青空に乾杯♪


☆★ <<第40話>> 間違ったプレゼント ★☆


怪しげな光に吸い寄せられるようにミルフィーたちはゆっくりと歩いていた。
カツン、コツンと辺りには靴音だけが響き渡っている。

−カツ−
前を行く戦士がかかとを鳴らせて立ち止まり、直立不動の姿勢をとる。
「さ〜て、いよいよお出ましかな?」
いかにも暴れたい気分の表情でレオンが呟く。
「おいおい、いつもと反対じゃないか?」
そんなレオンをミルフィーがたしなめる。確かにいつもと立場が反対だ。いつもの冷静さが今のレオンにはないようだった。
が、そんなレオンには一向におかまいなし、戦士はすきだらけの背中を見せ立っている。
何がおきるのか、何が奥からでてくるのか、興味津々な瞳でじっとみているレオン、ミルフィー、チキ、レイミアス、そしてシャイ。
と、突然、両目ともみえるその赤い光が大きく輝き始める。
−ばああ・・・・・−
「う・・ま、まぶしい・・・」
いつ攻撃をしかけられてもいいような態勢をとりながら、思わず片腕でその光をさえぎる。
そして、その眩さが消えたとき、レオンたちの目の前に、意表をついた人物が立っていた。

「ほっほっほ〜♪こんにちは。」
にっこり笑ったその人物は、雪のように真っ白でふかふかの毛で縁取りされた真っ赤な衣装と帽子をまとっていた。身長は2mくらいの大男である。その口元から下は豊かな真っ白な髭で覆われており、その人懐っこそうな両目も白くて長めのまつげで半分は覆われていた。
「あ・・・こ、こんにちは。」
あまりにも予想とはずれ、半ば呆れ顔で慌ててあいさつを返すミルフィー。が、何事も外見で判断しては危ない。警戒心はといてはいない。
「よく来なさった。どうぞ奥へ。」
にこやかにそう言うと、ちょうど口を開けているように感じられる暗闇を指す。
「中へって・・・入った途端、ぱくっと食べられちまうなんてことは、ないだろうな?」
レオンが少し鋭くした視線でその人物に聞く。
「ほっほ〜、そういえばそんな風にも見れるかもしれないな。時間があったらデザインを変えておかんといかんな。」
赤い衣装の男は、にっこりレオンに笑いかけると、大丈夫だと視線で答える。
「それではご一緒に。」
そして、戦士を先に立たせると、その人物はにこやかに手を広げ、レオンたちが歩を進めるのを待っていた。
「う〜〜ん・・・」
小さく呟き一同を見回すレオン。が、いつものこと。前進するしかないとそのレオンの視線に答えると全員足を奥へと進めた。

−ガコン−
そこはすぐ行き止まりとなっていた。そして、中央の円形の中に立つと、鈍い音と共にその円は下へと沈み始めた。
「お、おい・・・な、なんだこりゃ?」
慌てるレオンたち。
「なるべく中央よりに立っていてくださいよ。壁がないのであまり隅にいると落ちてしまうこともあるんでね。ふぉっふぉっふぉ。」
にこにこして答える赤い男。
「あ、あぶねーなー。」
下へ下へと降りていく円形の床。それは空洞となった地表の裂け目を下へ下へと下りていく。
そして、その終着点、そこは青く澄みきった水と涼しげな風が吹き抜ける岩場だった。

 

 

「こ、ここは?」
床が岩場につき、もう動かないと確信した後、ゆっくりとその円形の台から出ながらレオンたちはきょろきょろしながら回りを見渡す。
「そこを下ったところに船着場があるんぢゃ。でそこからわしらのアジトへ行きますぢゃ。」
「アジト?」
ほ〜っほっほっほ〜と大きく口を開けて笑う赤い衣装の白髭の男。敵意はまったくないようだ、とは感じながらもレオンたちは、怪訝そうな表情で男を見つめると、案内されるまま後をついて細く急な道を降りていった。

「でも、あの砂漠の下にこんなところがあるなんて・・・・」
小船に乗ると、周りを見ながらレイミアスが呟いた。
「そうだよな〜・・・」
「ふごご!」
手で水をすくいあげ、ごくごくっと飲んでみたシャイが目を輝かせて叫ぶ。
「そんなにおいしいの?」
それを聞いて思わずチキも水をすくい上げ一口飲んでみる。
「ほんと〜♪冷たくっておいしい♪」
「ほんとか?」
全員のどは渇ききっていた。次々と水をすくい上げて飲む。
「美味いじゃろ?この水は命の水と呼ばれておるんぢゃよ。」
男は相変わらずにこやかにして見つめている。
「命の水か・・・・わかる気がする。」
そのなんとも言えないリフレッシュ感。レオンたちはいつの間にか警戒心も解いていた。

そして、船が桟橋に着く。
そこは、何かの神殿跡のように見えた。朽ち果てた建物と、神を象ったのか、あちこちに巨大な像が半壊状態で倒れていた。
その中央を歩き、レオンたちは奥へと進んでいく。
「さてと、その魔方陣の中央に立ってくださるかな?」
どこへいくのか、どうなるのか、そう思いながら、一同はゆっくりと言われるままにする。男もまた中央へ立ち、魔方陣の横にる戦士に目で合図をする。
−ガコン-
−シュオオオオオ・・・−
壁にしかけがあったらしい。何かのスイッチのようなレバーを戦士が押し下げると、魔方陣の周囲に光の柱がたった。
−オオオオオォォォ・・・−
光の柱が消える。
「ん?」
同じにみえたそこには、戦士がいない。同じつくりの部屋に転移したのか?そう思いながら、一向は、大男について魔方陣から出る。
「こっちぢゃよ。」

案内されたところは、教会か何かの礼拝堂のような造りだったが、そこには一人の少年がぽつんと立っていた。
「あ!おまえはっ!」
一人の少年を見つけると、レオンが叫んだ。と同時にその少年のむなぐらををぐいっとつかむ。
「ご、ごめんなさい。」
慌ててあやまり、レオンからすったペンダントを差し出す。
「あ、ああ・・そうぢゃった。すまん、すまん。わしが頼んだんぢゃ。許してやってくれ。」
「なに?」
レオンのきつい視線が少年から大男へうつる。
「これには深〜いわけがあるんぢゃ。どうあってもあんたたちに来てもらいたくてな。」
「オレたちに?」
間違いなくそれがリーシャンのペンダントだと確認すると、それをそっと懐に入れながら、レオンが聞く。
「そうぢゃ。あんたたちはまだこの世界に来たばかりで染まってないぢゃろ?」
「あ、ああ・・・来たというより,無理やり投げ入れられたって感じだったけどな。」
「それなんぢゃ・・・・」
にこやかに笑っていた大男の視線が、きつく、そして悲しげな風合いを帯びていた。
「わしは、サンタクロースという名前なんぢゃ。世界中のよい子たちに1年に一度プレゼントをあげる、というのが仕事なんぢゃが・・・。」
傍らに立つ少年をちらっと見る。
「この状態は、わしがある子供にあげたプレゼントが原因なんぢゃ。」
「プレゼントが?」
そういえば、この世界に引きずり込まれたとき聞こえた声は明らかに子供の声だった。
「そうなんぢゃ。普通のおもちゃのはずだったんぢゃ。が・・・どこでどう間違ったか世界樹の新芽が中に入っておったんぢゃ。」
「世界樹の新芽?」
「そうぢゃ。神の樹といわれる世界樹ぢゃ。」
「神の樹・・・。」
「少年の潜在能力も災いしてのー・・・」
大きくため息をつく男。
「で、この世界を作ったってことか?」
どかっと近くのいすに座り、ミルフィーが半ばあきれ返ったように男を見る。
「す、すまんのー・・・」
「で、オレたちを呼んだ訳は?」
「どうせ、それを阻止してほしいとかなんじゃないのか?」
同じように腰をかけたレオンが頬杖をついて暗い天上を見上げながら呟いた。
「そうなんぢゃ。まだこの世界に来てからそんなに経ってないあんたたちならでこそできるんぢゃ。」
「すみません、普通にお呼びしたのでは、彼にわかってしまうんです。」
「それであんなことしたのか?」
「そうです。すみません。」
「・・・・戻れば・・・別にオレはいいけど・・。」
ちらっと少年を見るレオン。
「で、どうすりゃいいんだ?」
「魔王を倒して彼に会うんです。家に招待してほしいとか何とか言って。で・・」
「で、わしがあげてしまったそのプレゼントを持ってきてほしいんぢゃ。」
「持ってくるって、壊すんじゃないのか?」
「いや・・すでにこの世界に染まってしまった人々もいる。全員が全員元の世界に帰りたいわけでもないんぢゃ。」
大男は悲しげに首を振る。
「しかし、持ってくるだけでいいのか?お灸を据えてやるとかしなくていいのか?」
あの生意気な口調と言葉を思い出し、レオンはそう思った。
「あれを持ってきてくれるだけでいいんぢゃ。元はといえばわしが悪いんぢゃ。ぢゃからそのあとは・・・わしが責任をもって・・・。」
「サンタさん!」
少年がぐっと大男を見上げて叫び、そして、レオンを見つめなおす。
「サンタさんは今までに何度も話し合おうと試みてるんです。でも、そのたびに失敗して。・・その結果、この世界ではサンタさんが魔王なんですよ。・・・彼の意に反する敵だから。」
「・・・う〜〜ん・・それって、どっちが魔王なのかわからんな。・・・って、ちょっとまてよ。」
つまり目の前の敵意も悪意も全く感じられない男を殺さなくてはならない?・・・そのことに気づいたレインは焦る。
「ほかに方法はないのか?」
「魔王を倒せば褒美がもらえることになっているはずぢゃ。そのときしか直接会うことは不可能なんぢゃ。」
「だけどなー・・・」
ミルフィーたちを見渡すレオン。みんな意見は同じだった。魔王でもないのに人のよさそうなその男を倒せれるわけはない。
「ここは特別強力な結界が張ってあるからあの子にも聞こえないし、影響もない。ぢゃが、ここから一旦でると、わしは真っ赤なデーモンの姿になるんぢゃよ。」
「デーモン・・・・・」
「死んでもしばらくは霊としてわしはこの世に留まっておる。わしの全霊力であの子から記憶を消そうと思っておる。いい子ぢゃったんぢゃよ、わしからのプレゼントを受け取るまでは。」
大男は、悲しげに、が、確固とした決意とともにレオンたちをじっと見つめる。
「そのプレゼントを持ってきたあとどうするの?」
悲しげな視線で大男を見つめチキが問う。
「この少年に渡してくれればいいんぢゃ。」
「だけど・・・・」
同じ年格好の少年・・・この少年が同じことを思わないことがないとはいえないのでは?と思い、思わずチキはじっと少年を見つめる。
「大丈夫です。この世界が失われず、そしてだれからの支配もうけなくてもいいようにします。」
「そんなことできるの?」
「ぼくの魂と同化させるんです。」
「同化?」
「そうです。ここだけは彼の作った世界ではないのです。その一部に含まれたというだけで。」
「含まれた?」
コクンと頷くと、少年は呪文を唱え始めた。
−ゴゴゴゴゴ−
呪文を唱え終わると少年の身体は徐々に大きく、そして龍の姿に変わっていく。
「ここは龍の墓場。そして砂龍が生まれる所なんです。」
「砂龍・・・・」
名前のとおり全身砂のような感じだった。
3mほどに巨大化し、龍の姿に変身した少年にレオンたちはただたた驚いて見上げていた。
「砂龍は・・元来砂漠で命を絶った人々の思いと何かしらの力が一緒になって龍の屍にやどったものと言われてます。ですからもともと魂はないんです。それゆえに砂漠を旅する人々の魂を喰らう龍とも言われてますが・・。」
すうっと元の姿に戻ると、少年は少し寂しげに微笑んだ。
「ぼくも記憶はありませんが、一度は死んだということなんでしょう。」
「・・・・・・・」
かける言葉が見つからず、レオンたちはただじっと少年を見る。
「ですから、何かに執着するとか欲望などという気持ちはないようなのです。たぶん、同じようなことはありえないと思います。」
少年の真摯な瞳を見、大丈夫なのだろうとレオンたちは確信する。
「でも、同化させるとあなたはどうなるの?」
「そうですね、おそらく・・・・」
心配そうにたずねるチキに、少年はゆっくりまぶたを閉じながら答えた。
「無から生まれたんです。無に返ります。おそらくは、砂より細かい粒子となってこの世界に散るんじゃないかと思います。」
「そ、そんな・・。それじゃー・・」
少年の納得した視線がチキのその先の言葉をさえぎった。
「この世界そのものになるんですよ。」
「お願いできますかな?」
サンタクロースと名乗った大男が、少年の肩をだきながら、レオンたちに言う。
ほかに方法はないのか?・・・誰しもそう言いたかった。が、いろいろ考え抜いた結果なのだろう・・・レオンたちは無言で2人を見つめていた。




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