その12・国都ガンデリア


 わいわい、がやがや・・・・・
シゼリアの国都ガンデリアにミルフィーたちは着いていた。
そこは国都というだけの大きさと賑やかさを持つ大きな街だった。

「ミルフィーというのか・・・・・・」
そして、ミルフィーは世話になった旅芸人一座の頭、シャグリアにもらった紹介状と地図を手に、一人の男の元を訪れていた。シャグリアとの一座とはガンデリアの手前で別れたのである。
その男はガンデリアの興行師。旅芸人などがそこで興行するにはその男の許可が必要だった。そして、シャグリアによると裏の情報にも詳しいということだった。
「聴くものの心を魅了する歌姫の噂は耳にはしたが・・。」
手紙の文面からミルフィーに視線を移し、その男、ダン・ガナフォスは鋭い視線でミルフィーを見つめる。今は剣士の格好をしている彼女をじっと観察した。
「よかったら一曲唄いましょうか?」
男でも緊張し、恐怖も感じるほどのその視線をものともせず、にっこりと笑って言ったミルフィーに、ガナフォスは驚きながらも感心する。が、表情には決してださない。
「そうだな。聴かせてもらえるか?」
もし本物の歌なら、剣士の格好をしていようが関係ないはずだという挑戦的なガナフォスの視線に、ミルフィーは今一度にっこりと笑ってから唄い始めた。

−バタン!−
「お、お頭・・・こ、この歌声は?・・」
しばらく唄っていると不意にドアが勢い良くあき、一人の男が飛び込んできた。
「あ、あのシャグリア一座にいるっていう歌姫のこ・・・声・・だと思ったんだ・・・が?」
一気にそこまで話した男は、唄をとめたミルフィーの笑顔を不思議そうに見つめる。
「ま・・まさか・・な・・・?」
そして、その視線をガナフォスに移した男は、ガナフォスのうなずきに驚いて、再びミルフィーを見る。
「あ・・・あんたが・・噂の・・・・あの?」
その男は1週間ほど前シャグリアの興行を見にいき、そこで近くでこそ見なかったが、ミルフィーの唄も聴き、知っていた。つまり、ミルフィーの唄に魅了された一人なのである。だから、ちらっと耳に入ったミルフィーのその歌声に、彼は慌てて中へと飛びこんだのである。
「今おめーが聴いた声が何よりの証拠だろ?」
格好はこんなだが、と苦笑いするガナフォスに、男は頭をかいて苦笑いを返していた。

COSMOSさんからいただきました。
迫力ある興行師ガナフォスとタンカン
さすが、首都の芸人や荒くれ者達をまとめる総元締め!

ありがとうございました。m(_ _)m


その男の名前はタンカン。ガナフォスの片腕である。
剣士としてのミルフィーのことは、シャグリアからの頼みもあり、3人だけの秘密にすることとなった。
といってもミルフィーの目的はシャグリアでも知らない。単に、普段剣士の格好をしているということだけである。その時はたとえ道で会っても歌姫とは別人として扱うということなのである。
「人相と口は悪いが、約束は何があっても必ず守る男だから心配はいらないよ。そこはこのあたしが補償するさ。それに商売柄、裏世界にも顔を利かせてるから、きっと役にたつと思うよ。」
何を調べているのか知らないシャグリアではあったが、ミルフィーの事は信頼しきっていた。何か悪事を暴くために情報を集めているのだろう、シャグリアはそう感じていた。
テーブルにつき、2人と向かい合ったミルフィーは、そのシャグリアの言葉を思い出していた。
事実、風貌はお世辞にもいいとはいえなかった。どちらかというと、犯罪者顔?あちこちにある傷跡も、恐さに拍車をかけていた。
が・・・魔物のひしめく聖魔の塔での冒険を日常としていたミルフィーにとって、そのくらいの風貌は見慣れたものといってもよかったかもしれない。塔の膝元にある村は、塔の宝やそこでの活躍で名をあげようとして世界各地から集まってきた強者たちで埋まっていた。人相の悪い者、一目見ただけで震え上がりそうな男もわんさといた。だから、そういった手合いに関しては、慣れたものである。それに、人相がそうだからといって必ずしも悪人ではないことをミルフィーはよく知っていた。

だが、銀龍の懸念している事に関わりがあるのかどうかは、現状では判断できない。人物的には信用できても、敵か味方かは判断できなかった。


「いい人たちだったわ。敵でないことを祈りたいわね。」
「そうか。」
宿に戻り、ミルフィーはラードと話していた。
「で、結局、路銀稼ぎに週末の夜、ここの広場で興行して、普段は情報収集ってとこだな?」
「そう。」
だけど、情報収集っていっても、何をどこからどうやって調べりゃいいんだ?」
「そこなのよねー?」
まだまだ状況は把握できていない。闇龍が生まれ、世界を闇が覆い始めていることはわかったものの・・・そのくらいである。世界の崩壊につながらる闇龍に関連する秘密結社とでもいうべきものがあるらしいが、それがどこでどのように活動しているのか、そしてどういった人物によって動かされているのかは、さっぱりわからなかった。
「ずばり聞くわけにはいかないよな?」
「聞ければ苦労しないわよ?」
聞いて、もし相手がそうだったら、一気に危険にさらされることになる。水面下で活動しているらしいそれは、普通では耳にしないことでもあり、怪しまれるのがオチなのである。
「どこかやばそうな所の用心棒って手でいくのがてっとりばやいのかな?」
「そうね。そこが当たりとは限らないけど。」
「ラード、用心棒するの?」
「あ?ああ・・・なんだ、セイタ、起きちゃったのか?」
「うん。」
話し始めてから、いつのまにか夜半過ぎていた。先に寝たはずのセイタが眠い目をこすりながら起きてきた。
「セイタちゃん、ミルクでも飲む?」
「うん。」
テーブルに着き、グラスに注いだミルクをおいしそうに飲むセイタを見ながら、ミルフィーは小声で言う。
「セイタちゃんがいるから、用心棒として入り込むのは無理みたいね?」
ミルフィーにはすっかりなついていたセイタだが、やはりなんと言っても兄のように慕っているラードが一番なのである。両親もそして育ててくれた祖父も失くした今、セイタにとって心から頼りにしているのはラードなのである。肉親のように。
「あ、ああ・・・・」
そんなセイタを見、ラードはため息をついた。邪魔と感じるわけではないが、行動が制約されてしまうことは確かだった。小さな少女連れでは怪しげな酒場へ入ることも、用心棒を雇うような物騒なところに潜入することもできない。
もっとも宿で留守番させていればいいのだが、セイタは一人になることを非情にいやがった。そして、その心細さを十分理解していたラードとミルフィーは、そうさせることもできない。
私がやるから、というミルフィーを説き伏せ、そういった場所での情報収集は交代ですることにした。

が、相変わらず何を調べるのか不透明なままだった。情報はあまりにも少ない。いかにも怪しげな男に近づいてはそれとなく話かけてはみるのだが、聞きたいことが分からなければ確信に近づくこともできない。ラードの父とセイタの祖父のことをそれとなしに聞いてみるくらいである。


「とにかくデストローゼへ向かってみないか?」
情報がゼロのままでは不安もあったが、ともかくラードの父親とセイタの祖父の足取りを追ってみようとラードはミルフィーに提案した。
「そうね。」
そんなことを相談していた時、興行師ガナフォスから連絡が入った。

「王宮で?」
「ああ。週末毎に興行してただろ?絶世の美姫である歌姫の噂が国王の耳に入ったらしい。」
にやっと意味ありげな笑みをみせながら、ガナフォスはミルフィーにその招待状を差し出す。
国都ガンデリアはシゼリア大陸一の大きさを誇る湖、海とも見間違えるほどのその湖の畔にあった。そして、ガンデリアの西部、湖の片隅に浮かぶ小島に王城はあった。そこへは跳ね橋で渡ることができるのだが、出入り自由だったそこは、数ヶ月前から跳ね橋が上げられたままの状態となっていた。
なぜ道を寸断するようなことをするのか、街に駐屯している兵らに聞いても、答えは勿論返ってくるはずはない。
何かが起きている、それはミルフィーだけでなくラードもそしてガナフォスらも感じていたが、限られた者にしか、その跳ね橋は下りてこないため、調べることは不可能だった。

「ただ・・・」
「ただ?」
招待状を読んでいるミルフィーを横目に見ながらラードはガナフォスの言葉に不安を覚えながら聞いた。
「招待するのはミルフィー一人だけということなんだが・・」
「一人?」
「そうらしいわね。賓客として十分な待遇で迎えるから付き人は遠慮願う、って書いてあるわ。」
「そんなのって!」
差し出された招待状を奪うようにしてラードはそれを走り読む。
「い、いいのか?」
「いいのかって・・・・仕方ないでしょ?私なら大丈夫よ。」
不安そうなラードとため息はつくものの、平気な表情のミルフィー。
ガナフォスはミルフィーの座った肝っ玉ぶりに感心しながら言う。
「あんたの心意気はわかったが・・・心配なのはオレも同じだ。王侯貴族なんてものは一番信用おけないからな?それに、確かに今王城は普通じゃない。」
「親方・・」
何かある、怪しいと睨んでいた王城内の調査のチャンス。それを逃すことになるのか、と不安を覚えたミルフィーの目に、にやっと笑うガナフォスの不適な顔が写った。

「親方?」
「招待されたのはあんた一人だ。だが、歌姫の舞台なんだ。しかも期限は切られていない。しばらく滞在して1週間に2、3度開く舞踏会のときに歌ってくれという依頼だ。あんたが望む限りいてもいいとも書いてある。」
「それが?」
分からないのか?ガナフォスの笑みはそう言っていた。
「今、国都をいや、シゼリア中をわかしている絶世の美姫の舞台なんだぞ?毎夜、衣装が一緒というわけには・・いや、ひょっとしたら一舞台でさえ、ずっと同じ衣装というわけにもいかないだろ?」
「あっ!」
ガナフォスが何がいいたいのかわかった2人は目を輝かして同時に叫んでいた。
衣装箱は1つというわけにはいかない。しかも舞台衣装用のそれは、人一人楽に入る大きさでもある。
「明後日の朝迎えの馬車がくる。1台はミルフィー用。そしてもう1台は衣装用の大型の荷馬車だ。」


そして、王城から迎えが来た朝、美しく着飾ったミルフィーは、山のような衣装を詰めたいくつもの衣装箱と共にガナフォスの屋敷を後にした。

−ガラガラガラ−
「いいか、セイタ、じっとしてるんだぞ。ちょっとの辛抱だからな。」
「うん。」
楽に入るといっても狭い衣装箱。ラードはどうしても付いてくると言ったセイタを腕に抱え、一際大きい衣装箱の中で緊張していた。



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