「今日のサポートはあなたたちですって?」
めがねの淵をくいっと上げ、ちろりと久美子と千里を見たのは、配達課の準お局様と言われる杉崎教子。
「は、はい!よろしくお願い致します!」
他にもっとましな社員はいなかったのかしら?と軽くだが蔑視を向けた教子に、びくっとしながらも、久美子と千里は深々と頭を下げて挨拶する。
ここでお局様クラスに嫌われでもしたら世の中終わりである。
その日、異空間コロニーK203へ配達する物は、なんと「家」だった。といってもそんなに大きい物ではなく、離れのこぢんまりした物。そして、(有)スペースデリバリーでは、サービスの一環として、簡単にできるものは、組み立ても行っている。勿論その知識とライセンスが必要となってくるが、そこは会社組織なのである、ライセンス保持者が1名いれば、あとは知識がある社員なら違法にはならない。
初めて行くことになった、異空間コロニーに、2人は胸を躍らす。
「す・・すごい・・さすが勤続ン十年の準お局様・・」
「ち、ちょっと千里!聞こえたらどうすんのよ?」
慌てて千里をたしなめた久美子だが、目の前の光速スペースカーには、すっかり心を奪われていた。
銀色に光る流線形のそれは、今の彼女たちには到底手が届かないもの。そのかっこよさにうっとりして見つめる。
「何してるの?さっさと荷物を運び入れてちょうだい!」
「は、はいっ!」
教子にぎろっと睨まれ、2人は慌ててコロニーへの配達物を客室へ運び入れる。そう、デリバリー会社にとって、配達物はお客様なのである。空調設備も対振動用クッションも最高の設備が施されている。
そして、家といっても、パーツになって入っているその箱は、そう大して大きくはない。
「取り扱い説明書も忘れないでね。」
「はい!」
久美子は間違いがないか再確認するとアタッシュケースの中へ5cm四方のディスクを入れる。
初めて同行する今日の働きで、教子の自分たちへの評価が決まる。
ドジを踏まないように、と2人は目一杯緊張していた。
そして、光速船専用の次元航路を通って順調にそのコロニーへと入る。
「軌道修正・・・目的地にロックオン。」
操作もさすが慣れたもの。教子はミス一つしない。それに、乗り心地もアナログカーとは段違い。デリバリーカーに乗っている感覚ではなかった。静かな流れの中を静かにそして高速飛行。内部もエンジン音でうるさくてしょうがないアナログカーとは異なり、静かである。
「久美子さん、カムフラージュシステムをオンにしてください。」
「え?え?・・カムフラージュシステムって・・・ど、どこ?」
それは別名イリュージョンシステムとも言い、届け先にあわせて船の外観を変えるシステムである。
「あなたの右横!エネルギーゲージの上よ!」
「あ、あった!」
久美子は慌てて、CSと書かれたボタンを押す。
『カムフラージュシステム稼働・・・コロニーK203の情報を確認しています。』
−ピピピピピ!−
『コロニーK203・・・中世ファンタジースタイル、矢風(やかぜ)建設分譲地。』
「きゃああ!中世ファンタジースタイルだって!」
それは、久美子も千里もいつかは行ってみたいと思っていたコロニー形態だった。思わず手を取り合って喜んだ2人は、教子の睨みに小さくなる。
「遊びじゃないのよ?そこのところはよーく認識なさい!」
「は、はい、すみません。」
『変換システム稼働します。』
−ブーーーーーン−
『変換完了。現在当機は、ドラゴン形態となっております。』
「ド、ドラゴンだって!」
久美子と千里は思わず顔を合わせていた。
−シューーン・・−
空間を切り裂く光と共に、目的地の大空に出る飛龍(スペースカー)。
「かーさん、飛龍がこっちに向かってるよ?!」
「ああ・・頼んでおいた離れの家が届いたんだね。」
光の次元航路を出たところは、真っ青な青空が広がり、緑の木々の中に中世風の石畳の道と煉瓦と石作りの家々が並ぶのどかな田園風景。
その一角にある大きめな屋敷の庭へと、人の目には飛龍に見える教子の光速カーは着地する。
「毎度ありがとうございます。スペースデリバリー社のものです。」
「ごくろうさま。」
家の女主人であろうと思われる女性が、子供を伴って微笑みながら出迎える。
「それで、あの・・・サービスで建てていただけるというのは本当でしょうか?」
「はい、もちろんでございます。建てる場所をご指示いただければ、すぐにでも取りかかれますが。」
営業用スマイルで教子はてきぱきと返事をする。
「千里さん、間取図をレイヤー1に読み出し、それから各パーツをそれぞれの別のレイヤーに分けて読み出してちょうだい。」
「はい!」
ハンディーPCの画面でまず組み立ててみる。
「あの〜〜」
「なにか?」
「間取図とパーツを別レイヤーにするのは分かるんですけど、なぜパーツも別々にするんですか?」
久美子の質問に、教子はため息をついた。
「あのね、設計通りに建てても、ここはあーだとかこれはこっちがよかったとか、いろいろあるのよ。だから、その時の為よ。」
「あ!そ、そうですね。」
レイヤーを分けておけば移動自由。作り直しも簡単である。久美子はようやくそのことを理解した。
そして、ミニチュアでチェックを受けてから、本格的に建設作業。
とはいえ、作業過程はハンディーPCとほぼ同じなのである。ただ、大きさが違うため、ハンディーでは処理能力が足らない。そこはデリバリーカーのマザーコンピュータを使う。
ハウスビルダーソフトをマザーコンピュータにセット、そして、その端末機を建てる四隅に置く。
そして、ホログラフィーで原寸に拡大した間取図を地面にひく。
次に、間取図にあわせて読み込んだ通りに、出来上がり寸法の空間をやはりホログラフィーで仕切っていく。あとは、その仕切にあわせて久美子と千里がパーツを配置していけばいいだけである。最後の『建築』スイッチを押せば、縮小されていたパーツは原寸大に戻り、それぞれに備え付けられているオート移動・密着、オート修正装置が働き、勝手に家の形になっていってくれる。
「完了致しました。ご希望通りの石造り風にさせていただきましたが、この新型パーツはスイッチ一つで、木目調、つまりログハウススタイルにも、そして、煉瓦造りにもなります。取扱説明書をお渡ししておきますが、もし、ご不明な点などございましたら、定期的にお邪魔する我が社の営業マンにおっしゃっていただければ、アフターサービスとしてさせていただきます。」
「あら、そうなんですか?少し高かったんですけど、そこが気に入って買ったんですよ。良かった・・分からなかったらどうしようって思ってたところでしたの。」
「私共でできることがあればなんなりとどうぞ。」
にっこりと最高の営業スマイルで教子は彼女の信頼を手にする。
「それでは、今後とも、我が社のデリバリーサービスを、よろしくお願い致します。」
深々と頭を下げ、丁寧にお礼を言う教子に、久美子と千里も慌てておじぎをした。
そして、無事に終わったとほっとしていた帰り、事件は起こった。
−ピリリリリ!−
緊急連絡用インターカムがなった。
「はい?」
「教子くん、君ともあろう人がどうしたんだね?」
「は?課長・・なにか?」
「何かではないっ!K302へ届けた家が怪獣になって暴れ出したと連絡を受けたんだ!」
「ま・・・まさか・・・・」
顔から一気に血の気が失せた教子は、後部座席にいた久美子と千里の方を振り返る。
「え?」
そういった事件の場合、考えられることはただ一つ。家のシステムにウイルスが侵入していたということ。
「ハウスケアシステムを稼働する前にウイルスチェックはしたの?」
「あ・・・・・・」
千里の顔からさ〜っと血の気が引く。
「あなたねー!そんな基本を!」
勢い良く怒鳴り始めた教子は、ふと気づく。
「そうだった。そんなこと言ってる暇ないのよ。早く行って成長しないうちにやっつけないと!」
「や・・・やっつける?」
少し震える声で聞いた久美子に、教子は極力抑えた怒りの声で言った。
「他のハウスシステムへ感染したら、どうなるかくらい分かってるでしょ?遅くなるほど被害は広がるのよ!」
久美子と千里の脳裏に、怪獣に蹂躙され、逃げまどうコロニーKの人々の様子が写り、2人とも一層青くなる。
「いいこと?手遅れになったら・・ううん・・怪獣に変化してしまった事態、もう手遅れだけど・・これ以上被害が広がったら、あんたたちの始末書くらいじゃすまないんですからねっ!」
教子の怒りに、2人はすっかり小さくなっていた。
「そ、それで・・どうすれば?」
「ウイルスバスターとしての訓練くらい受けてるでしょ?」
「は、はい、一応。」
「一応?」
「ラ、ライセンスもらったばかりで・・・」
は〜・・・と教子は絶望していた。忌々しげに、レスキュー隊要請ボタンを数秒見つめてから彼女は押した。何事も最悪の場合を考えて手は打っておかなければならない。ハウスウイルス怪獣くらいで要請するのは教子としては、プライドが許さない事なのだが。油断は禁物なのである。
「とにかく・・最悪の場合を考えて、本社のレスキュー隊に出動要請しておいたけど、なんとか彼らが来る前に私たちで決着を付けるわよ!」
「わ、私たちだけで・・ですか?」
震えているような小声で言った千里を、教子はきっと振り返った。
「自分の蒔いた種は自分で刈る!それが私たちデリバラーの鉄則よ!」
「は、はいっ!」
思わず2人はシートから立ち上がって直立不動。
「コロニーは中世ファンタジーなのよ!何に着替えたらいいか、そのくらいわかるわね?」
「は、はいっ!」
何事もコロニーやその星の景観にあわせるというのが世の決まり。
3人は、コロニー到着と同時に怪獣退治の勇者一行の服装に着替え、飛龍(デリバリーカー)から飛び降りる。
3人の目の前、そこには家型の怪獣がいかにも楽しそうに野原を闊歩していた。
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