☆ その19・ともかく合流 ☆

 

タタロスに着いた渚はリーと別れると、ジプシー団の占い師を探して、広場に来ていた。
「あのぉ〜、こちらに占い師のシュメさんとおっしゃる方がいると聞いてきたんですが。」
忙しく動き回る彼らの間を聞いて回り、ようやく、シュメのいるテントを見つけ、中を覗いた。
「おお・・あんたは、あの時の、イルのお連れさんじゃったの。渚さんとか言ったかの?」
「え、ええ、そうです。おばあさんが、シュメさんですか?」
渚はおずおずと勧められたイスに腰掛けた。
「そうじゃ。おや?イルは一緒じゃないのかの?それにファラシーナは?」
「ファラシーナさんとおっしゃるんですか、あの人?」
「そうじゃ。わしの孫娘じゃ。・・・ん?なるほど、そうじゃったのか?」
渚の顔つきを見て、理解したシュメは、ほっほっほっと笑うと渚に事の経緯を話した。そして、どれほどイルが渚の事を心配していたかを。
「とにかくじゃ、高熱の中ずうっとお前さんの名を呼び続けておっての。目が覚めると、真っ先にお前さんの姿を探すし。酷い怪我をしておるのに助けに行くんだ、と言って聞かなんだり・・・・ほっほっほ、よっぽどお前さんに惚れておるんじゃな。」
「で・・・でも・・・」
「ああ、孫娘の事か。あいつはしょうもない娘での・・・まぁ、気にせんでおいとくれ。あれは病気じゃで、治らんのじゃよ。別にイルでなきゃならないなんていう事じゃないんじゃ。」
「は、はあ・・・。」
そうは言われても意地になってしまっていた渚は、果して今度イルに会ったとき正直になれるかどうか分からなかった。イルにあんな態度をとってしまった後では。
「それはそうと、どうやって山賊の所から逃げて来れたんじゃ?」
「え、ええ・・実は・・・・」
渚は捕まって気がついたとき牢屋に入れられており、その中の怪我人を治す為に竪琴を奏でたら不思議な事に山賊が全員その心を入れ替え、町まで送ってくれた事を話した。
最も本当に町まで送ってきたのは、山賊に見えない術師だけで、あとの男たちは途中まで。何といっても人相が悪すぎる。
「はてさて、不思議な事があるもんじゃ。」
「ええ、でもこの竪琴は本当に優しくなるというのか、とにかく心が洗われるような気持ちになるんです。これは、月の女神ディーゼの竪琴なんです。」
渚は今までの経緯をシュメに話し、神龍の居所を教えてくれるよう頼んだ。
「ふむ、なるほど。それで分かったわい。」
シュメは納得したように頷いた。
「な、何が分かったんですか?」
渚はイスから立ち上がり、水晶玉のおいてあるテーブルにもたれ、シュメの顔をじっと見た。
「このタスロー大陸南部の殆どを占めるファダハン王国の事じゃ。国土の大部分が砂漠と化してから、ファダハンは緑豊かな土地を求めて領土拡大を図ったんじゃ。その近隣諸国への侵攻は目に余るものじゃった。・・・・酷い戦じゃった。・・・このジプシー団にもそれで親を無くした子が多い・・・みな、飢えておっての・・わしらのお頭が拾わなんだら・・・命はなかったじゃろう・・・。」
「シュメ・・さん・・・」
しばらくシュメはその時の事を思い出しているのか黙っていたが、思いついたようにまた話しだした。
「おお、そうじゃ、話の続きじゃ。これは、旅人やら吟遊詩人やらに聞いた話じゃがの、半年前の事じゃ。そのファダハンの王宮の真上で、天を裂くような雷がなっての。なんと、王を直撃したんじゃ。人々は自業自得だと噂しあった。じゃが、異変はそれだけでは済まなかった。王の葬儀も出さぬうちのことじゃ。王宮の中心から真っ白になっていくんじゃ。不思議な白色じゃそうな。建物も木々も動物も人さえも、それに襲われると失くなってしまうのだそうな。辺りは一面真っ白に化し、それは少しずつ広がってきておるそうな。」
「そ・・・そんな・・・・。」
渚の目は驚きで大きく見開かれていた。男神ラーゼスはすで実行していたのだ。世界を創世の前に戻すという事を。渚はゼノーの言葉を思い出していた、『始まってしまった世界の崩壊を止めることはできぬ。』という言葉を。
「い、急がなくっちゃ・・・」
慌ててテントを出ていこうとする渚をシュメが呼び止めた。
「神龍の居場所は分かっておるのか?」
「あっ・・・・」
真っ赤になりながら渚はまた水晶球の前に座った。
「水晶の精よ、我に示せ・・・神龍の居場所を・・・・」
透明だった水晶の中心から、虹色の靄が出て、やがてそれは水晶一杯に広がった。そしてその靄の真ん中に少しずつ景色が見えて来た。そこに見えたのは吹雪の中にそびえ立つ真っ白な山だった。それが消えると今度は、真っ赤な炎を映し出した。
「炎って事は、炎龍よね。でも炎龍が・・・雪の中・・・?」
渚は祀恵の言葉を思い出していた。
(ほ、本当に・・・なっちゃった!)
「炎龍はこの大陸の北にある雪山、フリーアスにおる、という事じゃな。」
「遠いんでしょ、そこは?」
「そうじゃな、2、3ヵ月はかかるじゃろ。ここ、シセーラも高山地帯じゃが、それよりはるかに高い山々が連なるところじゃ。」
シュメは大きく溜息をついた。
「で、でも行かなくちゃ。何かいい方法は、ないんですか?あ、あの・・空間移動の魔法とか、ないんですか?」
「ふむ・・空間移動、か。わしのじっ様もそれはできなんだ。孫娘も無理じゃろう。イルも・・出来るのじゃったら、わしらと会うのにわざわざ歩いては来なんだろうし・・・」
考え込むシュメを渚は祈るような気持ちで見つめていた。
「おお、そうじゃ。精霊魔法じゃ。召喚じゃ。精霊に頼めばできるかもしれん。じゃが・・・その術師がどこにいるか・・・」
一端輝いたシュメの眼が再び沈んでしまった。
「精霊使いは、だんだんいなくなっておるでのぉ・・・・。」
「私、知ってるわ!」
渚は思わず叫んだ。山賊の術師、リーがそうだった事を思い出した。
「ありがとう、シュメさん。私、急いで行って頼んでみる。」
「それはいいが・・・もう夕刻じゃ。娘が一人で外に出るのは危険じゃぞ。この女不足のおりじゃ・・真っ昼間からはできんが、夜なら・・・・」
渚はシュメの言葉にどきっとして、出ていこうとした足を止めた。
「狭いが馬車に2人くらいなら寝れる。今から宿を探すのも大変じゃろう?足元を見られるし、女1人じゃ・・・危ないでの。」
「す、すみません。お世話になります。」
渚はほっとした。ここにいればイルもそのうち来るかもしれない。
(イルに会ったら謝らなくっちゃ。)
渚はシュメの勧めでみんなと火を囲み、一緒に食事をとった。

翌日、渚は朝食を終える早々、ジプシー団を後にした。早くリーに会って、神龍の所へ行かないと、とも思っていたが、実のところ、渚の頭のなかはイルが昨夜来なかった事の方が大きく占めていた。
渚が夕方、町に来たというのに、イルが町に着かないはずはない。考えられる事は、町の宿の何処かに泊まったという事。もしかして、ファラシーナと一緒に?という考えが頭を過り、昨日の反省もすでに何処へやら、渚は頭に血が昇って冷静さを欠いていた。
−ドシン!−
「あっ、ごめんなさい。」
急いで走っていた為、渚は街角で男とぶつかってしまった。背の高い少し目つきの悪い男だった。渚はやばい、と思い、慌てて謝ると小走りに通り過ぎようとした。
「おい、ねぇちゃん・・」
男は走り去ろうとする渚の腕を掴んだ。
「な、なんですか?」
「ごめんなさい、で済ますつもりか?怪我でもしてたら、どうすんだ?」
渚は思った、こんながっしりした男は自分が思いっきりぶつかったって痛くも痒くもないはずだ、と。が、そこは、自分がぶつかったのと、それとその男が恐かったのと両方で、今一度謝ることにした。
「す、すみません。これから気をつけます。」
「すみません、で済みゃ、軍隊はいらねえんだぜ。」
男はぐいっと渚を引き寄せた。
「で、でも、別にぶつかろうとしてぶつかったわけじゃ・・・・。」
「そうかい、じゃ、許してやろう。」
男がそう言ったので渚はほっとした。が、なかなか手は放してくれない。
「あ・・あの・・・」
「しばらく俺の看病でもしてくれりゃあな。」
にたぁと笑うとその男は渚を引っ張り歩き始めた。
「ちょ、ちょっと・・・手を放してよっ!どこも怪我なんかしてないでしょ?看病する必要なんてないでしょっ?」
渚は何とかその手を振り払おうと必死で抵抗した。が、痛いほど握られ、振りほどけそうもない。回りの通行人は素知らぬ顔をしている。
(ど・・どうしよう?・・イ、イルぅ・・)
渚はいつの間にか心の中でイルを呼んでいた。
「なかなか気の強そうな女だな。ま、1人で歩いてるくらいだからな。へへへ。」
男のその笑い声に渚はぞっとした。
「あんたのぶつかったここが痛いんだよ。」
男は、にやにやして、渚がぶつかってもいない自分の股間を指した。
(ま・・・まさか・・・?)
そのまさかだった。男の歩いていく方向には宿屋がある。
(じ、冗談はよしてよっ!)
「放してよっ!放してっ!」
どうあがいても男の手から抜けないと思った渚は、思いっきり男の腕を噛んだ。噛むのも不潔だと思ったが。
「いっ、いってぇっ!このアマっ!」
男が怯んだ隙に、渚は反対方向に必死で走った。が、男もそう簡単には逃がしてはくれない。すぐ捕まってしまった。
「このアマあっ!」
前よりもきつく腕を捕むと、男は平手打ちを加えようと右手を高く上げ、渚はぎゅっと目を瞑った。
(殴られるっ!)
が、その手はなかなか振り下りて来ない。恐る恐る渚が目を開けると、イルが男の腕を掴んでいた。
「な・・何だ、この野郎?」
「その娘は俺のもんなんだ。勝手な事してくれちゃ、困るな。」
男は渚を掴んだまま、イルの手を振りほどくと怒鳴った。細身のイルでは大したことないと判断したらしい。明らかに馬鹿にしたように男はイルを見ていた。
「どこに証拠があるってんだ?あん?あんちゃんよお?」
「ここに・・ね。」
「どこだ?」
訝しがる男の鳩尾に、イルは透かさず一発拳を入れた。
「ぐっ、や、野郎っ、俺とやろうってのか?」
男は鳩尾を押さえ、叫んだ。とその時、イルの片手に燃え盛る火球を見た。
その途端男の態度が変わる。
「な・・なんだ。術師だったのか・・・そ、それは・・どうも、失礼を・・・。」
男はそそくさと去って行った。
「イル・・・あ、ありがとう。」
渚は昨日の事もあり、言いたくなかったが、イルが来なければどうなっていたかと思うと、礼を言わずにはいられなかった。
「だから、俺から離れるなって、言ってるだろ?」
イルは手の火球を消すと渚を睨んだ。相当ご機嫌が悪いようだ。
「・・・・・」
イルの不機嫌さに押され、渚はいつものように言い返せなかった。
「でもどうして、すぐ行っちゃったの?」
「術師は一目置かれるんだ。普通人には魔法は防ぎようがないし、もしその時は良くても後で呪いをかけられるとか、恐いもんな。同業者でもなけりゃ、術師を相手に喧嘩をする者はいないというわけさ。」
「ふ、ふ〜ん・・・。」
「だから、渚、俺のそばから離れるんじゃないぞ!分かったな?!」
「・・・・・」
本当はファラシーナとの事を聞きたかった渚だが、ここはイルを立てるしかないか、助けてもらったんだし、と思い黙って頷いた。

 

♪ to be continued ♪

 
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