その17・水龍の巫女と守護騎士


 「ここ・・・どこ?・・・ラード・・は?」
気泡に包まれたまま、セイタはふっと周囲の様子が変わったことに気が動転していた。勿論、目の前に見えていたラードの姿も見えない。
「ラード!!・・・ラード、どこぉ?・・・ラードォ〜〜!!・・・ミルお姉ちゃ〜〜ん!・・・・」
心細くなったセイタは、気泡を両手で叩きながら叫んでいた。
「ラードォーーーーー!!」
それはそのうち嗚咽となり、セイタはうずくまって泣き始めた。


「泣くのはおやめなさい。」
りんとした声が響き、セイタははっと顔をあげ、涙目のまま嗚咽を堪えて前方を見た。
「あなたに危害を加えようとは思っていません、地龍の巫女。」
「え?地龍・・の・・・巫女?って・・・あたし?」
思ってもみなかったことを呼ばれ、セイタはきょとんとする。
「あ・・・・・」
薄明かりの中に浮かび上がってきた人物。近づいてきたその女性の姿を見て、セイタは感嘆の声を出す。
「きれい・・・・」
セイタの言葉ににこりと軽く微笑んだその女性は、そっとセイタを包む気泡を触り、それは、触られたと同時に音もなく消えた。
「あ、あの・・・・」
−シャラ−
「え?」
その女性は、そっとセイタの首にかかっている黄水晶のペンダントを手に取り、そして、やはり自分の胸元に輝いているブルーサファイアのペンダントと合わせた。
−ほわ〜−
「え?」
黄色と青緑の輝きが混ざり、それはセイタの全身を覆った。
「これで大丈夫。水中でもあなたは自由のはずよ。」
「あ、あの・・あなたは?それに・・地龍の巫女って?」
セイタの質問に、女性は明らかに驚いた表情をみせた。
「あなた、ご自分のことを知らないの?」
「え?・・・自分の・・こと?」
「このペンダントが何よりの証拠。これは地龍の守護一族に伝わる宝玉。」
「地龍の守護一族。」
「そして、私のは、水龍の守護一族の証。」
「じゃ、やっぱりここに水龍の神殿があるのね?」
思いがけない偶然にセイタの目は輝く。
「あ、あたし、セイタっていうの。守護一族かどうかは知らないけど、でもおじいちゃんは地龍の神殿の司祭長だったって聞いてる。」
「そう。」
純粋に喜ぶセイタに温かい視線を投げかけながらも、どこか冷めた目でその女性は見つめていた。
「私はシセラーゼ。水龍の守護一族、最後の一人。」
「最後の・・・じゃ、あたしと一緒?」
「一緒とは?」
「・・・あ、うん・・・・ドワーフ村は・・・もうないの・・・あたし一人しか・・・・」
「そう。」
「あ!ラードは?ラードも助けてくれたんじゃないの?」
「ラード?」
「あたしと一緒にいた人。」
「ああ、あの男ね。知らないわ。」
「知らないって・・でも・・・・」
「私は、同じ神龍の守護一族としての気を感じたあなたを助けただけ。神龍の宝玉を持つ巫女を殺すわけにはいかないもの。」
「え?じ、じゃー・・ラードは?」
「ネコ博士の発明品の空気飴で湖に入ったみたいだけど、飴は飴だから、もうとけて無くなってるんじゃなくて?」
「あ・・・」
そういえば、口の中には飴がない。小さくなっていたことは気づいていたが、今はもう完全になくなっていることに、セイタは気づいて青くなる。
「じ、じゃ・・ラードは・・・ラードは?」
「安心なさい。危ないところを湖底に住むケットシーが助けたみたいだから、今頃無事で彼らの街にいるのでしょう。」
「湖底に住むケットシー?」
「そう。」
「あ!じゃー、ミルお姉ちゃん・・・あっと、ミルフィーっていう女の人は?」
「ミルフィー?」
「うん、昨日の昼間、船遊びしてて湖に落ちたとか聞いてるんだけど?」
「さあ、そこまでは。」
「そこまでは、って・・・ミルお姉ちゃんは金龍の騎士なのよ?」
「え?」
意外なことを言葉に、シセラーゼはその静かな微笑みを崩してセイタを見つめた。
「金龍の騎士って・・・あの金龍の?」
「他にどんな金龍がいるっていうの?この世界の創世神の金龍に決まってるでしょ?銀龍が、そして、四神龍が守ってるあたしたちの世界の金龍よ!」
「金龍の・・・守護騎士・・・・」
信じられないという表情のシセラーゼに、セイタはきっぱりと断言する。
「地龍の神殿でお姉ちゃんは、銀龍から黄金の剣を渡されたのよ。本物の金龍の騎士の剣よ!」
「本物の・・・・・」
「それは聞き捨てならないわね?」
「ジャミン。」
柱の後ろから姿を現したジャミンと呼ばれたその女性は、全身を青銀の鎧で固めていた。
「銀騎士の存在は知ってる。でも、金騎士なんて知らないわ。」
「あなたは?」
「こちらは、ジャミン。水龍の守護騎士様よ。」
「わあ〜♪ミルお姉ちゃんも素敵だけど、ジャミンさんも素敵♪」
「そ、それは、どうも。」
両手を前で組んで、目を輝かして言う嘘偽りのないセイタの言葉に、拍子抜けしたようにジャミンはそれでも礼を言った。
「本当に金騎士なの?あなたの見たのは本物の金龍の剣?」
「そうよ。だって元銀騎士だったシモンが熱くて持てなかったし、銀龍が嘘つくはずないわ。」
「確かに銀龍だった?」
ジャミンの問いに、セイタは力強く首を振ってそうだと断言する。
「嘘・・はついてないわね?」
「そうね。」
ジャミンとシセラーゼは見合って、確認しあう。2人はセイタが嘘をつけるような人物ではないと判断していた。というより、まれにみる純粋な魂の持ち主だと感じていた。さすが地の守護一族であるドワーフだと。

「ねー、どうやってそのケットシーの街へ行けばいいの?ラードが心配してるわ、きっと。ミルお姉ちゃんを探さないといけないし。」
まさかミルフィーもケットシーの街にいるとは知らないセイタは、いてもたってもいられない心境だった。ラードもどれほど心配しているか・・・セイタを助けられなかったことで、どれほど自分を責めているか、ラードの性格を知っているセイタは、少しでも早くラードの元へ行きたかった。
小声でセイタのことについて話していたシセラーゼとジャミンは、心配そうな表情でじっと2人を見つめているセイタに迷いながらも返事をした。
「そうね・・・ここのことを黙っているっていうのなら、すぐにでも街へ転移してあげないこともないわ。」
「黙ってなきゃいけないの?ミルお姉ちゃんにも?」
「そうよ。」
セイタは、冷たく答えたジャミンにすがりつくような視線を送る。そして、次にシセラーゼにも。
「だって、お姉ちゃんは金龍の騎士なのよ。・・・闇龍から世界を救う為には、四神龍を起こして協力してもらわないといけないのよ?」
「闇龍?」
「うん。」
ジャミンとシセラーゼは、お互いを見合ってセイタの言ったことを考えた。闇龍・・・それは2人にとって始めて耳にした名前だった。
「地龍はね・・・地龍は・・・・・闇龍にやられちゃって・・・神殿ごと破壊されちゃって・・・」
「えっ?

2人は同時に叫んでいた。そんなことはあってはならないことだった。

『我が巫女、そして、我が騎士よ・・・』
不意に頭の中に響いた声に、シセラーゼとジャミンはびくっとする。
「どうしたの?」
もちろんセイタには聞こえない。
『その少女を我が元へ。』
(で、ですが・・)
ジャミンが心の中で返事をする。それは、2人にとって絶対な存在、主である水龍の声。奥神殿から繋がっている異空間、水龍の聖神殿とも言えるそこで、深い眠りについていた水龍。が、地龍が闇龍に倒されたと聞きたときの2人の驚きが水龍を目覚めさせた。
『その者のみよこすがよい。』
(のみ・・とは・・で、では、私どもは?)
『いらぬ。その少女のみでよい。』
守護一族の巫女、そして守護騎士である、シセラーゼとジャミン。が、その立場にありながら、直に水龍と会ったことはなかった。気むずかしくどちらかというとあまり他との交流を持とうとしない水龍は、それまでの巫女や騎士とも顔を合わせたことはなかった。ただ、祈りの場で意志を通じさせて会話したのみ。ちょうど今のように。
「セイタ。」
「はい?」
それまでになく真剣なそして、少し心配そうな表情のシセラーゼに、セイタは少し緊張感を覚えた。
「我が主であられる水龍があなたに会いたがってます。」
「え?・・・あたしに?」
「はい。」
「お姉ちゃんじゃなくって・・あたし?」
「今ここにいるのは、そのミルフィーとかいう女性ではなく、あなたなのですから。」
「あ・・・う、うん。」
会いたいと言ってる相手は神龍なのだから悪いことがあるわけじゃない、と思ったセイタは素直にコクンと頷き、シセラーゼとジャミンは、彼女を従えて神殿の奥にある祭室へと向かった。
緊張感と、そして、なぜ自分たちは必要ないのか、という一種嫉妬感のようなものを感じながら。



お絵描き掲示板に描いたセイタのつもりの絵。
子供のお絵描きから抜け出せないです。すみません。
もっとかわいいんですけどね、セイタちゃんは。


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