Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その30・獅子に挑む?ネズミたち 
 

  「お〜い、リオ!艦長のお呼びだぞ?」
「あ、はい。」
「メディカルルームに来いとさ。」
「あ?艦長室じゃないのか?」
「ああ、間違えるんじゃねーぞ。」
「わっかりました♪」
コック助手のリオ、マイレリアが変装した人物は、下ごしらえがちょうと一段落したのことをハンコック長に伝えてから、調理室を後にした。

イザムの姉捜しの為、その姉のクローンである彼女(リオとしては彼だが)のことは、当のリオの抵抗で、クローン情報を入手した人物ということでイザムには説明してあった。だから、リオ=マイレリアと知っているのは、艦長のイガラとドクトル・ミーナだけである。
ただ信憑性を持たせるために、連邦の秘密諜報部員だとはイザムにも話したが、そこは男同士の秘密ということでイザムに約束させた。
船内では、あくまでコック助手のリオ。しかし、どうやら艦長のお気に入りという尾ひれがいつの間にかついていた。
マイレリア本体がいると思われる星の特定、船の進路決定の為に、彼(彼女)の脳波を調べる為の調査期間は、メディカルルームに拘束されていた為、宇宙に出たことのないリオが、特殊な宇宙病にかかったことにして、そのときはしのぐことができた。が、今現在の状況が状況だけに、結構頻繁に艦長から呼び出しがあることから噂になったらしいが・・・噂の根元は、ドクトル・ミーナとも言われている。
が、そのおかげでリオは結構自由に艦内を歩けることも確かである。


メディカルルームに足を踏み入れると誰もいない。
が、リオはそれが当然のようにシズルが収納(笑)されている部屋へと向かった。
「艦長、お呼びでしょうか?」
「ああ、入れ。」
立ち入り禁止と書かれたプレートの横のインターフォンを押して声をかけたリオに、イガラが応えると同時にドアが開く。

「何か緊迫したような重要事項でも、シズルの記憶から出たんですか?」
リオになりきったままマイレリアは、そこにいた2人に聞く。
「ええ、その重要事項よ。決定的な証拠はないんだけど、たぶん、無縁じゃないと思うわ。」
「それは・・・私の本体に関わっているということ?」
思わずリオの精神的な仮面が外れる。
「そう、百聞は一見にしかず。あなたにはまとめたデータに目を通してもらおうかしら?」
ミーナは座っていたモニタ前のイスから立ち上がると、リオにイスを勧めた。

リオ(マイレリア)がそのデータに目を通している間、部屋は沈黙に包まれていた。
その中で、そのリオのデータに目を通すスピードに2人は少なからず驚いていた。

「さすが、秘密情報部のTOPだけあるわね?その職業に適した特性を強化して作られたクローンだといっても、すごいとしかいいようがないわ。・・・・本体と無事会えたら、聞きたいことがいっぱいよ。」
ミーナは思わずイガラにだけ聞こえるような小声で話しかけていた。
「同感だな・・・こりゃー、やっぱり、超生命体の審判の対象は、坊主じゃなく姉の方だろう。」
「でも、イザムもまだまだ未知数よ?姉より優れた特性とか、姉が苦手分野の方で特出する才能があるかもしれない。」
「ある種、危険人物になりうる可能性もあるわね?」
「2人が、いや、現状でもリオが我欲の為に組織を動かせば、ちんたら商売してる宇宙海賊の比じゃねーぜ?」
「ぷっ!ちんたらは良かったわね・・・宇宙海賊イガラのどこがちんたら商売してるっていうの?・・ま、最近はおとなしいけど?」

「軍情報部はそんな甘くはないですよ。」
ミーナの小声を耳ざとく聞いたリオは、モニタから目を離して2人に苦笑を送った。
「秘密諜報員にも目を光らせている部署のことを知らないわけはないですよね。特に内政に関わるような行動は、独断では決定できません。」
「しかし、同調する仲間を徐々に増やしていけば可能だろう?」
「そうですね・・・緻密な計画における徹底した根回しで味方で場を固めれば出来ないこともないですが・・一応、適性検査でその種の懸念がない人材を配置していることも確かです。」
「あなたは、合格したから今があるわけね?」
「そうです。」
「でも、人間は変わるものよ。」
「私は・・幸か不幸か、そんな気は起きません。」
「連邦もいい人材をゲットしたのね。」
「連邦に置くにゃもったいねーな。どうだ?このままここにずっといるってーのは?」
「あらぁ、イガラ、それは無理よ。連邦軍の諜報部員だからこそ使えるんじゃないの?ね、リオ、あなた二重スパイしない?」
「・・・ドクトル・・・連邦の特務監査がどのような部署で、メンバーがどのような人材で構成されているか、ご存じのはずでしょう?」
「あは♪そうね・・・・・彼らに目を付けられるのは・・・とっても怖いわね。」
「その恐い奴らのスキを盗んでとんずらしてここに来たのはドクトルだろう?」
視線でイガラに賛同の意思表示をするリオとイガラに、ミーナは楽しそうに笑い声をあげる。
「あら、リオと共同戦線張って私をいじめるつもり?いいわよ、そのタグマッチ受けてあげる。」
「おいおい、ドクトルが言うと冗談で済まないからな。なんといってもこの部屋はドクトルのテリトリーだ。どこからどんなものが飛び出してくるのかわかりゃーしねー。シズルの二の舞にはなりたくねーから遠慮しておくぜ?」
「あら、そう?残念・・・艦長を観察するいいチャンスだったのに。」
「おいおい、冗談じゃなかったのか?」
3人は苦笑を交わし合った。

「まー、冗談はこのくらいにして本題に入るとするか。」
イガラの言葉ですっと3人とも真顔に戻る。
「で、リオはどう思う?」
「彼らが種に審判を下す超生命体、つまり神の配下のスイーパーかそうでないか、ということなら・・・おそらくお二人が出した結論と私の推測も一緒です。」
「やはりな。で?」
「まだその審判は下りてないが、そのスイーパーが来る。そこで、宇宙の掃除屋との戦闘に備えた体制を整える為に私に軍に帰ろ・・・ですか?しかし、その行動こそが、抹殺対象の審判を下す判断材料となるとしたら?」
「ほう、つまり、今回のことは、エサか?」
「かもしれません。」
「まー、それもあり得るが・・・じゃ、こういうのはどうだ?彼らとなんとかして話し合いの場を設け、一緒に神に喧嘩をふっかけるってのは?」
「神へ喧嘩をですか・・・彼らを同志に引き込めるかどうかは、いえ、その話し合いの場を設けられるかどうかは、銀河へ乗り込んでくるというその掃除屋のリーダーの性格にもよると思いますが。」
「だろうな。」
「でも、これは私の直感なのですが、彼らは、人類と同調はしないでしょう。」
「ほう?やはりリオもそう思うか?」
「そう思うかって・・イガラ?あなたが一緒に神に喧嘩をしかけたらって言ったんじゃない?」
きっと一瞬イガラを睨み、そして苦笑するミーナ。
「でも、私も無理なんじゃないかなとは思ったけど。」
「まーな。話してみなければ確定的じゃないが、おそらく、彼らは、戦闘員という名の捨て駒だと気づいていても、神に逆らおうとは、思ってないんじゃないかな?」
「神への忠誠心もあるかもしれないし。」
「何よりも神の絶対的な力を知ってるだろうから・・・離反も謀反も考えたことがないのかもしれない。」
「神の命を受け、宇宙の害虫を駆除するという行為を誇りに思っているということも考えられるわね。」
「だがまー、話してみて、その気になったら、喧嘩も面白いだろ?」
「イガラ、どっちが本音なの?」
「さてな、オレにも分からん。神に喧嘩を仕掛けるなんざ、できることじゃーないからな、出来たら面白いだろ?」
「しっぽで振り払われるだけでも?」
「手先の掃除屋に一掃されるより、大元にぶつかって砕けた方がマシってもんじゃーねーか?」
「・・・イガラ、あなた、自分で名乗りをあげて、向こうの戦艦に乗り込みそうね?」
ミーナがあきれたような笑みを見せる。
「・・・ドクトル、ひょっとして寝てる間に、オレのデータも抽出済みなんてんじゃーねーだろうな?」
「あら、私はそこまで恐い者知らずじゃないわ。自分のボスでもある宇宙海賊イガラに手を出そうなんて・・・病気で寝込んででもしてくれない限りできやしないわ?」
はっとわざとらしくイガラは両手を広げ、おどけた手振りをみせる。
「・・・・・たとえ病気になってもドクトルに診てもらうのはよしとくぜ。」
「オ、オレのデータは・・・もうすっかり?」
焦りの色を思いっきり顔に浮かべてリオが言った。
「あら、やだ、リオ!あなたから採ったのは、最初に断った通り、本体からの思念派の形跡だけよ。こう見えてもけじめはつけてるつもりよ。他人の秘密を覗き込む趣味はないわ。」
ちらっとシズルが横たわっているポットを見てからミーナは付け加えた。
「ボスの命を狙う危険人物だからしたまでよ。だって、ここは私にとって自由な天国なんですもの。イガラが殺されたら、無敵の海賊船ヨルムガドも普通の戦艦になってしまうもの。そうしたら・・困るのよ。」
「そう簡単に殺られるつもりはないが・・・・問題はやはり向こうがどうでるかだな?」
「シズルの通信を使って、交渉してみるという手もありますね。」
「そうだな。そういった交渉は・・・リオの、秘密諜報員の十八番だな。」
少しイヤミとも聞こえるその言葉に、リオは諜報員TOPの無表情さで答えた。
「ご期待に添うよう、努力してみます。」

そして、マイレリア本体探しの航行途上で、戦闘力も科学力も神がかりだろうと予想される宇宙の掃除屋を迎える準備をも始まった。



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