
その28・風龍の神殿

−ザザーーン・・ドドーーン−
あれこれ思い出せば思い出すほど、ラードは怒りを覚えずにはいられなかった。が・・・今更怒ってみても仕方がないことも確か。 人々の信仰心を糧に強大な存在へと膨れ上がっていた闇龍。その闇龍と戦うには、肉体という殻の中にいては、守護騎士本来の力は出し切れなかったのだろう、とラードは、キシュロから聞いた。だから、「死」という関門をくぐり抜け、精神体となる必要があったのだ、と。 「で、最後のトドメ用にオレだけ仲間はずれってか?」 頭では納得していたが、感情はそうもいかない、簡単に割り切れるものではなかった。 『まー、そうぼやくなラードよ。』 「へ?」 不意に頭の中へ響いた風龍の声に、ラードは現実に引き戻される。 −ヒュゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜− やさしい風がラードを取り巻き、吹き上げる。ラードの視界は一瞬風によって閉ざされ、そして、次の瞬間、かの地、風龍のエリアであるどこまでも続く雲海と青空を映し出す。もちろん、目の前には半透明の身体の緑龍の姿がある。 「ね、寝ているのか?」 目を閉じたままの風龍からは、寝息も聞こえてきていた。 『さよう。私は今、深い眠りの底からお主に話しかけておる。』 「へーへー・・さいでっか。」 『そうふてるなラード。』 「足下にある台座の上へ置けばいいんだよな?」 風龍には答えず、ラードは龍玉を袋から取り出してそこに置く。 「ラードったら遅いじゃないのぉ?」 「あん?その声は・・・その声って・・・ミ、ミルフィーか?・・・」 ラードの顔が輝く。 「し、しかたねーだろ?この大陸に来るだけでもどれだけ苦労したか・・・分かってるだろ?前来た時みたいに赤龍もいなけりゃ、風に乗ってってわけにもいかないんだぜ?」 「そ、そう言われればそうね。神龍たちも力は無くしてるから。」 「ったく・・・」 文句を言いつつ、ラードの中では嬉しさがこみあげてきていた。そう、夢とも思えた地龍の神殿でのミルフィーとセイタとの会話。が、ミルフィーの声が聞こえたということは、それが事実だった証拠である。 「ラード?・・どうしたの?どこか怪我でもしてるの?」 龍玉を台座の上に置いたままそこへ座り込み頭を下げたままのラードを不思議に思ったミルフィーの声が響く。 「い、いや・・怪我は・・ないけど・・」 その事実に、思わずうれし涙がラードの瞳から沸きこぼれてきていた。それに気づかれたくなくてラードはうつむいたままだったのである。 ぐいっとその涙を袖で拭いてラードは勢い良く頭を上げる。 「ラード?」 「あ、いや、ちょっと風と一緒にほこりが目に入っちまって・・・はは・・・・」 「ラードったら・・・」 ごまかし笑いしたラードだったが、ミルフィーには分かっていた。 「ラード、全部の龍玉を神龍の元へ預けたら、カシモフ村へ行ってあるものをもらってきてくれない?」 「カシモフ村って・・・あんたが初めてこの地へ来たっていう?」 「そう。あなたとセイタちゃんに会った森の家から西の方角にある小さな村。」 「何かあるのか?」 「うん。そこにね、多分、そこのお社に奉納されてるんじゃないかな?と思うんだけど、この世界へ来る為にもらった銀龍の爪があるはずなの。」 「銀龍の爪?」 「そう。それを返してもらってからこっちに来て。」 「返してって・・・あんたじゃないのに返してくれるのか?」 「あら、だって今はラードが銀龍の騎士じゃない。銀龍の剣でも抜いて一振りすれば返してくれるわよ、きっと。」 「きっとって・・・相変わらず強引っていうか無茶苦茶っていうか・・。」 「別に危害を加える訳じゃないからいいでしょ。ね、ちょっと遠回りになるけどお願いね。」 「お願いって・・・何に使うんだ?必要なのか、それ?ひょっとして金龍と銀龍とのコンタクトに必要だったとか?」 「それは、こっちへ来てからのお楽しみ♪あ!それから、少しの間、私も神龍を通して話すことはできなくなるから。」 「は?・・な、なんだよ、それ?」 「だから、炎龍のとこでも水龍のところでも話はできないけど、大丈夫だから心配しないで。」 「しないでって言ったって・・・・説明してくれないと心配にもなるだろ?」 「うーーん・・・確約はできないから、ちょっと・・言いにくいっていうか・・」 「は〜?いいかげんにしろよな?オレ、今回のことでは頭にきてんだぜ?」 「そうカッカしないで、ラード。悪いことじゃないから。でも、必ずそうなるって保証もできないから、今言うわけには・・・・」 「だから、それはなんなんだって聞いてんだろぉ?銀龍の爪を持ってくと何か起こるのか?何がどうなってどうなるんだよ?」 「・・・・・」 「ミルフィー?!」 『すまぬ、ラード。もはや彼女と意思を通ずる事も限界だ。』 「なんだよ・・・・もう少しふんばれないのかよ?案外だらしないんだな、神龍も?」 『何か言ったか?』 「あ、いえ、何も。」 ミルフィーが何を言いたかったのか、銀龍の爪を持っていくと何が起こるのか、何のためにそれが必要なのか、ラードにはさっぱり分からなかったが、ともかくラードは最初の予定にカシモフ村行きを付け加えた。というか、付け加えないわけはないが。 「さーて、後は風向きと・・・幸運を祈る!」 「特大の幸運を祈っててくれよ。」 この大陸へ来たときと真反対の東の海岸。その絶壁にラードは翼龍よろしく、手製の翼を着けて立っていた。 それは、キシュロの発案に添って彼の妻と娘2人がここ1ヶ月夜を徹して紙を梳き、縫い合わせた手製の翼。樹齢1000年の木とカンシーラと呼ばれる荒海であるこの近海に住む鯨の仲間に分類される魚の髭とで作ったものである。風や水に強い丈夫さとしなやかさは抜群である。もちろん、荒海に漁へ出るなどということはできない。ちょうど浜に打ち上げられたというか・・そんな浜もないので、大嵐のとき、岸壁を乗り越えてきた波によって陸に打ち上げられて死んだカンシーラから取ったもの。 ここへは舟で来たラード。多少でも穏やかになる季節と時間を見計らい、荒海の中、死ぬ思いで梶をとり、岸壁近くで舟を捨ててなんとか岩場に泳ぎつき、そこから決死のロッククライミングをしてきたのである。もちろん、舟は粉々になってしまっている。帰りはどうしようか、と思案していたところに、提案したキシュロの計画にとびついたのである。 −ビューーーーーー!・・・バサッ!− 追い風に乗り、ラードは岸壁から舞い上がった。 「げーーーーー・・・・・」 と思ったら、一気に海面めがけて落下しはじめる。 「ひぇ〜〜・・・・・・・・・」 −ふわっ− 「あ、あれ・・・」 このまま海面に激突?と焦り青ざめたラードの身体は、斜め下から吹き上げてきた向かい風によってふわっと浮き上がった。 「た、助かったぜ〜〜・・・ったく、冷や冷やさせやがって・・・・」 −ヒューーーーーーーーーー・・・− つい今し方の恐怖もどこへやら、ラードは上機嫌で空の旅を楽しんでいた。 「ひゃっほ〜〜〜・・・・楽ちん♪楽ちん♪鳥になった気分〜〜〜♪」 上機嫌のラードが、降りる方法を考えてなかった事に気づき再び青くなるのは、もう少し先のことだった。 |