【その8】最初から

 

 「お待たせーーーー!」
「え?」
バタン!と勢い良くドアをあけ、にこやかに入ってきたチキとそしてそのあとについてきたシャイに全員の視線がいく。
「あら?どうしたの?ばかに空気が重いわね?」
「『重いわね』って、チキ!分かってるでしょ?」
「・・あら、やっぱりまだ目覚めてないのね。・・・カルロスは大丈夫ね・・。」
ミルフィーを見てそして次にカルロスを見てチキは頷く。
「だから、チキ!何よ?ミルフィーがこんなだっていうのに、さっさとシャイと2人でどこかへ行っちゃうし!」
ミリアは完全に頭に来ていた。
「だって、死んでるんじゃないでしょ?」
「それはそうよ!縁起でもないこと言わないでっ!」
大声を出して怒ったミリアに、チキは余裕の笑みをみせる。
「二人が戻った時の様子でぴん!と来たの。第六感ってやつ♪カルロスはたぶん大丈夫だろうけど、ミルフィーの状態が気になったのよね♪」
「え?どういうこと?」
「だから・・・」
チキはシャイに目で合図する。
「これを取りに急いで村まで行ってたんです。」
シャイがベッドの横に置いたのは、一束の草。
「これって?」
「これはエルフの村に伝わる特殊な薬草で・・・どんなに精神が離れていても、そのあまりにもの苦さで、気づくという、究極の、そして門外不出の薬草なのです。」
「・・・これが?」
「そうです。」
緑と言うより黒といった方が近いような、細長い葉のみのその草は・・どうみてもそんな大したものだとは思えなかった。
「これを煎じて飲ませば大丈夫のはずです。ただ・・・」
「ただ?」
「その苦さのショックと急激に肉体へ戻ったショックで、記憶が失われる事があるんですよ。」
「・・・・・・」
「ま、まー・・・・それは一時的で、また元に戻る場合もあるそうなんですけどねー。」
「『も』あるのね?」
「あ、あはは・・・」
睨みながら念を押したミリアにシャイは焦り笑いをみせる。
「それは・・・できるなら起こらないように祈ってるしかないんだけど・・・その薬草は、昔、精神を飛ばす修行に使われたんですって。」
にっこりと笑ってチキが付け加えた。
「昔って・・・・」
「最近は・・・もうあの地に定着してしまって・・・そんな修行をする者もいなくて・・・・。で、ですけど、効果は長老の折り紙付きで。」
「そうよ。ミルフィーにはどんなに世話になったかこんこんと説いてようやく分けてもらったのよ。」
「そ、そうか・・・じゃー、さっそく。」
効果を完全に信じたわけではなかったが、他に手段があるわけではない。
そっとその薬草を手にしたカルロスは、しばらくそれを見つめていた。
「あ!あたし家の人に頼んでくる。」
「あ、ああ、頼む。」
カルロスからそれを受け取ると、ミリアは勢い良く部屋から出ていった。


そして、それから数十分後・・・・・
「だ〜〜〜・・・・・な、なにっ?!これっ?!」
ミリアから口移しで飲ませられたその薬湯に、ミルフィーが大声をあげて勢い良く飛び上がった。
「うぶっ!」
「ミ、ミルフィー・・・」
吐くなら一緒に窓からよ!とミルフィーより早く窓から外に顔を出していたミリアが力無く声をかける。
なんとかミルフィーに飲ませるまでは、と口に含んだその薬湯をすぐにでも吐き出したいのを我慢してミリアは飲ませた。
他のメンバーは・・・チキの進言もあって部屋の外で待っていた。その苦さゆえ、我を忘れた格好悪い場面は・・・女の子としてはみせたくない、というのがその理由だった。

「胃の中まで苦みが・・・」
「あたしは・・口の中だけだから、まだましってとこね。」
窓から吐き出すものはそれ以上ないというほど吐き、そのあと、用意してあった水をがばがば飲んで・・・また吐いて・・・の繰り返しを数回。ようやく落ち着いてミリアと目を合わせたミルフィーは、そこで初めてその状況に気づく。
「あれ?ここ・・・どこ?どうしてこんなところに?」
「あたしは分かる?・・・ミルフィー?」
「分かるって・・・ミリアでしょ?」
不思議そうな顔をしてそう答えたミルフィーに、ミリアはほっとして胸をなで下ろしていた。どうやら記憶喪失にはならなかったらしい。
−コンコン!−
中が静かになり、もう落ち着いた頃だろうと判断したカルロスが逸る心を抑えつつノックをする。
「どうぞ。」
ガチャリと開けて入ってきたカルロスと、彼に続いて入ってきたレオンらに、ミリアは、大丈夫だったわよ、と視線を送る。
「大丈夫かミルフィー?」
「大丈夫。」
そのカルロスにミルフィーはにこやかに答えた。
「それはいいんだけど、・・・何があったの?どうしてこんなところに?」
「・・・ミルフィー、覚えてないのか?」
「何を?」
「ぼ、ぼくが分かります?」
「何言ってるのよ、レイム。分からないわけないでしょ?」
「オ、オレは?」
人差し指で自分の鼻を指して聞くレオンに、ミルフィーは軽い笑みをみせる。
「だから・・・フィーとフィアが一緒になって私になったって言ったでしょ?記憶はあるの。分からないわけじゃないんだって!・・・っと・・あれ?チキとシャイ、いつ来たの?」
「は?」
「え?」
「へ?」
「ええ?」
「あら・・」
「・・・」
つまり、ミルフィーは、完全には記憶をなくした訳ではなかったが、現在のミルフィーとして蘇った直後以降の記憶を失っていた。


「・・・ミルフィー・・・」
「あ、だから、カルロスごめんなさい。ミルフィーであってミルフィーじゃないし、ミルフィアであってミルフィアでもないのよ。残念ながら私、あなたのこと、何とも思ってないのよ。」
心配そうに手を差し伸べたカルロスにミルフィーが答えたそれは、決定的な言葉だった。

(振り出しに戻る・・・か。それもいいかもしれん。)
人を好きになった事実は、簡単に忘れたり消し去ったりできるものではない。アレクシードに恋した事実を引きずるよりこの方がよかったのかもしれない、とカルロスはレオンたちと楽しそうに話しているミルフィーを見つめながら考えていた。
(だが・・オレは・・・傍にいるべきではないのかもしれん。)
今回のことでカルロスはつくづくそう感じていた。待っていても見込みはないのではないか、傍にいることはミルフィーにとって負担にしかならないのではないか、と。
(・・・それでもオレには他に行くべき所はない・・・・)
しばらくあれこれ考えていた。このままミルフィーと別れるのもいいかもしれないとも思った。
が、例えミルフィーの元を離れても気がかりは消えない。いや、一層彼女への思いは募るのだろう。ならば、一生この思いを抱え続けている事と、再び他の男に惹かれるミルフィーを見なければならないかもしれないという事を覚悟して、今まで通り傍にいる事を、ミルフィーを見つめていくことを決心した。


(しかし・・アレクシードか・・・・もっと男臭さが必要ということなのか?)
が、今度こそ自分に惚れさせてみせるという気概もあった。
何か見当違いな分析結果と共に。・・・・・・・・・・・(謎。

**青空#135**

[おまけのはっぴーえんど]・・・そして、王子様とお姫様はいつまでも幸せに暮らしました・・・とさ♪

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