Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その13・危ない奴ら? 
  
  
 イラスト by COSMOSさん


 「面白いサンプルを発見した・・とな?」
宇宙連邦エリア外、通称外宇宙と呼ばれている星々の存在も稀有な暗黒エリア。
そこをゆっくりと飛行しているスターシップがあった。

ガラエラ・ロマーシュ。宇宙の掃除屋とも呼ばれる放浪戦闘民族のとあるグループのリーダーであり、数百機の戦闘機及び偵察艇を格納し、居住区もその中に持つスターベースと言ってもよさそうな大型艦の総司令である。
彼女ら戦闘民族は、宇宙のへそと呼ばれる主星*からの命令を受け、グループ単位で広大な宇宙に散らばり、宇宙と、種の存続のため、益になる遺伝子サンプルと求め、そして、害になるそれらを排除することが主な役目だった。
そう、宇宙に害有りと判断されれば、彼女らはすべからくその種を根絶やしにする。そこに躊躇や慈悲などは一切ない。
彼女らはひとえに主星の命令に忠実に実行する。そこに失敗はあり得ない。
故に彼女ら民族を知る者は、宇宙の掃除屋と呼ぶ。

「シズルから情報が入った。」
司令室で、ガラエラに報告するのは、彼女が絶対なる信頼を置いている参謀ゾル・アーケン・アローシュハン。
ガラエラだけはファーストネームのゾルで呼んでいるが、通称WA(ダブルA)と呼ばれ恐れられている男である。
女性であり小柄でもある彼女と比べると、いや、一般兵士と比べても、かなり大柄な男である。
その鍛え抜いた見事な体躯とその不気味とも言える風貌と全身からにじみ出ている雰囲気で、彼の前に立てば誰しもヘビに睨まれたカエルのように縮み上がるのだが、ガラエラだけは別だった。
そして、ゾルにとっても、ガラエラは別格だった。が、恋人とかいう男女間のそれではなく、彼女のカリスマ性に惚れて部下に徹しているというそれである。彼女の才覚に惚れたといったところだろうか。いや、存在かもしれない。ただ断言できることは、両名ともに、恋愛の情などという甘っちょろい感情は、微塵もない。
相手に才があるから右腕としておいておく、才があるから部下として命令に従う。それだけである。

ゾルは、ガラエラのデスクにあるスロットに手に持ってきたカードを挿入する。
と、壁に備え付けられているサイドスクリーンにシズルと相対したときのイガラの全身像が映し出された。

「シズルによると、宇宙広しといえど、これほど面白いサンプルはないという事だ。」
「ふむ。生物アーマーか?あるいは・・」
触手アメーバの根元であるイガラの腕を凝視し、ガラエラはつぶやく。
「既成植物との意思融合・・か?宿主と既成物との意思疎通がある?」
「この男の名前は、イガラ。銀河系という辺境宇宙(おいおい)を荒らし回っている宇宙海賊だ。」
「宇宙海賊・・なるほど。確かに頷ける。」
「で、これが、シズルが現在の所入手した彼のデータなのだが・・」
画面が変わり、細分化されたイガラの全身像が写り、ゾルは、各所を拡大し、そのデータをガラエラに見せる。
「ふむ・・・・未確認データも多いが、分かっただけのデータだけでも興味深い。」
「では・・」
「うむ。進路変更と共に各偵察艇に帰投命令をだせ。格納完了し次第、ハイパーワープ航路に入る。本営に連絡。これよりガラエラ率いるシーラカンスは、銀河へ向かう、とな。」


彼女ら民族は、種の危機に立たされているといってよかった。
性別はあれど、生殖は不可能。新しい命の母胎は冷たい機器である。
その機器の中で、限られた個から採取した生殖細胞、卵子と精子を結びつかせ、培養液の中で成長し産声をあげる。(近年、その生殖細胞を持つ個も激減しているのが現状である)
成長が早いため、2年もたてば、兵士としての訓練を開始する。そう、彼らは兵士以外の何者でもなかった。そして、配属された戦艦で30年ほどという短い一生を終える。
これは、第一級タブーとされ、誰しも決して口にはしないことだが、主星の戦闘要員という名の家畜・・・とも言える悲しいサガを持つ民族でもあった。
これは極秘中の極秘事項だが、そのように遺伝子を改良されたのは事実である。
宇宙の恒久存続の為に、害虫を排除する、その大義名分を掲げた主星からの調査命令(時として破壊命令)の実行部隊として、また、その調査隊として、宇宙中を駆けめぐる彼女らは、自分たちの種族の温存を図るためにも、個の改革ができうる有効な遺伝子サンプルを探しているのである。


「まるで遺伝子サンプルの宝庫といっても良さそうだ。これほど優れた研究対象はないだろう。ところで、この男の種はどうなのだ?」
「現在飛躍的に宇宙に進出している種といえよう。主星は、どうやら最終確認段階に入っているらしい。」
「ふむ・・・能力の是非を問われるわけか。で、その種の未来の是非を問われるサンプルは?」
「それが、どうやら5、6才の少年らしい。」
「5、6才のな・・・・。」
「我々と違い、5才は、まだまだ子供らしい。」
苦笑とも言える笑みを浮かべゾルは付け加えた。
「子供か・・・・・我々より長寿の種か?」
「平均寿命は属している星により異なっているが、150才位だ。生殖も自力で可能。」
「なるほど・・・我らに有効且つ適合した遺伝子であれば言う事はないな。」
「そうだ。」
「ならば急ぐぞ。主星が”否”と決定すればサンプルも採れぬ。その前に我らに有効な遺伝子を見つけねばならぬ。次代を担える遺伝子、我らの種の未来を託すことのできる遺伝子をな。」

ゾルは、直立不動の姿勢を取り、敬礼すると司令室を後にした。


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*宇宙連邦(人類側)は、"宇宙のへそ"も"戦闘民族が「主星」と呼ぶ星の存在"もまだ知らないでいる。
時に連邦内の星で、そういったものがあるらしいというおとぎ話的な事は耳にしたりはするらしい。


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