Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
第二部その6・神様の御使い   
 

 

 2人が振り向いたその瞬間、5人の男達は一斉にその場にひれ伏した。
「え、え〜〜っと・・・これって・・・・・」
「う、うん・・・たぶん、なにかすっごい誤解してると・・思う。」
「イザムもそう思う?」
思わず2人はお互い小声で耳打ちしてしまう。
どうしたものか、どう言葉をかけようかと思案している2人の視野に、次ぎに入ってきたのは、数人の男達が輿のようなものを担いでくる様相だった。
「悪い方にはとらえてないみたいだよね?」
「う、うん・・・・」
それは目の前でひれ伏している男達や輿を担いで近づいてくる男達の雰囲気で感じ取られた。
警戒心を持っていることは感じられるものの、そこに敵対心や猜疑心は感じられない。いや、むしろ男達からにじみ出ているのは畏怖の念?

ひれ伏している男達が輿が通る道を開けるため、左右に分かれ、薄絹のかかった輿がまいりとイザムの目の前にゆっくりと降ろされた。
輿の先頭に付いていた男が、恭しい手つきで薄絹をゆっくりと左右に引くと、中から1人の中年の女性が出てくる。
真っ白な装束に唯一真っ赤な鳥の羽根飾りを白いバンダナで額の上部に留めている。
その雰囲気は、明らかに呪術師か占い師の類だと2人には思えた。
その女性は、輿から下りると予期したように、まいりとイザムの前に丁寧に腰を折って礼をとった。
「お待ちしておりました。龍神の御使い様を我が部落にお迎えることができ、光栄の限りでございます。我が名はナハ、モラウ族のシャーマンであり、恐れ多くも、御使い様をこの人里へお呼び申し上げた者でござりまする。」
ほら、やっぱり、と2人は思わず目を見合わせる。
そして、その女性の乗ってきた輿に乗せられ、2人は彼らの村へとやってきたのだった。

「ねー、ぼく達、いいのかぁな?もしも本物の龍神の御使いが来たら?」
「まー・・このくらいの文明に遭遇すると、よくあることなんだけど・・・ま、こんなときは腹をくくるしかないね?」
「腹をくくる?」
「そ!覚悟するってこと。ばれたらばれたときっていうか・・・ほら、だいたい神様なんて実在しないんだからさ?」
「りんは無神論者?」
「うーーん・・・困ったときの神頼みはしちゃうこともあるけど、基本的にはそうかも?だって、神の助けを期待するだけばかばかしいもん?」
「りんったら・・・」
「あら、イザムは違うの?信じてるわけ?」
「信じてるわけじゃないけど・・・・神様はその人その人の心の中にいると思う。」
「ありきたりな見解ね。釈然としないぼかし方だわ。」
「だってさ、分からないもん、ぼくを育ててくれたマイはどっちかというと自然に感謝の気持ちはあったけど、そういった1つの存在への信仰心は皆無に近かったような気がする。」
「自然に感謝はあたしも大賛成だよ。」
「うん、ぼくも、それは確かに感じる。惑星はぼくたちに生きる場所を与えてくれる大きな大きな神様だよ。」
「あはは、大きな神様かー・・・・そういえば惑星神なんて思考もあったっけ。」
「そうなの?」
「うん、宇宙は広いから、その地その地でいろいろは思想や信仰があるわ。でも、そういったものに遭遇した場合、大切なのは・・」
分かってるよね?とでも言いたそうな視線をイザムに投げかけ、イザムはそれを受け、こっくりと目で頷き、2人は同時に口を開く。
『郷に入っては郷に従え♪』
くすっと軽い笑い声を出した後、真顔に戻って2人は再び話し続ける。
「龍神信仰って、自然神の化身になりやすいのか、星系が違って手も良く聞く話だよ。」
「そうんなんだ。でもぼく達が御使いって・・・・なんだか予想外の大事になりそうじゃない?」
「そうだね〜〜・・部落に入れたらそっとこの星の人々の生活ぶりを観察して、それから、目的地までの交通手段を調べる予定が、なんだか大事になりそうだね。」
「うん。神様のお使いを呼ぶなんて、なにか緊迫してることでもあるんだろうか?」
「まー、普通そうだよねー。自分たちではどうしようもないから神にすがるんだから。」
「りん、ぼく達このままでいいのかな?」
「いいって?」
「このまま村まで行ってしまって困ったことにならない?」
「うーーん・・・」
輿の天井を見上げ、頭をとんとんと軽く叩いてからまいりはため息をついてから言った。
「どっちにしろ今逃げ出せるような状況じゃないし、ま、逃げ出すのは、話を聞いてからでも遅くはないんじゃない?」
「あはは♪さすが楽天家のりん♪」
「あら、イザムは反対?」
「ううん、賛成だよ?」

何があるか分からないが、ともかく出たとこ勝負?行動を起こすのは、事の成り行きが定まってからでも遅くないと覚悟した2人を乗せ、輿はゆっくりと山道を下っていった。



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