### その20・最終決戦(2) ###

 3人は地下水路をひたすら走っていた。
「このくらいあそこと比べればどうってことないのに、ダメね、明るさに慣れてしまって。」
走りながらレブリッサが言う。
「そうね。確かに感覚はあの頃より落ちてるかもしれないわ。」
セクァヌも同感だった。
「でも、レブリッサが盗賊だったなんて思いもしなかったわ。」
「でしょうね。まさか大臣夫人がそんなだとは誰も思わないでしょう。それに実際に結婚したわけじゃないし。」
「ええ?」
「その前に落とされたから。」
「あ・・・・・そ、そうだったの。」
「形式は関係ない。要は2人の気持ちだ。」
シュケルが付け加える。
「でも、やっぱり女としては結婚式あげたいわよね、レブリッサ?」
「そうね。だからこのことが決着がついたらって約束してるの。」
「ええ〜〜?!そんな大事なこと話してくれないなんて・・・水臭いわよ、レブリッサ!」
「決着がついたら話すつもりだったの。」
「もう、いつまでたっても子ども扱いなんだから。」
セクァヌは拗ねる。
「そう。あなたは私たちの子供よ。いつまでたっても。・・・少し大きいけれどね。それも、どういうわけかシュケルと会う前の子供だったりするけど。」
「ふふっ・・・アレクより4つ上だけだったかしら?」
「こら!女性に歳を聞かないの!」
「いいじゃない、女同士だもの。それに母親の歳を知らない子供はいないわよ?」
「そういわれればそうね・・」
一応小声でだが、なんとものん気な話をしながら、セクァヌらは進んでいた。


「さてと、知らせを飛ばしておいたからもう集まってくる頃だな。」
コスタギナ大臣の元屋敷の地下。そこには代々の当主のみが知っている隠し部屋があった。
「でも、灯台下暗しってこういうことを言うのよね?」
「そうね。」

「大臣!いよいよ決行か?」
バタン!と息をきらして一人の男が入ってくる。
「えっ?!」
そして、そこにいるセクァヌの姿に驚く。銀の髪とゆらめくランプの炎を弾いて不思議な輝きを見せる瞳。
「おい!早く入れよ!」
後ろから続いてやってきた男が一人目の男を急かす。
「おいったら!」
そして、無理やり部屋に押し込むようにして入り、その男も目を丸くして驚く。
「こんにちは。」
「こ・・・・こ、こん・・にちは。」
屈託のない笑みをみせるセクァヌにまたしても驚きそして呆れる。
1人、2人と部屋に入ってくる。思いがけない人物の笑顔に迎えられ腰を抜かして。遠まわしにしていつもの所定の場所へと行って座る。

「さてと、そろそろいいかな?」
シュケルが口をわる。
「その前に理由を聞かせてくれないか、大臣?」
リーダー核らしい目の鋭い男がセクァヌを睨みながら立ち上がる。
「敵将をつれてきてどういうつもりなんだ?」
それまでざわざわしていたのが、し〜〜〜んとなる。
「『敵将』か・・・確かにそうかもしれない。が、お前たちの目指すものは何だった?」
シュケルが静かに言う。
「それは・・・・・・だが、オレたちの中にはスパルキアの軍勢に身内を殺された奴もいるんだぞ。」
「私がそのスパルキア軍に組していることは知っているはずだが?」
「それでもあんたはガートランド人だ。だけどあいつは違う!」
男はセクァヌを指差して叫んだ。
「なぜこんなところで笑ってるんだ?なぜ笑えるんだ?!」
『敵将』という言葉が『なぜ笑えるんだ?』という言葉が心に突き刺さり、セクァヌの表情がかげる。
「すみません、私の配慮が足りませんでした。」
おずおずと立ち上がってセクァヌは謝る。
「私は・・・確かに敵将です。でも、できれば敵でいたくない。誰とも争いたくはありません。」
「きれいごと言ってんじゃねーよ!」
その男はセクァヌをぎろっと睨む。
「では、どう言えばいいのですか?笑ってはいけない、争いたくはないといってもそうはできないと言われては・・・・」
「やる気あんのか姫さんよ?」
「え?」
「にこにこ笑えば、オレたちが尻尾振って協力するとでも思ってきたのかっ?!」
「あ・・・・・・」
一気に沈んだセクァヌを気遣いシュケルが怒鳴る。
「キース!今更何を言うのだっ?!この前あったときは快く承知してくれたではないか?」
シュケルもレブリッサも驚いていた。そんな風潮は全くなかった。
「いいのです、シュケル。私が悪かったのです。」
「セクァヌ?」
セクァヌは、それでもかばおうとしてくれるシュケルを止める。
「分かりました。私が甘く考えすぎていました。あなたがたは自分の国を救うために戦っておられるのです。そして、私は私の一族の為に。」
そっと目を閉じる。
「私は何としても彼らを助けなければなりません。たとえ、どんなに困難な道でも、その為にどれだけ敵を作ろうが・・・どれだけの命を奪おうが・・・」
すっと目を開ける。それはさっきまでの少女の瞳ではなかった。ランプの光を弾き、紅く輝くそれは恐ろしいほどの威圧感を持っていた。すべてを射抜く鋭利な視線、静かに燃え盛る紅い炎。部屋にいた男たちは完全に捕らえらていた。
「我が前に立ちふさがるものは・・全て排除します!例え何者であっても!」
「ヒ・・ヒィーーーーー・・・・・」
突然奥に座っていた男が悲鳴を上げて外へと飛び出した。
セクァヌにくってかかった男があごで他の男に何やら指図すると、男はすっと部屋の外へ出て行った。
何事が起きてるのか、と思っていると、そのリーダー核の男は、セクァヌににこっと笑った。
「さすが銀の鷹姫。正直、オレでもびびった。」
「え?」
訳がわからずつい今しがたの威厳もどこへやら。セクァヌは唖然として男を見つめる。
「くくくっ・・・話に聞いてたとおりの姫さんだな。大人なのか子供なのか。純真なのかなんなのか、分かりゃしない 。」
「キース?」
「あ、失礼しました、大臣。決して悪気があったわけではありません。」
男はひざをついてシュケルに謝る。
「どうも胡散臭い奴がいるようだったのだが、なかなか尻尾を出さなかったので。」
「で、セクァヌに詮議させたというわけですか?」
レブリッサが呆れた顔をして聞いた。
「これほど効き目があるとは思いませんでした。」
キースと呼ばれた男は大笑いし、レブリッサからセクァヌに視線を移す。
「いや、失礼、姫君。先ほどの言葉はお忘れ下さい。」
「え?でも忘れろと言われて忘れられるようなことではありません。」
「あ・・・い、いや・・・これはきつい・・・。」
わっはっはっはっ!と再びキースは笑う。

ここ数ヶ月の間でばらばらだった革命グループをまとめたそのキースという男は、頭をかきながらセクァヌらの頼みを快く引き受けた。
「オレたちは頼まれたからやるんじゃない。今がその時期だからやるんだ。オレたちの国の為に!」
そう言って別れたキースに、セクァヌは心地よい共鳴感を受けていた。


そして、ガートランド王が指定した期日。

「王!スパルキア軍です!」
「うむ。」
両軍は数百メートルの近距離でにらみ合っていた。

−カポカポカポ・・・−
夕刻近く、スパルキア陣営から馬が単騎ゆっくりとガートランド陣営に近づいてくる。
「む?」
ガートランド王が遠眼鏡で確認する。
「あれは・・・そうか、銀の姫か。」
夕日を背に受けて近づいてくるのは、セクァヌだった。銀色の髪が夕日を受けて赤く、そして金色に輝く。
ガートランド王は、してやったりとほくそえむ。

「なぜ来ぬのだ?」
両陣営の真中で止まったセクァヌにガートランド王は不思議に思って見つめていた。
「最後の抵抗か?・・・無駄だ。こちらに切り札がある限りな。」
ガートランドの陣営横には、俄か作りの処刑場があった。その処刑台の上に
5人のスパルキア人が張り付けられていた。
彼らをちらっと見てガートランド王はにまりと笑いを浮かべる。
「早く来い。悪いようにはせぬ。」

セクァヌはキースの合図を待っていた。ギリギリのところまで進み、それまで時間をかせぐ。

夕日がゆっくりと沈んでいった。
「なぜ来ぬのだ?民を見捨てて戦うつもりか?」
ここに来てガートランド王は怒る。
「それならそれで見合った対処をするまで。」
すっと手を上げる。それは処刑開始の合図。

「うわーっ!・・ぎゃーーー!」
悲鳴があがる。が、それは彼らが処刑された悲鳴ではなく、執行人らが襲われてあげた悲鳴。

間髪入れず、セクァヌが剣を掲げる。
「全軍攻撃開始!」
「うおーーーーーー!!!」
怒涛の勢いでスパルキア軍がなだれ込む。
が、ガートランド軍もぼんやり立っていたわけではない。戦闘体勢はしっかりとっていた。
「うおーーーーーー!!!」
ここに最後の決戦の幕が切って落とされた。

さんちゃんからいただきました。
ありがとうございます!m(_ _)m


「お嬢ちゃん!」
「アレク!」
「これで終わりにするぞ!」
「はいっ!」
銀の鷹が舞う。平原狭しと鷹が飛ぶ。そして、アレクシードが兵士たちが、キースたち革命軍が我を競って敵を倒していく。

怒涛の勢いのスパルキア軍。が、反対にガートランド軍は戦意を失っていた。初めからそのつもりはなく一個大隊直立不動で戦意のないことを示す者たち、投降する者が続々出、戦闘にはならなかったといっても過言ではない。ごく一部の大義名分を重んじる大貴族率いる隊のみが半ばやけになってかかってきたとも言えた。それも一般兵士らは次々と投降していく。キースらの内部工作が功を奏した結果でもあった。
そして、戦いは事実上ガートランドの内部から崩壊した形で短時間で決着はつく。


「お嬢ちゃん。」
「こっちよ。」
闇の中、セクァヌらは逃げ延びたガートランド王を追っていた。遠くへ行っていない限り、セクァヌの気を読み取る力で十分だった。
神経を研ぎ澄まして王の気を辿っていく。
「いたか?」
近づいてきたキースが小声で聞く。
「はい、たぶんこの先に。供の者4、5人と一緒に。」
そこには農機具小屋があった。
「後はオレたちに任せてもらえないだろうか?」
「はい。」
−ヒュッ−
キースの合図と共に、そこにいた革命グループの仲間たちが中へなだれこむ。
「うわーー!」
「ぎゃーーーーー・・・!」
剣を交える音と悲鳴・・そして、王の断末魔の叫びが聞こえた。
己の力を誇示し、力に物を言わせて突き進んだ狂王のあっけない最後だった。

「お父様・・・お母様・・・。」
上を見上げ、遠い日を思い出すセクァヌの瞳から一筋の涙が流れた。


翌、明け方、スパルキア軍は、ガートランドの都へ足を踏み入れた。

 

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