☆★ Epilogue・おまけ 舞踏会の夜は更けて ★☆


 「ねー、カルロス・・・」
「ん?」
老婆の留守宅でミルフィーたちは冒険の合間の休息を取っていた。留守中は勝手に使ってもいいとの老婆からの許可が下りていた。
「今月のタイバーンの舞踏会って、確か今日だったわよね?」
居間でくつろいでいたカルロスは、そう言ったミルフィーに目を輝かせる。
「あ、ああ・・そうだが・・・お嬢・・・」
途端にミルフィーの視線がきつくなる。
「あ、いや・・・ミルフィー・・・もしかして舞踏会に?」
「ちょっとね。気分転換。・・・じゃー、チキたちも誘おうっと。」
「は?」
もしかしたら2人で行ける?と期待で胸を膨らませたカルロスは、途端にがくっとくる。が、そんなカルロスなど一行に構わず、ミルフィーは外へ出て行く。
「チキーー!」


そして、渋い表情のカルロスを含め、レオン、レイミアス、チキ、シャイそして、ミルフィーの全員で行くこととなった。
今回は公爵夫人の屋敷で貸衣装を借りることにした。

そして、その舞踏会場・・・・その大広間でカルロスを初め、一同口をあんぐりしてミルフィーを見つめていた。
そのミルフィーは・・・真っ白なタキシード姿でそこにいた。

「そろそろ来るかな?」
そんなカルロスたちを無視し、ミルフィーは扉の外に視線を飛ばす。

「ミルフィー!」
たたたっと走ってホールに入ってきたのは、フリルいっぱいの真っ赤なドレスに身を包んだ少女。
「間に合ったね、ミリア!」
「ええ〜〜?ミ、ミリアぁ?」
全員驚いて叫んでいた。
そうミリアとは、誰あろう、サラマンダーの国へ帰ったはずの火龍の少女。が、帰ったときより成長した姿になっている。ちょうど15、6歳の少女くらいに思える。
「あ〜〜ん、ミルフィー、すてき〜!」
「そう?」
「うん!とっても♪」
「ミリアもね。」
「うふ♪ありがとう。」
「では、お姫様、一曲お願いできますか?」
「ええ、もちろん!」
ひざを折ってダンスに誘うミルフィーに、嬉しそうに差し出したミリアの手をそっと取り、ミルフィーはミリアをリードして踊り始める。

紫檀さんがが描いてくださいました。
いつもありがとうございます。m(__)m


「な・・・・・」
ミルフィーと踊れるとばかり思っていたカルロスは目の前の光景が信じられなかった。
「つ、つまり・・・」
カルロスは唖然としながら考えていた。
「兄の記憶と体験があるから・・・男のステップも踏める・・ということか?し、しかし・・・・」
そのリードは男のカルロスが見ても上手かった。
「オ、オレより上手いんじゃないか?」
微笑みながら、やさしくミリアをリードするミルフィーには、人を惹き付ける中性的な不思議な魅力があった。男のものとも女のものとも少し違うし、いかにも男装の麗人といった感じでもない。ちょうどミルフィーと言う個体に男と女が混在しているような、男でも女でもないような不思議な雰囲気があった。

それは、『サモアの首飾り』事件のことでも言えていた。
あの時、伯爵令嬢が恋したのはカルロスとばかり誰もが思っていた。が、事実は・・・屋敷の外でカルロスを待って時間をつぶしていたミルフィーの姿を窓から見かけての事が事実だった。
カルロスは、ほっとしたような、男としてどこか納得できないような複雑な気持ちだった。
そして、当然ともいえるが、ミルフィーが少女であることで騒ぎは終着を迎えたが、さすがに本人のミルフィーもそれを知ったときは焦り、その後しばらく、女言葉でいくか、男言葉でいくか、悩んだらしい。結局、両方その時の気分で使い分けている。

ともかく、その夜、真っ白なタキシード姿のミルフィーとふわっとしたフリルの真っ赤なドレスのミリアはホール中の視線を集めていた。
一曲終わり、ミリアをやさしくリードして席に戻るミルフィーを少女達の熱い視線が追っていた。

「レオン・パパ!」
「あ・・ああ・・・・」
席に戻ってくるなり首に巻きついたミリアと、そんなミルフィーに、レオンは戸惑っていた。もっともミルフィーに戸惑っていたのはレオンだけではなかったが。
「どうしたんだ、その格好は?」
「うふふ。」
ちらっとミルフィーを見て、ミリアは言う。
「名前をつけてもらったでしょ。だからもう一人前なの。で、サラマンダーの王族としては、社交界デビューするというわけなの。」
「そ、そんなのあるのか?」
「もう!レオン・パパったら!あるの!でもね、あたし、その前にミルフィーと踊りたくて・・・無理やり頼んだの。あ・・でも、誤解しないでね、レズなんていうんじゃないわよ。」
「あ、ああ・・・・」
あっけらかんとして言うミリアに、レオン以下、全員呆気に取られていた。
「あたしね、帰る前に時々ミルフィーに教えてもらってたの。」
「ダンスをか?」
「そう。あたし踊ったことがなかったから、どうしようと思ってたら、ミルフィーが教えてくれるっていって・・・。でね、国へ帰ってから練習もしてたんだけど・・・」
そこまで言ってミリアはミルフィーに微笑みながら付け加えた。
「ミルフィーほど上手な人っていないのよ。」
「なるほど・・。」
「本当ならミルフィーに手を引かれてデビューしたいところなんだけど、人間に来てもらうわけにはいかないし、それに、本当は女の子なんだし。」
「ま、まーな。」
「だから、今日の舞踏会で手をうったの。でも、今日のお姉さまってまた一段と素敵だから・・あたし、帰りたくなくなっちゃった。」
「そういうわけにもいかないでしょ、ミリア?」
「そ、そうなんだけど・・・・」
ミルフィーに言われ、ミリアはぺろっと舌を出す。
「そうねー、今日のお姉さまよりかっこよくてダンスが上手なら許せるかも?」
「ミリアの男性の基準はレオン・パパじゃなかったの?」
「ふふっ・・今まではね。でも今日のお姉さま見たら、変更♪ねっ、もう一曲踊って♪」
手を差し伸べて誘うミリアを、ミルフィーは軽く睨みながら、額をつん!とつつく。
「こら、レディーから誘うものじゃないって言ったでしょ?」
「あん、だってぇ〜・・・。じゃー、そういうときは、どうすればいいの?」
「そういうときはね、じっとその男性を見つめるの。」
「見つめる?」
「そう。熱い視線で、じ〜〜っとね。そうすればきっと気づいてくれる。」
「そう?」
「そう。そうしてね・・・」
すっと手を差し伸べ、ミルフィーはミリアの前に軽く膝をおり、にっこり微笑んで彼女を見つめる。
「お嬢さん、お手をどうぞ。」
「ふふっ♪」
再び2人は踊りの輪の中に入っていった。

「素敵〜〜〜♪」
それを見ていたチキが感動したように目を輝かせて2人を見つめる。
「ミルフィーって・・あんなに素敵だったの?」
ぶっきらぼうな口調と、剣を振るうミルフィーしか知らなかったチキ(レオンたちもそうなのだが)は、夢見ごこちの瞳で見つめる。確かに今は女の子であることは知っている。が、もしミルフィー(兄)だったら、と思わず想像していた。
「チキッ!」
嫉妬心を覚えたシャイがそんなチキを睨む。
「あら・・・ごめんなさい。」
負けていられないな、とシャイもすっと手を差し伸べる。
「チキ、いいかい?」
「ええ。」
嬉しそうに手を取りあって2人も輪の中に入っていった。


後に残ったカルロス、レオン、レイミアスは、唖然として彼らを見つめていた。
「カ、カルロス顔負けじゃないか、ミルフィーって?」
レオンが驚きと共に感心したように呟いていた。カルロスもレイミアスも・・・言葉も出ない。


「こんなこと言ったら悪いんだけど・・・」
ダンスをしながら、ミリアは言った。
「もし、ミルフィーの身体を取り戻していたら・・・・」
間違いなくそれは男性のミルフィーなのである。確かに今のミルフィーもミルフィアも好きだった。が、別に同性趣向ではないミリアは、ふとそう思って、それを想像する。
「ふふっ・・それは、まず・・無理よ。」
「なぜ?」
「うん・・それはね、あのミルフィーに、ここまでのことは期待できないってこと。」
「どういう意味?」
「確かにダンスの技巧はミルフィーなんだけど、後は私だからできるって事かな?」
「え?」
訳がわからないという表情でミリアは見つめる。
「つまりね・・あのミルフィーだけでは女心は分からないし、純情だからとてもじゃないけど、こんな態度は取れないしね。」
「あ・・・そういうことね。」
「女だから気持ちも分かるし、恥ずかしいってこともないから、平気でできる。」
「なるほどねー。」
ミリアはその言葉に納得していた。
自分の女の子としての感性や気持ちを考えて作り出すベストシチュエーション。胸をときめかす甘いムードの作り方。以前のミルフィーには全くなかったものが今のミルフィーにある。
「だからなのかは分からないけど、自分の中に理想の男性がいるような感じがしてね・・」
「え?」
「どうしても私が男ならこうするって考えちゃうのよ。それは、自分自身だから、完璧に自分の望んだとおりになるでしょ?」
「あ・・うん。」
「だからね、誰と接しても比べてしまって・・・ダメなのよ。」
小さくため息をつくミルフィー。
「それで、カルロスも?」
「いい人だってことは分かってるんだけど。異性としての意識が出来てこないというか・・・」
「ふ〜〜ん」
「それにね、私、プレイボーイって好きじゃないのよ。」
「でも、今はカルロスもそんなことないんでしょ?」
「あれでも?」
「え?」
ミルフィーが差した方向を見たミリアは唖然とする。
そこには少女とダンスをするカルロスがいた。
「やけになって、つい彼女からのお願いを断れず踊ってるといえばそうとも思えるんだけど。」
根っからのプレイボーイのカルロスは、結構それなりに笑顔で接している。
「・・・カルロスったら!」
ミリアも呆れて口を尖らせて文句を言う。
「でしょ?ムード作りは上手だけど、どうもああいったところがね。」
「そうねー・・・で、お姉さまのタイプって?」
「タイプねー・・・そうね、うーーん・・・・」
しばらく考えてからミルフィーは笑いながら言う。
「魔導師のレイム・・かな?とも思ったんだけど・・・少し頼りなさすぎるような気がして・・・そうね、強いて言えば・・・レオン?」
「え?レオン・パパ?」
「そう。そう感じるのは、もしかしたら、レオンがミルフィーともミルフィアとも付き合いがあるからなのかもしれない。でも、カルロスのようにムードは作れないし、口は悪いけど・・・」
『誠実さがあるのよね!』
ミルフィーとミリアは同時に言って微笑みあった。
「ただし、もし剣士だったらってところ。」
「あら・・・ミルフィーってホントに根っからの剣士なのね?」
「そうね。剣を交えればその人が分かるっていうでしょ?剣を通しての心の交流・・・憧れなの。」
「分かる気がするわ。」
「それにリーシャンにうらまれたくないし。」
ふふふふっと2人は笑いあった。

「じゃー、あたし今度はレオン・パパと踊るから、ミルフィーもそろそろ着替えてきたら?」
「そうね。」

そうして今度はドレスで現れたミルフィーに、レオン、レイミアス、カルロス共、その姿に唖然とする。
彼女の瞳の色と合わせ、淡いスカイブルーに統一した衣装。アップした髪も同色のリボンでまとめ、つい今しがたのタキシード姿のミルフィーとはまるっきりの別人。

「あ、あ、あの・・・・・」
純情なレイミアスは、誘いたくても誘えず口篭もる。もっとも踊ったことがないという理由もあった。
「今日は特別にレディーらしくなくいきましょうか。レイム、教えてあげるから踊らない?」
せっかく来たのに、その様子だと楽しまないで帰ることになりそうだと、レディーの作法にわざと反してミルフィーはレイミアスを誘う。
「え?あ、あの・・・・」
100%女の子のミルフィーににっこり微笑まれ、レイミアスはどぎまぎする。
「おい!女の子に恥をかかせるものじゃないぞ?」
レオンが笑いながらレイミアスのわき腹を小突く。
「あ・・え、えと・・・・じゃー・・お願いします。」
緊張しながらレイミアスはミルフィーと共だって輪の隅に立つ。
そして、そんなことになるとは思わず、他の少女と踊っていたカルロスは、愕然とする。

「あ、あの・・・・ぼ、ぼく・・やっぱり・・い、いいです。」
一応、ダンスの姿勢をとってはみたものの、レイミアスは緊張して続けていられなかった。それはミルフィーと密着した体勢になるということ。彼女の片手を取り、腰にもう片方の手を当てる姿勢。それだけでも緊張するというのに、ちょうど同じ背格好のミルフィーとでは、お互いの息がかかる。そして、視線を下げればドレスの襟からそのふくらみを少しみせている彼女の胸が目に入る。
「ご、ごめんなさい。」
「・・・レイムったら・・・仕方ないわね。」
ふふっと笑ったミルフィーに他の男性から声がかかる。
「失礼、お嬢さん、私と踊っていただけませんか?」
「あ、はい。」
にっこりと微笑んでその男性と踊り始めるミルフィー。
レイミアスは、しかたない、という表情で席に戻り、未だ曲が終わらず他の少女と踊っていたカルロスは・・・そんなミルフィーを見つめ、一人、焦っていた。

チキとシャイ、レオンとミリア、そして、別々の相手と踊るミルフィーとカルロス。
舞踏会の夜は、ゆっくりと更けていった。

「ミルフィー、次はオレと・・」
「あ、ほら、カルロス、あそこに立ってる女の人が熱い視線を向けてるわよ。女性を悲しませちゃカルロスの名がなくでしょ?それに私、最後にもう一度ミリアと踊る約束してるから。」
それも事実だったが、沈んだ表情のレイミアスを気遣っての行動とも言えた。
「ミ、ミルフィー・・・・」
カルロスの気落ちした声が小さく聞こえたが、ミルフィーは全く気にしていない。

そして、再びタキシード姿のミルフィーが踊る。
ホールにいた少女たちの視線は、カルロスよりミルフィーに向けられている方が多かったようにも思われ、カルロスは複雑な気持ちで楽しそうに踊っている彼女を見つめていた。


但し、誤解しないでいただきたい。ミルフィーは決して同性趣向ではない。
その点は、ミルフィアであったときと変わらず、いつか自分だけの王子様と出遭うのを待っている夢見る年頃の少女なのである。もっともミルフィーより腕のある剣士はそうそういないと思われ・・それだけでも条件はかなり厳しいと言えた。

果たして王子様は見つかるのか、それともカルロスがその座を勝ち取るのか・・・剣の腕だけでいけばそうなのだが、カルロスにとっては、前途多難の様相を呈しているようである。
・・・カルロスの想いは叶うのか?それは誰も知らない。



*番外編として書いたここからの続き・・の一つです*

そして、エピローグが続きます・・・・・本来の続きは・・#74へと進みます/^-^;


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