### 銀の鷹再び ###

 スパルキアの銀の鷹、銀の姫、戦の女神、勝利の女神、そして、生身のまま神に召された聖少女、様々な呼称で呼ばれ、人々に愛され、敬われ、親しまれたセクァヌの伝承は、ローガリア大陸全土に広く、そしていつまでも伝わっていた。

 セクァヌがこの地を去って百数十年の月日が流れていた。
そして、ここに、歴史は繰り返された。平和だった大陸を再び1つの大国の恐怖が襲う。ガートランド王の再来か?と呼ばれる狂王の出現。
人々は、大陸は震撼した。そして、伝承の姫が、スパルキアの族長の血筋が絶えている、と、より一層恐怖におののく。それは、新天地に共和国として栄えていたスパルキアも例外ではなかった。必ずその手はスパルキアにも延びてくる。・・・戦を忘れ、平和な農耕の民として生きていたスパルキア人は震え上がった。


−ドカカッ、カカッ、カカッ!−
若き戦士が5人、森の中を馬を駆って疾走していた。
「噂は本当なのだろうか?」
一人の戦士が口にする。
「どうだろう・・・だが、森で迷った旅人がそう言っていたんだ。探してみる価値はあるさ?」
「だが、銀の姫は100年以上も前のことだろ?・・いや、200年近くか?」
「わからないさ、なんといっても生きたまま神の国へと昇られた方なんだ。」
「伝承なんてどこからどこまでが本当だかわかったもんじゃないぞ?」
「そういいながら、お前も来てるじゃないか?」
「そりゃー、お前、もし本当だったら・・・間違いなく勢力は拡大する。奴らに対抗し得る戦力などすぐ集まるさ。」
「ああ。」
−カカッ、カカッ、カカッ!−

彼らは伝承の姫のような女性に助けられたという旅人の話を伝え聞き、探しに来ていた。
そう、神の国から帰ってきていたセクァヌを探しに。


「かあさま、もう1本お願いします!」
「ジフィード、少し休憩にしては?」
「いやです!ぼく、早く強くなってかあさまを守るんだから!」
(その守る人に教えられてるってことがどういうことなのか・・・わかってないんでしょうね。)
セクァヌは笑いながら剣を構えた。

旧スパルキア、今は住む人もなく廃墟と化した遺跡群から奥へ入った森の中、セクァヌは神の国の守護聖と愛し合って身ごもり、彼女から闇のサクリアを引き継いだ子供を産み育てる為に帰ってきていた。
無事男の子を産んだセクァヌは、その子が4歳になるまでそこで暮らし、再び神の国へ戻って幸せに暮らす予定だった。


−ガサ!−
かすかだったが茂み音にセクァヌはジフィードを制する。
「かあさま?」
「し!」
ジフィードを抱き上げ、屋敷の中に入っていく。

「おい・・・み、見たよな。」
「ああ・・・銀の髪、光を弾く瞳。」
「だけど子供ってどういうことだ?」
「あ!」
ぽん!と一人の兵士が手を打つ。
「なんだ?」
「きっと神様との子供なんじゃないか?」
「そ、そうかな?」
「そうだぜ、きっと。だって神様に望まれて天に昇っていったんだろ?」
「んー・・でも、その時天に姿を現されたのは女神様だったんじゃなかったか?」
「あ・・そうだったな・・・・じゃー、そのお付きの人!」
「なんだよ、そのお付きの人って?」
「でも、偉いってことには変わりないだろ?なんてったって神の国なんだから。」
「偉いってんなら銀の姫も変わらないぞ?」
「そ、そうだよな。」
「で、どうする?」
「どうするって・・・・・出て行って頼むしかないだろ?」
でもあの銀の瞳で見つめられたら言葉が出るんだろうか、と5人は考えていた。


「何者です?」
不意にりんとした声が後ろから聞こえ、5人はびくっとして振り向いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
そして声も出ないほど驚く。そこにはセクァヌが立っていた。
「あ、あの・・・」
しばらくたってから、1人の戦士がひざを折って口を開く。
「ぎ、銀の姫君には、初めてお目にかかります。私はスパルキアの戦士、アレクと申します。」
「アレク?」
セクァヌはびくっとする。
「あ・・私はシードと申します。」
ザッとその横にひざを折り、続いて頭を垂れる。
「・・・・シード・・・」
「はっ!実は私たち2人の名は伝説の戦士アレクシード様からいただいたものであります。」
「私はシャムフェスと申します!」
「は、はあ・・・」
セクァヌは呆気に取られていた。
「あ、あの・・申し訳ございません、私の名前は・・・そ、その・・・セシオと申します。」
どうやらセクァヌのフルネームから取ったらしい。
「で、最後のお一人は?」
「はっ・・・イ、イタカ、と・・・」

「私に話でもあるのでしょう。ここでは何ですから屋敷の方へ。」
「はっ!」
セクァヌは必死で笑いを噛み凝らしながら、5人の戦士を屋敷の中へ案内した。


陽の光が差し込むガラス張りのサンルーム、時として銀に、そして時として金色に光る髪と瞳。伝承そのままのセクァヌに、5人は完全に魅了されていた。
「どうぞ。」
屋敷の使用人がテーブルに置いていった紅茶のティーカップをじっと見つめる。
「どうぞ。」
「ははっ・・で、ではいただきます。」
今一度セクァヌにすすめられ、ようやく口にする。

「それで、どんな話があるのでしょう?」
5人は今のスパルキアの、いや、大陸全土の窮状を訴えた。そして、戻ってきてほしいと。
「私が族長だった折からもう百数十年たっているはずです。言わば私はすでに過去の人物。そんな私が今更出て行ったところでどうなるものでもないでしょう。」
「いいえ!姫様が率いて下さるのであれば、軍は今よりぐっと強力なものとなります。誰しも姫様を望んでいます!」
「ですが・・・・」
「お願い致します、これは我々5人だけの独断ではないのです。スパルキアの、いえ、大陸の願いです!」
彼らの視線は真剣そのもの。嘘でも誇張して言っているのでもなかった。
「しばらく時間をいただけませんか?」
「は、はい。」


別室でセクァヌは迷っていた。その先には平穏な幸せがあった。愛する人と愛する我が子。ここへ残ることは、それら一切を捨てるということ。
「かあさま?」
息子のジフィードが考え込んでいるセクァヌを不思議そうに見つめる。
「ジフィード・・・」
セクァヌはしばらく愛しい人と同じ色の瞳を見つめていた。
見つめながら思い出していた。スパルキアで、大陸で何があったかを、人々がどんな窮地に立たされていたかを思い出していた。そして、セクァヌ自身の事を。
「ジフィード。」
「はい!かあさま!」
ぎゅっと抱きしめ、そして今一度その瞳を見てセクァヌは言った。
「ジフィードは困ってる人を見たらどうしたい?」
「はい!かあさま!ぼくにできる限りの事をして助けてあげたいと思います。」
「そう。じゃー、今、かあさまに助けて欲しいって言ってきている人たちがいるの。かあさまはどうするべきかしら?」
「それは、その人たちを助けるべきです!」
純粋に考えて、ジフィードは元気に答える。
「でも、その人たちを助けるためには、ジフィードが帰るところへは、かあさまは帰れないの。」
はっとしたような瞳でジフィードはセクァヌを見つめた。
そして、少し考えてからにこっと微笑む。
「でも、用事が終われば、かあさまも帰って来るんでしょ?」
その答えにセクァヌは一つの事に気づく。
(そう・・・用事が終われば帰れるかもしれない・・・・・・このまま彼らの窮状を見過ごして帰っても、その事が忘れられない限り、私は幸せにはなれない。きっと一生後悔し続けるわ・・・・。)
「ジフィード。」
セクァヌはジフィードを抱き上げると、兵士の待つサンルームへと戻る。
そして、息を飲んで返事を待つ彼らに微笑んで言った。
「私の力でどこまでできるのかわかりませんが、もし、それでよろしいのでしたら、あと半年、時をいただけますか?この子が4歳になった時、私は神の国へこの子をお返ししなければなりません。」
「で、では・・・そうしたら?」
戦士の瞳は希望で輝く。
「力の及ぶ限り、大陸の自由のために戦いましょう。」
「あ、ありがとうございます!」
5人の兵士は手を取り合って喜んだ。
「では、私たちは急ぎスパルキアに戻り、この朗報を同士たちに知らせたいと思いますので、これにて失礼致します。半年後、軍を整え、必ずお迎えに参ります。」
「あまり無理はされないように。それからここのことは他言無用に願います。」
「はっ!」

悲しい決意だった。愛する人と我が子との別離。それでも族長としての血が騒ぐ。見過ごすことはできない。


そして、半年後、その地を離れ、神の国へと旅立つ。
「かあさま、あの人だあれ?」
「ジフィードのとうさまよ。」
「ふ〜〜ん。」
迎えに来たにこやかに微笑む愛しい人の顔が涙で曇って見れなかった。これが最後、明日は戦場へ戻らなければならない。


その神の国。至上最高の女神である女王にセクァヌは自分の選んだ道を話す。
「セクァヌ・・・それでいいのですか?」
「はい、陛下。私は・・・私はどうあっても彼らを見過ごすことはできないのです。」
「わかったわ、セクァヌ。ジフィードのことは私たちに任せてちょうだい。」
きゅっと手を握り、女王はやさしく微笑んだ。
「ありがとうございます、陛下。」

そして、別室に控えているジフィードのところへ行く。
「かあさま!ぼくもうじき女王陛下にお逢いできるんですよね?」
「ええ、そうよ、ジフィード。」
目を輝かせているジフィードがたまらなく愛しく強く抱きしめる。
「ジフィード、前、かあさまが言った事覚えてる?」
「えっと・・・・・」
「困ってる人たちのこと。」
「あ、はい!覚えてます・・・・・・かあさま・・もう行ってしまうの?」
元気よく答えたジフィードだが、それがなんだったかを思い出し、心が沈む。
「ジフィード、おりこうにしていられるわね。ジフィードは男の子だし、立派な剣士だったわよね?」
「・・・・は、はい・・・かあさま。」
「なにかあったら陛下や補佐官様になんでもご相談しなさい。」
「かあさま・・・」
ジフィードはじっとセクァヌを見つめていた。なぜか泣いてはいけない、と子供心に感じていた。
−バタン−
扉が開き、セクァヌの愛しい人が入ってくる。
「謁見の間に皆集まったが、準備はいいか?」
「はい!」
ジフィードが元気よく答える。
「じゃ、ジフィード、行ってらっしゃい。」
「かあさまも・・行ってらっしゃい。」
小声でそう言ってから、じっと見つめあう。
じわっとにじみ出てきそうな涙をぐっとこらえ、ジフィードは『とうさま』といわれた人のところへ歩いて行く。
「お嬢ちゃん。」
愛しい人に呼ばれセクァヌはびくっとする。彼には何一つ話してなかった。
いや、話したら別れられなくなる、セクァヌはそう思ってぐっと我慢していた。
「あとでな。」
そう言って微笑むと、ジフィードを先に立たせ、愛しい人は部屋を後にした。

(悲しんでいる場合ではない・・・私はこれから前より多くの人の命を預かっていかなければならない。)
セクァヌはジフィードを産む前まで住んでいた屋敷へ行き、この地へ連れてきていた愛馬イタカを取り行くと再び宮殿に戻る。そして、壁越しに謁見の間を見つめる。
(今ごろジフィードはきちんと挨拶できたかしら?)
ずっとここにいたい、ジフィードの、そして愛する人の傍にいたい、そう思って、なかなかそこから離れることができなかった。
「セクァヌ様、タイムポートが切れます。星へ戻られるのでしたらすぐ来ていただかねば、時が動きます。」
「わかりました。」
息を切らして知らせに来た神の国の星空管理員に言われ、セクァヌは断ち切れない思いを断ち、イタカの手綱を引く。
−ヒヒヒヒヒーーン!−
−カカッ、カカッ、カカッ!−
そして、急ぎ星に戻る。

そこではすでにあの5人の兵士が待っていた。
「待たせました。参りましょう。」
大陸の状態、戦況など今手元にあるだけの情報を聞きながら、セクァヌと5人の兵士は軍隊との合流地点へと急いだ。

「姫様、見えてきました、駐屯地です。」
知らせを受け、全兵士はセクァヌの到着を今か今かと待っていた。
「こちらの丘から兵士たちにお言葉をいただけますか?」
「はい。」
−カカッ、カカッ、カカッ!−

そして兵士たちは伝承の銀の姫の姿に魅せられる。
兵士全員を見渡せる丘の上にさっそうと姿を現した馬上の姫。
陽の光を浴びて金色に輝く銀の髪と鋭利な輝きを放つ金色の瞳。

セクァヌは全軍を見下ろすと、剣を高々と掲げた。
「大陸全土の自由と平和の為に、これをローガリア軍と改名し、スパルキア族長、セクァヌ=リー=セシオノーラの名の元、今、ここに蜂起せん!」
「おおーーーーーー!!!」

さんちゃんに頂きました。シロクロバージョンです。(^-^v
ありがとうございました!


そして、ローガリア大陸に再び銀の鷹が舞い戻った。
銀の姫の名の元に次々と協力者が現れた。が、セクァヌは徹底的に膿を出すことを決意していた。もはや二度とこんな歴史は繰り返してはならない。完全なる共和制、大陸を一つの共和制国家に生まれ変わらせるべく、セクァヌは戦う事を誓っていた。それがどんなにつらくとも。
最初は協力的だった国の中にはそれを懸念し、反旗を翻すものもでてきた。が、大半は庶民である兵士ら。確実にローガリア軍は大陸を飲み込んでいった。

そして、十数年・・・・・
「共和制、ばんざ〜〜〜い!姫様ばんざ〜〜い!」
セクァヌの願いは叶い、ローガリア大陸は、ローガリア共和国となった。


「では姫様どうしても・・・・」
「はい。」
神の国になぞらえ、大陸中央に女王神殿を、それを守護するように周りに9つの守護聖神殿を作り、セクァヌはその中の1つ、炎の神殿へ巫女として入った。

そして、人々の良き相談相手として慕われた銀の巫女長セクァヌは、そこで生涯を閉じた。


スパルキアの、そしてローガリアの銀の鷹姫セクァヌの伝承は、それからも大陸全土に広く、そしていつまでも語り継がれていった。彼女の勝ち取った平和と共に。


***Fin***

**サイドストーリー** 聖地(神の国)にて
元ネタは某ゲームなんですが、よろしければこれも読んでやってください。m(_ _)m
この後の『神の国へ』の本当の最終エンディングへと続いていきます(爆

***[エンディング(おまけ)]スーパー大団円・至福の中(1)(2)*** 
(銀の鷹を書き終わって2ヶ月後に思いついて書いたアレクとのハッピーエンディング)

戻るINDEX進む