青空に乾杯♪


☆★ <<第41話>> パイのお味は? ★☆


そして、数時間後、レオンたちは魔王の死体の前でうなだれていた。
「すっごいなー、やっぱぼくの感ってすごいんだ!」
突然頭上から聞こえたその声に、レオンたちはびくっとして上を向く。
薄暗い洞窟の中、天井から一筋の光が下りてきた。

「カッコつけやがって・・・何様のつもりなんだか・・・」
まるで神か天使の登場のような見せ方にレオンが悪口を吐く。
「やあ!勇者諸君、お疲れさま〜!でも早かったね。もうびっくりしちゃったよ。」
本人が光と共に下りてくると思ったのだが、相変わらず声がするのみ。
「ああ・・・まーな・・・・・・オレ達としても早く元の世界に帰りたいしな。」
「ええ〜?もう帰っちゃうの?」
「もうって・・・オレ達はオレ達の旅の目的というか・・・そう言えば何か褒美がもらえるんだったっけ?」
とぼけ顔でレオンが言う。
「ああ・・そう言えばそんなこと言ったような。・・・うん!いいよ、約束は約束だからね。ぼくは約束をきちんと守るいい子だから。」
(な〜にがいい子だ!)とレオンとミルフィーは顔を合わせる。
「あたし、あなたに逢いたいんだけど。」
チキが少し甘え声で言う。
「ん?ああ、きみか。」
「できたらそこへ行ってみたいわ。」
「ここへ?・・・うう〜〜ん、そうだな〜・・・・」
「あたしこうみえてもパイを焼くのが得意なの。作ってあげたいと思ってるんだけど。」
にこっと天井を見つめて言うチキに、シャイは気が気ではない。が、そこは暴れ出さないように、レイミアスとミルフィーがしっかりと押さえている。
「じゃー、いいよ。ただしキミだけね。他の4人は適当な街に戻っててよ。」
「んだよ、それはー?オレ達も条件は同じだろ?」
レオンが怒鳴る。
「だってさ、君たちって物騒なんだもん。何されるかわかったもんじゃないからね。」
(くっそーー!確かに感はいいらしい。)
そう思いながら苦々しげにしているレオンをにっこりと笑いながらぽん、ぼん!と軽く叩くチキ。
そして、小声で囁く。
「大丈夫!あたしを誰だと思って?迷宮の華、名トレジャーハンター、チキ様よ。上手く盗んでくるわよ。」
「ぶきき・・・」
そんなチキを心配そうな顔で見つめるシャイ。
「だ〜いじょうぶ!」
シャイの心配はそれではなかったのだが、チキは全く気づいていない。
にっこり笑いながらチキは光の中を上へと上がっていった。
「ぶきぃ・・・」
チキがあがっていったその光の筋をシャイは悲しげな心配そうな目でいつまでも見つめていた。


そんなシャイの心配など全く気づかないチキは、少年の部屋で目を丸くしていた。
そこはチキがそれまで見たこともないようなものばかりだった。
といってもチキの世界のものと置き換えて考えれば、その形から納得するものも多いことも確か。
きれいではあったが、木や石や草は影もかたちもない。見たこともないような材質と完璧な流線型でできた机。そしてふかふかの布団のベッドなどなど。
「これ・・・・なんていう花なの?」
その中でも色とりどりに輝いている棚の花に、チキは目を取られていた。
「ああ、それね。」
にこっと笑いながら少年はその花を手に取るとテーブルに置く。
「グラスファイバーでできたものなんだ。」
「グラスファイバー?」
「うん、そうだよ。きれいだろ?」
「え、ええ・・・・」
ちょうどチキと同じくらいの背丈のその少年はいかにも満足そうにチキを見つめていた。
そのグラスファイバーがなんであるか、チキには全くわからなかったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。そういう種類の魔法の木かなんかだろうと勝手に思い込んだチキは、とにかく目的の物の在り処をなんとかして聞き出さなくてはと考えをめぐらせていた。
「あ!そうそう!パイを焼いてあげるんだったわね。お台所はどこ?」
ぽん!と多少わざとらしいかとも思ったが、手をたたいてチキはにっこり微笑みを少年に投げかけた。
「そうだったね。ぼく、パイ大好物なんだ。こっちだよ。」
そして案内されたところは・・・・またしてもチキの想像していたものとは全く異なっていた。
「あ、あの・・・パン焼き釜は?・・・・火は・・・どこでどうやってつけるの?燃やすものは?お水もないわね。」
そこは火を起こす「くど」もなければ、水を汲んであるはずの手桶もない。しかも周りはピカピカ。
「あはははは!そうだね、キミたちの世界とはぜんぜん違うよね。」
大声で笑いながら、少年が銀色に光る笛のようなもののをちょん!と押した。
−ザーーー・・・・−
「きゃっ!」
いきなり水がその口から出、思わずびっくりして声をあげたチキを見て、いかにも得意そうに、今度はそのとなりにあるボタンを少年は押す。
「こっちがヒーター。火はでなくてもこの上が熱くなって、煮たり焼いたりできるんだよ。」
カタン、と黒い四角の上にフライパンを置きながら少年は微笑んだ。
「こ、これで焼けるの?」
「うん、そうだよ。・・ほらもうだいぶ熱くなってきたみたいだよ。」
−ジュジュ・・−
フライパンに水をほんの少したらしてそれを証明する。
「そ、そうみたいね。」
「で、これが油。それからこの袋が小麦粉で・・ええ〜っとそれから必要なものはっと・・・」
目を丸くするチキを余所見に、少年はキャビネットから次々に材料になりそうなものを取り出した。
「あと、果物とか入れるんならそっちの冷蔵庫に入ってるから。」
「え?冷蔵庫?」
「うん、キミの後ろにある四角い大きな箱。」
「こ、これ?」
おそるおそる開けてみると、そこから冷気とともに、果物や野菜などが顔をだした。
「す、すごい・・・いろんなものがあるのね。」
収穫時が全く違うものが混在していることに、チキは驚く。
「そうだよ。そこに入れておけば腐らないんだ。」
「ふ〜〜ん・・・・・」
冷気魔法の箱・・・確かにこんなのがあったら便利ね、と思いながらチキは中のものに目移りしていた。
「パイを焼くにはその横にある小さ目の箱に入れれば簡単に焼けるよ。」
「ふ〜〜ん・・・・こんなので?」
なにやらメモリのついたガラス張りの箱・・・チキは半信半疑でそれを見つめていた。
−カタン−
「わかんないことがあったら聞いてよね。」
にこにこしてイスに座ると頬杖をついて少年はチキを見つめる。
「ぼくでできることがあったら手伝うよ。」
「ええ、ありがとう。」
まるっきり勝手が違い、当惑するチキ。が、そんなことは言ってられない。道具が違っても、多少材料が違ってるようでもなんとかなる、いや、なんとかしなくては!
腕まくりをして、チキはパイ生地作りに入った。

「でも、やっぱりいいもんだね、キッチンで女の子がそうしてるのって。それにやっぱり3分でOK!のものよりそうして本格的に作った方がおいしいもんね。」
「そ、そう?」
そう言った少年の瞳が少し寂しげなのを感じ、チキは一瞬どきっとした。それまで悪人としか思っていなかった少年が、ふとかわいそうな子なのかもしれない、と。
「あなた、お父さんやお母さんは?」
「・・・パパもママも忙しくってさ、めったにいないよ。」
少しすねた顔をしてそう答えた少年に、やはりといおうか、悪人の形相は全くなかった。
「めったに?」
「うん・・・・・この前のクリスマスだって、一緒にケーキ食べるって言ってたのに・・・ぼく、おりこうにして待ってたのに・・・・・・」
「クリスマス?」
「うん、そうだよ。クリスマスはだいたい家族一緒に過ごすものなんだ。」
「そうなの・・・。」
チキは納得していた。この少年は寂しがり屋の子供なんだと。背格好こそは同じようなものだが、グラスランナー族だからそうなのであってチキはすでに子供ではない。たとえ外見はそうは見えなくても。そしてチキはそんな少年に同情を覚えていた。
「あ!でもね、もう寂しくなんかないよ。だってサンタさんがとっても面白いものくれたから!」
少しかげりを見せたチキの表情に、少年は慌てて元気に言う。
「サンタさん?面白いもの?」
『サンタ』という名を聞き、チキの目が輝いた。早くも確信に触れることができるかもしれない、と期待して。
「うん。おりこうにしてるよい子にはね、クリスマスイブにサンタさんがプレゼントくれるんだよ。」
「そうなの?」
「うん、チキの世界は違うの?この世界ではそうなんだよ。友達はね・・パパがサンタさんのふりしてるだけなんだって言うんだけど、ぼくは絶対サンタさんっているって信じてたんだ。そしたらね、この前のクリスマスには本当にサンタさんが来てくれたんだよ。」
「お父さんじゃなくて?」
「うん。だってそのプレゼントがすごいものだったんだ。あんなの世界中捜してもどっこにもないよ。だから、本物のサンタさんさ。信じててよかった、ホントに。」
「どんなプレゼントなの?」
「うん、実はね・・・それをもらったからキミにも会えたんだよ。」
「え?」
わけがわからない、といった顔をしながら、チキは話の展開に満足していた。この調子でいけばうまくいきそうだ、と。
「ちょっと待っててね。」
そうして持ってきたのは、15cm四方の小さな箱。
「それがそう?」
「うん、そうだよ。あ!できたんだね、じゃー、ぼくがレンジに入れるね。」
「あ、お願いね。」
チキからパイを乗せたお皿を受け取ると少年はレンジに入れ、タイマーを回す。
「あとは焼けるのを待つだけだよね。」
「そ、そうね。」
箱の中に明かりが灯り、ゆっくりと回りはじめたお皿に驚きつつ、チキは少年にすすめられるままイスに腰掛け、そして問題の箱に目を移す。
「これ、ゲームの世界が作れちゃうんだ。」
得意そうに少年は話はじめた。
「それに、ちょうど今キミがここに来てるだろ?その世界とコンタクトも取れちゃうんだよ。まるでアニメのドラえもんが出してくれるものみたいなものなんだ。」
「ド、ドラえもん?」
「うん、そうだよ。といってもキミにはわかんないよね。」
えへへ、と少年は舌をだす。
「とにかく、すっごいものなんだよ。」
きょとんとしているチキに、慢心の笑顔を見せる。
「でも・・・でも、その世界の人たちは生きてるんだし、それぞれの生活だって・・・」
と言いかけてチキは口を閉じた。
今のご機嫌を損ねては元も子もない。子供なら上手くいくかもしれない、ここは、もっとおだてあげて上機嫌にさせ油断させなくては!と、チキはかわいそうと感じている反面、心の中で慎重に計画を練っていた。


そして、得意そうに話すそのRPGゲームの説明を聞きながら、パイの焼きあがるのを待つこと数分・・・・。
−チーン!-
「あ!焼けたかな?」
「え?もう?」
驚いているチキにガラス張りの箱の中を指差す少年。
「ホント、もういいみたい。」
そっとお皿を取り出すチキ。
「う〜〜ん・・いいにおい〜!」
嬉しそうな少年の目の前にそれを置く。
「切ってあげるわね。」
できたてのパイにナイフをいれ、取り皿に1切れのせると少年の前に置く。
「ほんとうだ〜、いい匂い!おいしそう。」
「言ったでしょ?パイには自信があるって。」
「うん!」
目を輝かせてパイを口にほおばる。
「おっいし〜〜〜い!」

そして、少年は少しずつ心地よい眠りの中へと誘われていった。
「ふ〜〜〜・・・どうやらうまくいったようね。」
眠っている少年を目の前に、チキはほっと胸をなでおろしていた。
そして、ぐっすり眠っている少年の耳元でそっと、が、思いのたけを込めてささやいた。
そう、まだその呪文が使えるのに見合うパワーはたまっていなかった。が、眠っていて完全な無防備状態ならある程度効き目があるかもしれない。チキは思い切って試してみることにしていた。


 『ばっよえぇ〜〜〜んんんんんんんんんんんん...............

 



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