その26・チビ赤龍とずっこけファンガス

 

 「あ・・ファンガス様、大変でございます。祈りの部屋が・・・ファンガス様からお預かりしましたご遺体が・・・」
「遺体が?どうしたというのだ?」
祈りの部屋と呼ばれる祭室へ行く途中の通路、神殿の巫女らしい装束の女性が、ファンガスの姿を認めると同時に真っ青になって走り寄ってきた。

−バタン!−
その巫女の答えを待たず、足早に祈りの部屋に向かったファンガスの後を、ラードもセイタも追う。
「こ、これは?」
そこは部屋中が水浸しになっていた。といってもどっぷり浸かっているわけではないが、床の所々に水たまりと、壁、そして天井まで水滴が滴っていた。
その部屋の中央寄り、一つだけある棺に、ファンガスは慌てて走り寄る。
「いない?・・・・ど、どういうことなんだ?」
確かにそれはファンガスが自分の手でジャミンを横たわらせ、ここまで運んできた棺だった。が、その棺の中にジャミンの姿はなく、そこには今にも零れそうなほどの水が溢れていた。
「ど、どういうことなのだ、これは?」
ラードもセイタも、ファンガスが嘘をついてここへ連れてきたわけではない事は、その狼狽ぶりで分かっていた。確かにそこにジャミンの遺体があっただろうことも。


「だから〜〜・・・いい?もしジャミンを生き返らせれなかったら、覚悟はできてるんでしょうね?」
「お、おい・・そんな無茶な・・・」
「無茶じゃないわよ!ジャミンは私にとって大切な仲間なんですからね!いい?この世界を救う為なのよ?だいたいあなたが見て見ぬ振りしてきたからこういうことになったんじゃないの?」
「そ、それはだな・・・・・」

「へ?」
不意に部屋の外で聞こえたミルフィーの声に、3人はびくっとして振り返る。

「あら?ラードも、セイタも・・・ああ、ファンガスがようやく吐いたのね?」
「ミ、ミルフィー・・・・」
「は、吐いたって・・・」
呆気にとられたように呟くラードとファンガス。
「だって、そうでしょ?説明するのが苦手だとかいって、ぜんぜん話してくれないんだもん。」
「ミ、ミルお姉ちゃん・・・そのカッコは?」
ぶつぶつ何か文句を言いながら部屋へ入ってきたミルフィーの姿を見て、3人とも驚いていた。奥神殿へ入る時は確か鎧姿だったはずなのが、ふわっとしたドレスを着ているだけ。
「ああ、これ?だって、炎龍のところってマグマがぼこぼこしてて、その熱気で金物という金物は融けそうなほど熱くなってしまって、とても着ていられる状況じゃなかったのよ。」
「でも、それ・・・・」
「あ、うん・・・・着替えを持っていったわけじゃないから、これは炎龍がくれたの。」
「炎龍が?」
「そう。こっちの方が鎧より似合うとかなんとか言って。」
「え?」
「裸で帰ってくるわけにもいかなかったしね。」
「裸?」
「だって、融け始めた金属が服にまでくっついちゃって・・・着られなかったのよ。」
「じゃーなくて・・・じゃ、炎龍のとこでは、裸?」
思わずラードはミルフィーの全身に視線を這わせていた。
−パッッコーン!−
「痛っ!」
途端に持っていた扇子でミルフィーに頭を叩かれるラード。
「ラードのすけべ!想像しなくていいのっ!」
「しょうがないだろ?健康な成人男子のサガなんだからな!」
「いばって言うことないでしょ?!」
「うるせーなー!想像くらいいいだろ?減るもんじゃなし!それについっていうか無意識なんだから、仕方ないだろ?」
「仕方ないですむんなら、警察はいらないわよっ!」
「想像したくらいで警察沙汰にされたくねーなっ!」
「だれもそこまでは言ってないでしょ?」
「言ってるのも同じだろ?」
「ごほん!」
「・・っと・・・」
「・・・あ・・」
すっかり漫才コンビになっていた2人は、ファンガスの咳払いにようやくはっとして口論をやめた。


「そ、そう、今はジャミンのことなのよ。」
照れ笑いをし、ミルフィーは棺に駆け寄った。
「え?・・・ねー、これがそうなの?」
そして、棺の中の水を見て、ファンガスに問う。
「あ、ああ・・・オレたちも今これに気づいたところなんだ。」
「じゃー、ジャミンは?」
ミルフィーの問いに、ファンガスは分からないとすまなさそうに首を振った。
「そ、そんな・・・」
「この状況から言って、それはおそらく水龍が呼び寄せたんだろう。」
「え?」
そして、ミルフィー以外そこにいた全員、戸口から入ってきたその声の主に驚く。
「り、龍?」
そこにいたのは、ちょうどセイタくらいの背の高さの仔龍。真っ赤な鱗、金色の瞳の龍だった。
「水龍が呼び寄せたって・・・じゃー、ジャミンは?」
「おそらく今頃は水龍の元で蘇っているか、あるいは・・・魂の再生の最中か。」
「なによ、その再生の最中って?」
「こ、これ、ミルフィー・・・仮にも神龍であるわしに向かって・・」
その胸元をぐいっと掴んで、顔を密着させて文句を言うミルフィーに、赤龍は少し焦ったように怒鳴る。
「そうじゃないでしょ?神龍なら神龍らしくしなさい!だいたい、いい?あなたがもっと世界のことを考えていれば、こんなことにはならなかったのよ?」
「あ、いや・・だが、悪いというのなら、わしたちを忘れきった人間の方が・・・」
「みんながみんなじゃないでしょ?」
「ち、ちょっと待て、ミルフィー・・・いくらわしが人が良いといっても、ここまで愚弄されて・・」
「なによ?もう一回やるっていうの?いいわよ?今のまた10分の1の大きさにでもしてさしあげましょうか?」
ずごごごご〜!とミルフィーの気(怒り)が上がっていた。
「ま、待てっ!・・・・そ、そう決めつけぬともよいであろう?」
「じゃ、はっきりしなさい!ジャミンは大丈夫なの?大丈夫じゃないの?」
「あ、いや・・・炎と水とは相反する力故、同じ神龍と言えども交流はなく・・・て・・だ・・な・・・・・ち、ちょっと待てっ!なんとかコンタクトを取る方法を試みてみる!だから、そう急ぐな!」
ミルフィーの手に黄金の剣を認め、焦りはじめる赤龍。
「最初からそう言えばいいのよ。」
キン!と剣を鞘に納め、ミルフィーはひとまず戦意を納めた。
「ふ〜〜・・・まったく・・・・・・・おてんばで短気ときてるから、始末におえんわい。」
「なんか言った?」
「あ、いや・・何も・・・ちょっと静かにしておってくれ。」



「な、なんだ?何がどうなってんだ、あれ?」
ラードに聞かれたファンガスも、何がどうなっているのか分からなかった。
が・・・・
「お主も分からぬか、ファンガス?」
にたっと笑って赤龍に言われたファンガスは、その瞬間にはっとする。
「え、炎龍?」
そして、思わず大声をだす。
その気は紛れもなく、守護騎士の座を譲り受けたとき感じた神龍の気であり、また時折、弱いものではあったが、感じた気だった。
「し、しかし・・・なぜそのような姿で・・・なぜこのようなところにまで・・?」
ファンガスはすっかり混乱状態。何を言っているのか分かっていなかった。
そして、ラードもセイタも驚いて目を丸くしていた。

「ふ〜〜〜〜・・」
本来なら、ファンガスのそんな問いなど無視するのだが、今回は状況が状況だった。赤龍は大きくため息をついてから小声で話した。
「まったく・・・さすがというかなんというか・・・銀龍が選んだ剣士だけはあるというか・・・・たぶん銀龍も手を焼いていると思えるが・・」
「え?なんですって?」
「あ・・い、いや、さぼっているわけではないぞ。話もしているが、水龍とのコンタクト方法もきちんと探っておるのだぞ。」
腕組みをしてじっと見つめているミルフィーに慌てて返事をし、それから、再びファンガスに向かって赤龍は話す。
「正確にはお主が今目にしているのは私ではない。」
「炎龍ではない?」
「そうだ。お主達が目にしているのは、わしの分身。身体の一部分をとって龍の姿に変身させたものだ。」
「つまり、この赤龍を通してあたしたちを見ているってこと?」
「ああ、そうだ。」
セイタににこっと笑って赤龍は答えた。


「おお!ミルフィー!意識が通じたぞ!ここに水があったからなのか、それともお主がいるからなのかは分からぬが。」
「そう、で、ジャミンは?」
嬉しそうに言った赤龍にミルフィーはまだ緊張した表情のまま聞く。
「それが・・・」
「それが?」
そして口ごもった赤龍をぎろりと睨む。
「ほ、ほれ、またそのような・・・せっかくの美人がだいなしだぞ?」
「それとこれとは別よ!」
びくっとしてから赤龍は、少しどもりながら答えた。
「つ、つまり・・・ジャミンの負った傷は深い・・なんといっても守護騎士同士の一騎打ちだからな・・・本来命があるだけでも奇跡的というか・・・」
「え?ジャミンは・・じゃー、死んではいないのね?」
「あ、ああ・・・そうなのだが・・しかし、水龍の元で今しばらく回復を待たねばならぬというか・・・」
「でも、無事なのね?」
「そ、そうだ。それは確かだ。」
「よ、良かった〜〜〜〜」
ぎゅうっと赤龍の首に抱きついてミルフィーは喜ぶ。
「ありがと。私、ジャミンを犠牲にしたなんてことになったらどうしようって・・それだけ思ってて。・・良かった・・良かったわ。」
「・・・・単純というか・・なんというか・・・」
赤龍は、大きくため息をついていた。


「おい!」
その様子を見ていてファンガスがラードに小声で聞いた。
「本当にあの娘が金龍の守護騎士なのか?」
「赤龍を通した炎龍があの態度をとってるってことが何よりの証拠だろ?」
「ま、まー、そうなのだが・・・」
ぽりぽりと頬を掻いてファンガスは苦笑いをしていた。
とてもではないが、腕の立つ剣士に・・しかも、神龍の守護騎士には見えなかった。
「見た目で判断すると、痛い目にあうぞ?」
「そうなのか?」
そんなファンガスの考えを見抜き、ラードは釘をさす。

「しかし・・・金物が融け始めて・・・・すっぱだかになって金龍の剣だけで炎龍と戦ったってことか?」
一件落着の安堵感もあったのか、思わずラードは想像してにやけていた。
−パッコーーン!−
「痛っ!」
今度はセイタの杖がラードの頭にヒットしていた。
「もう!ラードったら!」
「あ、いや、いやらしい意味なんかじゃないって!ミルフィーならきれいだろうなーって、思ったんだって・・・剣を構えて大きくジャンプした時なんか・・さ・・・」
−たら〜〜〜・・・−
背後にミルフィーと赤龍の睨み付ける視線を感じ、ラードの全身から冷や汗にじみ出ていた。

−ボン!−
「うわっちっちっち!・・・な、なんでオレだけこうなるんだよーー・・・。」
−じゅわ〜〜〜〜・・・・−
「そのまましばらくそこで頭を冷やしてなさい。」
赤龍の吐いた炎がまともに服につき、その狭い部屋を一周してから、水の溜まった棺のなかへ飛び込んだラード。
そのラードを軽く睨んでから笑っているミルフィーを、ファンガスは呆れた表情で見つめていた。


- お絵描き掲示板に描いたものです。/^^; -

 


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