−ガララララ・・・・−
「ミルフィー?!」
頭上に倒れてきた瓦礫を退けて姿を現したミルフィーを見つけて、ジャミンが叫ぶ。
「大丈夫。危機一髪間に合ったわ。」
そしてそのミルフィーにかばわれるようにしてそこに身体を丸めているのは、シセラーゼとセイタ。
「怪我は?」
「私とセイタは大丈夫です・・・でも・・・」
「あっ!ミルお姉ちゃんっ!」
ジャミンと同じく駆け寄ってきたセイタの声にはじかれたようにジャミンはミルフィーに駆け寄り、そして、シセラーゼも倒れ始めたミルフィーに手を差し伸べていた。
「ミルフィー!?」
「あ、血が・・・」
「お姉ちゃん!」
シセラーゼに当たらないようにとかばったミルフィーの頭に柱の角でも直撃したのか、髪の間から血がにじみ出ていた。
「お姉ちゃん!」
セイタとシセラーゼは慌てて回復の呪文を唱えていた。
「ん?」
「ミルお姉ちゃん?」
「あ・・セイタちゃん?・・・私?」
少しして気づいたミルフィーの目には心配そうにのぞき込んでいるセイタと、その後ろにジャミンとシセラーゼの姿が映っていた。
「そ、そっか・・私ドジ踏んじゃった?」
「踏んじゃったじゃないでしょ、お姉ちゃん?」
ばつの悪そうな表情で、ミルフィーはセイタに苦笑いしていた。
「ご、ごめんね、セイタちゃん。心配かけちゃった?」
「ホントにもう・・・お姉ちゃんったら〜、無鉄砲なんだから〜。」
「だって仕方ないのよ。水中でなかったら風術使えるんだけどね。」
「ミルフィー・・・私のせいで・・・」
「あ・・気にしないで。私なら大丈夫だったんだし。」
ミルフィーが覆うようにかばわなかったら、シセラーゼが受けていただろう怪我だった。
「あなたより私の方が頑丈にできてるから。」
「ミルフィー・・・」
シセラーゼはそれでもすまなそうな笑顔をミルフィーに向けていた。
「負けたわ、ミルフィー。」
「え?」
大きくため息をついてからジャミンは笑って言った。
「私には周囲に注意を払う余裕なんてぜんぜんなかったもの。」
にっこりと笑ったジャミンは、それまでの守護騎士としての張りつめた空気はなかった。
「でも、剣の勝負はついてないわ。」
「続けていれば、結果は同じよ。」
「そ、そうかしら?」
「・・・・ほんとあなたって無欲なのね?それとも必要以上に自分を過小評価していないこと?」
「過小評価?」
『たぶんにそうなのであろう。』
「え?」
4人は不意に背後に聞こえた男の声にびくっとしてその方角を見た。
ゆっくりと近づいてくるのは細身の長身の男性。しなやかな身体、女とも見まごうようなやさしげな顔立ち。腰まである長髪とゆったりとした長いローブが水中を軽やかに流れていた。
その男性は、ジャミンの肩を借りてゆっくり立ち上がったミルフィーの目の前まで進むと、にっこりと微笑んだ。
『傷は大丈夫か?他には?』
「あ・・いえ、もうすっか・・り。」
−さっ・・−
「ミ、ミルフィー?」
急にさっとジャミンの後ろに姿を隠したミルフィーを、全員どうしたのかと見つめていた。
それは、つまり、今ミルフィーのドレスはただでさえ剣で膝から下を切ってしまった上に、がれきの下になったせいで、ますますぼろぼろになり、所々肌が見えていたことに気づいたからである。近づいてきたのが男性だったせいもあり、ミルフィーは一気に恥ずかしさを覚えて慌てて隠れたのである。
そこまでぼろぼろでないにしろ、ミルフィーの世界、そして、ここ銀龍の世界でもそうだが、女性が足を見せることは滅多にない。通常女性はくるぶしまでのドレスであり、仮にミルフィーのように冒険者だとしても、足を出すようなことはしない。それが女性としてのたしなみの一つでもあり、当然のことだった。
そして、剣士としてのミルフィーとは大いに異なり、素の彼女は、人一倍恥ずかしがり屋な部分があったのである。特にこういうことには。
『くっ・・・くくくっ・・はははははっ。』
そのことを悟り、男は笑いを我慢できずに吹き出し、ジャミンとシセラーゼは、またしても意外なミルフィーの態度にあきれかえっていた。
『気にすることはないのだが・・・そうだな・・』
「え?」
魔法でも使ったのか、ぼろぼろのドレスが徐々に元通りになっていった。
呆然としてドレスのあちこちを見ているミルフィーに、男はそっと手を差し伸べた。
「・・ん・・・」
不意のことでもあり、そして、思っても見なかった展開だったせいかもしれなかった。そして、男の行動がすばらしく素早かった。
ミルフィーの肩に触れると同時に、あっという間に男はその腕の中にミルフィーを納め口づけをしていたのである。
「ミ・・!」
目の前の光景に、思わず硬直するジャミンとシセラーゼ。そして、セイタ。
そして、つい、その2人が絵になると感じ入って見てしまっていた。
「な、何するのよ?」
あまりにも不意の出来事でさけようがなかったミルフィーも、数秒後、なんとかその腕から逃れ、男を睨む。
『我が龍玉を受け渡したまでだ。』
「龍玉?」
そ、そういえば・・とミルフィーは考えていた。口づけしている間に、何か球体のようなものが入ってきたことを思い出す。
(龍玉?)
そして、シセラーゼとジャミンはその言葉に驚いていた。それから考えられること、そして目の前の人物から感じられる気は・・・・。
「水龍?」
ミルフィーの言葉に、男はにっこりと笑って答えた。
それは確かに人型を取った水龍だった。
『これより先、水精は我が龍玉を体内に持つそなたの意に従うであろう。銀龍の意を運びし者よ。崩壊の時は近い。急ぎ我が弟たちに会うがよい。』
「弟たち?」
『だが、我と異なり、彼らは人間と親密にしていた。そして、していたが為、今では人間嫌いに陥っておる。』
「人間嫌い?」
『・・・皮肉なものだ。人との接触を好まず常に距離を置いていた我の方が、かえって人間というものに対して情を温存していたらしい。』
「水龍・・」
すっと男はミルフィーの顎に手をそえた。
『いや、そなたと会えたからなのかもしれぬが?』
「え"?」
『我はそなたが大いに気に入った。・・おそらく銀龍もそうだったのであろう。』
「え"っ?」
『剣士としてのそなたと素のままのそなた。そのあまりにものアンバランスさが面白い。』
「お、面白いって・・・・・」
後ろに身を引き、その手から離れたミルフィーを、少し残念そうな、そして、からかうような笑みで見つつ、水龍は続けた。
『我ら神龍は相互の交流というものはなく、故に、闇龍が今どのような力を持っているかも分からぬ。そして、炎龍と風龍の考えも分からぬ。分かっているのは、我らを省みぬようになった人を嫌い、心を閉ざしておるということだけだ。』
「人を嫌い心を閉ざして・・・」
『神龍が心を閉ざす、それは世界に背を向けたこととなる。』
「背を向けたって・・・それじゃ?」
『炎龍と風龍の心を開かせることだ。さもなくば、闇龍の力無くとも、世界は崩壊の途を進んでいく。』
「でも、兄弟でしょ?説得するとか・・・あ、私を紹介してくれるとかは?」
『残念ながらそれぞれ属性が異なる。同じ神龍なれど、我らが直にまみえることは、世界を引き裂くことになる。お互いの存在は感じてはいるが、意思を通じさせたことは一度もない。』
「そんな・・兄弟なのに・・。」
『人とは異なる。我らはそうであらねばならない。』
「でも・・」
『水と火となれ合ってどうなる?』
「そ、それは・・・でも、なれ合うというのとは・・・」
違うと言おうとしたミルフィーは、ずいっと大きく近づいた来た水龍にびくっとして思わず口ごもった。
『心して行くのだぞ。彼らは我のようにはいかぬ。恐らく、金龍の騎士としての力でねじ伏せなければ、そなたの言葉にさえ耳を貸さぬだろう。』
「力で?神龍を?」
『行くがよい、ミルフィー。そして、我が騎士ジャミンよ、金龍の騎士を助けるがよい。そして、地龍の巫女よ。世界のカギはそなたの手に。』
「え?それってどういうことなの?」
聞き返すミルフィーの視野はゆっくりと闇に覆われていった。
そして、セイタもまた深い水底の中に引き込まれるような感じとともに、意識を失っていった。
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