青空に乾杯♪


☆★ エピローグ 青空に乾杯♪ ★☆


 「がやがや、わいわい・・・」
ミルフィーたちは村の酒場で食事を取っていた。
「お嬢ちゃんは飲み物は何がいい?」
「ジンジャエールでいいぜ、おじさん。」
ミルフィーがそっぽを向いて答える。
「お、おじさん・・・」
ショックを隠し切れずカルロス唖然としてミルフィーを見る。
「ん?気に入らない?」
「当たり前だろ?オレはそんな歳じゃない。」
「じゃー、いいかげんにお嬢ちゃんもやめてくれないかな?」
「あ・・い、いや・・それは、だな・・くせになってしまっていて、つい・・・。」
「何度言っても呼び方変えてくれないだろ?おかげでこの前はせっかくのおいしい仕事を逃したし、変な奴らには襲われるしで。・・・聖魔の塔を目指す荒くれ共や胡散臭い奴がこの辺は多いって知ってるだろ?『お嬢ちゃん』なんて呼ばれてたんじゃ来る仕事も来ないし、夜もおちおち寝てられない。」
ちろっとカルロスを睨んでミルフィーは文句を言う。

それは、『お嬢ちゃん』とミルフィーを呼んでいたことから発したと思われる事件。
前夜の事、いつもなら火龍の少女と同じ部屋を取るのだが、ミルフィアが気に入っていた彼女は、その名前を縮めた感じの『ミリア』という名にようやく落ち着き、少女はその日の昼過ぎに喜んでサラマンダーの国へ帰って行き、部屋はミルフィー一人だった。


「ん?」
夜中、宿の一室で眠っていたミルフィーは人の気配に目を開ける。
「誰?」
「なんだ、お嬢ちゃん、目を開けちゃったのか?」
「は?」
身体を起こしたミルフィーの目の前には、息を荒くして今にもミルフィーに覆い被さろうとしていた男が一人。・・とその後ろにももう一人。
鍵はかけたはずだ、と思わず見たドアのそれはドアノブさら壊されていた。
(あ〜あ・・・弁償しないといけないんだよな、やっぱり・・)
と思いつつ横に置いてある剣に手を伸ばす。
「反応があった方がいいからよしとするか〜〜・・・」
とにまっと笑った男の腹部をミルフィーは思いっきり蹴飛ばす。
−ダン!−
男は当然床にしりもちをつく。
「痛ぇ〜〜・・・この〜・・甘くしてりゃつけあがり・・・・」
やがって、といいかけた男の目の前には、鋭い剣の切っ先があった。
「ふへへ・・・一応剣は使えるんだな、お嬢ちゃん。」
が、男は少しも臆する様子はない。
「活きが良いのは好みだぜ。」
そう大した使い手でもないだろう、と判断した男は、ミルフィーの腕を掴んでおとなしくさせようと、腕を伸ばす。
−スパッ!−
「な・・・・」
トサッ、と手首から先が男の目の前に転がり落ちる。
「次はどこがいい?もう片方か?それとも・・・首か?」
ミルフィーの鋭い視線が男を捕らえていた。
そしてその口調は完全にミルフィー(兄)のもの。頭にくると彼女の口調は限りなくそれに近づく。
「このアマ〜〜!」
もう一人の男が剣を抜いてミルフィーに襲いかかる。
「アマで悪かったな、アマで!」
−キン!シュピッ!−
「うわあっ!」
剣を握っていた腕をそのまま切り落とされて、男は悲鳴を上げる。
「こ、このぉ〜〜〜!!」
手首を落とされた男ももう片方の手で剣を構えてミルフィーを襲う。
「遅いんだよ!それでも攻撃してるつもりか?」
−キン!カキン!キン!・・−
簡単に男たちの剣を払い、ミルフィーは呆然としている男たちを風術で部屋の外まで飛ばす。
「おととい来いってんだっ!」
−ごお〜っ!・・・ドコッ!ドサッ!ドグオッ!ー
半開きになっていたドアを押し開け、男達は廊下の壁に勢いよく打ち付けられる。
「ほら、忘れもんだよ!」
ボン、ボン!と切り落とした腕と手首を男達に投げる。
「どうした?」
「お嬢ちゃん?」
「何かあったんですか?」
その音に、飛び出して来たレオン、カルロス、レイミアスの目に入ったのは、そんな光景だった。
「ほら!あんたたちの血で汚れてしまったカーペットも引き取ってよね!」
ぶわさっ!と彼らにかぶせる。
「確か下の階に薬師が泊まってたから、早く行ってくっつけてもらいなっ!斬り口にかけてあげた術もそろそろ切れるからなっ!」
術が切れれば激痛と血の海が男達を襲う。
「ひ、ひ〜〜〜〜・・・・」
彼らは真っ青になって切り落とされた手と腕を持って逃げていった。
「・・・ったく・・・・・どうせ弁償する金もないんだろ?」
ミルフィーは睨みながらその後ろ姿に悪態をついていた。
「ん?」
「ん?」
そしてレオンたちと目を合わせる。
「おやすみ!」
−バタム!−
彼らを無視し、勢いよくドアを閉めてミルフィーはベッドに横になった。勿論ドアノブは壊れていて閉まらなかったので、テーブルをそこに置いて。
レオンたちも何があったのか簡単に判断でき、遠慮しながらもドア越しに一度は声をかけてみた。が、返事をしないミルフィーに、気がかりではあったが、そのままにしておくことにした。


そして、その前から多少その傾向はあったのだが、決定的なその事件でミルフィーの言葉遣いは普段でもミルフィー(兄)とほぼ同じ口調になっていた。


「・・・・まさか・・・本当は、ミルフィー(兄)とかじゃないよな?」
ふとカルロスの頭をそんな考えが過ぎった。
「そう思うなら、そう思っておけば?」
「お、お嬢・・・あ、いや、ミルフィー・・・・」
呟きが聞こえてしまったと、カルロスは焦る。
「だが、実際に違うんだろ?」
兄ではないのだろう?とカルロスはミルフィーを見る。
「じゃー、そう思っておけば?」
「ミ、ミルフィー・・・・」
カルロスは焦る。
「ぷぷっ!・・はははははっ!」
「レオン・・・」
2人の会話を聞いていて、我慢しきれなくなって笑い始めたレオンを、カルロスは恨めしげに見る。
「女殺しのカルロスも、ミルフィーにかかっちゃおしまいだな。手も足も出ないってとこか?はははっ、間違いないってカルロス。そいつは女の子のミルフィーだ。」
「なぜあんたがそんなにきっぱり言えるんだ?レオン?」
「うーーん、そうだな〜・・ミルフィー(兄)との付き合いがそう判断させるんだろ?感じが違うんだ。こいつはあいつよりもっとこう柔らかいような感じで・・あ!勘違いしないでくれよ。おかしな意味じゃないからな。気というのか雰囲気・・かな?やっぱり女の子だな、と思えるのさ。いくら言葉遣いがミルフィー(兄)に似てきても。」
以前のように肩を組んだり、気安く喧嘩はできない、とレオンは思っていた。明らかにその雰囲気はミルフィー(兄)ではない。
「そうか?」
「あんたはミルフィー(兄)とはあまり付き合いがなかったから分からないだろうが。」
レオンは断言した。
「結局カルロスはミルフィアが良かったんだろ?悪かったな、男女になっちまって。」
わざといつもより口を悪くしてミルフィーは言う。
「あ・・・そ、そうじゃなくてだなー・・・」
実際カルロスはミルフィーに、手も足もそして、口もでなかった。(笑)
「・・仕方ないな、なんだったらカルロスと私だけが知ってて、ミルフィアがいくらミルフィーにでも言えなかった事でも話せば納得する?」
少し不安そうな表情のカルロスをミルフィーは笑いながら見る。
「な、なんなんですか、2人しか知らないミルフィーに話せなかった事って?」
レイミアスがガタン!とイスを蹴って立ち上がりざま言う。明らかにレイミアスは動揺していた。
そう言われて、話そうと思っていたミルフィーは、その時の光景が次々と脳裏に浮かび、顔を赤くしてカルロスから視線を外す。
「あ、やっぱりやめとく・・・。」
人に話せるような事じゃない。と、つい勢いで言ってしまった事をミルフィーは後悔した。
どんなことでも話していたミルフィアがミルフィーに言えなかったこと、それはタイバーンでの舞踏会の夜のことだった。カルロスとダンスをしたこと。そしてその胸で泣いてしまったこと。・・・それから、そのムードというか流れで意識していなかったとはいえ、カルロスの口づけを受けてしまったこと。我に返った途端、真っ赤になって思わずカルロスの頬を思いっきり叩き、その後、叩いてしまった事を恥じてますます赤くなりながら謝ったこと。そして、「いや、オレが悪かった。」と気遣ってくれたカルロスのことなど。・・改めて思い出してみると、恥ずかしいなんてものじゃなかった。いくらカルロスをなんとも思っていなくても、やはり口にするのは躊躇われた。

昨夜の男たちのような輩には落ち着いた態度でそれなりの(?)対応が取れるミルフィーだったが、やはり、こういった純なところは変わってはいないらしい。そんなことを本人に面と向かって言えるはずはなかったし、他の人にも恥ずかしくてとてもじゃないが言えそうもなかった。

「そ、そんな・・ミルフィー・・・」
ミルフィーがそんなことを思っていることまで気を回す余裕のないレイミアスはじっと彼女を見つめる。
「あ・・いや、わかった。話さなくてもいい。」
少し考え、すぐにその事に気付いたカルロスは、どうやらそれで納得したらしい。
が、そんなカルロスに、ますます焦りを覚えるのはレイミアスである。
「・・・・ミルフィー・・・・」
不安にかられ、恨めしげに自分を見るレイミアスに、ミルフィーは少し困った顔をする。その顔から赤みはまだ消えていない。
「レイムが心配するような事でもないとは思うんだけど・・・。」
「じゃー、話してくれませんか?」
「えっと・・・」
数秒間レイミアスを見て考えていたミルフィーは、突然くるっと向きを変える。
「知らないっ!レイムの意地悪っ!」
そしてカウンターの方へすたすたと歩いていく。
「え?い、意地悪って・・そ、そんな・・ぼく、そんなつもりじゃ・・・」
「はははははっ!」
レイミアスの焦った表情に笑ったのはカルロスだった。
「間違いないな、彼女は確かに女の子だ。」
ミルフィー(兄)ではない、とその態度にカルロスは改めて確信してほっとする。
「カルロス!何があったんです?ミルフィーに・・ミルフィアに何をしたんですか?」
珍しくきつい視線でレイミアスはカルロスを見る。が、反対に話してくれと懇願しているようにも思える視線。
「お嬢・・いや、ミルフィーが話したくないというのを話すわけにもいかないだろ?」
今回は余裕を持って答えるカルロス。
「カルロス!」
「そう心配するなって。」
レオンが笑いを堪えながらレイミアスに言った。
「でも・・」
それでも不安そうなレイミアスに、ちらっとカルロスを見ながらレオンは小声で言う。
「いくらカルロスでも、相手があのミルフィアなんだ。そう決定的なことでもないんだろ?」
奥手も奥手、深窓のお嬢様のミルフィアにそうそう男女の進展があるはずはない、とレオンは考えていた。
「け、決定的な事って、なんなんですか?」
「それくらい自分で考えろよ。」
ミルフィアに負けず劣らず純だな、こいつは。とレオンは苦笑いする。
「レオン!」
焦りながらレイミアスは今度はレオンを睨む。

「どうかした?ねー、いい話引き受けてきたんだけど。」
そこへ、ミルフィーが飲み物を持って戻ってきた。
「どんな話だ?」
レオンとレイミアスの様子を笑いながら見ていたカルロスがミルフィーに聞く。
「うん。さる伯爵家からの依頼を受けた人たちから聞いたんだけど、魔物が強力すぎて諦めたらしいんだ。」
「で?」
「高層部6ブロックにあるといわれる『サモアの首飾り』を取ってくるのがその依頼。」
「『サモアの首飾り』というと・・確かそれを着けると、その姿を最初に見た者が惚れるという?」
「そう。なんでもその伯爵家の令嬢が、さる剣士に恋をしたらしくてね。食事も通らず日にひに痩せてきてしまってて、娘かわいさのあまり伯爵が依頼したらしいんだ。100000Gだぞ!100000G!」
「ほー・・・伯爵家令嬢となら願ってもない縁談と言えるんじゃないのか?サモアの首飾りなどつけなくともすんなり話は進むと思うんだが。・・まさか相手に妻子があるとか・・その令嬢ってのがよほど見目が悪いとかなのか?」
「そんなこともないらしいよ。結構美人の伯爵令嬢で通ってるらしい。相手も妻子はいないしね。ただ、その男が全然気がないんだってさ。」
「勿体ない。」
「そう思う?」
「あ、ああ・・・普通そうじゃないのか?」
ミルフィーのその青い瞳に悪戯っぽい輝きがある事に気付き、人ごとだと気軽に一般論を言っていたカルロスは、はた!と思いつき、しばし考え・・そして思い当たる。
「ま、まさか・・その相手というのは・・・オ、オレなんていうオチじゃない・・よな?」
どもりがちに言うカルロスを面白そうに見て、ミルフィーは答えた。
「大当たり〜〜〜!!先月伯爵家へ塔で手に入れた物を届けただろ?」
「あ、ああ・・そういえばそんなこともあったが・・・その伯爵なのか?」
「そう。どうせまた騎士道精神満載で令嬢にも接したんじゃないか?」
「あ・・い、いや、伯爵から茶を勧められて・・・ほんの数分、席を同じくして、それこそ二言三言挨拶程度の言葉を交わしただけで・・・。あ、あれで?」
カルロスは焦り始めていた。
「『あれ』でも、『これ』でも、一目惚れに時間は関係ないって。」
ミルフィーは完全に面白がっていた。
「勿体ないと思うんなら、行ってあげたら?あ・・でもそうすると依頼がなくなってしまう・・か・・。」
「ミ、ミルフィー・・お前、オレの気持ち知ってるだろ?」
「さ〜〜て・・どんな気持ちだったっけ?」
「おい!」
ガタッと立ち上がってカルロスはミルフィーの両肩をぐっと掴む。
(やばっ!少しからかいすぎた?)
ミルフィーはカルロスの怒ったような表情にどきっとする。
何事も度がすぎると火の粉は自分に降りかかってくる。怒りなどで我を忘れた場合、剣でならまだしも、そうでない場合、体格的にも体力的にも男であるカルロスに太刀打ちできるはずはない。その気になってその腕に掴まえられたら逃れられるかどうか分からない。
「ミルフィー・・・オレは・・・・」
熱を帯びたせつないような視線でカルロスはミルフィーを見つめる。
(ち、ちょっとたんま・・・・・・)
焦るミルフィーと、その2人を見てやはり焦るレイミアス。そして、またかよ、という表情のレオン。

「食事はすんで?」
そんなところに、チキとシャイが酒場へ入ってきた。
「あ・・・ちょっと待ってて。これ飲んだら出かけるから。いい仕事も入ったし。」
その声でカルロスの肩を掴む力が少し抜け、ミルフィーはほっとして慌てて向きを変え、その手から逃れる。
「ホント?」
そんな場面だったとは知らないチキは、純粋に目を輝かせる。
「そ。トレジャーハンターの腕の見せ所!トリック山もりの高層部の6ブロックだから、頼りにしてるね、チキ!」
焦っていたミルフィーもなんとか落ち着きを取り戻す。
「わ〜〜♪面白そう♪」
「おい、ちょっと待て、オレは行くとは・・」
「じゃー、今回カルロスはお休みということで・・・レオンとレイムは?」
「勿論行くに決まってるさ。」
「勿論!」
2人ともほっとすると共に、面白そうだと笑顔で即答する。

「じゃね、カルロス。行って来る。」
「お、おい・・ミルフィー・・・?待てよ、ミル・・・・」
同行するかしないか決心がつかないカルロスを無視し、チキと楽しそうに話しながらミルフィーはさっさとそこを後にした。
「・・・それはないだろう・・・・?」
カルロスの焦りとため息が聞こえるようだった。


「わー、今日もいいお天気。」
チキと楽しくあれこれ話しながら塔へ向かう道、ミルフィーは真っ青な青空を見上げて感嘆の声をあげる。
すがすがしい気持ちにさせてくれる青空がミルフィーは大好きだった。その青空を写したかのように、青く輝くミルフィーの瞳は、まだ誰色にも染まっていない。
澄み切った青空のように、深く、そしてさわやかな輝きを放っている。

(みんな無事でまたこうして青空を見ることができるように。)
心の中で呟きつつ、ミルフィーは、塔への大扉を開ける。
−ギギギギギーーーー・・・・−
「さーて、今日も元気よく、レッツゴーーー!!」


*Epilogue・おまけ*


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