−キン!ガキン!シュピッ!−
王宮の一角、闘技場とされているそこで、剣を交える音と人々の歓声が響き渡っていた。
その地は、リーカンファナ公国の北の隣国であるカリューンという小さな国。ラードが嵐の中海に落ち、流れ着いた海岸は、一応大陸は間違ってはいなかったが、予定していたよりうんと北寄りだった。
ジンの家を後にして海岸から離れ大陸内部への道を辿っていたラードは、王の使いに捕まってしまったのである。もちろん原因は、ラードを追いかけていきそうだったアンを思いとどまらせる為口にした言葉を、アンがいつも立ち寄る村の雑貨屋でこぼしたことが原因だった。
「今日はたくさん買い込んでってくれないんだね?おや?そういえば、最近一緒に来てた荷物運びの兄ちゃんもみかけないけど・・どうしたんだい?」
気さくに声を掛けた雑貨屋の女将に、アンは少し悲しげな表情でラードが出ていったことを話した。銀騎士であるラードを引き留めておくことはできないから、という言葉も付け加えて。
そして、その女将から村中に、そして、村から村へ、町へ、そして国王の元までも銀騎士がこの国にいるという噂がすっ飛びかもめ。
結果として、ある町へラードが入った途端、国王の使いという者たちに懇願され王城へと来てしまったのである。いくら銀騎士などではないと言っても、彼らは頑としてラードがそうであると曲げなかった。
−キン!−
「遅い・・・まるで動きがスローモーションのように見える。」
国王のたっての願いということで、ラードは、国内外の腕に自信のある騎士、剣士らを募って開かれた御前試合で、剣を交えていた。
「確か、トーナメントを上がってきた最強の剣士・・だよな?」
優勝者は銀騎士と手合わせができる、これほどの剣士がいるのか、と思うほど、参加者は膨れ上がっていた。そして、それが最後の試合、銀騎士と優勝者との手合い。
荒々しく肩で息をし、必死の形相で向かってくるその剣士は、予想通り、王国一の剣士と言われていた人物であった。
ラードより頭1つ背も高く、体格もがっしりとしていた。腕もかなりのものだと、それまでの試合で感じていた。
が・・・いざ、本人と剣を交えてみたラードは、その事実に驚いていた。
(つまりこれって・・・・)
攻防を続けながら、ラードは、ミルフィーを筆頭とする龍騎士たちとの手合い、そして、戦いを思い出していた。
(スピードや一撃の重さ、鋭さがまるっきり違うんだ。ここ数年、ミルフィーや他の龍騎士たち・・・つまり、普通じゃない彼らが相手だったからか?)
−ガキン!−
渾身の力を込めた一撃であろうそれも、今のラードにとっては、さほど重さは、そして、鋭さは感じられなかった。
−ギン!−
それを軽くはじき返され、相手の剣士は、焦りと、そして、恐れを感じ始める。
それでも、王国一の剣士という肩書きと己の自尊心、剣に対する熱い情熱をかけ、再び全力を振り絞ってラードに突進する。
−キーーン!−
が、いつまで続けていても結果は同じ。ラードは、必死の形相に加え、荒い呼吸をしているその剣士の限度を感じ、隙をみてその剣を高くはじき返す。
「勝負あり!」
「わあああっ!!!!」
(銀騎士・・いや、龍騎士の面目は保った・・・なんとかなった・・よな・・・。)
試合中に感じた事実に驚きと納得を感じながら、ラードは一応ほっとしていた。
試合前は、銀騎士などと呼ばれていて、もし、負けたらどうしよう?と心配もしていたからだった。
そして、今更ながら龍騎士たちの、そしてミルフィーの剣の腕をラードは重く感じていた。
(最後の最後まで・・オレ、ミルフィーからは1本も取れなかったしな・・・・)
国王の賛辞、周囲の喝采も耳に入らず、ラードは、礼を取るとその場から退場した。
「さー、さー、銀騎士殿、今宵はうんとお楽しみあれ。闇龍による恐怖もあなた様のおかげで無事解決・・・世界もこれで安泰。いやー、めでたい!めでたい!」
「それにしても、昼間の試合はお見事でござった。」
その夜、王宮の大広間では、賑やかに宴会が催されていた。
「銀騎士様・・・あ、あの・・・おひとつ・・・・」
選りすぐりの美女たちが、遠慮がちに酒やつまみをラードに薦める。
普通の客人ならもっと強気で薦める彼女たちも、相手が創世龍の守護騎士では、そうもいかない。畏怖の念が彼女たちを控えめにさせていた。
そして、国王の娘たちとの対面。
美しく着飾った王女らが、次々とラードの前に進み出て、腰を折り深々と頭を垂れて挨拶をしていく。
(ったく・・・なんでこう・・考えることってワンパターンなんだ?)
国王の目論見は簡単に判断できた。もちろん、ラードにはそんな気があるわけはない。
どんなに熱い視線を流そうとも、試合のせいで改めて脳裏に浮かんでくるミルフィーたちとの手合いに思いを馳せていたラードには、まるっきり効き目がなかった。
「面倒だよな・・このまま銀騎士として、ここを出たんじゃ・・・・きっと国王並、いや、それ以上のご一行様の旅ってことになっちまうよな?」
東の空が白んできたころ、ようやくお開きになったその宴会を後にしたラードは、立派に整えられた貴賓室で考えていた。
「こんな立派な部屋も落ち着かないっていうか・・・・ベッドもふかふかすぎて寝られやしねー・・・。」
つくづく育ちの違いを感じながら、ラードはそこからの出奔を決心していた。
「世話になったままで悪いけど・・・やっぱこういうのってオレの趣味にあわねーや。」
−シュッ!スタッ!−
陽が顔を出す前、その薄闇の中、ラードはそっと王城を後にした。
位置もはっきり把握した今、まっすぐ炎龍の神殿を目指して。
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