☆ その17・二 人 旅 ☆

ニーグの村では、村長夫妻が急にいなくなったイルを心配していた。
そして、2人は帰ってきたイルと渚を大喜びして、温かく迎えた。
4人は夜の更けるのも忘れ、廃墟での出来事等を話していた。
「とにかく、一日も早く龍玉を集めに出掛けた方がいい。が、問題はどこに神龍がいるか、だな。・・・グナルーシがいれば相談もできたのだが・・・。」
イルは村長のその言葉でグナルーシを思い出していた。やさしく、そして厳しかったおじいを。渚もまた思い浮かべていた、そのやさしい笑顔を、あたたかさを。
「・・・とにかく、今日はもう遅いから寝たほうがいいわ。イルも渚も疲れてるでしょうから。また明日、考えましょう。疲れを取ってすっきりすれば、またいい案も考えつくかもしれないわ。」
気づくとすでに時計は午前3時を指していた。
カーラにそうすすめられ、とにかく山道を歩き続け疲れ切っていた身体を休ませることにした。
興奮と不安でなかなか眠れなかった渚だが、疲れがいつしか深い眠りへと誘っていった。

「う〜んと・・・神龍はどこにいることにしようかな?」
「えっ?」
意外な言葉を耳にして、渚ははっと目を開けた。
彼女は再び暗闇にいた。そして、目の前の四角い明かりの中には、祀恵の思案する顔が写っていた。
「今日渚からマップデータをもらおうと思ったのに、怒って帰っちゃうし、家に行ったら渚があんな事言いだすもんだから、すっかりもらってくる事を忘れちゃったし・・・。」
渚はその驚きのあまり、声も出ず、しばらく祀恵の顔に見入っていた。映画の大画面にドアップされたように写っている祀恵の顔に。
「炎龍が火山で水龍が滝じゃ、当たり前すぎてつまらないし・・・風龍は・・・どこがいいんだろ?う〜ん・・・赤、青、緑の玉。ホントは渚と相談してみようと思ったんだけどな。あの子、時々突拍子もないこと言いだすから、結構いい案を思いつくかもしれないのに。・・・あ〜あ・・・どうしよう?」
(な、何?この展開って、としちゃんが考えたストーリーなのぉ?)
渚は驚いた。確かにここは渚が作った地図に似てはいるが、まさか話の展開まで、作っているようになっているとは思いもしなかった。
「と、としちゃん、どこか近くにして!あんまり難しくしないでよ!!」
思わず画面にすがりつき、叫んでしまった渚だった。
「う〜んと・・・そうねぇ・・・そうだ!その反対でいこう!炎龍は氷の中、水龍が砂漠ってのもいいかもしれない!そして・・風龍は、風龍は・・・う〜ん・・・風は・・無風地帯なんてないなぁ・・・宇宙ってわけにもいかないし、まっ、いっか、今のところはそれで。」
−カチャカチャカチャ・・・−
どうやら祀恵はその展開でいくようだ、タイピングの音がし始めた。
「んでもって・・ここでのイベントは・・」
−カチャカチャカチャ・・・−
「としちゃん、それって何処にあるの?教えてってば!としちゃんっ!」
内容も言いながらタイピングしてくれればいいのに、と渚は思っていた。それと同時に思いついた、渚はまだそんな場所のマッピングをしてないことを。
「部長でも作ってきたんだろうか・・それともこれから・・・?」
(部長ってすぐ私と反対の事をするんだから。そんなに気に入らないんなら、今度の提案も却下すれば良かったのに。いつも私がこうすれば?って言うと、ああした方がいいって言って、私の分担に口を出してきて、取っちゃうんだから!)
渚はいつも自分にちょっかいばかりかけてくる山崎部長の事を思い出していた。渚をからかっては喜んでる最低野郎を。
が、しばらくして、今、自分がそんな事してる場合じゃないということを思い出した。
「そ、そうだった!あんなアホ部長なんてどうでもいいんだ!としちゃんは?」
画面には祀恵の真剣な顔が写っていた。多分マウスを使って設定でもしているのだろう、その真剣な視線があちこちへと向けられ、時々『うん・・これでよし』とか言っている。
(何とか内容が聞こえないかなぁ・・・?)
「としちゃん、としちゃんっ!」
渚は大声で画面を叩きながら祀恵を呼んでみた。
「ふぅ〜・・・やっぱり駄目?・・・」
呼ぶことを諦めた渚はそこに座り込んだ。
(ああ・・・これからどうなるの?これってまるっりロープレだけど・・・でもゲームと違うところは・・・本当に死ぬって事よね・・・死んだら・・もし私が、死んでしまったら・・・・)
「ああ、もうっ!何でこんなマンガか小説のような事が起きちゃったわけ?」
渚は頭が混乱し、やけになって叫んだ。

『チチチチチ・・・』
翌朝、渚は小鳥の鳴く声で目を覚ました。この村にいる限り迎えられる平和な朝の風景だ。窓からは青空と木々、そして小鳥が囀っているのが見える。この世界が崩壊に向けて動きだしており、それを渚たちが制止するために出掛けなくてはならない、などという事は、この平和そうな風景からは想像できなかった。
渚はいろいろ考えながら、とにかく起き上がった。
「1人で考えてても始まらない・・・か。」
「おはようございます。カーラさん。」
「おはよう、よく眠れた?」
台所に行くとカーラが朝食の支度をしていた。
「はい。私、手伝います。」
「そう?じゃ、これを隣の部屋に持って行ってくれない?」
カーラはテーブルの上の朝食用のパンと食器を指さした。
「はい。」
渚が隣の部屋に行くと、そこにはもう村長とイルが座っていた。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「おはよう、渚」
こうしていると本当に平和なのに、と渚は感じた。
(でも事実は事実なんだから・・・)
「渚、何、ぼけーっとしてるんだ?」
イルが笑いながら渚に言った。
「えっ?・・・べ、別に・・・。」
慌ててテーブルにパンを置くと渚はまた台所に戻った。

朝食後、村長から占いのよく当たるシュメという名のジプシーの話を聞き、とにかく、旅に出ることに決めたイルと渚は出発の準備をした。
食料、着替え、薬草、そして村長が調達してくれたお金、それらを持ってイルと渚はニーグの村を後にした。
もちろんモンスター対策としてあの魔法玉を持つことも忘れてはいなかった。但し、ガラス玉は貴重品であり、その上、それに魔法を封じ込んだ魔法玉は高価なので、あまり手に入れられなかった。
夫妻は2人を村外れの峠まで見送った。

ジプシーの一行が、シセーラ公国に巡業に来るのは、その短い夏の間、しかも大きな町だけ。と言ってもシセーラ公国自体が小さな国なのだ、当然町の規模もあまり大きくなく巡業先は限られていた。

「まず、一番近い町、『ナセル』だな。」
歩きながらイルは地図を見て言った。
「大体1週間ってとこだな。」
「その途中に村とかはないの?」
「『アシナ村』なら3日で着くけど、途中は何もない。山道が続いてるだけだ。」
「じゃ、じゃ、野宿?」
渚は覗き込むようにしてイルの持つ地図を見る。
「なんて言ってもシセーラは山奥の国だからな。まっ、所々に山小屋はあるけどな。木こりや、猟師の一軒家とかもあるし。なんとかなるだろ?」
「う・・うん。」
気楽に言うイルと違って渚は少し不安を覚えていた。
渚にとってこんな旅は初めてだったから。旅行と言えば、もちろん自家用車か乗り物で、そしてきちんとしたホテルなどで宿泊するに決まっていたからだ。キャンプの時は別として。
とにかくこうして歩いて行くのも始めてなのに、泊まる所さえどうなるか分からない、それに・・・
(それに・・イルと、男の人と2人っきり・・・の旅なのよね・・・。)
渚は改めてその事の重大さを実感していた。
「なんだよ、何かついてるか、俺の顔?」
「う・・・ううん、別に。」
イルに言われ、いつの間にか地図からイルの顔にその視線を移していた事に気づき渚は、慌てて顔を背けた。
「は、は〜ん・・俺に見惚れてただろ?」
「そ、そんなんじゃないわ!」
意地悪そうな顔をして言うイルに渚は慌てた。
「じゃ、どんななんだ?」
「・・・だから・・・」
「だから?」
「そ、その・・・い、いいから、急ぎましょっ!」
渚はそう言うと歩を早めた。
その渚に追いつき、イルは彼女の方を見ずに言った。
「心配するな。俺は、この旅が終わるまでお前には手は出さないと誓ったんだ。このイヤリングが黒い限り、俺はお前には決して触れない。」
「イ・・イル・・。」
渚はイルのその横顔を見た。その目は、遠くを見ているようだった。
イルは思っていた、廃墟での事もある程度、ゼノーに操られていたのではないかと。渚が愛しい、欲しいという気持ちに偽りはない、あの時もそうだった。が、自分の内のどこかにゼノーが潜んでいるような気がした事も確かだった。
(もし抱いているうちにゼノーの意識の方が上回ってしまったら・・・渚は闇に堕ちる事になる。そんな事になってしまっては!・・・)
2人っきりの旅に感じていた不安感は、渚よりイルの方が大きいかもしれなかった。

 

♪ to be continued ♪

前ページへ 目次へ  次ページへ