--会話だけの謎なおはなしたち・その19--

『夢を追いかけ・・・アレクシード・その2』

 
【02/05/23】

 「アレクシード殿、この度の戦、そちのおかげで勝利を得たといっても過言ではない。」
「はっ、ありがたきお言葉、光栄の至りでございます。」
ケナサスシム王国、その謁見室、アレクシートは居並ぶ高級官僚及び諸将軍の前で、王直々の言葉を受けていた。
「人質として捕らえられていた姫もそちのおかげでこうして自由となり、我が元に戻ってきた。」
「は。」
上機嫌の王とそしてその傍には、美人との誉れが高い王女がにこやかに立っていた。
「そこでじゃ、約定通り姫を無事に取り戻した暁の報奨なのじゃが・・・どうじゃ、アレクシード、わしとしてもそちのような男なら文句はない。」
「あ、いえ・・・私は自分の任務を果たしたまでのこと。身分はわきまえてございますれば。」
「何を申しておるか。姫の、いや、この王国の恩人なのじゃぞ?」
「しかし、私一人で成したわけではありませんので。」
「それはそうじゃが、お主という人物がいたからこそその作戦も功を奏したと聞いておるぞ?
「は・・・・」
国王と姫の面前、膝を折り頭(こうべ)を垂れつつ、アレクシードは困惑していた。
約定とは、姫を娶り、ひいては王国を継ぐというものだが、アレクシードにはそんな気持ちはこれっぽっちもなかった。
「ともかく私にはそのような大それた事はできかねます。」
「む・・・。」
「姫君には姫君にふさわしいお方がいらっしゃるはず。私のような無骨者では・・。」
「そうか、残念じゃが・・・・・」
ちらっと娘である王女を見ると彼女はつん!と横を向いている。それを確認し国王は決心した。

「では、代わりとして褒美を取らそう。」
「はっ、ありがとうございます。」



「バカか、お前?」
「バカとはなんだ?バカとは?」
兵舎に戻ったアレクシードをシャムフェスの嘲笑が迎えていた。
「美人の姫さんと一国が手に入ったんだぞ?」
「それはそうだがな・・・・」
「気にいらんのか?」
意味ありげの視線でシャムフェスはアレクシードを見つめる。
「はは・・・・もったいないことをしたと誰しも思うだろうが・・・。」
確かに美人ではあった。そして、小国とはいえ、王国が手に入るのである。しかも故郷のスパルキアよりは大きく豊かである。
が・・・一国を治めるということは並大抵なことではない。剣士としての道を望んでいたアレクシードにとって、それは畑違いとも言えた。
それに、やはり第一の理由は、好きでもない女とこれから先連れ添っていくということがアレクシードには考えられなかった。
そんなのはどうとでもなるとシャムフェスからはからかわれたが、どうあってもアレクシードは気が進まなかった。
「ま、なんだな・・・お姫様ってのは疲れるからな。」
「お前でもそう思うのか?」
シャムフェスなら姫君だろうがなんだろうがお手の物じゃないのか?とアレクシードは笑う。
そして、自分が断ってきた王女を思いだしていた。
よく言えば毅然とした態度。悪く言えば冷たくどちらかというと蔑んだ視線でアレクシードを見つめていた。
戦士であり一介の傭兵でしかしていないアレクシードに騎士道精神はない。一応のレディーファーストくらいは知ってはいるが、王宮仕えの騎士のようなわけにはいかない。自分をそして王国を救った勇者であるとは認めるものの、彼女の目には夫として受け入れる思いは宿っていなかった。
「美人だ、美人だとちやほやされてたこともあるしな。結構気位高そうだったしな。」
アレクシードの考えていることを読み、シャムフェスはにやっと笑う。
王女の救出作戦をたてたのは他ならぬシャムフェス。そして、それを実行したのがアレクシードを筆頭とした少人数グループなのである。勿論シャムフェスも参加している。計画を立ててそれ行け、というのは、シャムフェスは嫌いだった。そして、それはシャムフェスだからこそ、アレクシードがいたからこその命知らずの作戦でもあった。


「まー、なんだな・・王さんになっても王妃に見下されてたんじゃなー・・。」
「それは言い過ぎだろ?見下されるかどうか夫婦になってみないと分からんさ?」
「ん?なんだ?ものにしちまえばこっちのもんだとでも言うのか?」
にやっと笑うシャムフェス。
「その気がないだけでな。」
同じくにやっとしてアレクシードは笑みをかえす。


「わははははっ!」
2人は明るく大笑いしていた。
 

   『参:銀の鷹』

 
 
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