Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その12・フラッシュバック・メモリー 
−失くした過去の記憶−
 
 

イガラ@肉弾戦with寄生触手生物
イラスト by COSMOSさん

 「またお前か?よくもまー懲りずに襲ってくるものだな?いいかげんに諦めたらどうだ?」
移住者でごったがえす開拓地、シュ・ホーン星の闇市。一応はヘンゲス・ラ・カンという連邦軍提督がその治安を任された星だが、辺境地でこれといった産業も特産もなく、軍監察部もさほど目を光らせていないこともあり、私腹を肥やすことに意欲的な(/^^;)ヘンゲスは、宇宙中からの流れ者を受けれいていた。もちろんその中には犯罪者など賞金首もいる。だが、そのおかげで、近隣の星々よりは、幾分か豊かな為、商業経済も潤っていることは確かだった。
旅行者こそ立ち寄らないが、商船は結構出入りする。そこでまた関税をたっぷりとって私腹を肥やすヘンゲスなのだが・・・ともかく、イガラたちのようなお尋ね者にとっては、食料や機材の調達、時には陸地での休養、と、結構重宝する星であった。

が、やはり犯罪者の坩堝であるそこは当然、その首を狙ってのハンターも集まってきている。従って命を狙われるという危険度も、高くなるのは当然である。
が、それもまたスリルがあっていいと言う者もいる。
そして、イガラは、スリルがあっていいとは、口が裂けても言わない(安全でいられるのならそれにこしたことはないのである。物事甘くみない方がいいというのが艦長の考えらしい?)が、その程度のリスクは常に背負っているので、全く気にしてはいない。
そう、船外に出れば、いつどこからレーザー光線が飛んできても不思議はないのである。
(船内だってわからねーぜ?)
・・おっと、そうでした、艦長。四六時中そうでは、あなたも長生きできませんねー・・・あ、いや、あなたは不死でしたね?
(なんでもいいから、早く話を進めろ!)
アイアイサー!(イガラに睨まれて冷や汗びっしょりの筆者)in筆者の頭の中、人はこれを妄想という。(爆
一人惚けに一人つっこみ・・・お!ようやくお話書きの調子が戻ってきたかな?(笑
(いつまでもよそ事言ってねーで、はやく進めろい!いい加減にしねーと宇宙へ放り出すぞ?)
へ〜ん♪できるものならやってみそ!
・・・と・・・いい加減に内輪ぼけ漫才はやめて、本筋に戻ります。m(__)m


イガラの目の前には、一見して危ない輩だと判断できる人物が、レーザー銃を構えて立ちはだかっていた。
シズル・・そう、どこから差し向けられたのかしらないが、イガラの命を狙っているハンターの一人である。

イラスト by COSMOSさん


「へへへ」
イガラのその言葉に動じる風もなく、シズルはにやっと薄ら笑いを浮かべてゆっくりとレーザー銃の引き金を引く。
レーザービームが空を切る音と同時に、イガラは身構えた片腕に巣くっている触手アメーバの動きを開放する。
「ちっ!」
嬉々として瞬時にそのレーザー光線をその全身に浴びたことによって吸収した(彼らから言わせると食べた)触手アメーバの様子に舌打ちして、シズルはさっと身軽なその身を空に躍らせ、イガラの前から姿をかき消した。
「いつもながら薄気味悪いやつだな。ったく、仕方ねー奴だな。撃つならオレが気づく前に撃つべきだろうに?」
追いかける気もさらさら無いイガラは、久しぶりのごちそう?で満足げに今だシュルシュルと彼の腕から出てうごめいている触手アメーバに脳波を送り込んで引っ込むように命じる。
(こいつらもそろそろ危ねーか?・・・どこまで肉腫を延ばしてきてるのだか・・)
そんなことを考えつつ、イガラは再び何事もなかったかのように、市場を回り始めた。


宇宙海賊イガラ、血も涙もない、そして不老不死の恐ろしい男。
その不老不死を保つため、彼はそれまでに様々な種族の遺伝子を吸収し、その肉腫を己の体内に埋め込み、己自身の身体の改造をし続けてきていた。
そうすることにより、普通ならとっくの昔に他界しているはずの寿命を延ばしてきていた。
が、そこにはやはりリスクもあった。それはその埋め込んだモノたちの勢いが良くなりすぎると、イガラ本体を乗っ取られてしまう可能性もあるということである。
現在、イガラの中には様々なそういった肉腫が混在寄生共生してその肉体を保っていた。基本はイガラの肉体ではあるが、そして、心もまたイガラではあるが、その肉体なり心が弱まれば、その管制権を奪取しようと頭をもたげてくるモノがあることは否定できない事実なのである。
そんな危険な状態までして己が命を長らえる・・そうすることを決意したのは、いつのことだったか・・そして、なぜ、そんなことをしてまで長らえようとしているのか・・・それは、あまりにも遠い昔で、思いだそうとしても思い出せなかった。
いや、思い出そうともしなかった。過去に思いを馳せる・・イガラが一番嫌いなことだった。
常に前を見て突き進む、己の前に立ちふさがる者はたとえ誰であろうと真っ向から勝負して叩き伏せ、その先に進む。
それが彼の信条である。
が、過去の記憶を失ったのは、彼の体内に宿るそれらモノたちの策略だったのかもしれない。それ以上長らえる必要がないことを彼が知ることを恐れて。
生きることだけが本能であり全てである彼らにとって、自分たちの長命の為だけに、そして、自由を奪われたせめてもの反抗?に、イガラをそうしたのかもしれなかった。いや、彼らに反抗というものはない。おそらくいつまでも精力的に生き続けている宿主に満足しているといったところだろう。

 そのイガラという名でさえ、果たして自分本来の名前なのかどうかも分からず、またそれもどうでもよくなっていたイガラが、血も涙もないと言われた冷血漢イガラが、ここにきて変化がおきてきていた。そう、イザムに出会ってからである。
ドクトル・ミーナに言わせると「あなたにもそんな父性本能が心の奥底には眠っていたのね?」という感情である。
そう、確かにイザムに対してはどうも甘いというか、本来なら子供など乗せるはずがない。それが、どうも感情移入してるようなのである。それに気づいたイガラ本人も自分に感情というものがわずかながらも残っていたのだと驚いたくらいである。


「う・・うん・・・・・」
その夜、自室で眠っていたイガラは、最近見るようになった夢をまたしても見ていた。
恐怖と言う言葉を知らないイガラが、その夜もベッドの中でうなされていた。

----------------------------------------------------------
「何をしている、パイロット!早く発進させるんだ!火の手がすぐそこまで迫ってきてるんだぞ!」
「いえ、もう少し待ってください!もう少し・・」
「もう少し、もう少しばかりで、いつまで待てばいいんだ?コロニーポッドへの通路はもはや火の海なんだぞ?早く発進したまえ!」
「しかし・・・」
『いっちゃん!飛んで!』
「まい?」
不意に頭の中に響いてきたまいむからのテレパシーにいっきゅーの表情は強張る。
『早く!・・・もう・・・出口がないの・・・・手遅れにならないうちに・・・・早く・・私も・・もう・・・・動け・・ない・・』
それはどう分析してもそれ以上待つことは、自分も含め、船に乗っている人々全員の命を捨てるということだった。
『何を言ってるんだ、まい!オレたちに”諦める”なんて言葉はないはずだろ?!』
テレパシーを飛ばすいっきゅーは、それでも、現状を無視することはできなかった。
共に宇宙へ飛び出した双子の兄妹、いっきゅーとまいむ。探査チームを組み宇宙を駆け回ったいっきゅーは、スターパイロット、そして、まいむは主に調査担当の科学者として、依頼された調査を行い、時として救助活動などにも携わっていた。

そして、さるスターベースでの火災救助で、それは起こった。
『いっちゃん、今生は、兄妹で生まれてきちゃったから、恋人にはなれなかったけど・・・でも・・・楽しかったわ。ありがとう。』
『まい、何言ってるんだ?まだオレたちの人生、これからだろ?何か方法があるはずだ・・何か?』
『うん・・わかったわ、いっちゃん・・・諦めない!最後まで諦めないから!私はなんとか脱出するから、だから、みんなを助けてね。パイロットはいっちゃんしかいないんだから・・・・・来ちゃ・・ダメよ・・・私なら・・まだ・・そうだ、こっちからならまだ脱出できるわ』
それは早く発進させようとしての嘘だといっきゅーにはわかった。
『いっちゃん!早くっ!早く、飛んでっ!』
『まいーーー!!』

---------------------------------------------------


はっとイガラはベッドの上に起きあがる。いつもここで終わるのである。そして、夢の内容は、ほとんど覚えてないのである。
ただどうしようもないほどの後悔と自責の念、そして、誰かへの激しく熱い恋慕だけがそこにあった。



双子の兄妹としてその地に生を受けた2人は、前世では恋人だった。世界の命運がかかった過酷な人生を歩み、辛い別れと出会いを繰り返した男女だった。
そして、その生で2人は魂からの結びつきを手に入れ、永久の愛を誓った。幾度転生し、たとえ記憶がなくともまた出会って恋をしよう。必ず出会って結ばれる、そうお互いに誓った2つの魂だった。
そして、イガラは、いや、いっきゅーであった彼は、そのとき、火災に翻弄されて制御を失い、あちこちで爆発を起こしながらブラックホールへ吸い込まれていったスターベースに残してきたまいむの生存を信じ、探し出すまでは、とあらゆる手段を用いて自分の寿命を延ばしたのである。それが宇宙海賊イガラの発端である。
が、思いつく限りのあらゆる実験で、様々な異生命体の遺伝子や肉腫などを移植、注入、吸収をしてきたため、記憶が破壊され(侵食かもしれないが)、完全にその時のことは失くしていた。
その失ったはずの記憶が、イザムとの出会い(もしくは頭に響いてきたマイの声?)により、奇蹟なのか、はたまた悪魔のいたずらなのか、ごく不鮮明ではあるが、イガラの中で、蘇りはじめてきていた。不死不老の身体に仕立て上げた原因のそのときのことが。

果たしてそれがイガラにとって良いことなのか悪いことなのか・・・・。
ともかく元には戻れないことだけは確かである。一夜だけならまだしも、毎晩のように見続けていた。夢を見なかった頃に戻ることは不可能である限り、イガラは、不鮮明な記憶を追求していく事が必須だった。
それまでがそうだったように。ともかく前へ進む。結果がどうあれ、前進する。

(しかし、やっかいだな。こうも記憶が不鮮明では・・・せめて夢の内容をもう少し覚えていられれば判断もできるし、それをきっかけとして記憶を蘇らせることもできるというものだが。まさかオレの体内に取りこんだモノの記憶じゃないだろうな?)
そう思いつつも、イガラには不思議となつかしい気さえも覚えるその夢の余韻は、確かに自分自身の記憶から来るものだ、とも確信していた。



-INDEX- BackNext