「野原でちょうどよかったわ。」
教子は人家への被害が少ないと判断して、少しほっとする。
「捕獲システム、準備はいいわね?」
「は、はいっ!」
何かのシステムにウイルスが侵入し、そのシステムが管理している物に意志をもたせるということが、こんなことだとは千里も久美子も知らなかった。いや、知識としては知っていたが、それは、単にペーパー上・・あ、いや、モニタ上だけなのである。現実に目の前にした巨大な怪獣に足が震えていた。
それでも、千里はなんとかハンディーPCの捕獲システムを立ち上げ、目標物をロック。
「ターゲットロックオンしました!」
「OK!さー、いい子ちゃんね・・おとなしく捕まってちょうだい。」
教子は呟きながら、捕獲用端末機・中世タイプ仕様の魔法使いの杖を手に怪獣に近づいていく。
「がおおおおおーーー!」
「きゃっ!」
「あっ!危ない!教子さん!」
怪獣が玄関口から吐き出した火は、教子を狙っていた。咄嗟に久美子は教子に体当たりしていた。
「あ、ありがと。」
「あ、いえ。」
共に地面に転んだが、火に包まれるよりはましというもの。教子は礼を言ってから、照れた久美子に、二手に別れて木の陰に引くことを目配せする。
−ザッ!−
−ズズン!−
彼女たちが地を蹴ったのと、怪獣が、そこを大きな足(土台)で踏んだのと同時だった。
「困ったわね・・・ウイルスがしっかりシステムに浸透してしまってるわ・・・オール電化が仇になって・・・うっかり近づけないわね?」
教子は木の陰から怪獣を見つめつつ、対策を練る。
その間も、ハウス型ウイルス怪獣は、口(玄関)から火を吐き、目(窓)をぎらつかせ(点灯)、意気揚々と歩いている。その進行方向には・・集落があった。
「こうなたらシステムを混乱させて動きを封じるしかないわ!アクセスはまだできないの?」
「あ・・プロテクトかかっててシステムに入れないんです・・・」
「う”−−−−−」
千里の返事に、教子は頭痛がしてきた。
「貸しなさいっ!」
怪獣の隙をみて、千里の傍に寄った教子は、ハンディーPCをひったっくるようにして取る。そして、目にも止まらない早さで、キー入力していった。
「おっけー・・システムのファイヤーウォールは壊滅できたわ!あとは・・・」
そして、再び、目にも止まらない早さで、データ入力。あることないこと、必要なこと不必要なことなんでもかんでもインプット。ついでに課長の悪口もインプット!(爆
−グギギ?・・・・−
「教子さん!怪獣の動きが止まったわ!」
目を輝かせて走り寄ってきた久美子に、教子は余裕の笑みをみせる。
「オッケー!敵はフリーズ状態よ!でも、自己修復機能があるから、油断はできないわ。手っ取り早く捕獲するわよ!」
「ラジャー!」
久美子はスコープアイを装着し、ウイルスがどのあたりにいるのか透視し、千里は動かしているエネルギー源をPCで探す。
その間に、教子は怪獣の周囲に結界を張る。捕獲のためでもあるそれは、もちろん、PCの端末機を使ってである。が、それも中世ファンタジー風仕様の水晶玉の形をしている。
「さて、仕上げよ!」
「はいっ!」
剣士の格好をした久美子がドラゴンスレイヤーならぬ、ウイルススレイヤーを高く掲げる。
目標は怪獣のコア(ウイルス)。この種のウイルスは、別のシステムに入る時に分裂するだけなので、比較的楽である。とどめをさすのは、たった1つの心臓!!
「やーーーーー!!!!」
−ズン!・・・ブブブブブ・・・−
ウイルススレイヤーの放つ電光を浴び、ウイルスは消滅(ソードの先からインプットされるアンチウイルスワクチンにて本体削除及び書き換えられた箇所の修復)。怪獣と化していた家は普通の家に戻った。
「ふ〜・・・・」
ほっと一息つく3人。
「さてと・・・レスキュー隊に解決した旨連絡と・・・あとは・・・」
家の持ち主に平謝りに謝る・・・それしかない。
が、ばつの悪そうな表情で、おそるおそる行ってみたその家の敷地内に、あの離れ家はあった。
「は?」
呆然として離れの家を見上げる3人。
そこへ家の女主人がにこやかに登場。
「あら?もしかしたら、あなたたちがシンプソン宅の暴れ家を取り押さえてくださったんですか?」
「は?シンプソン宅・・・の暴れ家?」
「ええ、そうよ。シンプソン宅の家が暴れ始めたとかで・・私、恐くて家の中で隠れてましたのよ?」
「あ、で、でも・・この家って・・・」
「ええ、そうなのよ。ちょうど配達していただいたこの家とよく似てるのよ。ご自分で組み立てるとか得意そうにおっしゃってたのを覚えてるわ。ちょうど同じくらいに届いたみたいね。」
「は、はー・・・。」
「あ・・もしかして、私・・恐くて慌てていて、お宅の会社に連絡した時、シンプソン宅の家というのを忘れてしまったかも?」
はっとしたように、顔にてをあて、女性は叫んだ。
どうやらハウス怪獣は、スペースデリバリーとは関係ないらしいと分かり、3人ともほっとする。
「で、では、奥様、また何かございましたら、お気軽に当社まで。」
「ホントに助かったわ。でも、配達と関係なくても来てくださるなんて・・・感心だわー。私、お宅の会社のことを他の奥様方にお勧めするわね。」
「はい、ありがとうございます。それでは失礼致します。」
客でなかったら、罵声を浴びせていたところだった。営業用スマイルの下、教子の顔は明らかに怒りに燃えていた。
そして、それは、久美子と千里の上に降りかかってきた。
「スペースデリバリーの社員が、あんなことでモタモタしてたんじゃ困るのよ!もう少し勉強しておきなさい!いいわね?」
「は、はー・・・・」
「来週、テストしますからね!」
「テ、テスト?」
「分かりましたね?」
「は・・はい。」
ぎろっと睨んだ教子に逆らえるはずはなかった。
それは、罵声だけの係長の怒りなど比べものにならないくらい恐いと2人は思った。
一昔前なら山のような本を積み上げられただろう。が、そこはPC時代真っ盛り。小さな四角いディスクが久美子と千里の手のひらに1枚ずつ置かれていた。
が、その中に詰め込まれている量は・・・・それをはるかに凌ぐ。
「・・・・・・」
2人はしばし微動だにせず、無言でその小さなディスクを見つめていた。
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