その35・新しい出会い
***ミルフィー編・1***

 

 『決まったか、カルロス?』
−ハッ!−
暗闇に包まれ、何も考えていなかった・・・そのカルロスの状態は、金龍の言葉によって遮られた。
(今のは・・・夢だったのか?)
周囲を見渡す。そこは金龍の神殿。そして、頭の中に響く金龍の言葉は、今のが夢だとカルロスに確信させる。
『お主にとって、これ以上ない困難な選択だと思うが・・・双方とも選べぬと申すのならそれでもよい。そして・・・お主が望むならば、彼女に関する記憶をお主の中から消しさってやってもよいぞ。』
「あ・・いや・・・例えどんなに苦しい記憶でも、それが私自身なのですから、お言葉には心より感謝いたしますが・・・」
『そうか。それでは少し変えよう。』
「変える?」
『そうじゃ。どちらかに会うか、それとも会うことは断念するか・・・それは、今後のお主の判断としよう。ただ、元の世界に帰るか、それともこれから生まれ変わるミルフィーの世界に行くか、その選択だけとしよう。ただし、後者を選んだ場合、彼女を取り巻く環境により、まるっきりの別人である可能性もあるのだが・・。』
「・・・・私は・・・・・・・・」
まるで現実だったようなついさっきの夢。カルロスはそれを考えていた。
それは、一番可能性がありそうな展開だとカルロスは思った。だから、無意識にそんな夢を見てしまったのだと。が、それでもミルフィアへの想いは確かに自分自身の中にあるとカルロスは思う。見知ったミルフィアか、まるっきり別人の可能性もあるミルフィーか。
永遠に続くかと思われた沈黙のあと、カルロスはゆっくりと口を開いた。
「私は、やはり過去(ミルフィア)へ戻るより、未来を選びたいと思います。ミルフィーの中に彼女を見た時点で、私の中ではミルフィアはミルフィーになっていた。やはり私が愛しているのは彼女なのだと思うのです。ならば、例え彼女がどう変わっていようと、生まれ変わったその姿も性格も変わっていようと、私は彼女に会いたい。彼女が最初からの生を選んだのなら、私もまた最初からの出会いを選ぶべきなのだろうと思うのです。・・・今までの事を白紙に戻し、新しい彼女と新たなる出会いを・・そこから始まるスタートをお願いします。・・・例えそこで彼女との繋がりが途絶えようとも、それが私の道(人生)なのだと。」
『分かった。では、行くがよい、生まれ変わった彼女の元へ。お主の目でしかと確かめるがよい。』



「・・・ここ・・・は?」
闇に包まれたあと、カルロスの視野にぼんやりと写ってきたものは、1つの町を眼下に見下ろせる小高い丘。が、眼下に広がるそこは燃えさかる炎に蹂躙されていた。
(敵による急襲でも受けたのか?)
−ご〜〜〜〜〜・・・パチパチパチ−
空をも焦がさんばかりの勢いで真っ赤に燃えさかる巨大な炎。それは、まるで炎の魔神に占拠されているようだった。
−ガササッ・・ドン!−
背後の茂みに気配を感じて振り返ったカルロスに人影がぶつかる。
「お願いです、剣士様・・・このお子をお願いします・・・どこか遠くへ・・」
カルロスの耳元で女性らしいその人影は口早にそう言葉を残すと、再び走り出てきた藪の中へと戻っていった。
「お子?・・・」
ぶつかるのと同時に手渡されたもの。布で幾重にもぐるぐるに巻かれたそれの上部をカルロスはそっとほどいてみる。
(・・・・ち、ちょっと待て・・・こ、これは・・・)
密封に近い状態だったせいか、あるいは、薬か術で眠らされていたのだろうか、そこには呼吸も弱々しくぐったりとなっていた幼子があった。
が、手渡していった女性の雰囲気から、今はそんなことを考えている場合でもなさそうだと判断したカルロスは、女性が戻っていった方角とは反対の方へと走り始める。
丘の背後に広がっていた森の奥へ奥へと、闇に紛れひた走りに走った。


「ロクシア自治区が隣国のカンサンに落とされたそうじゃないか。」
「ああ・・・区長一家は1人残らず惨殺されたってことだよな?」
「急襲をかけた夜、館にいた者1人残らずだろ?」
「らしいな。ロクシアの持つ鉱山はおいしいからな。つまりは狙っていたってことか?だけど、不意打ちされるとは誰も思わなかったよな?うちの王さんだってさ?」
「ああ、王さんも慌てて軍を派遣したらしいけどな・・後の祭りだよな。」
「ロクシアには財源もあるからな。結構強力な自警団があったんだよな。それが災いしたってことか?」
「・・ああ。国王も警戒して他の自治区へも正規軍を派遣したらしい。」
「カンサンとは一触即発状態か?」
「争いを好まず、街の自治を認めてくれてるいい王さんなんだけどなあ?」
「ああ、カンサンの王はそうじゃないんだろ?」
「そうだな。まー、普通の王さんっていうか・・・少なくとも自治は認めてくれないだろ?占拠状態だよな?」
「なー、こんな話を聞いたんだけどよ?」
「なんだ、こんな話って?」
「ああ、あのな、数日前から里帰りしていたらしいんだ。ロクシアの区長の娘。」
「娘?王宮務めしていた娘か?ってことは、ま、まさか?」
「ああ、そのまさかさ。子供も一緒に里帰りしてたんだよ。」
「おい!それって・・その子供って皇太子の子供・・?」
「そういうことだ。」
「や、やっぱり殺されたのか?」
「うーーん、どうだろうなー?その娘の死体は広場に張り付けにされた区長一家の中にあったそうなんだが。子供は・・・」
「確かまだ2つかそこらだっただろ?」
「ああ。」
「カンサンの王さんは、その娘に求婚もしてたって噂もあったよな?」
「そうそう。もちろん求婚といっても正妃じゃない、妻妾としてだけどなー。だけど、娘はほぼ同時に受けてた皇太子の求婚に応じたんだよな?ま、こっちも正妃じゃないけど。」
「じゃ、今回の急襲の原因はやきもちか?」
「ははは・・それだけじゃないだろうけど・・・・・個人的にはそれもあるんだろうな。」
「美人の娘を持つのも大変だな。」
「はははははっ!おめーにゃ関係ない心配だろ?」
「ま、そうなんだけどよ?」
「ぎゃはははは!」
「だけど、笑い事じゃねーぞ?たとえガキでも王族が殺されたとなっちゃ、王国のメンツってもんもあるからな?」
「まだ殺されたって決まっちゃいねーだろ?」
「決まったようなもんだろ?全員殺されたってんだから?いくらなんでも赤ん坊の死体まで張り付けにして見せしめとするのはできなかったってだけだろ?」
「じゃ戦争か?」
「うーーん・・・もう始まったも同然なんだろうけどなー?この先どうなることやら?」
「だけど、皇太子には嫡子である王子もいるだろ?王女といっても庶子だしな?」
「それでも国としてのメンツがあるだろ?」
「う〜〜ん・・・・・・やっぱり戦争が始まるのかなあ〜?」


−コトン−
その惨状を目のあたりにしたそこから数キロ離れた小さな町。その町の酒場でカルロスは情報収集の為、周囲の男達の話に耳を傾けながら食事を取っていた。
(ここへ来る早々、やっかいごとを引き受けてしまったということか・・ぶつかってきたあの女性は・・・オレにこの子を渡してから、敵に掴まったんだろうな・・・オレがこの子を連れて逃げる時間を稼ぐために?)
ちらっと横の椅子に寝かせてある幼子の顔を見る。
「ふ〜〜・・・・」
金龍もとんだシチュエーションを与えてくれたものだ、とカルロスは苦笑いする。
「おやじ、ここへ置くぞ。」
「へーーい、まいど〜。」
必要な情報も手に入り、カルロスはその酒場を後にして宿に帰る。

(しっかし・・・オレに育てろというのか?・・・・・どこかの国の話じゃあるまいし?自分の手で育てた娘と・・・・?し、しかし、それにしても年が幼すぎるっていうか・・・この子が年頃になる頃、オレはいくつだ?・・・じゃなくってだな・・・たとえ無事に育てられたとしても、父娘としての感情に落ち着いてしまうことも考えられるぞ?・・もしくは、他の若い男を好きになって育ての親であるオレのところからは巣立っていってしまう・・とか?)

−うが〜〜〜・・・−
狂気に身を任せてしまいたいほど、カルロスは混乱していた。
その混乱しているカルロスの目の前、ベッドの上で安らかな寝息をたてている幼子は・・そう・・その小さな女の子は確かにミルフィーの生まれ変わり。それは一目見た瞬間、カルロスの第六感が感知した確かな事実。
(それにしても・・生まれ変わっても苦労が耐えないっていうか・・・なかなかに厳しい、いや、厳しすぎる環境だな、ミルフィー?)
あの場にもしも自分がいなかったら、今目の前にいるミルフィーもおそらく命がなかっただろうとカルロスは思う。
(劇的すぎる再会だぞ?・・金龍ももう少し考えて生まれ変わらせてやればいいものを。・・そうだな、平凡でもいい、平和な人生が送れるような。)
カルロスは勝手なことを考えていた。

そして、恋した女性の生まれ変わりの親代わりという奇妙な生活が始まった。
が、子育てなど始めての経験のカルロスには、とまどうことばかりでもあった。
それでも、なんとかなったのは、そのとまどっている様子に業をにやした宿の女将やちょうどその場に出会わせた女性などの手助けがあったからである。
その生活を2週間ほど送ったカルロスは、ミルフィーを包んであった布の間から見つけた母親の手紙に従って、王宮を目指すことにした。

「カリュ♪カ〜ァリュゥ〜!」
そして、数週間後、国都にある王宮で、カルロスに肩車されてご機嫌なミルフィーの姿があった。


「カルロス、どう?私、きれい?」
「はい、姫様。とてもおきれいです。」
そして、それから13年後、くるっと回って美しく着飾ったドレス姿を誇らしげに見せる15歳になったミルフィーと満足そうに頷くカルロスの姿があった。
「今日から私も大人の仲間入りよ。もう子供扱いは許しませんからね。」
「姫様・・・(ミルフィー・・・)」
確かにそのドレス姿はまぶしかった。他の男に見せるのがくやしいくらい、カルロスにはまぶしかった。カルロスが長年心待ちにしていたミルフィーの成長した姿がそこにあった。

隣国カンサンとの危機は、カルロスの活躍で終止符を打ったといってもよかった。剣士としての腕と人望、そして蓄えた経験と知識。カルロスから離れようとしなかったミルフィーに、最初は守り役の剣士として王宮務めすることとなったのだが、その才を買われ、兵士としてそして武官として厚遇されるようになり、一部隊を率いるようになったカルロスの作戦勝ちであの事件から数年後、何度か小競り合いはあったものの、最終的には平和に収まっていた。

そして、その日は、王女であるミルフィーの社交界デビューの日。
各国の王族が賓客として招待され、盛大な舞踏会が開かれることとなっていた。もちろん美姫として名高いミルフィー目当ての王子たちもその中には多くいた。



「カルロス・・私・・・・」
その1年後、両の瞳に涙をいっぱいため、何かを言おうとしたその言葉を飲み込んで、ミルフィーは、隣国カンサンへと嫁いでいった。

社交界デビューのその日、両国の恒久平和の為、王子の正妃として望まれたミルフィーに、そして、国にとっても、断われるわけはなかった。
年老いた王の後を継ぎ、国王となっていたミルフィーの父は、娘であるミルフィーのカルロスに対する想いを知ってはいたが、その功績と人物としては認めるが、父娘ほど年の離れたカルロスより、年齢も近く、末は国王になる王子との方が上手くいくのではないかと思われ、そして、なによりも両国の平和の為、申し入れのあったその日、重臣共々即決したのである。
そして、その大義名分の前に、カルロスも手の打ちようがなく、そして、ミルフィーは王女という自分の立場上、それを承諾するしかなかった。
それまで、毎日剣術の指南や学問、そして、どこへ行くにも護衛として付き従っていたカルロスは、王女であるミルフィーの元から遠ざけられ、公の場での謁見しかできなくなった。
そして、隣国へ嫁ぐその日の早朝、周囲の目を盗んでカルロスの館に忍んで来たミルフィーとの、それがあまりにも短くそしてせつなすぎる逢瀬だった。



「結局・・オレには手の届かない存在なのか?・・・・何度生まれ変わっても?」
空を仰ぎ、カルロスは後悔した。
(あの時、王宮へなど連れて来ずに、どこかで2人、ひっそりと暮らすべきだったのか?・・それとも、いつまでも子供扱いしていたのが悪かったのか・・・オレと比べて自分は子供だからという表情が時にミルフィーにあったが・・・待つべきでなく、もっと早いうちに想いを告げていればよかったのか・・・オレとしては逸るその想いを抑える為、必要以上に彼女を子供扱いしていたかもしれない。それが悪かったのか?)
・・・あれこれ後悔の念と悲しみがカルロスを覆っていた

カルロスに子供扱いされてご機嫌ナナメのミルフィー王女様/^^;



「やったわ!1本取れたわっ!」
「さすが姫様・・・そのうち追い越されるかもしれませんな。」
「王国一のカルロスを倒すことができたら、私が王国一の剣士?」
「そうなります、姫。」
カルロスの脳裏に在りし日のミルフィーとの剣の稽古の様子が浮かんでいた。
姿形は違えど、名前は、といっても幼名だが、ミルフィー。そして、国王の許可を得てから始めた剣術は、驚くほど身につけるのが早く、そして、ぐんぐん腕をつけていった。さすがミルフィーだ、と感心するくらいでもあった。
そして、気さくで明るいその笑顔は確かにミルフィーのものだった。
「ミルフィー・・オレはこれからどうしたらいい?」
その問いに答えは見つかりそうもなかった。



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