Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
第二部その8・その頃イガラは…   
 

 

 惑星アントローゼに向かって航行中のイガラの鑑、海賊船ヨルムガド船内、その艦長室でイガラは思考を巡らしていた。
正体不明の戦闘民族のこと、彼らを操る絶対的な力と知識を持つ神がかりな種族のこと、そしてイザムとリオのこと…。
”お願い、弟を、イザムを助けて・・・”…その声が再びイガラの耳元で蘇る。

アントローゼにいる天才とも狂才とも呼び名がある科学者蒲生博士に強化防御スクリーンの作成を頼んだのは、この状態を予知したものだったのかどうかはイガラ自身でも判断することはできなかった。なにしろ周囲は敵ばかりだからである。

「神と称する超生命体…か……」
どっかとデスクの背もたれ付きのイスに深く腰を下ろし、イガラは目を閉じる。
果たして真っ向からぶつかって行ける相手なのかどうか、いや、超生命体の前に、宇宙の掃除屋と称されるスイーパーの攻撃に、果たして人類の科学が通用するのかどうか…何しろ相手は、それまでにも無限に広がる広大な宇宙に芽生え、宇宙空間へ侵攻し始めた種族を滅してきているいわば、神の制裁の手と称するのが妥当と思える戦闘民族なのだ。向こうはこちらのことを百知り尽くしていても、こちらは向こうの事は何もわかっていない。いや、例え向こうもこちらの情報はまだ入手してなくても、おそらく取るに足らない科学力だと判断され相手にもされず、蹂躙されるまま人類は滅するのかもしれない。超生命体の判断が下されない前に、彼らと対峙するのは、人類の滅亡を早めることになるかもしれないとも思えた。

(文明の差はどのくらいだ?十分対抗できうる差ならなんとか希望はあるのだが…とはいえ…敵対するとはまだ決まっていない。種の存続の為、彼らに有効な遺伝子を探しているのならば、それを提供すれば……
しかし…神の手足として宇宙を渡り歩いている彼らの目に、オレたち人類は、話し合いの場を設けるに足りる種と写るのかどうか。
単なる遺伝子サンプル…オレ達にとってのモルモットと同様にしか捉えてなかったら…。)

喉の渇きを覚え、ギッっとイスを軋め持たれていた背から身体を少し浮かし、イガラはデスクの上に置いてあるラム酒に手を伸ばす。
キュキュッと蓋を取り、グビリと一口それを喉に流し込み、さて、どうしたものか、と思案を続行させる。

と、不意にその静寂な思案を破りインターコムが鳴る。
「イガラだ、どうした?」
反射的にインターコムのボタンを押す。
「ジルです。プライベートモードで艦長宛に通信が入ってます。」
「どこからだ?」
「それが…バトル・スターベース・シーラカンスと言ってますが。」
「ん?”バトル・スターベース・シーラカンス”?聞いたことがない…が…?待て、もしかしたら…。ジル、発信源は分かるか?」
「トレース不能です。未知のエリアから発信されてます。」
「なるほど、やはりな。…いいだろう、繋げ。」
「イエッサー」

デスク前面に薄いパネルが出、通信映像がそこに映される。
そのパネルに写っていたのは、イガラから見れば年若く少女にしか見えない一人の女と彼女に相反した屈強な体格を持つ男が一人。
そう、それは、シーラカンス総司令官、ガラエラとその参謀、ゾルの姿だった。
(参:その13危ない奴ら?)

「お前が辺境宇宙で荒らし回っているという海賊イガラか…まさかそちらからコンタクトがあるとは思わなかった。意外な展開に一応の敬意を表しよう。」

声はその少女が発したものだった。だた、その声色こそ年若い女性のものだが、そこには思わず寒気を覚えさせるほどの冷酷さとそして、絶対的な威圧感があった。
とはいえ、恐れを感じるようなことは、さすがにイガラにはないが、彼の本能がちっぽけな少女にしかみえないその人物に対して明確な危険信号を発していた。



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