「別にここまで来る間の雰囲気じゃ、これといったことは何も起こってないようだよな?」
「そうね。城内は静かで落ち着いてるわ。何か起こってる気配は今のところだけどないみたいね。」
ミルフィーの為に用意された豪奢な貴賓室。広さもだが調度も王侯貴族並である。しかも続きの部屋が5つ。ラードとセイタが隠れるには十分すぎる間取りでもあった。
一応、奥にある寝室に続いている衣装部屋に潜んでいることにはなっているが、その部屋にしても衣装箱を置いてあったとしてもまだまだ余裕があるくらいだった。
ミルフィーはのぞき見するようなところはないか、と各部屋の隅々までチェックしてからラードとセイタに合図を送り、衣装箱から出てきた2人と話していた。
「とにかくオレ、夜になったらあちこち探ってみる。」
「そうね・・・でも十分気を付けてね。」
「ああ。わかってるって。セイタはたいくつかもしれないけど、ここでじっとしてるんだぞ。舞踏会のないときはミルフィーがいるし。」
「あら、私もあちこち調べてみたいんだけど?」
「あんたは歌姫として注意をひきつけてくれてりゃいいんだって。」
「でも・・」
「でもじゃーないっ!こういうことは男の役目だ。」
「あら、女として扱ってくれるの?」
「う・・・・・し、しかたないだろ?・・こ、この場合・・・」
一応見慣れたとはいえ、ドレス姿のミルフィーの前だと、ラードもいつもの調子がでなかった。というか・・・ミルフィーにはそんな調子でからかわれてばかりなのだが、ともかく、ここはオレが一肌脱ぐべきだ!と思っていた。
お絵描き掲示板に何気なく描いたものなのですが
・・・・もったいないから、ここで使ってしまおうと(笑
「確かここの湖、シゼリア湖には、水龍の神殿があるっていう言い伝えがあったわよね?」
「ああ。ホントかどうか知らないけどな。」
「街の人たちはほとんど知らないって言ってたけど。」
「まーな。田舎と違って、神なんか信じてる奴が少ないし。」
大陸名であり、国名であるその名前を冠する広い湖。その湖底は深くそして起伏が激しく入り組んでいる。湖で漁をして生計をたてているものが、ガンデリアにもその周辺にもいた。が、跳ね橋が上がったままの状態になってから、漁にでることも禁じられていた。湖底の調査の為に漁師に協力を要請しようと聞き回ったとき得た情報だった。
「普通じゃできなくても、王様に頼むとかして、なんとか湖を調べられないかしら?」
「そんなこと聞いたら疑われるだけじゃないのか?」
「そうね・・・それなりの理由があればいいんだけど・・・。」
「宝さがしとかは?」
じっと話を聞いていたセイタが目を輝かせて2人の話に入ってきた。
「うーーん・・それもあるでしょうけどね?」
「そうだな・・・来た早々そうもいかないが、慣れてきたらまず船遊びくらいから頼んでみればいいんじゃないか?湖底は・・・・様子を見て、できるなら宝探しとかなんとか理由つけて・・とかさ?」
「そうね、ラード。セイタちゃん、ナイスアイデア!」
「ふふっ!」
得意そうに笑うセイタを見ながらラードが不安そうにぽつりと呟く。
「でも、大丈夫なのか?船遊びにしろなんにしろ、オレたちはついていけないわけだし?」
「大丈夫よ、私なら。」
「ふ〜〜・・・・・・」
「だから、大丈夫よ!なに心配してるのよ?」
ミルフィーの顔を見ながら大きくため息をついたラードを彼女は不思議そうに見、ラードはラードで、ミルフィーの顔を見つめていた。
(シャグリアに自覚しろって言われたのに、こいつはちっとも自覚してないんだからなー・・・)
そう、ラードはミルフィーの身を心配していたのである。確かにミルフィーの剣の腕は知っているが、探りを入れるということは、それだけ相手と親しくなることが要求された。片方は王侯貴族、そして、ミルフィーは歌姫という旅芸人。ミルフィーが探りを入れようと近づいていけば行くほど、相手が何を期待するのか分かり切ったことだった。しかも、シャグリアに言われるまでもなく、確かに美人である。剣士であることとラードを頭からからかっていることさえなければ、文句なしの美人。それは男達にとっても、愛妾として間違いなく特級品である。
2人きりならラードの時のように、瞬時にして絞めてしまえばいいのだろうが、他人の目があっては、そうすることは難しい。なんといっても貴族様と一介の旅芸人では差がある。
「奴ら、芸人ならなおさら言うとおりになって当たり前だと思ってやがるからな。」
権力と金力を誇示して・・・とラードは考えていた。
(こういう方面はうといっていうか・・・・考えが足らないんだよな?ミルフィーって・・・)
「じゃ、私、向こうに行ってるわ。何かあったら知らせてね。」
「あ、ああ。」
いくら広さが十分だといっても、いつまでも衣装部屋にいるわけにはいかない。
気を使わずゆっくりしたいから、というミルフィーの言葉を受け入れ、通常召使いは部屋には入らないことになっていたが、ベルを一振りすればすぐ目の前に進み出てくる召使いたち。それは部屋の中にこそいないだけで、すぐ近くに控えていることは確かだった。
−コンコン!−
「あ、はい、どうぞ。」
カチャリと軽い音をさせて入ってきたのは、大臣の息子でもあり、ミルフィーを街まで迎えにきたレムナギス公爵。
「どうでしょう、よろしければ城内をご案内致しますが?」
にっこり笑い、レムナギスはミルフィーに手を差し出す。
「ありがとうございます、公爵様。公爵様にご案内いただけるなんて光栄ですわ。」
(じゃーないだろ?危ないんだってっ!)
隣の部屋で冷や冷やして会話を聞いているラードの声などミルフィーに届くわけはない。
(知らねーぞ?のこのこついていくと?)
が、ミルフィーを引き留めることもできない。
「あ〜あ・・・・ったく・・・」
「ラード、ラード!」
頭をぐしゃぐしゃとかきむしって苛立っているラードの服をセイタが引っ張った。
「なんだ?」
「あ、あのね・・この猫さんがね・・・ミルお姉ちゃんと一緒に行ってくれるって!おかしなことされないように邪魔してくれるって。」
「へ?」
見るとセイタがその両腕で真っ白の猫を抱えていた。
「ど、どうしたんだよ、その猫?」
「「うん・・ついさっきね、あの窓から入ってきたの。」
セイタが指さした高窓を見上げ、ラードは確かに猫なら入ってこれると確信した。
「で?セイタ・・お前、猫と話せれたのか?」
「話せれるっていうわけじゃないけど、なんとなく気持ちが通じるの。」
「なんとなく、って・・・そ、そんなものなのか?」
「うん♪」
にっこりと笑ったセイタの笑顔を見てラードは不思議と嘘ではないと感じていた。ドワーフの血を半分ひくセイタ。時として不思議な雰囲気を感じることもある。動物と意志疎通ができても不思議ではないとラードは思った。
「よし、そっと猫をミルフィーのいる部屋に行かせるんだ。いいな、そっとだぞ?」
「うん。」
音を立てないようにドアをほんの少し開け、猫をミルフィーに向かわせているセイタを見つつ、ラードは今一度ため息をついていた。
(セイタでさえ、感じてるんだぞ?大丈夫か、ミルフィー?)
漠然としてなのかもしれない・・・というより、たぶんそうなのだろうが、ミルフィーがどういう状況に置かれているのか、本人より、幼いセイタの方がしっかり把握しているとラードは呆れていた。
「にゃぉ〜〜♪」
「あら♪かわいい猫!」
セイタがドアを閉め、部屋の隅をぐるっと回り反対方向まで行ってから、猫は愛らしく鳴きながらミルフィーと公爵の視野に入るところへと歩みでた。
「真っ白なのね!それにふかふかで・・・気持ちいい〜〜♪」
抱き上げて頬ずりするミルフィーを見る公爵は、あきらかに面白くないといった表情である。
「おやおや、召使いでも飼っている猫が入ってきたのでしょうか。一度注意しておかなければ。」
「あ・・いいです。私、猫好きですから。」
「ですが・・・」
「こんなに人なつっこい猫初めてですわ。いいでしょ、公爵様?一緒に連れて行っても?」
「あなたがご所望なら。」
渋々承諾した・・少しいんぎんさを帯びた公爵の口調からは、そんな感じを受けた。
−パタン−
「ミルフィー・・・無事で戻ってきてくれよ。頼むんだぞ、猫!」
ドアが閉まり、そっと衣装部屋のドアを開けて部屋の様子と伺ったラードは、猫などでミルフィーの危機を避けられるのかどうか確信できなかった、今はそう祈らずにはいられなかった。