Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その10・男と男の約束 

イラスト by COSMOSさん

 「大佐、戦闘機が一機緊急発進しましたが?」
「なんだと?」
軍ポート管制室、モニタを見ていた兵士の報告を受け、ビシル大佐はモニタに視線を飛ばす。
「認証コード、cf93824、コズミック・セレナーデです。こんな時間に特別訓練の予定はないはずですが。」
「ミス・ガヤック」
視線と指でビシルは訓練飛行予定を調べさせた。
「本日の訓練飛行は、0506.2336にて終了。特別訓練の予定、なし。」
「ミスター・エンカゴ!」
「パイロットとの通信不可能。通信装置がオフになってます。」
「追跡機を出せ!抵抗するなら撃墜もやむおえん。」
(潜入者か、あるいは兵士の顔をしたスパイでも潜入してたか?どちらにしろ、あれを持っていかれるのは痛い。テストが上手くいけば、あの手の制御コンピュータ搭載の戦闘機を汎用化する計画なのだからな。あれを失うのは痛いが、持ち去られるのは避けるべきだ。)

けたたましく警報装置が鳴り響き、軍ポートから次々と追跡機が飛び立った。


「イガラ!」
「なんだ?何かあったのか?楽しそうだな?」
「ふふ♪詳しい事は今情報収集中だけど、軍エリアで何かあったらしいわ。戦闘型追跡機が10機、緊急発進したわ♪」
「ん?」
(まさかな・・・)
船に戻っていたイガラは、通信士アカエラから報告を受け考え込む。
「あら、どうやら、最新鋭訓練戦闘機コズミック・セレナーデが盗まれたらしいわ。」
「おいおい、ホントか?」
「嘘言っても仕方ないでしょ?」
「ま、そりゃそうだな。よし、追跡機の通信を傍受しろ。ひょっとしたらひょっとするかもしれん。」
「おーけー♪」
ばちん♪とウインクし、アカエラは軍の通信の傍受を開始した。


そしてそれから数時間後、海賊船内メディカルルーム。

「ん?」
「よー、ぼうず、気づいたか?」
「え?・・・あ、あれ?・・・ぼ、ぼく・・・・?」
今までのことは夢だったのか?軍施設に潜入し、まるで友人と話すように戦闘機の電子頭脳と会話し、マイのところへ戻ろうと、攻撃してくる軍追跡機の攻撃を必死で交わしていた。
きょとんとした表情のイザムに、イガラはにやりと笑って近づき、頭をくしゃくしゃっと少し乱暴に撫でる。
「な、なにすんですか?」
「いやー、正規軍を相手に、あそこまで見事に攻撃を交わすなんざ、オレでもできるかどうかわからんと思ってな。坊主、お前、そういった特殊訓練施設にでもいたのか?そこから脱走でもしてきたのか?」
「ち、違います!」
そう答えながら、イザムは、では、やはり今までのことは夢じゃなかったんだと思い直す。
「でも・・・ぼく、どうしてまたここに?」
「ああ・・まー、なんだな・・・」
ぽん!とイザムの肩を軽くたたき、イガラは少し気の毒そうな表情を浮かべて言う。
「仮にも奴らは追跡の専門だ。上手いこと逃げてはいたが、じりじりと追いつめられたというか・・・」
「じ、じゃ、コズミック・セレナーデは?ぼくの乗っていた船は?」
どっかーーん!と爆破されたことをイガラは大きく手を開いてイザムに告げてから付け加えた。
「転送可能エリアまで近づいていたからな、その直前にお前さんはこの船に回収したってとこだ。」
「ば、爆破されちゃったの・・・・・セレスは・・・・」
「セレス?」
「コズミック・セレナーデ・・略してセレスっていうんだ。」
「ああ、あの戦闘機に搭載されていた電子頭脳の愛称ってやつか。電子頭脳のくせに、そんなものあるのか。」
「う、うん・・・・偶然なんだけど、セレスの設計制作者が、ぼくの姉のマイだったんだ。途中までで完成までじゃなかったみたいだけど。」
「ほう。」
「それで・・・ぼくがセレスのコクピットに座って、マイの名前を呟いたら、反応してくれたんだ。」
「ほう〜〜・・それはまた奇蹟というかなんというか。」
「セレスはいろいろ教えてくれたよ。マイと同じように電子頭脳と会話できるはずだって、だから、ぼく試してみたんだ。彼らが出してる電磁波を辿ってパスを見つけて会話する方法を。」
「ふむ。話には聞いてたが、ホントにそんなことができるとはな。」
イガラは腕組みをし、イザムをじっと見降ろしていた。
「やっと見つけた味方なのに、これで、マイを助けられると思ったのに。」
「いや、そのマイなんだがな・・」
イガラはイザムが横たわっているベッドの横の壁にあるボタンを押す。すると壁に収納されていた簡易テーブルがすっと出てくる。そして、そのテーブルの上のボタンを押すと、パカッとテーブルの隅の四角い切れ目のところが空いた。
「ナジュイル海域の様子だ。見るか?」
「え?」
何だろう?と端末機だったその画面を見つめていたイザムは、思わずイガラを見上げる。
「ナジュイル海域・・お前さんはそこから救命艇で飛んできたのさ。」
慌てて食い入るように画面を見つめる。そこには、破壊されつくした船の残骸があちこちに浮遊している様子が写っていた。
「こ、これ・・・・」
「他に航行中の船はない。きれいさっぱり片づけられたと思っていいだろう。」
「そ、そんな・・」
顔面蒼白。食い入るように見つめているモニタを持つイザムの小さな両手が震えていた。
「そして、これが、お前さんがまだ逃げている時、小型探査船が盗撮したその様子だ。」
イガラがスイッチで切り替えると、今度は、軍の追跡機とセレスとのカーチェイスならぬ、スターシップチェイスの様子が写しだされた。
そして、最後、四方八方逃げ道を塞がれ、イザムの乗ったセレスは、集中攻撃を受け、閃光と共に消滅した。

「艦長さん・・・・・セレスは・・・」
−シュン!−
と、そんなとき、メディカルルームのドアが開き、一見してアンドロイドだと分かるリズが何やら小箱のようなものを持って入ってきた。

COSMOSさんにいただいた戦闘アンドロイド・リズです。

「回収成功♪だけど、反応がないよ。あたしの回路を通して話しかけたってのにさ。機能停止するような致命的な傷はどこにもないように思えるんだけど。」
「回収って・・その小箱・・・まさか?」
「そうだ、そのまさかだ。最新鋭訓練戦闘船コズミック・セレナーデの頭脳だ。」
イガラの説明を聞きながら、イザムはリズから手渡されたその箱をじっと見つめる。
「セレス・・ぼくの声が聞こえる?・・・・ごめんね、キミはきちんとぼくの指示に従ってくれたのに、ぼくが上手く指示できないから・・当たっちゃって・・・ぼく・・・」
じわっとにじみ出てきた涙をぬぐったイザムの声は泣き声になっていた。
「もう・・マイも助けにいけなくなっちゃった・・・・・・」
と、その途端、ウィ〜〜ンと小さな機会音と共に、その箱の片隅にあった小さなランプが点灯した。
『マイ・・・イザムか?』
「セレス!ぼくの声、聞こえるの?」
『イザム、我が制作者の弟であり、私の第二のマスターよ、私の機能は衝撃で低下している。自己修復不可能な部分がある。修復を頼めるか?』
「キミの修復?…あ・・で、でも・・・」
ランプが点灯したことと、イザムの様子、発した言葉から判断したリズが口を挟む。
「コンピュータの修復なら私に任せて♪」
「えっと・・リズだった?」
「そう。アクセス拒否されなければ、痒いところに手が届くように修理してあげられるよ?」
「お、お願いします!」
「船体も、なんとか使えそうな部分だけだけど、回収しておいたから、後は、そうね、古市でも行って、適当なパーツを探せば、組み立てられるかも知れないよ。」
「ホント?」
涙を拭くことも忘れて、目を輝かせて自分を見つめているイザムに、リズはVサインを送る。
「ボスの了承がでればだけどね?」
「あ・・・」
慌ててイガラに視線を移したイザムに、イガラは苦笑しつつ、リズに目で承諾の返事をする。
「あの逃げっぷりを見せてもらったからな。興味が沸いた。電子頭脳と意志通じができるということも、それから、いくらそうだとしても、初めてのスターシップをあそこまで乗りこなしたその才能と、そして、マイとか言ったな・・・何があって何から逃げていたのか、興味が湧いた。」
「艦長さん!?いいの?」
「我らが艦長殿は、頭の中に響いた美女の声が忘れられないらしいのよ?」
「ドクトル!」
「あら?違った?クルーの間では、そりゃーもー噂になってるわよ。」
少し焦ったようにギロッと船医のミーナを睨んだイガラを、イザムは不思議そうに見上げる。
「美女の声?」
「あ、いや、その・・だな・・・なんというか・・・坊主の救命艇を発見する少し前だが・・」
しっしっとミーナとリズをその部屋から追いやると、イガラはそのことをイザムに話し、そして、イザムは、それまでの経緯をイガラに説明した。

うーーむとうなってしばらく考え込んでいたイガラは、心配そうに見上げているイザムに、にやっと笑いかける。
「いいだろう。退屈しのぎにはなりそうだ。」
「艦長さん!」
イザムの目が希望で輝く。
「坊主の乗船と戦闘機の組み立てを許可しよう。だが、条件がある。」
「あと、マイの救助!」
「はは、よし!そのマイの救助も含め、オレに誓いをたてろ」
すかさず口を入れたイザムの頭にぽん!と手を乗せ、軽い笑みを見せてから、真剣な表情に戻してイガラは言った。
「第一に艦長命令には絶対服従だ。それから、無駄飯食いはいらねー。かといって無理なことをしろとも言わん。船内でお前のできることをしろ。」
こっくりとイザムは頷く。
「それから、オレたちは海賊だ。獲物を襲うこともあれば、軍や賞金稼ぎとの戦闘もある。オレは負けるつもりはねーが、先の補償もしねー。」
「それでマイを助けに行けるのなら、ぼく、何でもします!」
「よし!男と男の約束だ!いいな?」
「はい!」



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