Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
第二部その5・初めての遭遇   
 

 

 旅支度を調えたまいりとイザムは、残り組の2人に見送られ、スターシップを離れた。
乗り物もなく道無き道を麓まで行く、それは容易なことではなかったが、2人は慌てず騒がず、急ぎたいのは山々の気持ちを抑え、進む方向を選びつつ、ゆっくりと下った。
幸い、人を襲うようなどう猛な獣との遭遇はなかった。ヒルや蜘蛛、蛇など昆虫類、爬虫類に属すると思える生き物は結構いたが、たとえ彼らの攻撃が毒性を持っていたとしても、この星の住民の衣装に合わせて形どった特殊フィルター付きスーツが害があるモノの侵入は阻止してくれた。
食料は、持ち運びに楽なように、星の住民には食料とは見えないだろうと思われる1口ガム型宇宙食。普通食を口から摂取できるようなら極力そうし、どちらかというと宇宙食は非常用に温存しておくつもりではある。が、鬱蒼と草木が生い茂った山間部の行軍では、食料を探すなどという横道に走るようなことはせず、宇宙食を摂り、ひたすら麓を目指した。
時には、おいしそうな果実を実らせている木なども目にしたが、食べていいものかどうか判断がつかないうちは口にしない方がいい。そういった物は、転送のテストも兼ね、船へ送り、まいなが成分分析をした。もっとも、麓が近くなってくると、もしも、転送の場面を住民に見られても後々面倒を起こしそうだから、転送収用は断念することにした。


山をいくつ越えただろうか、スキャンデータでいくつの渓谷を、山を谷間を越えるか、それは数値としては把握していたが、まいりは考えないことにした。考えると気が遠くなるからである。それほど奥地、高山地帯に船は不時着したのである。そのおかげで人目に触れることもないだろうと判断できたのだが。


「やっと麓って感じ?」
2人の行く手を阻む樹木の種類も変わってきていた。それは、とりもなおさず、間違いなく下へ下へと下ってきている証拠だった。
「うん、そうだね、りん!でも、高度でいくとまだまだここも山岳地帯だよね。」
「もう!イザムったら、水を差すようなこと言わないでよぉ!人がせっかく喜んでるのにぃ!」
「ごめん、ごめん、だけど、もう今までのように道を切り開いて進まなくてもいいと思うよ。」
「ま・・ね。でも、一応人知未踏の山奥からは出られたみだいだよね。麓っていうより、まだ高原なんだろうけど、すぐ目の前に絡み合った木々の枝があるんじゃなくって、目の前に開けた空間が広がってるのって気持ちいいね♪」
「うん!たぶん、そのうち住民の集落も見つけられそうだね。」
「・・・ちょっと怖いような・・わくわく楽しみのような?」
「うん!」
「ほんと、目の前が開けてるっていうのがこんなに気持ちいいものだったなんて、初めて知ったわ♪」
「そうだね♪」
大きく深呼吸しながらまいりが呟くとイザムもこっくり頷いてから大きく深呼吸した。
「陽もまだ高いから、もう少し歩こうか。集落とまでいかなくても、山小屋とか人が通った跡とか見つかると嬉しいね。」
「うん!」
2人はにっこり笑いあうと、足取りも軽く再び歩き始めた。


そうして小一時間ほど歩いただろうか?森の中で見つけた人の手によって切り開かれたと思われる、それでも、獣道に近い荒れた道だが、それまでと比べれば一応道と呼べれそうなその小道をたどった2人はその先に澄んだ水を湛える湖を見つけ、その湖畔で休憩することにした。

「今何時頃だろう?」
ごそごそとイザムが上着の内ポケットのボタンに見せてある時計を表示させて時間を見る。
「もう5時かー・・今日もずいぶん歩いたね、りん。」
「そうね。イザム、疲れてない?」
「それはぼくのセリフだよ!ぼくはぜんぜん大丈夫!りんは?」
「もっちろん、あたしも大丈夫!このくらいでバテるりん様じゃないよ!」
「うん!」
「あ・・でも・・・・・・」
しっ!と言うようにまいりが人差し指を口に当てイザムの次のセリフを留めた。
「水音がしない?」
「え?水音?」
「そう、滝が落ちる音っていうか・・・そんな感じ?」
そう言われ、イザムも気を集中してじっと周囲の音に耳を傾けた。
「うん!間違いないよ!滝の音だと思う!こっちから聞こえてくるよ!」
2人は顔を見合わせると、音のする方向へと草木を分けて足早に歩いて行った。


「わ〜〜!りん!やっぱり滝だったよ!すごいね〜!」
「うん!すごいわ!やっぱり滝は雄々しさがあるわよね♪」
2人が水音に引かれて進んだ終着点、滝壺を覗くことができる岩場に出た2人は、勢いよく流れ落ちるその滝にしばし見入る
滝があれば、当然そこから麓へと道案内してくれる川がある。
そして、川縁には、村や町が出来ている場合が多い。
2人は無言で川が続く方向に視線を飛ばすと、こっくりと頷き合った。
「でも、もう遅いから、今日はこの辺で野宿?」
「そうね、この近くでテントを張れる場所を探して休みましょ♪」
「オッケー♪」
2人はテントを張る場所を探す為、再び森へと入っていった。


そして、翌日、もう一度滝を見てから出発しようと、岩場に立って滝を眺めていた2人の背後から近づく足音があった。
「ん?」
人の気配と足音に振り向いたまいりとイザムの視界に入ったのは、おっかなびっくりといったへっぴり腰の様相でまいりとイザムの様子をうかがっている5人の男たちだった。



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