Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
第二部その7・山守りの一族   
 

 

 「でもさー、やっぱり・・本物が現れたらどうする?」
「また、その話?」
集落が遠くに見えてきはじめると、不安が増したのか、独り言のように呟いたイザムの言葉にまいりも反応する。
まいりはう〜〜んと上を見上げてほんの少し考えてからにっこりとイザムに笑みを投げかける。
「大丈夫よ、やっぱりどう考えても龍神なんてさ、自然神の象徴っていうか、いるわけないんだし?」
「そーかな?神がいないってホントに言い切れる?」
真摯な瞳で言ったイザムの言葉に、まいりは少なからず狼狽える。
「だ、だって、そういうもんじゃない?とくにこのレベルの発達段階なら?」
「でもさ?本当に創造神がいてその星が出来たとか魔法があるとか、完全に否定はできないよね?」
「なによ、イザムはそっち派?フロンティア思考の宇宙海賊にそんなロマン思考は挟まれる余地はないのよ?」
「ぜんぜん?」
「そ、ぜんせん!」
「ホントに?」
「・・・・・」
覗き込まれるようにイザムに視られたまいりはまたまたぎくっとする。
「そ、そりゃー・・・そういうのも・・・そうだよねー・・・・・宇宙って広いから、何があってもおかしくないっていうか・・・」
「でしょ?」
「”でしょ?”ってそこで勝っても今のこの状況の解決には、な〜〜んにもならないでしょ?」
「あ・・・そっか。」
「そっか、じゃないわよー。」
「あはは・・ま、いいんじゃない?」
「良くないわよ。その場合、本物が登場したらどうするか?ってことだったでしょ?」
「あはは、ボクより、りんの方が気にしてない?」
「何よ、あたしをからかったの?」
「あ・・そ、そんなことないよ、ホントにぼく心配になったんだ・・けど・・」
まいりの怒りが本物化してきそうな気配を敏感に感じとり、イザムは少し焦り始める。
−カタン−
と、そんなとき、輿が少しかたぎ、ゆっくりと下ろされる。

恭しく上げられた輿のベールをくぐり、まいりとイザムは輿から下りる。
「我々のお呼びだてに、まこと、御使い様をお寄越しくださるとは・・・部族を代表し、御礼申し上げまする。また、御使い様におかれましては、このような下界へわざわざのご足労、いたみいりまする。」
シャーマンと名乗ったナハと頷き合ってから1歩前に進み出た初老の男性が、恭しく2人に礼を取った。
「我が名は、モルナオ、この部族の長でございます。まずはこちらでお身体をお休めくださりませ。」

イザムとまいりは、お互いを見合って覚悟を確認しあうと、村長とシャーマンの後について案内された家屋の中へと入っていった。


『世界の終焉、白き神と黒き神が互いに世界を一つにせんとする時。
 白き神は黒に染まらず、黒き神もまた白に染まらず、世界は崩壊へ歩み始める。
 心あれば、真摯なる祈りもて水神を呼べ。どちらにも染まらぬ水の御使いこそが世界を鎮めよう。』
賓客に対する丁寧なもてなしを受け、イザムとまいりは、そんな言葉が書かれた予言書を見せられていた。
というのも、もてなしを受ける前、2人は思い切って、誰かと人違いしてると長に申し出たのである。それ以上にっちもさっちもいかなくなる前に。村に着いたばかりの今ならまだ誤解ということでなんとかなるだろうという判断からの決意だった。

「で、あたいたちがその水神の使いだって?」
「はい、さようでござりまする。」
それでも、上座に座らされ、目の前に額づくことをやめない彼らに困惑しつつ、イザムとまいりは、半ばどうとでもなれの心境で対応していた。
「数日前、天空から龍神の山の頂に下りられるのを、私をはじめ、巫女殿もまた数人の村人が確かに目にしておりますじゃ。」
ああ、スターシップの墜落のときのことを言ってるんだな、と2人は納得する。が、それが龍神なのではなく、スターシップ、宇宙を、いや、空を飛ぶ乗り物だと説明しても到底理解してもらえないことも確かだった。
「そして、お二人をお迎えしたあの滝は、龍神の滝。龍神の滝への道は我らが部族の領土を通らねば入ることは出来ませぬ。龍神の山からお二人が滝まで下りて来られることは巫女殿が夢見で知ったことでもござりまする。我らが間違うはずは決してございませぬ。」
加えて、別名、死の山とも呼ばれる龍神の山(一言で”山”と言っているが、その一帯の山々で形成されてる連峰が龍の背のように見えることからつけられた太古の時代からの呼び名である)に反対側から入って通り抜けて来られるはずもないと2人は説明を受けた。
そこはむやみやたらに人間が足を踏み入れてはならない、踏み居れば死をもって制される神聖な山なのだ。(くどいようだが、正確には1つの山でなく幾つかの山々で形成されている山脈である。)
「でも・・・・」
「正体を明かさず人界の様子をお調べになられたいというお気持ちは分かりまするが・・・麓を守る我が部族には、どうか・・・」
「わかった!」
(え?りん?)
まいりの言葉に反射的にイザムは声にならない声を出して彼女を見つめる。
(こうなったら仕方ないよ!手っ取り早く龍神の使いだってことにして、龍神の命を受けて先を急いでるからって言えば出発できるんじゃない?)
(あ!そっか!)
まいりの目の中にそんな言葉を読み取ると、イザムは軽く頷いて、承知した旨視線で伝える。
「そこまで確信されてちゃ、認めないわけにはいかないけど、でも、極力このことは秘密にしてほしい。」
「は、はい、ありがとうござりまする。その点は、我が部族は、龍神様にお仕えできることを、神山の麓を守ることを絶対の誇りにしておりまするので、懸念は必要ないかと思いまする。」
「信じていいのね?」
「もちろんでござりまする。」
長、巫女、そしてそこに居合わせた村人の代表者たち数名は、いずれも真摯な瞳でまいりのその言葉に頷く。
「じゃ、あたしたちは、主の命で先を急ぐから・・」
「あ・・いえ、そ、それは当然のことなれど・・・・・どうかお願いでござりまする。今宵一夜だけでもお泊まりくださりませぬか?御使い様をお迎えしたのに、このように早々に発たれてしまわれては、我らの体面・・あ、いえ、哀しすぎまする。」
「そうね・・・あなたたちの話を聞いても悪くはないわよね。」
「あ、はい。ご質問がございますれば、なんなりと。我らでお答えできることなれば、いくらでもお答え致しまする。では・・」
「あ!ごちそうとかそういうのはいらないから。」
「あ・・・・いや、こ、これは・・先手を打たれましたな。ですが、これは我らたっての願い、どうか我ら精一杯のもてなしをお受けくだされませ。」
(どうする?)
(うん・・・・)
イザムは一息ついてから仕方ないよといった表情でまいりに応えた。
(ここまできちゃ、受けないわけにもいかないよね?)

そうして、しばらくそこで長や巫女との談笑の時間を持ったあと、一族総出の歓迎の宴で、にぎやかなもてなしを2人は受けることになった。



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