★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第十七話 [空人・地人(そらひと・ちひと)、銀龍の審判]  


 真っ青な空を映していた何もなかった空を裂き、ゆっくりと次元の扉が開く。
その扉が開くと同時に怒濤のごとく軍隊が押し寄せ、つい今し方まで平和だったその一帯は瞬く間に戦場と化した。

「空人(そらひと)の奇襲だ!」

野良仕事にでていた村人のその叫びが村まで届く間もなく、大地は地人(ちひと)の血を吸っていく・・・。そして、それは瞬く間に村をも蹂躙していく。


一人の少年がサンタクロースからもらったプレゼント。世界樹の葉は、永遠の命を持つサンタクロースの一年で一度目覚めた時の食事。命の糧。それをどうしたことか、ある世界の少年にプレゼントしたゲーム機の中に入ってしまっていた。世界樹、それはこの宇宙全ての命の源。不思議な力を有する創造の葉。
自分の存在を信ずる人間が激減してきていたことに悲しんでいたサンタクロースを心から喜ばせたその少年の純粋な心。それは、手にしてはならないものを手にし、純粋さゆえに残酷性を有していた。参:青空に乾杯#40・間違ったプレゼント
その結果、たんなる架空の世界。ゲームというその機械の中だけであるはずの想像の、架空の世界が、少年の意思によって現実のものとなってしまった。
銀龍が己が黄金龍と共に創世した世界で、その命を絶たれたあと、少年の意思によってその世界の魔王とされてしまったサンタクロースの封じ込められていた彼の本心、心の叫びに引き寄せられ、彼がミルフィーたちの手によって倒されたあと、命の大地となったその世界を存続させるために己の精神と同化させたその世界。
そこは・・・ゲーム好きの一人の少年が作っただけあって、様々な種族でひしめいていた。
その中でも凶暴な魔族は、魔王が倒されたその時ほとんど倒され、そこでその存在は消え去っていた。が・・・魔王を有する魔族が消え去ったその後、その種族間での諍いがあちこちでみられるようになった。

そして、そのもっとも顕著なものが、有翼人種、通称空人(そらひと)と呼ばれ、地上に住む人間(有翼人種は、彼らを地人と呼んでいる。)との関係は、年を、そして時代を重ねる都度、悪化してきていた。

空人は、空を飛べるという利点を誇り、それを駆使し、我が者顔で世界を蹂躙していた。当然、地人も黙認するはずはない。それを阻止すべく軍を整え、対抗しているが、空を飛ぶというその利点・・・いつどこに現れるのかわからない空人の恐怖にさらされていたといっても過言ではなかった。
そして、ジ・ガーラスという人物の登場で、両者間の差ははっきりとした。
ジ・ガーラスの発明した、離れた地への扉を開ける次元扉装置。それにより、空人の攻撃は、それまで以上に頻繁になった。
地を這うウジ虫・・・地人を家畜としか見ていない空人の残虐性は、比類ないほどのものとして恐れられるようになった。そして、当然、空人に対する地人の行為も残虐極まりなくなってくる。
時に嵐に遭遇したか何かで、空人も地に落ちることがある。地人に見つかれば、どれほど残酷な目にあうか・・それは、空人の中に恐怖と共に言い伝えられていたことでもあった。
そんな年月の積み重ね、時の流れの中で、両者間に相容れるものは、何一つなくなっていた。ただ、恨みだけが積もっていく・・・恨みと互いに寄せる恐怖感が。
フィーたちが見た一見平穏そうなその世界・・・・実は、荒れ果てた世界と化していた。
偶然彼らが着いたそこが、人間達が中心として栄えている大陸だっただけのこと。
が、空人の恐怖は、その大陸にも少しずつ延びてきていた。地方からゆっくりと。

その精神を世界と同化させた銀龍・・・・その世界に神龍伝説はない。だが、思いやりを忘れた彼らに、銀龍は怒る。地上の命は、なにも空人と地人だけではない。が、2つの種族の諍いで世界は荒廃しつつあった。2つの軍隊がぶつかりあったそこは、焼け野原と化す。命を育むはずの大地は、焦土と化す。それ以上両種族の傍若無人振りを許すわけにはいかず、かつて己が世界でそうさせたように、己の騎士の介入を欲したのである。己が怒りで破壊神と化さないうちに。空人を、そして地人を心底憎むようにならないうちに・・・・心から信じた己の騎士による世界の大手術を。・・・それが、銀龍の最後の賭、守護騎士の審判は己が審判。世界が存続するかどうか・・・いや、存続させていくための最後の手段。
できるものなら、サンタクロースが自分の命と引き替えに守り、銀龍に託したこの世界を、銀龍は平和に存続させたかった。そして・・・・そこに住む彼らを憎みたくはなかった。彼らに失望し、我を忘れ、世界の破壊を望む自分を見たくはなかった。


『ミルフィー・・我が騎士にして金龍の騎士よ・・・・・やはりそなたであるべきだったかもしれぬ。新たなる我が銀騎士の成長を待つには、時がないやもしれん・・・・。』
そこに、焦土と化してしまった1つの大陸があった。3つの国がひしめきあっていたさほど大きくはない大陸。人と人との争いに空人の急襲が追い打ちをかけたのである。
焼けこげ崩れ落ちた建物の残骸。折り重なるように放置されたままの屍。森も動物たちも例外ではなかった。そこは死の大陸に成り果てていた。
精神体となり、その世界に溶け込んだはずの銀龍の姿がそこに浮かんでいた。うっすらと・・・・死の大陸と化したその大陸の上空すべてを覆うような巨大な龍の姿で眼下に広がる地獄の焦土と化した悲惨な光景を見つめる。

−ピシッ−
その大陸を見ていた銀龍は己が心に大きく亀裂が入ったことを感じた。
『金龍よ・・・・いっそのことこの世界を破壊し・・・・そなたの元へ参ろうか・・・・・今一度・・・そなたの傍へ・・・・未来が見えぬ彼らなどこの手で・・・・。』
「ばっかじゃないの、銀龍?それでも神龍なの?みんながみんなそんな人じゃないわっ!」
不意に耳に飛び込んできたミルフィーの罵声に、銀龍は笑みを浮かべた。それは、明らかに嘲笑だった、己自身に対しての。それは確かに空耳だが、おそらくミルフィーならそう言うだろう、銀龍は彼女の顔を思い浮かべて笑った。
『彼らの心が私に反映してしまうのだ、ミルフィー・・・・・神龍とは、世界を創造し、守護もするが・・・・・破壊神にもなりうる・・・いや、その相反したもの両方を己の中にもっている・・・それが神龍なのだ。必要ないと感じれば、慈しむ心はなくなる。あとは・・・破壊の限りをつくすだけだ。』
が、銀龍とてそうはなりたくない。人への愛着を感じている今はまだ。だからこそ、守護騎士を呼び寄せた。直接世界に介入できない己自身に変わる人物を。
人々の憎悪と恐怖が銀龍を具現化しないうちに。破壊神としての銀龍を。



「どうした、カノン?」
「う・・ん・・・・・」
この世界、そして、元の時間に戻ってきたフィーら一行。廃墟と化した魔王の居城を後にしたフィーらは、海岸へ出ていた。岸辺に着けた小舟に乗ろうともせず、空を仰いでいるカノンを不思議に思ってフィーは声をかけた。
いつもにこやかにしているカノンのその表情がなぜか固く感じられた。
「風さんがね・・」
「風さんが?」
リーリアとミルもカノンに近づいて聞く。
「白い風さんは、助けてくれって言ってるの。」
「白い風さん・・・?」
普通でないその真剣な表情に、フィーはカノンの言葉を無意識に繰り返して聞く。
「・・でも、黒い風さんは・・・・」
「黒い風さんは?」
今度はミルがカノンをのぞき込むようにして聞いた。
「・・・殺せって言ってる。」
「え?」
フィーとターナーは言葉もなく驚き、そして、ミルとリーリアは小声を上げる。
「このままだとこの世界が滅んでしまう。そうならないうちに害虫を全て排除しろって・・・。」
「害虫?」
「世界を食い荒らす人間・・・空人と地人、破壊神を覚醒させる害虫・・・」
カノンの言葉だとは思えなかった。おそらく黒い風の精霊が言ってるのだとフィーたちは感じた。
「・・・害虫か・・・・」
暗い表情だが、もっともだな、というような口調でターナーが低く呟いた。
「空人って・・・つまり空を飛べる人間?」
「おそらく有翼人種だろうな。」
「かっこいいかも?」
「そんな軽い問題じゃなさそうだがな?」
「あ・・・」
思わず軽口叩いてしまったことを、ターナーの一言でリーリアは視線を落として反省する。
「リーリアみたいにかっこいいと思えれば、何事も起きなかったんだろうけどな。」
「フィー・・・」
「人間は外見で判断しがちだからな。自分たちと違ってる者に対しては、異常に警戒心を抱くというか・・・・不必要な恐れを抱いたり、蔑視しがちだからな。」
「でも、銀龍は、破壊させるのが目的じゃないんでしょ?」
「ああ、破壊ならオレたちを呼ぶ必要なんてないだろ?」
「でも、初代銀騎士、エルフィーサは、守護騎士の審判を待ってるって言ってたわよね?」
ミルの言葉にうなずいたフィーは、リーリアの言葉に思わず身震いした。
世界の審判・・・・・・そんな途方もないことを、一人の人間が決めれることでもない恐ろしくも思えることの為に、この世界へ呼ばれた。
「神龍の守護騎士・・・・龍騎士とは・・・・・・」
今更ながら、自分に課せられた重責を、フィーは感じていた。
「母さんは・・・・」
ここではないもう一つの銀龍の世界、その世界の未来をかけて、母、ミルフィーが闇龍と戦ったことは父、カルロスから聞いて知っていた。
そして、その身は、自分たちのいる世界を支える神とも称することができる立場、藍の巫女でもあった。
暗闇の手探り状態での重責・・・・出口の見えないその道を果敢に突き進んだミルフィー。世界の確かな未来を手に掴むまでいろいろあったに違いない。
「オレだって・・・・・」
親と子、その経験の差はあっても、同じ人間として、そして、剣士として、銀騎士として、劣るような行動は取りたくない、フィーはそう思っていた。




♪Thank you so much!(^-^)♪

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