☆★ その74 ミルフィー王女ご成婚? ★☆


 「ええ〜〜〜っ?!こ、婚儀ぃ〜〜〜?!」
老婆の家でレオンとレイミアスの声が壁を突き抜け外まで聞こえていた。
カルロスは・・・驚きのあまり声もでない。
そして、ミルフィーも・・・あまりにも突拍子もないことを言われ、やはり呆然としていた。

事の起こりは、例のごとく冒険の合間に老婆の家でくつろいでいたときにミルフィーを訪ねてきた一人の剣士の書状だった。
その男の名はカナルタハ。ミルフィーの国の剣士ということだった。
その男の持参してきた書状によると、無事解決したことを知った老魔導師にして賢者であるタヒトールの進言で国から迎えが来るということだった。しかも、戻ると同時に婚儀をあげるというおまけつき。

「ち、ちょっと待て・・・ミルフィーもミルフィアも疎まれた子供だったんだぞ?いなくなってせいせいしてるんじゃないのか?・・・第一・・国はまだ存続してたのか?ゴーダスが死んで潰えたんじゃなかったのか?」
焦りまくったミルフィーからは、男言葉が出ていた。
「お言葉ですが、姫、ご自分のお父上を呼び捨てになさるのはどうかと思います。」
「オレの勝手だろ?」
ぶっきらぼうに答えたミルフィーに、ふ〜〜っとため息をついて剣士は続ける。
「誤解されていらっしゃるようですので、申し上げますが、確かにゴーダス王は、狂王と言われ、事実、近隣諸国に次々と戦をしかけ、吸収してきました。が、民にとっては、慈悲深い良い王でございました。それは、吸収した民にも同じでございました。」
「うそだろ?」
「いいえ、嘘は申し上げません。現に、王が亡くなった折りには、死を悼むものはおれど、反旗を翻そうというものはおりませんでした。」
「は?」
「ゆえに、国はますます豊かに栄えております。」
「あ・・・そ、そうなんだ。」
はとが豆鉄砲を食らったようなとは今のミルフィーの表情を言う。ミルフィーは信じられなかった。てっきり残虐無比の権力の固まりの王だとばかり思っていた。
「ですから、姫。」
「あ〜もう!その言い方やめろってさっきから言ってるだろ?だいたいなんだよ、それ?いきなり来て国へ帰って嫁げだと?どこをどう押したらそういう考えになるんだ?それに・・・それに・・・・・オレは、その王を・・・」
(殺した張本人だぞ)という言葉の手前で、ミルフィーは口をつぐんでいた。口にできなかった。そして窓の外へ目を向ける。
やりきれないような目を窓の外に向けるミルフィーに、レオンたちも何も言えず、ただじっと見つめていた。
「姫、賢者タヒトール殿がおっしゃっておられました。全てが終わったのです。どなたも悪くはございません。姫がその責を感じられる必要は何一つございません。」

しばらくミルフィーはカナルタハをじっと見つめていた。
「で・・・それはそれでいいとして、なんで婚儀なんだ?」
ミルフィーのその言葉にうんうん!と頷くレオンたち。
「それは、やはりいつまでも王家の血を引くご息女が独り身で・・しかもこのようなところに浮き草のごとく地に足がつかぬ暮らしをしておられては・・とのご配慮。」
「浮き草?」
「は。冒険者などという明日の身もわからぬ職業など・・。」
「悪かったな冒険者で。それに第一、オレはまだ若いんだぞ?」
カナルタハの言葉を最後まで聞かないうちに、ミルフィーはきっと睨む。
「どこの王家の姫君も14、5歳で嫁がれるのが普通かと。」
さらっと言ったカナルタハに、ミルフィーはどういったら理解してもらえるのか心配しつつ言う。
「オレはそれどころじゃなかったんだからな。それに、王侯貴族のどこが偉いんだ?冒険者のどこがいけないんだ?オレは・・・あんなところへ帰るより、ここで暮らしていた方がいいんだ。その方が人間らしいってもんだ。」
「姫・・・おいたわしい。」
「は?」
「そのように言葉を作り、ご自分を偽って暮らすのが良いなどと・・・。今までのご苦労はよ〜〜く存じ上げております。ですから、こうしてお迎えに。」
「・・・やってられん。」
大きくため息をつき、ミルフィーはカナルタハを無視して、部屋から出ようとする。
「考えの相違だ。いくら話し合ってもむだだ。」
「では、ここで私の首をおはね下さい。」
「は?」
ミルフィーに薦められ、遠慮しながらも腰かけたイスから立ち上がり、カナルタハは彼女の方を向いて跪く。冗談とは思えないその言葉にミルフィーは、驚いて立ち止まる。勿論レオンたちもそれこそ目を丸くして驚く。
「王命を遂げられぬとあらば・・私に残された道はそれしかございません。」
「そ、そんな無茶な・・・・」
あきれ返ってカナルタハを全員見つめていた。
が、そのカナルタハは真剣な眼差しでじっとミルフィーを見つめていた。
「そんな事できるわけないだろ?」
「それでは一緒にお戻り願えますか?2、3日後には迎えの馬車が参りますゆえ。」
「・・・と・・・・・・」
脅迫以外のなにものでもないぞ!とミルフィーはあきれ返っていた。いや、窮地に立たされていた。
帰るのはまだしもそのおまけの、いや、向こうにとってはおまけの方が本命なのかもしれない、と考えれた。
(なぜ、会ってもいない男と一緒になければならないんだ?)
ミルフィーは頭に来ていた。
「現在の王、ラシャク様は、姪にあたられる姫様の行く末を心からご心配されておられるのです。このような明日の命もわからぬ生活から一刻も早く抜け出し、身分相応の殿方のところへ嫁ぎ、幸せになってもらいたい、と。」
「だから、考えの相違だってさっきから言ってるだろ?オレは十分幸せなんだ。」
「姫!」
「な、なんだよ・・・・?」
急にくってかかるようなきつい口調となったカナルタハに、ミルフィーは思わず腰をひく。
「王は・・王は、ご苦労なさってこられたあなた様に、幸せになってもらいたいと、・・・本当に心から王はそれだけを・・・あなた様の幸せだけをお考えになられて・・・・」
「は〜〜・・・・」
言っても無駄だな、とミルフィーは思った。所詮身分階級の上の者に、こういった自由な暮らしは理解してもらおうというのが間違いだったと再認識する。が、そうも言っていられないことも事実。
しばらくミルフィーは目を閉じて考えていた。落ち着いて考えれば何かいい方法が浮かぶかもしれない、と思っていた。


「わかりました。帰りましょう。」
「姫!」
「ミ、ミルフィー?!」
喜んで目を輝かすカナルタハ、とミルフィーの言葉が信じられないと驚き、焦るレオンたち。
「ただし、条件があります。」
「は?・・・条件・・とは?」
「それには1つ質問があるのですが。」
「なんなりと。」
「その私の相手という方はすでに決まっているのでしょうか?」
「あ、いえ、まだ正式には決まってはおらぬようでございます。何人か求婚者は名を連ねておられるご様子ですが。」
「そう。それでは、百歩譲ります。いいですね、これでも百歩譲ったのですから。」
「・・と申されますと?」
ミルフィーは大きく息をすうとゆっくりと言う。
「私は自分が納得しない男の方へ嫁ぐ気はありません。」
「は。」
いかにも一国の王女といった、そのりんとした態度にレオンたちは驚く。
(お、おい・・・な、なんかお姫様モードに入ってないか?)
レオンはレイミアスと目配せしていた。
(そ、そうですね。ミルフィーって・・やっぱりホントにお姫様だったんですね。)
それまでのレオンたちの知っているミルフィーと段違いに違っていた。目の前のミルフィーは、気さくで明るい少女ではなく、威厳を放つ一国の王女。
「私が認めざるを得ないような腕のある剣士ならば嫁ぎましょう。」
「ええ〜〜〜?!」
またしても驚き、そして今回は大声で叫ぶレオンたち。
「で、ですが・・・。」
「何も殺し合えとは言っておりません。腕を競い、最も剣の腕のある方のところに行くといっているのです。」
「ですが・・・それですとご身分の方が不確かに・・・っと・・・」
カナルタハは、言いかけた言葉を切り、目の前に突きつけれらた剣を見つめていた。
「意に染まぬ夫など、この手でその喉元かききってくれる。」
「・・ひ、姫・・様・・・・?」
ミルフィーの静かな睨みと口調に、カナルタハから汗が吹き出ていた。
「弱い男など断じて認めぬ。」
「は・・・で、ですが、王にその旨申し上げてみないことには・・・。」
「カナルタハ。」
「は。」
「私は何者か?」
「は?・・と、おっしゃられますと?」
「私は何者なのかと聞いているのです。」
「はっ・・・・先王のご息女であり、現王の姪、ゴーガナスの王女であられます。」
「して、そなたは?」
「は。代々王家にお仕えしております剣士。」
「では、我が命、聞けるはずであろう?」
剣を突きつけたまま、ミルフィーは鋭い視線でカナルタハを睨む。
「は・・・」
カナルタハはミルフィーの威厳に完全に萎縮していた。
「即刻国へ戻り、その旨国王に申し上げるがよい。その条件でなくば、一切受け付けぬと。」
「は・・、はーーっ」
深々と頭をたれ、カナルタハはあたふたと部屋からそして、家から出て行った。

「た〜〜こ!・・・おととい来いってんだ!」
(な、なんだ、なんだ・・・・)
それまでミルフィーの如何にも王女といったその威厳に感服していたレオンたちは、ミルフィーのその呟きに、ずっこけていた。


「ミルフィー・・・・」
しばらくしてカルロスが口を開いた。
「何?」
ミルフィーはまだまだ機嫌が悪そうだった。視線がきつい。
「本当に・・・嫁ぐ・・・い、いや、帰るのか?」
「仕方ないだろ?ああまで言われちゃ。」
帰らないのなら、首を刎ねてくれと言われ、「はい、そうですか。」といくわけにはいかない。
再び沈黙が部屋を覆う。

「ああ、そうだ。」
「なんだ?」
急に思いついたように声をだしたミルフィーをカルロスは見る。
「条件は剣の腕だけなんだから、よかったらカルロスも一緒に来て参加したら?」
投げ捨てるようにミルフィーは言った。
「い、いいのか?」
「いいのかって・・・カルロスの自由だけど?」
「しかし・・・」
剣の腕には十分自信があるカルロス。どんな相手がいるのか全く分かりもしないのに、もし参加すれば、勝つのは自分だろうと、早くもその気になっていた。
カルロスとしては、そんな形でミルフィーを手に入れるのは気が進まなかった。それでは心まで手に入らないような気がして、簡単に喜べなかった。

が、その実、心の奥底では・・・
(もらったな・・・。な〜に、心なんてあとからゆっくりもみほぐせばいいのさ。決まってしてしまえば心だろうがなんだろうが手に入れたも同然。後は時間の問題。それもさほど時間を要さないはずだ。たっぷりと愛して身も心もとかしてやろう。ふっふっふ♪・・・)
にまりと不敵な笑みを浮かべ、しっぽを振っているデビルカルロスがいた。


(・・・ああ〜っ!もうっ!なんでこうなるのよ?!ハッピーエンドじゃなかったの?・・さっさと切り上げちゃえばよかったのに、いつまでも書き続けてるからこんな展開になっちゃったじゃないのっ!誰のせいよ、誰のっ?!)
怒りに任せ、バタン!と勢いよく戸を開けて外へ出て行くミルフィーを、レオンたちはそれぞれの思いで見つめていた。

そして、3日後。レオンたちは呆然としてミルフィーのお姫様姿を見つめていた。
「どうぞ、姫様。」
女官に手を引かれて馬車に乗り込む。
表情はともかく、美しく着飾ったミルフィーは、誰がどこからどう見ても、求婚者がわんさと来そうな美しく品のある王女だった。


「なんだ、レイム、お前もついていくのか?」
「そういうレオンこそ。」
「オレは一応見届ける義務がある気がするんだ。」
「もうミルフィアじゃないんですよ?」
他の馬車の中でレオンとレイミアスは話していた。
「それでも、なんとなく・・というか・・・ミリアに頼まれたしな。」
「ミリアに?」
「ああ。ミルフィーはああみえてもミルフィアと一緒で寂しがり屋なんだと。」
「寂しがり屋・・・・」
レオンの言った言葉をかみ締めるようにレイミアスは繰り返した。
「だから、ミルフィアにとってのミルフィーのような相手を求めてるんだって言ってた。だから、見守ってやってくれだと。何かの拍子でおかしな奴に転がってしまわないように、だとさ。・・・いつの間にかあのチビ龍が一人前の口をきくようになやがって・・・・。」
「そうなんですか・・・ミリアがそんなことを。」
そういえば、ミルフィーは、時々ふっと寂しそうな表情をすることがあった、とレイミアスは思い起こしていた。
「でも、レオンって本当にフィーみたいですね?」
話がこじれる場合があるので、最近ミルフィー(兄)のことは、フィーと言うことにしていた。勿論、現ミルフィー承認ずみである。
「そうだな・・・フィーにミルフィアを頼まれただろ?その延長が抜けきらないんだろうな。」
「というよりフィーの心境なんじゃないんですか?」
「・・・ははは・・かもしれんな。だけどオレはあいつみたいにすぐ感情に走ることはないぞ。」
「そうですね。」
2人とも、ミルフィアの事になると、すぐ感情に走って怒っていたミルフィー(兄)を思い出して軽く笑う。
ミルフィアの時もそうだったが、レオンには今のミルフィーが本当に妹のような気がしていた。

「ぼくは・・・・ぼくは剣士じゃないから参加もできませんが・・・・」
少ししてから、レイミアスは言った。
「でも、もしも、もしも、その最後に勝ち残った剣士が腕だけでミルフィーの事をなんとも思わないような奴だったら・・・ううん、ミルフィーが少しでも気に入らないようなら、ぼくは・・ぼくは、彼女を連れて逃げます!」
「お・・・」
真剣な表情で彼に断言するレイミアスに、レオンは驚き、そして感心して、彼の瞳を見つめる。
そして、少し間をおいた後、レオンはぼん!とレイミアスの肩を叩いた。
「言うじゃねーか、レイム!それでこそ男だ!そん時はオレが許可する。誰にも遠慮はいらねー、お姫様をかっさらって何処へでも行っちまえ!」
「何処へでもって・・・何処へ?」
がくっ・・・・レオンはずっこけていた。
「ったく・・・お前は本当に純情っていうか・・・・」
だ〜めだ、こりゃ。とも思いつつ、レオンはレイミアスを温かい目で見つめていた。

(なー、ミルフィー・・・こいつにしとけば間違いないかとも思うが・・・まだちょっと男としての、いや、人間としてか・・・成長を待たんといかんらしいぞ。)
お子さま僧侶レイミアス。ミルフィーより一つ年下。法力には長けていても純なところはミルフィアとどっこいどっこい。

「さ〜て、どうなるのか・・・?」
レオンは馬車の窓からミルフィーの乗る馬車を見つめ、あれこれ考えていた。


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