その15・グッドタイミング?


 (城内にはそれらしき怪しげなことはなかったからな。ミルフィーの奴、あとは湖だけだって焦ったのかな?)
西隣の国、ラードの父とセイタの祖父が向かったデストローゼ、その国が領土拡大のため戦争をしかけてきそうなこと、そして、暗殺者の手が城まで伸びてきた、ということはわかった。それと、膨大な書物の量を誇る城内の書庫で、見つけた神龍の神殿などの情報。だが、目的にしている闇の気配は、ここにはなかった。
(ここはこれから魔手が延びてくるってとこかな?やっぱり元凶はデストローゼか?)
父とヤイタの命はもう・・・ラードの背筋を冷たいものが走り、思わずぶるっと身震いした。
(まだそうと決まったことじゃない。何かの理由で連絡は取れないが、どこかに潜んでることも考えられるんだ!)
つい弱気になってしまった自分を叱咤し、ラードは横にいるセイタをちらっと見た。
(オレがしっかりしないでどうする?それに今はミルフィーのことだろ?)
今一度自分に言い聞かせ、ラードはともかく時を待った。


そして、待ちに待った夜半。城内は見張りの兵を残し、寝静まっていた。
ラードはセイタを衣装部屋に残し、レムナギスの部屋へと忍び込んだ。
広いその部屋の奥まったところ、天蓋の付きのベッドへとそっと近づき、ラードは短剣を抜き、シーツを剥ぐ。
−パッ!−
(ま、まぶしぃっ!)
とその途端、暗闇だったはずのそこで明かりがラードを照らす。
「出会えっ〜!くせ者ぞっ!」
ラードが短剣で脅して情報を得ようとしたレムナギス公爵は、ラードが期待したようなもやし貴族ではなかった。文武両道に秀でたレムナギスは、勘も良く、ここ数日城内を何者かが探っているような気配を感じていた。故に、通常より警戒していたわけでもあった。そして、そこへラードが侵入して来たのである。
「くそっ!」
−キン!ガキン!−
自分に向かって振り下ろされた剣をなんとか短剣で受け止めたラードは、衛兵を呼びながら続けてくるレムナギスの剣を振り切ってその窓から飛び出て脱出した。
−ザザッ−
3階ではあったが、窓辺に太い枝の庭木があったことが幸いした。ラードは木を伝わってなんとか衣装部屋まで行くと、ちょうど目覚めていたセイタと共に、城のあちこちに身を隠しながら、後ろに広がっていた森へと逃げ込んでいった。

「あっちだぞーー!」
が、兵が総動員され、寝静まっていた城は一気に喧騒の場と化す。そして、その手は森の中まで延びる。
国王の暗殺事件があったばかりである。今回の賊の目的もそうなのだ、と兵士も貴族諸侯もやっきになっていた。


「げ・・・・」
森の中を逃げまどったラードは、よりによって断崖絶壁である島の先端へ出てしまっていた。
振り向くと森の中に灯火がちらほらみえる。それは明らかに追っ手のランプの灯。

「くそっ!もう来やがった!」
セイタを連れ、必至走ってきたラードは、すっかり息があがっていた。荒く肩で息をしながら、ちらっと眼下の湖面を見つめる。
月明かりが照らすその湖面は真っ暗でどうなっているのかはっきりわからない。しかも高さはかなりある。ただ、救いは、下に岩なども見えないことである。
が、水面下はどうなのかはわからない。だが、道は他にない。

「ラード、これ!」
「え?これ?・・・って、飴じゃないか?」
(こんな緊急なときに何をのんびりしてるんだ?)
現状を把握してないほど子供でもないと思いながら、ラードはセイタを見つめていた。そのセイタも必至になって走ってきたせいで、荒く激しい息づかいをしている。
「飴でも舐めて落ちつけましょ。・・・ちょっと高すぎるし。」
「へ?」
それは、セイタが何かで動転してしまってたり、慌ててしまったりしている時、祖父のヤイタがいつもそういって落ち着かせていたことをラードは思い出した。
「大丈夫。お部屋にあった飴だから。きっとミルお姉ちゃんがくれたのよ。」
にこっと笑ったセイタの目は、湖へ飛び込むことを承知した輝きを放っていた。
ただし・・・そこには確かに恐怖の色もあった。
「セイタ・・お前ってやつは・・・」
おそらく自分自身にも必至になって言い聞かせているんだとラードは思う。
「お前に言われちゃ立場ないよな?」
ははは、と笑ってからラードは付け加えた。
「大丈夫!オレがついてるから!」
「うん!」
それでも差し出していた飴を、ラードはぱくっと口にする。
とその時・・・
「いたぞっ!こっちだーーっ!」
数人の兵士が叫びながら剣を抜いて木々の間から走り出てきた。
「ちっ!」
「行くぞ、セイタ!目を瞑って、しっかりオレにしがみついているんだぞ!」
「うん!」
ぱくっと飴を口の中に入れたセイタをしっかりとその腕に抱き、ラードは、暗闇の中、絶壁から湖へと身を躍らせた。



−ザッバーーーン!−
「ぶくぶくぶく・・・・・・ごぽぽぽぽ・・・・・・」
少しでもセイタに衝撃がいかないようにと、身体を丸くして飛び込んだラードは全身に走った水による衝撃に耐えながら、水をかいていた。呼吸をする為少しでも早く水面へ出ようと。下が岩でなかったことに感謝しながら。
「ん?」
「あれ?」
が・・・飛び込んだ高さ故、水中深く沈んでしまった2人は、その途中でふと気づく。息苦しくないことに。
「お話・・できるよ?」
「あ、ああ・・・・・」
口を開けるとごぽごぽと空気の泡はできた。
「ど、どうなってんだ?」
「さあ?」
「セイタ、魔法でも使ったんじゃないのか?」
「ううん・・・水の中で息ができる魔法なんて、あたし、知らない。」
「だよな?」
コクンと頷くセイタと見合っていたラードは、ガチっと口の中で固いものにあたる感触に、飴をなめていたことを思い出す。
「この飴か?」
噛めそうもないほど固い飴。そして、味も素っ気もない。が、考えられるとしたらそれくらいなのである。ここが息のできる不思議な湖というのなら別だが。そんな話は聞いたことがない。
そして、おもむろに口の中から飴をとりだしてみる。
「ぐぼっ・・・・」
「ラ、ラード!」
その途端に苦しさを覚え、ラードは飴を口の中に入れることも忘れ、あと少しだった水面へと慌てて上がる。
「大丈夫、ラード?」
「あ、ああ・・・大丈夫だ。」
ラードより少しあとに水面に顔を出したセイタに、ラードは照れ笑いしていた。
「しかし・・・・どこで手にいれたんだ、ミルフィーは?」
飴をしげしげとながめてラードは呟く。
「これ持ってるんなら、ミルフィーも大丈夫だよな?」
完全にミルフィーのものだと思いこんでいた2人は、安心した笑みを交わし合う。
「うん、そうね。」
「なら、前もって話してくれりゃいいのに・・・・まったく・・・あいつ!」
神龍の騎士であるミルフィー。だからこんなあり得そうもないアイテムを持っていても不思議じゃないとラードは思う。
「オレをバカにするのもいい加減にしてほしいもんだぜ?」
「でも、きっとミルお姉ちゃんのことだから、昼間は前調べくらいのつもりで行ったんじゃないかしら?詳しく調査するのは、この飴を使って後で一緒にするつもりだったんじゃないの?」
「・・・そ、そうかな?」
「うん。」
セイタにそう言われれば、そうかも、とラードは思っていた。
「それはいいが・・・・」
ラードはぐるっと周囲を見渡した。
「今のところ追っ手の船らしきものは来てないが・・・そのうち来るだろうから・・・」
近くに船をつけれそうなところはないことにほっとしながらも、ラードは忙しく考えを巡らしていた。相手は暗殺者だと思っている。このまま放っておくとは思えなかった。
「ついでだ・・・・苦しくないんなら、潜ってみようか?」
「うん。ミルお姉ちゃんも何か発見して、戻って来れなくなったのかもしれないしね?」
「そうだな。」

遠くに兵士の乗った小舟らしきものの影を見つけたラードとセイタは、そうする必要はないのだが、大きく深呼吸してたっぷり息を吸い込んでから、湖の中へと潜っていった。



 <<Back INDEX Next>>