☆ その16・再会と姫巫女の予言 ☆

 

渚は黒の森だった森の入口近くにある廃墟に倒れていた。
それは大昔、ディーゼ神殿に仕えていた魔技たちが住んでいた、ごく小規模な住居跡。
「う、う〜ん・・・・ここは?廃墟・・みたいね。多分・・あの世界に来たんだと思うけど・・・・でもこういう所って何かいいアイテムが手に入るものなのよね。」
どういうわけか道案内を頼めるララがいない。もし、どこかに飛ばされたか、助け手を求めて行ったのなら、動かない方がいいと思った渚は辺りの探検としゃれこむことにした。
が、本当はイルが死んでいたら、という考えを振り払う為だった。
渚は、ほとんど崩れかかっている家々を隈なく探し回った。
「何にもない・・・・」
諦めかけていた時だった・・・
−バキ、バキッ−
廃墟の丁度中心にある少し大きめの家の中を歩いていると、急に床が音を立てて割れ、渚はそこから落ちてしまった。
「きゃっ!」
そこには通路があった。
「いったぁ〜・・・・」
渚はお尻を撫でながらその通路を進んでみる。
「この紋章は・・・確か。」
行き止まりの扉には竪琴と剣を形どった紋章が彫ってあった。それはディーゼ神殿で渚が見たものと同じ。
「う〜ん・・・押しても駄目なら引いてみな・・引いても駄目なら・・・駄目だわ、引っ張る所がない・・・・・。」
把手もないその扉はびくともしない。
仕方なく渚は上へ上がる階段を見つけて外へ出た。
「ふう・・どうしようか。ここがどの辺か分かれば・・・」
森から吹いてくる風はとてもやさしく、空は雲一つ無く真っ青。渚はその家の前の広場でちょうどいい石を見つけると、その上に座りじっと空を見上げていた。
「イル・・・死んでなんかいないわよね?」
いつの間にか考えないようにしていたイルの事を思っていた。

「チュラッ!」
「ララッ!やっぱり一緒にこっちに来てたのね。お前どこに行ってたの?」
ララが跳ねて来た。思いも掛けない、いや期待はしていただろう人物を後に従えて。
「渚。」
座り込み、ララを手に乗せた渚は、人影に気づき見上げた。そこにはイルが立っていた。
「イ・・・イル・・ほ、本当にイル?・・」
「ああ・・・渚こそ・・無事だったんだな。」
渚の目に涙が溢れだし、頬を伝い始めた。全身が震えていた。
「イル・・・・」
イルは胸に飛び込んできた渚をしっかりと抱き留める。
「渚・・・よかった・・・。」
じっと見つめ会った2人は、お互いの存在を確認していた。どちらからともなく唇を近づけると熱い口づけを交わした。
「渚・・・」
イルの唇が渚の唇から離れ、首筋へそして渚の胸へと移っていった。
「あ・・・イル・・」
「渚・・」
渚はイルの熱い口づけに酔いしれていた。と、何か冷たいものが胸に触れ、びくっと全身を震わした。その感触に、渚は確かに覚えがあった。それはあの黒の魔導士、ゼノーの冷たい唇の感触と一緒。
「えっ?」
目を開けた渚が見たものは、イルの耳に下がる黒銀のイヤリングだった。
「い、いやあっ!」
渚は恐怖に駆られ、イルを突き放しそばを離れた。
「渚?」
イルは渚の行動が理解できなかった。どうして?、と思いながら身を固くして震えている渚を見た。
そして、ふっと気づいた、黒銀のイヤリングの事を。
「渚・・・これは、これは俺が気づいた時、どういうわけか着いていたんだ。どうしても取れないんだ。・・・」
イルは渚にゼノーの声の事を話した。そして術に陥ったようになって渚をここへ呼んでしまった事を。
「あ・・・」
渚は後悔した。一瞬とはいえ、イルが本物なのかどうか疑ってしまった事を。突き放してしまったことを。
「ご・・ごめんなさい・・私・・私。」
「い、いや・・・お、俺も・・ごめん・・」
「う、ううん、イルは悪くない。」
ふと、思いついたイルは腰袋から銀の剣を取り出すと、渚に近づき彼女の耳のイヤリングに着けた。
「あ、ありがとう。見つけてくれたのね?」
「ああ、あの闇のオーブの前で。」
イルは今一度渚をこの腕に、という感情に駆られたが、ぐっとそれを堪えると、渚に背をむけ、辺りを見回した。
「そ、それで・・ここはどこなんだ?」
「イル、知らないの?」
「ああ、森を歩いていたら、いきなりララが飛び出て来たんだ。後は、ララを見失わないよう走って追いかけてきたから・・・だいたいの方向くらいは、わかるんだけどな・・・。」
「ふ〜ん・・何の廃墟なのかしら?あっ、そうだ!」
渚は目の前の家の地下でディーゼ神殿にあったものと同じ紋章のついた扉があった事を話した。
「う〜ん・・やっぱり行ってみるべきだな、それは。」
「でしょ?でもさっきは開かなかったんだけど・・・」
「とにかく、もう一度行ってみよう。」
ひとまず目的ができた事で、少し気まずくなってしまった雰囲気が和らぎ、2人はほっとした。
しばらくはお互いを意識し合わなくてもいいようだ。気が楽になったような、少し残念のような、おかしな気持ちだった。

「ここか?」
扉の前で2人は立ち止まる。
「把手も何もないんだな・・どうすりゃ入れるんだ?」
「うん・・・私もそれが分からなくて・・」
「そうだな・・・びくともしない。」
イルが押しても開きそうもなかった。
「やっぱり駄目なのかなぁ?」
渚がそう呟きながら一歩扉に近づいた時だった。渚のイヤリングが突然ぱあっと輝くと、その扉はゆっくりと開いた。
「イ、イル・・・」
「ああ・・・・」
イルは渚の肩を抱くと一緒に警戒しながら、その部屋に入って行った。
薄暗いその部屋の中央には魔方陣が描かれてあった。一瞬、洞窟のものと同じでは、という考えがイルの脳裏を過ったが、それはそうではなかった。
魔方陣の中央に何かある、と思ったイルは、渚を後ろに従えながら近づいた。
「・・・・・!」
2人は声も出ず、立ち尽くした。そこには魔技と思われる老婆の首が台座の上に乗っていた。
「姫巫女様・・・・ですかな?・・いや、そんな事があるはずは・・・ない・・・姫様は、逝ってしまわれた・・。それに、あれからもう随分時は過ぎているはずじゃ・・。」
ゆっくりと目を開けたその首は渚の姿を見つけると話し始めた。
「あ、あの・・・・。」
渚はイルの背に隠れ、イルは来るであろう攻撃に備え、身を構えた。
「警戒せんでもよい。わしは闇の者ではない。最後のディーゼ神殿に仕えていた姫巫女、セイアス様の乳母を勤めていた魔技じゃ。」
「姫巫女様の?」
警戒しながらイルが聞いた。
「そうじゃ。・・・なるほど、姫巫女様の予言はどうやら具現したらしいの。」
魔技の首はイルの耳に下がっているイヤリングを見つけると悲しそうに言った。
「予言?」
「そう、予言じゃ。新たなる黒の森が現れるという予言じゃ。・・・
『太陽神ラーゼスが世を嘆き、全てを無に帰さんとする時、
 その武具、闇に染まりし者の手に、移らん。
 世界は白龍から黒龍の手に落ち、人の世は、ここに終わらん。』
・・・というものじゃ。」
「・・そ、そんな予言は聞いたことが・・」
「当たり前じゃ。姫様は誰一人として口外せなんだのじゃからの。このおばば以外には。」
その首はしばらく目を閉じ、遠い昔に心を馳せているようだった。
イルと渚は身動きもせず、じっと見つめていた。
「じゃが・・・」
再び目を開けると、その首はゆっくりと話しだした。
「『異世界から来た黒髪の娘と巫女の血を引く青年が立ち向かっていくであろう。』とも姫様は申された・・・・。」
「異世界?」
「そうじゃ、そこなる娘はこの世界の者ではないであろう?そうじゃな?」
「・・・・・・。」
渚は何と答えていいか分からなかった。確かにそうではあるが、驚いたように渚を見つめるイルに説明のしようがなかった。
おばばの話しは続く。
「よいか、そこなる男よ。その娘を連れて、太陽神殿に行くのじゃ。そして、今一度男神ラーゼスの心を開かさせるのじゃ。その時、そなたの耳にある男神の武具はその輝きを取り戻し、再び黄金の光を放つじゃろう。そして、その女神の武具を持つ娘と共に、世界を救うがよい。よいか、これだけは忘れてはならぬ。男よ、もしそなたが闇の心に染まれば、それは一切不可能となる。男神の武具は漆黒の色となり、世は闇に支配される・・・。」
「な・・・」
イルは言葉が返せなかった。
「よいか、黒とはいえ、今はまだ輝きを放っておる、もしそれが輝きを失いつつあるような時は、そなたの心が疑心暗鬼にかられておるのじゃ。利欲、悲嘆、憎悪、疑い、嫉妬、絶望、殺意、様々な負の精神が漆黒の闇色に染めていくのじゃ。そこなる娘もまた然り。決して闇の者の手に堕ちるでないぞ。よいか、ゆめゆめ忘れるるなかれ、世はそなたたち2人の肩にかかっておる。仲間は選べ、悪しき心を持たぬ者を選ぶがよい。」
「太陽神殿はどこに?」
すでに警戒も解け、逃れえない運命だと悟ったイルは、重苦しい声でおばばに聞いた。
「このタスロー大陸東、海底深くに沈んでおる。」
「じゃ、それじゃ、行けないじゃない?」
1歩近づいた渚が絶望したように言った。
「龍玉を集めるのだ。神龍である、赤龍、青龍、緑龍の持つ龍玉を。それをその海上でかざせば、海底が隆起し、神殿が姿を現すはずじゃ。」
「で、でもその神龍とはどこで会えるの?それですぐ龍玉はもらえるの?」
「・・・・それは、分からぬ。じゃがお前たちはやらねばならぬ。・・・おばばが知っておる事はそれだけじゃ。・・・これで、やっと・・・わしも眠る事ができる・・・姫様のお側に行く事ができる・・・・。」
静かに目を瞑ると、その首は台座の上からかき消えた。

後に残ったイルと渚はしばらく声も出ず、静まり返ったその場所に、呆然と立ちすくんでいた。
おばばの言葉が2人の頭の中でいつまでもこだましていた。


♪ to be continued ♪


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