「こっち、こっち、ラード!」
「こっちって・・・おい、セイタ?分かって言ってるのか?・・・ミルフィーがそっちにいるのか?」
シゼリア湖のもっとも深いところに向かってセイタは潜っていく。
「ミルお姉ちゃんなのかどうかは分からないけど・・・・」
「けど?」
「でも、呼んでるの。」
「呼んでるって・・・セイタをか?」
「うん。」
まるで何かに導かれているかのように、セイタはまっすぐ湖底を目指していた。
−ふわり−
「ここが一番底か?」
ようやく着いたそこは、その深さ故に、湖面からの光もない。
「こう暗くっちゃ、サメが近づいてきてたとしてもわからないぞ?」
「ラードったら、ここは海じゃないのよ?」
「わ、わかってるって、それくらい。」
ふと口に出た言葉にセイタにつっこまれたラードは慌てて言い返す。
「あっ!」
「な、なんだ、どうしたんだ?」
小声をあげたセイタに、何かあったのかと、しっかり握っていた手を引いて、ラードはセイタを確認する。
「大丈夫。あのね・・これ!」
「え?そ、それって、確か・・」
「うん。あのおじちゃんが持ってきてくれたおじいちゃんのペンダント。」
それはセイタの服の中でかすかだが光を放っていた。
そして、そおっと取り出すと、それは暗い水中で、その輝きを増していく。
−ほわ〜〜−
やさしい光だった。
「さすが黄水晶だ。」
何がさすがなのかはわからなかったが、ともかくこれで幾分周りが確認することができるようになった。
「で、ここからどっちへ行けばいいんだ?」
「うん・・それがね?」
「それが?」
「声はこの下から聞こえてくるんだけど?」
「下?下って・・・・もうここは湖の底だぞ?」
「う・・ん・・・・・。」
だから困っているといった表情のセイタに、ラードは思わずため息をつく。
「ふ〜・・・・・じゃ、付近を探してみよう。もっと下へ潜れるようなところがあるかどうか。」
「うん。」
それから20分ほどだろうか、2人は湖底を探し回った。が、それらしき亀裂もなにもない。
「ホントにこの下から呼んでるのか?」
「うん・・・そうなんだけど・・・・・」
−ボコッ−
「ん?」
いくら息ができ、水圧も和らげてくれているような不思議な飴だったが、水中で動くことからくる疲労感まではぬぐい去ってくれない。
少しやすもうか、と適当な岩にそろって腰掛けたとこだった。
「え?・・・ラ、ラード!」
「な・・・?セ、セイタ?」
繋いでいた手を離して座ったところだった。その瞬間、その岩の後ろからわき出た気泡にセイタは包まれていた。
まるでセイタを捕獲するというように、その大きさはセイタをすっぽりと覆う大きさだった。
「ラード!」
「セイタ!」
しまったっ!油断したっ!そう思ってセイタの名を呼びながら、気泡を掴もうと底をけってラードは泳いだ。が・・・・その気泡は必死の形相のラードの目の前でゆっくりと薄らいでいき・・・・セイタの姿と共に消えた。
「セイターーー!」
(そ、そんなバカなことが・・・・・)
確かに目の前に手の届くところにセイタがいたのに、まるで泡のように消えてしまった。
ペンダントを持ったセイタが消えたことで、湖底は再び暗闇に覆われ、ラードはそれでもがむしゃらに泳ぎ回った。必至で目をこらし、手探りでセイタを探し回った。
「セイタ・・・・ミルフィー、・・・オレ、どうしたらいいんだよ?・・・・・あんただけじゃなく、セイタまで失ってしまって・・・・オレ・・・・・」
「ぐぼっ!」
不意に息苦しさと、急激な水圧がラードを襲った。
(しまったっ!飴がもうないっ!)
飴にしてはよくもった方だった。が、苦しさに気づくとその飴はとけて口の中のどこにもない。
(オ、オレは・・・こんなところで死ぬのか?・・・・セイタ・・ミルフィー・・・・・)
絶体絶命の状態だった。
それでも簡単に諦めるつもりはない。息苦しさにもがきながら必至で水面に出ようとしたラードだが、あまりにも深く潜りすぎていた。あと数メートルで水面というところで、ラードの意識はなくなった。
「おはよう、ラード。どう気分は?」
「ん?」
ぼんやりと目を開けたラードは、耳に飛び込んできたミルフィーの元気な声に反応してがばっと起きあがる。
「夢・・だったのか?」
「え?」
「だから・・・・」
ミルフィーが船遊びで行方不明になったことやセイタと湖の底ではぐれてしまったことが、と続けようとしたラードは、周りの様子で、どうやら夢ではないらしいと判断する。
「ここは?」
「ここはね、湖底にあるネコの街。」
「は?」
ラードのその反応に、ミルフィーはくすっと笑って続けた。
自分が聞いた説明を今度はラードに。
「ええ〜〜〜?!」
「そんな目を丸くして大声出さなくても。」
「あ、ああ・・・・」
そして、しばらくしてようやく話の内容が理解でき落ち着いたラードが言った言葉で、今度はミルフィーが声を上げた。
「で、セイタは?セイタも助けてくれたんだろ?」
「ええっ?」
「ええって・・・だからさ、気泡に包んでセイタを・・あれ、転移とかいうやつか?」
「気泡に?・・セイタちゃんを?」
「ああ。」
ミルフィーの反応に、ラードは不安を募らせた。
「セイタちゃんはお城にいるんじゃないの?」
「いや、見つかってしまって、暗殺者と間違われてやばそうだったから、セイタを連れて逃げたんだ。それで・・・・」
「あ・・・ち、ちょっと待っててね。」
ラードから話を聞いたミルフィーは、慌てて隣の部屋にいるミック博士のところへ行く。
「ミルフィー?」
待っていろと言われて待っていられる心境ではなかった。ラードはミルフィーに続いて部屋を駆け出た。
「博士、それって・・・もしかしたら?」
「もしかしたらって・・・?ファー、何か知ってるの?」
「直接確かめた訳じゃないんですけど。」
湖底のこの街はまったくゼロのところに作ったわけではなく、ここには、その土台と言えるような廃墟があったとミックは話始めた。
そして、冒険好きのファーは、その片隅に時々気泡を発している裂け目を見つけたというものだった。
「ぢゃから、わしは、ここがその昔神龍の神殿があったのではないかと思っておるんぢゃ。」
「神龍というと・・・・水龍?」
「ああ、そうぢゃ。」
「城の古書にもそんな事が書いてあったけど?」
確認するようなラードの視線に、ミルフィーは頷く。
「あるいは、その神殿の一部かもしれないわよね?」
「そうぢゃの。何らかの要因で湖底が崩れ、もっと地下へ沈んだとか・・・あるいは、その反対で、神殿のある底の一角だけが隆起したとかぢゃな。」
「でも、私なら入れますけど・・・・ホントの奥まで行ったことはないし・・ミルフィーたちでは・・・無理だと思うのですが・・・。」
「ん?」
ネコのようではあるが、その大きさといい、身長といい、自分たちとあまり変わらないファーを見て、ラードは不思議そうな顔をする。
「ああ・・・この姿ですか?」
にこっと笑うと、ファーはくるっと宙返りした。
「おっ!」
その身軽さに驚いたラードは、着地したファーを見てもっと驚く。
「お、お前はっ!あの白ネコじゃないか?」
「にゃおん♪」
見覚えがあった。セイタとミルフィーにはなついていたが、ラードのことはちょっと小馬鹿にしたような視線でいつもみていたこともあり、かわいげがない奴だと感じていたラードは、間違うはずはなかった。
そして、今一度宙返りして人間の大きさになったファーは、ネコの時と同じ視線でラードを見る。
「ま、間違いないっ!あいつだっ!あ、あの小憎らしい・・・」
「私は自分より上の能力を持つ者しか認めない主義なので。」
「何を〜?オレのどこがあんたに劣っているっていうんだ?え?!」
ぐいっとその胸ぐらを掴んでファーを睨むラード。
「ち、ちょっと待ってよ。今はセイタちゃんのことでしょ?」
「あ・・・」
「ふん!」
ミルフィーに仲裁され、はっとしてファーを離したラードは、小馬鹿にしたように鼻で笑ったファーを再び睨む。
−パコン!−
「いてっ!な、なんだよぉ、博士?」
巻きたばこのパイプで頭を叩かれたファーは、その部分をさすりながらミックを睨む。
「明らかにお前さんが悪いぞ、ポチ!」
「・・ポ・・チ?・・・ね、ネコなのに・・ポ、ポチ?」
うぷぷっとラードは思わず吹き出す。
「笑うなっ!あんたに笑われたくないっ!」
「面白いから笑って何が悪いっ?!」
ぐいっと顔を突きだして、両者はにらみ合った。
「いいーかげんにしなさいっ!」
「い?!」
そして、腕組みをしてそんな2人を、いや、1人と1匹を睨み付けているミルフィーのその睨みに思わずびびって、両者は慌てて離れる。
「もしもこの街の土台が神殿の一部だったとしたら・・・他にもどこかそういったところがあるんじゃない?」
睨み合いが収まったことを確認すると、ミルフィーはミックに言った。
「そうぢゃな。それもあり得る。」
「でも、なんでセイタを連れてったんだ?」
「セイタちゃんを捕らえて消えた気泡と、その気泡と同じだとはまだ決まっていませんよ?」
「う、うるせー!可能性を言ってるんだよ、オレは!」
「はいはい。言いたいことは分かったから・・2人とも。」
再び睨み合いになるところをミルフィーはうんざりした表情で止めた。
「ともかく、街と付近一帯を調べましょう。」
「あ!ミルフィー、飴!」
「あ、そ、そうだったわ。」
家の中では普通に呼吸ができる。それは、一家に一台備え付けられている魔法の水晶球でできた球体によって保持されていた。が、ドアを開けて出れば、そこは水中なのである。
ミルフィーはつい忘れてしまったと照れ笑いしながら、ミックから受け取った小瓶の中から1つ口に放り込むと、ドアを開けた。
「でも、何回体験しても不思議ね。まるでここに1枚透明なドアがあるっていうか・・・ベールか何かで区切られているような感じね?」
湖水は家の中まで侵入してはこない。指を入れれば確かに水に触れることができるのに。
怪我の功名?ミルフィーと無事?再会できたラードは、明らかに彼を歓迎していない白ネコの化身?いや、本当の姿、ケットシーのポチ、もとい!ファーと一緒に、水中の街を探索することになった。
セイタが行方不明、正確にはその生死も分からないという事態は変わっていないのだが、ミルフィーに会えたことは、確かにラードの気持ちを軽くしていた。
セイタもきっと無事にどこかにいる。ラードにはそんな気がしていた。
そして、それはミルフィーとファーも一緒だった。
セイタを探してミルフィーたちは湖の底をそして、入り組んだ洞窟を探した。
きっと見つかる、きっと無事だ、とラードは自分自身に言い聞かせ、目を凝らしていた。
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