その29・銀龍の守護騎士



- これもお絵描きソフトで描いたものです。/^^; -

 

 −ザザーー・・ザザーーン−
「・・ん?・・・」
(こ・・ここは・・・・オレ・・・?)
「気づいたかの?」
「え?・・・オ、オレ・・・おじいさんは?」
波の音と、潮風が入ってくる見知らぬその部屋で、ラードはベッドに横たわっていた。その傍に老人が一人。
「あっ!気がついたんだね、旅人さん!」
「え?」
ドアを開け入ってきた少女が一人。笑顔でラードを見つめ言葉を続ける。
「何かほしい?飲み物がいいかな?それともお腹空いてる?」
「あ・ああ・・・・」
−ぐきゅるるる−
ラードがお腹に手をあてると同時に、思い出したように合唱をした。
「う・・」
「じゃ、軽い食事と飲み物、持ってきてあげるわね。」
恥ずかしさで顔を少し赤くそめたラードを見て、くすくすっと笑った少女は、ドアを開けて出ていった。

「あ、あの・・・ひょっとしてオレは・・・」
老人はにっこり笑うとラードの問いに答えた。
「一昨日の事じゃ。ひどい嵐の翌日での・・・落雷を受けた大きな鳥が海に落ちた夢を見たとかで、孫娘にせがまれて浜辺を見回ったときに見つけたんじゃ。」
「孫娘って・・さっきの?」
「ああ、そうじゃ。アンと言うんじゃが。」


ジンと名乗った老人はラードに浜辺に打ち上げられ焚いた時の様子を説明した。
そして、しばらく一人で考えた方が落ち着くだろうと、食事を運んできたアンと共に、ジンはその部屋を出ていった。


「嵐・・・落雷にあって・・・・海・・へ・・・・」
カラカラの喉に一気にジュースを流し込み、そして、数口パンを口に入れてようやく少し落ち着いたラードは、ぼんやりとその日の事を思い出していた。

「確か、風龍の大陸から、鳥人のように翼をつけて・・・・で、降りる陸地が見えたのはいいけど、降り方がわからなくって・・・・困って・・・・海岸沿いに飛んでるうちに嵐がきて・・・・そこまでは覚えてるんだけどな・・・まともに雷を受けたんかな?・・・・それから覚えてないや。」
ぽりぽりと頭をかきながら、ラードは窓から見える海に視線を飛ばしていた。

「ミルフィー・・・セイタ・・・」
そして、気を失っている間、繰り返し、繰り返し見ていた夢・・・遠い日の思い出のように感じられるそれを、ラードは思い出していた。



「ラード、もうギブアップなの?それでも男なのっ?!」
「そ、そんなこと言ったってだなー・・・ミルフィーのようにいくわけないだろぉ?」
はひはひ、とラードは荒く息をしていた。
それは、黄金龍との邂逅の前、シモンの死のあと、どこをどう探しても銀騎士など見つかりそうもなさそうだと、全員感じていた頃の事。
銀龍を裏切った、己の主を殺したシモンであり、もはや銀騎士ではなかったが、黄金龍を目覚めさせるその時には、シモンとミルフィーとでいいのだろうと誰しも思っていた。金騎士と銀騎士の激しい闘気が目覚めさせる黄金龍・・・シモンとミルフィーの手合いでいいのだろうと。
が、予想に反して、その前にシモンは他界。そして、その時の探索地であった地下神殿で、銀龍の剣を手にして立っていたのは、他ならぬラードだったのである。それは、シモンの最後に立ち会った形となったラードに、シモンが見つけたそれを、ラードの手に握らせたのだったが・・・・それでも資質がなければ手にすることはできないはずだった。
シモンは・・・ラードの手の中におさまっている銀龍の剣を満足そうに見つつ、息を引き取ったのである。

が・・・ラードの地獄はそれから始まった。
ファンガスの進言もあり、ラードの銀騎士としての特訓が始まったのである。
資質はあったかもしれない。が、それまでもミルフィーから時々手ほどきは受けてはいたものの、守護騎士として、ましてや銀龍の守護騎士としては、とてもではないがお世辞にも満足といえる腕ではなかった。
といっても、普通の剣士としては十分通用する腕ではあるのだが、龍騎士としては、土台レベルが違うのである。

旅を続けながら、一日の終わりには、ミルフィーとファンガスが交代でラードに特訓をし続けていた。
もちろん、ラード自身もそれを希望したのだが・・・崩壊の時が迫りつつあることもあり、その特訓は日一日と激しい上に激しさを帯びてきていた。
確かに焦りからきているかもしれない、と、ミルフィーは時に反省することもあったが、それでも不可欠であることも確かだった。そして、それは、ラードが一番感じている事でもあった。異常なまでに激しくしかけてくるミルフィーに対してではなく、自分の不甲斐なさを感じて。

「ち、ちょっとたんま・・」
必要不可欠だとは己自身も分かっていても、身体はそうは動いてくれない。腕は思うように上達してくれない。
荒い呼吸をしてラードは一息つけさせてくれとミルフィーに懇願の目を向ける。
「ラードっ!?」
「ち、ちょっとだけ・・な・・・・一口・・水を・・一口だけでも・・」
「今飲んだら、動けなくなるわよ!」
一口水筒に口をつければ、我慢しきれなくなる。その後はわかりきっていた。
一気にむさぼるように水を喉に流し込み、そして、一気に吐きだす。同時に訓練を続けようと言う戦意もなくなってしまう。
「だ、だけど・・ミルフィー・・オレ、もう限界・・・」
なんとか音になっているくらいのしわがれた声でラードはとぎれとぎれに言う。
「・・・仕方ないわ・・・いいわ、飲みなさい。」

そして、予想通りの状態になったラードの背を悲しげに見てから、ミルフィーはラードの傍を離れた。回復の呪文を唱えれば、身体は簡単に回復するが、技を身につけさせようとしている今、そうすることはその前の訓練も無にしてしまうことになる為、できないのである。


「ミルフィー・・・」
「ファンガス」
その日は野宿。森の中でテントを張っていた。
沈んだ面もちでテントに向かってくるミルフィーに、ファンガスが声をかける。
「すごいな・・・オレがつけてもらいたいくらいだ。」
「何言ってるのよ。」
龍騎士として十分腕のあるファンガスには、不必要でしょ、とミルフィーは苦笑いする。
「いや、やはり神龍を抑えられる金騎士だけある。オレは、腕には人一倍自信があったんだが・・あんたの動きを見ていると、それもなくなってくる。」
「そんなに変わらないわよ。ううん、私よりあなたの方が。」
「ははは・・・まー、訓練じゃそうみえるかもしれんが、ここ一発という本番には、普段の倍以上の力を発するっていうか・・・いや、それが本領発揮ってやつなのかもしれんが。」
「運がいいだけかもしれないわよ?」
「運がいいのも腕のうちさ。」
「そう?」
「ああ。」
「どうだ、訓練をつけるといったんじゃ気がのらないかもしれないが・・動き足らないんだろ?次の目的地まで暇だからな。」
「そうねー・・・。」
「それともオレより腕が下と分かるのが恐いか?」
「まさか?」
「じゃ、いいだろ?」

−キーン!ガキン!−
「す、すげ〜〜・・・・・・」
セイタの介抱もあり、少し落ち着いたラードとセイタが目にしたのは、龍騎士同士の激しいぶつかり合い。
勢い良くぶつかり合う剣と剣から飛び散る火花。そして、ものすごい重圧を感じるほどの2人の闘気。
それは今心の底にある不安をうち消す為の放出とも言えた。



「ミルフィー・・・黄金龍を目覚めさせる時だって、あんたがいたから、どうにかなったんだ・・・オレ一人じゃ、オレじゃまだまだ銀騎士とは言えなかった・・・今だって・・・。」
苦しかった修行、いや、それよりも自分自身の不甲斐なさが苦しかった。
「全部の龍玉をそれぞれの神龍の元に預け終わっても・・・オレ一人で黄金龍の元への道は開くことができるのかどうか・・・・」
ミルフィーの場合のように銀龍と意思通じができるわけでもなく、そして、銀龍からも一度としてしてくることはなかった。
「オレは本当に銀騎士なんだろうか?」
ベッドの横のテーブルに置かれていた自分の腰袋を見つけ、それを手に取ると、ラードは中から銀の短剣を取り出した。
使い手に従って大きさやその鋭利さまでも変化させるその神剣を手に取って見つめながら、ラードは、深く考え込んでいた。




 「ね、おじーちゃん、それでねー・・」
「ははは、そうか、そうか・・・」
身体の回復を待ちながら、ラードはジンとアンの家である海辺の小屋で過ごしていた。
(・・セイタ・・ヤイタじーさん。)
祖父と孫娘、仲良く笑い合っている様子は、ラードに平穏だった頃のセイタとヤイタを思い起こさせていた。

そして、ふだんの生活に支障ない程度に回復してからも、ラードはそこに居続けていた。2人のために海に漁へ出たり、近くの村までアンと買い出しに行ったり。それは、その昔、セイタと共に過ごしていた日々でもあった。


「そろそろどうかの、ラード。」
「は?」
ジンの使いでアンが一人家を出ていたその日、ジンが意味ありげに話しかけた。
「身体の方は、見たとこ、もう大丈夫なんじゃろ?」
「あ、ええ・・まー・・。」
「あの子もすっかりあんたになついてな・・・・それはいいんじゃが、これ以上いてもらうと、あの子が嫌だと言いだしそうで・・・」
「ジン・・」
「話し相手しかできん年寄りだけじゃからの。」
「・・・・」
それは、ラードの旅立ちを促していた。
「あんたは単に旅をしているだけじゃないのじゃろう?何か大事な事の途中のように思えたんじゃが?」
「あ・・は、はい。」
「・・邪魔扱いするつもりはないんじゃ・・・・わしとしては、アンの事もある、ラードさえよければ、いてくれた方が嬉しいのじゃが・・・」
「それは・・・」
しばらくジンとラードはじっと見つめ合っていた。
「無理ならあの子にこれ以上期待させんでくれ。あんたも、・・急ぐ必要があるんじゃなかったかの?」
感ではあったが、ジンは最初からラードがただの旅人とは思えなかった。
そして、このことを言おうと決心したきっかけ、偶然見てしまった腰袋の中から出てきた銀の短剣から感じたこと。その輝きは、普通の短剣ではないとジンは直感的に思い、それはまた持ち主であるラードに対してもそう判断させたのである。


「分かった。」
ラードが動けるようになって以来、ジンがアン一人だけに用を言いつけて留守にさせることは珍しかった。
それは、つまり、留守の間に旅立つようにとのことだったのだろうとラードは判断した。
しばしの沈黙後、ラードは決心した。あまりにも懐かしく、そして居心地の良さに、つい長居をしてしまったことを後悔した。ラードはアンを通してセイタを見ていた、平穏で幸せだった時のセイタを。が、アンはセイタではなく、そして、アンにとってラードはラード以外の誰でもない。それ以上の長居は、アンを傷つけることにもなりかねなかった。今はまだよくても。

「一つだけ・・・聞かせてもらえんじゃろうか?」
「一つだけ?」
荷物をまとめ、ジンに改めてそれまでの礼を述べてから玄関から出ていこうとするラードの背中をジンの声が追った。
「あの子に聞かれた時、納得させる理由がほしいんじゃ。」
振り返ったラードの目に、少し恐れを感じているようなジンの表情が写った。
「納得させる理由?」
「つまり・・・ラード、お前さんは・・い、いや、あなた様は・・ひょっとして銀龍の守護・・・・騎士・・様・・・なのでは・・・・」
最後まではっきり言えなかったジンにラードはふっと軽い笑みを投げかけた。
神龍の守護騎士、そしてその中でも筆頭である銀龍の守護騎士は、その存在は・・・畏怖の念、つまり、恐れをも感じさせてしまう存在でもあるのだとラードは再認識する。
「・・・見習いだけどな。」
「は?」
自分の問いに対して返ってきた言葉の意味を考え、ジンが呆然としている間に、ラードは扉を開けて外へと出た。


「銀騎士がいつまでもめそめそしてちゃーいけねーよな?」
(見習いでも他に銀騎士はいないんだから。オレが・・・最後のけじめをつけなくて誰が・・・。)
青空に向かって小さく呟くと、ラードはアンが行った道とは逆に歩き始めた。


「で?炎龍の神殿はどっちなんだ?大陸は間違っちゃいないよな?」
のんびりと過ごしていた為、それまでに数回村まで行ったことがあるにもかかわらず、ラードはまるっきり位置の確認をしていなかった。今村へ行くことは、ひょっとすると探しにくるかもしれないアンと出会ってしまう可能性もあった。
「しかたねーな。ミルフィーの真似でいくか?」
ピン!とコインを空高く弾く。
「表ならこのまま海岸沿い!裏なら山に向かう!で、そのうちには町か村があるだろ?」
日差しを受けて光るコインを、ラードは目を細めて見つめていた。


がんばれ、ラード!見習い銀騎士!!(笑


 

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