合を解こうとしたのでもなかった。
が・・・・つい少し前まで堅く抱きしめてくれていたマイの姿がイザムからゆっくりと離れ、徐々に薄らぎつつあった。
「マイ?ダメだよ!まだ、ぼく、話したいことが!」
「イザム・・・かわいいイザム・・・・・もうここへは来ない方がいいわ。遠い昔の私と、イザムの時にいる私は・・・・・思いも変わっているかもしれない・・・・・」
「そんな!」
「私の時では推測できないの・・だから・・・・・過去の私では、あなたの質問には答えられないの・・・・・・だから・・・」
「マイ、待って・・・まだ消えないで!・・・マ〜〜イ!!!!・・・・・・・・」

「イザム?大丈夫」
「ドクトル・・ミーナ・・・・・」
マイに拒絶され意識が戻ったイザムの目に心配そうに覗き込んでいるドクトル・ミーナの顔が写った。
「ぼく・・・ぼく・・・・・・」
悲しみをこらえ、それっきりうなだれて口を閉じてしまったイザムを残し、ドクトル・ミーナが彼の傍を離れると、イザムはセレスに命じ、宇宙空間へ飛び出したのだった。

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「・・・どこまで行くのだ、イザム?、我がマスターよ?」
「・・・・わかんない・・・・」
「イザム?それでは飛べない。私には命令が、飛行には明確な目的地が必要だ。」
「じゃー・・じゃー・・・マイのところまで・・・・」
「宇宙座標の入力を要求する。」
「・・・・・・・・それがわかったら苦労しないよっ!」
「・・・・・・」
飛行停止してしまったセレスに、イザムは仕方なく海賊船への帰還を命じた。


「イザム、少しいいか?」
「なに、セレス?」
押し黙ったしまったイザムに、セレスが話しかけた。
「私の記憶回路の中の私の制作者マイに拒否された、と言ったが・・」
「うん・・・それが?」
「それは、おそらく、現在の本物の彼女に会いに行けということではないだろうか?」
「え?」
「記憶回路の中の制作者では現状の把握ができない。現在の自分の状況、自分がどうあってほしいか、イザムに何をしてほしいかは・・・・」
セレスの言葉にイザムははっと瞳を輝かす。
「そ、そうだよね・・マイは・・・そう!そうなんだ!マイは・・今の自分に会って欲しいんだ!本当の自分に!!だから、だからいつまでもキミの中のマイに頼ってばかりいるぼくを・・ぼくの前から消えたんだ・・・」
イザムはしらばく記憶回路の中のマイとの会話と彼女の声を姿を、反芻していた。

「オッケー、セレス、帰ろう!今頃ある程度の進路が割り出されているかもしれない・・ううん、ドクトル・ミーナとリズがついているんだ、きっと分析作業はずいぶん進んでると思う!」
「了解、マスター。全速で帰還する。」


「もっと強くならなくっちゃ!マイを助けるんだから!もっと強く!しっかりしなくっちゃ!自分を責めてる時じゃない!本物のマイに会うんだ!」
海賊船へ戻るイザムの表情は、迷いも悲しみも吹き飛ばした固い決意に満ちたそれとなっていた。



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