その31・追ってきた男



-お絵描き掲示板で描きました。-

 「げ・・・・山一つ間違っちまった・・・。」
ラードはその山の切り立った絶壁の上に立って、深い谷を挟んだ対岸を見つめていた。
谷の向こうには、炎龍の神殿があった。
「迷路のような森だからな〜・・・・道なんてものありゃしねーしな・・・・・」
そう、そこで方角を見定めたつもりでも、再び山を下りてそこへ向かうつもりが鬱蒼と茂った森の中で、どうなるか分からない。
以前、ミルフィーたちと一緒に立ち寄ったときは、炎龍の巫女ラファラが一緒だった。彼女の馬車でいとも簡単に神殿に着いた。が・・今回は・・・。
「は〜あ・・・・もう真夜中だし・・森に入ると夜行性の肉食獣や魔物がうるさいからな・・・仕方ない、ここらで火でも焚いて一晩過ごすか・・・」


目標を目の前にして、ラードはそこで野宿し、翌日、再び鬱そうと木々の茂る盛りへと入っていった。


そして、その数日後、なんとか炎龍の神殿にたどりつき、闇龍の一部を封印した龍玉を納めると、大陸を南下し、シゼリアへ船が出る港町へとラードの旅は順調に進んでいた。


−キィ〜〜−
夜遅く街へついたラードは、宿代わりに24時間営業の酒場へとやってきた。
少し軋みながら開いた戸の隙間から、店内が見えてくる。薄暗いそこには、バラバラにテーブルについた数人の客と、カウンターにやせた店主がいた。
「いらっしゃい。」
「スコッチ。ストレートでいい。」
「ほいよ。」
愛想のいい店主は、にこにこ顔でカウンターに座ったラードに話しかけてきた。
「こんな遅く街に着いたんですか?」
「ああ。」
どさっと床に置いたラードの荷物を見て店主はそれを推測する。
「それはまた急ぎの旅でも?」
「まーな。」
「明日の船は、もう満席らしいですよ。」
「そうなのか?」
出されたスコッチを一口喉に流し込んでから、ラードは店主の顔を見て聞く。
「・・・キャンセルってのもあるだろ?」
「さー、どうでしょうねー?ある時はありますがねー・・・・」
そして、はっとした顔で店主はラードを指さす。
「さっきからどこかで見た顔だと思ってたんですが・・・ひょっとして、お客さん、以前歌姫と一緒だった・・?・・・」
ぽりぽりと頭をかいてしばし考える店主。
「そうだ!思い出した!確か、用心棒兼ナイフ投げをしてた兄さんじゃ?」
「あ?・・・あ、ああ・・・」
この街での興行は1夜だけだったが、熱烈大歓迎を受けたことをラードは思い出しながら、苦笑いをして答える。
「で?兄さん一人なんですか?歌姫ミルフィーは・・一緒じゃないんですか?」
「あ、ああ・・・まーな・・ちょっといろいろあって・・・。」
「どこかで貴族様か大商人か誰かに?」
にやっと意味有りの笑みを浮かべ、店主は小声で言った。
「あ・・・・まー・・そんなところ・・かなあ?」
「で、歌姫一座は解散。兄さんは一人シゼリアに帰るというわけですか?」
「うーーん・・そういうこと・・かな?」
ラードは適当に店主の話に合わせていた。

「で、そのミルフィーという歌姫は今どこにいる?」
「ん?」
背後から男の声がし、ラードは振り返った。
いかにも剣士、いや、洗練された騎士であるという風情の男が一人、険しい表情でラードを睨んでいた。
「あんたは?ミルフィーとどういう関係なんだ?」
男の誘発に乗るべきじゃない、とは思ったが、他のことならまだしもミルフィーの事。ラードは無意識にその男に鋭い眼光を返していた。単なるファン故にミルフィーの所在を聞いたとは、男の雰囲気から言い難いと感じたからでもあった。

「あ・・すまん。いきなり失礼した。」
ほんの数秒二人とも軽くにらみ合うような状態だった。が、それは、ミルフィーの事を聞いた男が非礼を詫びたことで中断された。
横に座ってもいいか、という伺いを男の態度から悟ったラードは、やはり無言のままあごでカウンターを指し、それを許可する。
−ゴト−
カウンターに座り、すぐ横に携帯していた剣を抜いて立てかける。ラードは思わずその剣をみていた。職業病といったらいいのか・・自然とそういったものには目がいく。それなりのものであると感じれば、なおさらである。男のその獲物は、確かに神龍の剣と比べれば落ちるが、それでもこの世に二つとしてないだろうと思わせるものだとラードは感じた。

「オレは、カルロス・アシューバル。・・・貴公が知っているミルフィーがオレの知っている彼女と同じならば、教えてもらいたい。」
(カルロス・・・どこかで聞いたような名前・・だよな・・・カル・・ロス・・・・)
つい今し方とはうってかわって、好感的な笑顔で自己紹介するその男に、ラードは悪人ではなさそうだと感じながら、男の名前を反芻する。
(・・・カルロス・・カ・・ル・・・・)
そして、はた!と思いつく。
「カルロス?!カルロスって・・ミルフィーが時々こぼしてた奴?」
ガタン!、とイスを蹴るようにして立ち上がり、ラードは思わずカルロスを指さしていた。
「は?・・い、今・・・なんと言った?」
そして、その男、カルロスもその思いがけないラードの言葉に驚いて目を丸くする。
「あ・・だからさ・・ミルフィーが、時々、カルロスっていう男の名前を口にしてたんだよ・・・ほんの時々だけど・・・・あ、あんたが、そのカルロスか?」
「ミルフィーが・・オレの・・名を・・・・?」
冒険の仲間としてならまだしも、男としては自分は嫌われ、だからこそミルフィーは一人この異世界へ旅だったものだと思いこんでいたカルロスの目は、ラードの言葉で輝く。
「だけど、あんたがそのカルロスかどうかは・・証拠はないよな?」
「あ、ああ・・・。」
ふと気づいたことをラードは口にした。再び男に少し鋭い視線を投げかけながら。
「オレはラード・マーカライト。ここじゃなんだから。」
くいっと戸口を顎で指すラードに、カルロスは黙って立ち上がる。
「ごっそさん。」
−チャリン−
酒代をカウンターの上に置くと、ラードはカルロスを従えて外へと出ていった。


「さてと・・・この辺りならいいよな?」
街外れから続いている荒野。
ラードの闘気に応え、カルロスは、剣を抜き構える。

(ち、ちょっと待てよ・・・オレって、銀龍の騎士だ・・よな・・・・あの国での試合の参加者が弱かったってわけじゃない・・・よな?)
数週間前の剣術大会でラードは王国一の剣士と戦った。その剣士もそれなりの気があったが、ラードの相手ではなかった。そのことでラードは自分の成長を認識したのだが・・・今対峙している男の全身から燃え立つ闘気は・・・比べものにならないほど、静かに、そして、激しいものだった。

−ギーン!−
が、ラードも負けてはいない。二人の剣と剣が、そして、闘気と闘気がぶつかり合う。

−ギリリ−
「この太刀筋・・・これはミルフィーのものだ。彼女と比べれば多少キレは落ちるが・・しかし、間違いない・・・これは・・・・ミルフィーの剣術・・・」
ミルフィーから剣を教わったラード。確かにその太刀筋は違うところもあるが、ミルフィーのそれに似ているところもあった。
剣を交え、二人は視線を交えていた。そして、その視線からお互いの意を感じると、同時に剣を引く。

「ラード殿・・」
「ラードでいいよ。」
「では、ラード・・・ミルフィーは今どこに?」
「その前に聞かせてくれ。あんたミルフィーの何なんだ?恋人か?」
「う・・そ、それは・・・・」
「何で今頃のこのこと追いかけてきたんだよ?恋人なら、一番必要な時にいるべきだろ?・・・ミルフィーがどれだけ苦労したか、口には出さないけど、彼女だって女なんだ。不安な時だって迷いだってあっただろう。誰かに不安を吐き出したいときも、意見を求めたい時だってあったと思う。・・・それを・・・命を賭けた最終決戦の時にいなくて、今頃・・・・」
ぐっと握り閉めるラードの手は震えていた。カルロスの腕が大したものではなかったのなら、そんな思いはしなかっただろう。が、カルロスの腕は、確かだった。ミルフィーやシモン、そしてファンガスら神龍の守護騎士に決して劣ることはないだろうと思われるほどの腕と気迫。もしも、闇龍との最期の闘いの場にいたら、ミルフィーは・・そう思うとラードは自分の心を抑えきれなかった。

「・・・最終決戦?・・・・・そ、それは?」
ラードの言葉を沈んだ面もちで聞いていたカルロスは、その言葉に我を忘れてラードの肩をぐいっと掴む。
鷲掴みしたその手を払いのけ、ラードはカルロスに背を向けて押し黙る。
「ラード?教えてくれ、何があったんだ?彼女は今どうしてる?酒場の主人が言ったようなことではないはずだ。」
ラードの態度から、それだけは違うとカルロスは感じていた。
「ラード?」

泣いているような背中だった。その背中に、カルロスは剣を交えた時から感じていた不安が自分の中でぐっと大きく、そして、確かな物として全身を覆うのを感じる。
「それだけの腕を持っていながら・・なんで、なんでミルフィーだけよこしたんだよ?!」
震える肩でラードは叫んでいた。
「相手は創世龍と互角の力を持つ闇龍だぞ?心配じゃなかったのか?あ、あんたは・・・い、今頃のこのこ探しに来るくらいなら、どうして最初から一緒に来てやらなかったんだよ?」
「ミ・・ルフィー・・・は?」
くるっと向きを変え、心の傷を吐き出すように叫んだラードにカルロスは呆然とする。考えたくもない言葉『死』という言葉がカルロスの脳裏に浮かぶ。
「う・・嘘だ・・・」
彼女の死を悟り青ざめたカルロスに、ラードは視線を逸らすことで、答えていた。
「・・・嘘なら、どれほど気が楽になるか・・・」
「嘘だ!彼女は銀龍に腕を見込まれてこの世界へ来たんだぞ?・・彼女の腕は・・・」
「だけど、闇龍の力はそれを越えるものだったんだ!」
「・・・・・・」
血を吐くようなラードの言葉に、カルロスは絶句していた。
再び向きを変えたラードの背に、カルロスは呆然と視線を流していた。いや、事実は何も視野に入らない状態だった。

「オ、オレは・・・・」
不意にガクッとカルロスはその場に膝をつく。全身から一気に力が抜けていた。
「オレは・・・今まで何をしてたんだ・・・・ミルフィーを・・この手で守る為に・・・必至で行方を追い、ようやく・・・ようやく、同じ世界へ来たというのに・・・・」
間に合わなかった・・全てが遅かった・・まさか・・そんな事はみじんも想定していなかった。
ようやく来れた銀龍の世界。ここまで追いかけてきたのか、と多少呆れ気味のミルフィーの笑顔に会えるものと思っていたカルロスは、一気に慟哭へと突き落とされた。


「話してくれないか、その最期の戦いを。」
しばらくしてカルロスは口を開く。
「カルロス?」
男のくせに守ることもできず、みすみす目の前で死なせたのか、と責められることを予期していたラードは、カルロスの言葉に驚いて、そっと振り返る。
地に座ったままだったが、カルロスの瞳は落ち着いていた。
「大人なんだな、あんた。」
「・・・さあ、それはどうだか・・。」
事実、カルロスは、自分に対する憤りと彼女への想い、そして、死の悲しみに打ちひしがれていた。
(なぜもっと早くこれなかったのだ・・・いや、なにがなんでも一緒に来るべきだった。)
・・・・今となってはどうにもならないことだと十分知りつつ、自分を責める声はカルロスの内で消えそうもない。
が、事実は事実として知っておきたい、その気持ちも確かにあった。そうすべきだと言う己の声が。


「じゃー・・。」
「ああ・・」
夜が白んで来ていた。闇龍との最期の戦いの話も終わり、二人は別れる。
「あっ!カルロス、ちょっと待ってくれ!」
「ん?」
不意に呼び止められ、カルロスはラードを振り返る。
「あ、いや・・・実は、黄金龍の元への道を開くときは、2人の剣士の闘気が必要になるんだ。」
「ああ、そうだったな。が、オレは神龍の騎士じゃないぞ。」
ラードから聞いた話を思い出しながらカルロスは答える。
「神龍の騎士じゃないにしても、あんたのその腕と気迫なら十分だ。まだ不十分だったオレの闘気をカバーしてミルフィーが頑張ってくれた時より、オレとあんたなら・・・」
「しかし・・・」
一瞬考えてからカルロスは続ける。
「そうだな、必要なら協力してもかまわんが、それでどうなる?ミルフィーが生き返るとでも言うのか?」
「い、いや・・・・」
小声で答えてから、ラードはハッとして下げていた視線をあげ、カルロスを見つめる。カルロスもまたラードと同時にその考えに達していた。

「確定はできないから、今は何とも言えない・・・ミルフィーは確かにそう言ったんだよな?」
「あ、ああ。」
カルロスの問いに、ラードはミルフィーの言葉を一言一言思い出しながら答える。
「会話ができたんだよな?」
「ああ。今はできないけどな。」
「自分たちが、自分が死んだとは彼女の口から出てはないんだよな?」
「ああ。」
二人の瞳が生気を取り戻し始めていた。


ガシッ!二人の男はどちらからともなく手を伸ばし、顔の前で固く握りあい、黙ってその希望を確認しあっていた。



が・・・その目的を分かち合うという友情も、同行するようになってから、疑わしくなってきていた。それは、早くもシゼリアに向かう船上でのこと。


「あ、あの・・カルロス様?」
「剣士様・・今日はこの前のお礼に、お食事でも・・・」

そう、生まれ持ってでた性格というのかサガというのか・・・カルロスのダンディズムは、すべからく周囲にいる全ての女性に供される。
「おい!」
「なんだ、ラード?」
「なんだ、じゃねーよ!あんたミルフィーに惚れてんだろ?」
積もり積もったその不満と怒りに、ラードはある日ついに、女性に囲まれていたカルロスを強引にその場から引き離す。
「そうだ。オレには彼女以外の女性は考えられない。」
「嘘こけ!嘘をっ!!」
さも当然、そんなことはすでに知ってるじゃないか、というような顔をして答えたカルロスの襟元をぐいっとしめつけて、ラードは怒鳴る。
「じゃーなんだよ、あれはっ?!」
「仕方ないだろ?困っているご婦人方に手を差し伸べるのは騎士としてまた紳士として当然のことだからな。」
「そ、そりゃ困ってる人にはそうだけど・・・・」
その接し方が問題なのである。端で同性のラードが見ていても、女性ならときめいてしまいそうだと思えるほどの紳士的且つ情熱さを秘めているとも思えるその笑顔。慣れたエスコートぶりは、ラードなど逆さまになっても真似できそうもない上品さと優雅さを兼ね備えている。紳士的で柔らかな物腰、低くやさしく響く落ち着いた声色。すっぽりと包み込むような極上の笑顔。
が、本人はまるっきり意識してないのである。つまり、それがカルロスの地なのである。それは問いつめて初めてラードが分かったこと。


「ミルフィー・・あんた、奴がこんなだから、気が許せなかったんだよな・・・それで・・・・置いてきちゃったのか?腕は認めても・・・仲間以上には思えなかったんだ・・よな?」
船内にある酒場。ラードはミルフィーの性格を思い出しながら、一人酒を呑んでいた。

『え?恋人って?カルロスが?まさかあ?!』
時々ミルフィーの口から飛び出るカルロスの名前。気になって聞いた時のミルフィーの答えをラードは思い出してため息をついていた。
(あれは照れ隠しなんかじゃなかったんだな。)
果たして黄金龍の元へカルロスを同行させていいのかどうか・・・ラードは分からなくなってきていた。しかし・・今更断るわけにもいかない。本人には、女性を口説いているつもりも、そして、悪気も全くないのだから。


 

COSMOSさんから頂いたラードくんです。
いつもありがとうございます!m(_ _)m


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