Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その11・電次元(電子頭脳セレス内)での再会  
 

イラスト by COSMOSさん

 「それで?それで?ねー、セレス、マイの学生時代の画像とかは、キミのメモリーに残ってないの?」
「残念ながらない。私の記憶にあるのは、マイが話してくれた事だけだ。」
「そう・・・・それで、ぼくが言った男の人に該当する人物は、マイのその時の話の中にありそう?」
「ふむ・・・宇宙へ出る前に、マイと争っていた男か。」
「何か話してたのは分かったんだけど、遠かったから、聞こえなくて。」
「私がマイから聞いた話は、一個人の外見などを形容した話はなかったな。ほとんどがその日の授業で彼女にとって何か印象深かった事とか、学校帰りに立ち寄る喫茶店や、ファンシーグッズショップでの買い物のこと・・か?私には到底理解できえない、楽しい、かわいい、おいしい、といった、言葉が飛び交っていた。」
「あはは・・そ、そうだよね、セレスにはそういった感情は理解できないだろうからね。でも・・そっか〜・・・マイはいつもそこに座って微笑んでいるだけかと思ったら、学生だった時は元気いっぱいで走り回ってたんだね。」
「そうだな。いつも笑っていた。実験に失敗したときなども、沈み込むのは少しの間だけで、すぐ次の試行錯誤に取りかかっていた。」
「そうやってキミもできたの?」
「そうだ、しかし、急用ができ、私の完成は、いつの日かできるかもしれないが、その可能性は低くなったと言って、未完成であり、マイ独自の意図で模索途中だった私の思考を停止させた。途中まで組み立てた私も分解していくと言っていた。」
「停止させられるって聞いた時、どう思ったの?悲しかった?」
「マスターの言葉は絶対だ。私は、いつの日か完成してくれるのなら、それを待つ。停止させるとマスターが決定したのなら、それに従うだけだ。」
「まー、そりゃそうだよね。イヤだって言ったって、スイッチ切られちゃったら逆らおうと思ったって逆らえないもんね。」
「お?・・・」
「どうしたの、セレス?」
「いや、マイの外観というか輪郭データくらいは残ってないかと思って自分の内を検索してたのだが・・・・」
「が?」
「データテリトリーからは確かに削除されてはいるが、当時、二重三重のオートバックアップ機能があったはずだ。その機能へのパスデータも削除されてしまっているが、イザム、お前ならパスを探し出せないか?」
「パスを?・・・うん!やってみる!」
学生のときのマイに会える。マイの姿を見られる。イザムはセレスの提案に一も二もなく飛びついた。
「しかし、戦闘機を操縦したときとわけが違うが、いいか?」
「違うって、どう違うの?」
「つまりだ、マスター、マイは、そうして私の人格部分の細部設定をしていたのだが、意識を我々と同じ電磁波に変え、一体化するのだ。」
「意識を・・・・」
「格納庫のゲートを開いたときのように、意識をパスに沿って飛ばすだけでなく、浸透させるのだ。相手の電子頭脳と思考を合わせる。つまり、思考を合流させ、合体する。」
「うーーん・・・・・説明だけじゃよくわかんないけど・・いいや、やってみるよ、ぼく。なんでも経験さ」
「ははは、なんでも経験か。マイもよく言ってたな。たぶん、それができ、消去されたデータの欠片をパスの深層部で見つけられれば、次元は違うが、そこでマイと会えるかもしれない。」
「え?・・マイと・・・会える?」
「ああ。だが、今のマイではない。マイに関する記憶の断片をつなぎ合わせたいわば、過去のマイだ。」
「わかった。過去のマイだっていいよ。もしかしたら、ぼくと会えるのを待ってるのかもしれない。こうしてセレスに会えることを、マイも願っていたかもしれないよ。」
「そうだな。二重三重のバックアップを設定してたように、何事に対しても、二重三重にシミュレートしてたからな。」



「いい?気分が悪くなったら手に持っているボタンを押しなさい。そうしたらすぐ器具を取り外すから。」
「はい、ドクトル。」
セレスと精神交感ができるとはいえ、それよりもより緻密にそして内部に入っていく。その過程で、人類にとっては未知であり害意のある何モノかの存在があった場合、あるいは、電子頭脳との意識(脳派)交感に、人類の持つ意識の拒絶反応があった場合、もしくは、拒絶とはいかないまでも、何か異常があった場合、それらは、イザムにとって、非常に深刻なダメージとなることだけは確かだった。
船医であり精神科医としても連邦中にその名が浸透しているミカエラ・ルーシュ女史と、アンドロイド・リズが、イザムとセレスの脳波交感に立ち会うこととなった。


「しかし、すげーな、坊主。お前の姉さんもこんなことできるのか?」
「うん、そうらしいよ。」
「ほう。進化人類・・か?」
「さあ?セレスは、進化なのか、あるいは、血筋?先祖返りということも考えられると言ってたよ。」
「ふむ。失われた力の復活か・・・・。かもしれんな。」
「そうね、いくら科学が発達しても、生命の発祥に関しては、まだまだ解明はできてないから。」
「それは神の領分だろ?」
「あら、イガラ。あなたの口からそんな言葉がでるとは驚いたわ。」
「わけのわからんことはそうしておけば、簡単さ。」
「かといって、信じてもいないくせに?」
「艦長にとって”神様”は、対処不可能なことを捨て去るゴミ箱なんだよね?」
「おい、リズ、それは少し言い過ぎじゃないか?」
「誰に?」
「・・・オレじゃないことは確かだな。」
「あはは♪ゴミ箱を肯定してるよ?」

はははははっと、笑いが飛び、緊張感に包まれていた医務室に、明るい雰囲気が戻った。

そして、イザムは、自分(の心の本質)を電磁波に乗せ、セレスの中へと入っていった。



ふぐぅ・・・・・・・・
眠りの中からセレスの思考波へ入ったイザムは苦しさを感じ、思わず引き返えそうとするる。精神体のみであるはずのその身体に息苦しいほどの圧迫感とそして、嫌悪感を覚えていた。
いきおいよくその電次元を流れているセレスの思考波の流れに、まるで身を引き裂かれるような感覚を覚えていた。
異物体としてのイザムの精神波を糸のように引き裂き、その流れの中にバラバラにして混ぜ込んでしまおうとしているように感じられた。
それは、まるで心を引きちぎられ、自分が自分でなくなるような感じも受けた。
(気持ち・・・悪い・・・・・)
何も見えない真っ暗なそこで、イザムは恐怖と不安、焦りと苛立ちを感じる。
(嫌だ、ぼくはお前たちなんかに引き裂かれやしない!)
しかし、その流れはますます激しくイザムにぶつかってくる。バラバラに引き裂き自分たちの中に取りこんでしまおうとするかのように襲いかかってくる。
(・・・マ・・イ・・・・・やっぱり、ぼくじゃ、ダメ?・・・・・)
睡眠状態のイザムの手に、中止ボタンを握っていいるその手に力が少し加わった。
「・・・」
その手をドクトル・ミーナ、リズ、そして艦長は息を殺すようにして見入る。
が、今にもボタンを押すように見えたその手は、ふっと力が抜けた。
「イザム?」
「大丈夫よ、ついさっきまで乱れてた脳波が安定し始めてるわ。」
あわててイザムのその手を掴もうとしたリズに、ミーナはイザムになんら異常はきたしていないと頷いて教えた。

そう、もう少しでボタンを押すところだった。それは、イザムの自己防衛本能がそうさせていた。が、完全にボタンを押すその直前、セレスの声がイザムに届いた。
(イザム・・私のマスターの血を引く者よ。恐れるな。自分を殻に閉じこめようとするのはやめるのだ。私の思考波を受け入れよ。その流れを留めるな。共に流れよう。共に同じ千々の思考波となり、電次元を駆けよう。その先にマイがいる。千々に散らばり、どこにいるかわからないマイの残像の欠片も、きっとお前の呼び声には応えるだろう。)
(・・セレス・・・・・うん、そうだね・・・・・・・・)
迷いと恐怖が消え、それまで拒絶し、流れを止める異物でしかなかったイザムの精神は、セレスの精神の流れを受け入れ、千々になってその流れの中に入り込み同化していった。


「マーーーーーーイ!」
「あら?・・・・あなた・・だぁれ?」
「マイ!ぼくだよ!ぼく!分からない?」
「分からないって・・・そういえば、お父様によく似て・・・・も、もしかしたら・・あなた、今お母様のお腹の中にいる、私の・・・弟?」
「あはは♪そうだよ、マイ!マイの弟のイザムだよ。」
「イザム・・・っていうのね?うれしいわ♪こんな形であなたに出会えるなんて♪そうだわ♪今から今日開店のパフェに行くの。一緒に行きましょ♪」
「うん!」
過ぎ去りし日のマイがインプットして消去したはずのデータ。イザムは電次元で、そのデータに基づいて形成された少女のマイと出会うことができた。


「おい、どうやら成功したらしいな?」
「そうね。笑ってるわ。」
体中に機器を取り付けられベッドに横たわったままのイザムを心配そうに見つめていたイガラたちの表情にもようやく安堵の色が戻った。



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