「あっ!、ち、ちょっと待って・・・・」
「何言ってんのさ?このくらい着なきゃお客は呼べないよ?」
「で、でも・・・・」
「だ〜い丈夫!あんたは自分が美人だって自覚が足らなさすぎるんだよ。」
「で、でも・・・」
「でももへちまもないんだよ!ほらっ!さっさと支度して舞台へ出とくれ!これ以上わがままは許さないよ?!」
いつまでも煮え切らない態度のミルフィーをじろっと睨むと、シャグリアは馬車から出ていった。
ミルフィー、ラードそしてセイタはシャグリアの率いる旅芸人の一座の中に入って情報を収集しつつ、町々を移動していた。
「う〜〜〜・・・・・・」
笑う魔物も泣いて逃げる(?)凄腕剣士ミルフィーも、シャグリアにかかっては赤子同然だった。が、別に意地悪しているわけではない。彼女はミルフィーの才能を買っているのである。
シゼリアの首都ガンデリアへ向かう途中で出会った彼女は、旅の仲間にしてくれと頼まれた当初、ミルフィーの剣技とラードのナイフ投げを予定していた。が、偶然聞いたミルフィーの鼻歌に彼女の目は輝いた。
さっそく剣士の格好をし、当然飾り気など何もなく髪も適当に後ろに束ねているミルフィーの半強制改良を図った。そして、髪を結い上げ、ドレスを着せてみたミルフィーから感じられる品に彼女は確信したわけである。
旅を続けるにはどうしても資金が必要になってくる。通常ミルフィーやラードの資金調達方法は魔物狩りや何か仕事を引き受けることである。が、国都に向かって街道沿いに進むその道には、魔物も滅多に出ない。せいぜい山越えのときくらいなのである。どうやって資金を調達しようか、と相談していたところに偶然出会った旅芸人の一座と一夜を過ごしたことにより、いつもの朗らかさと気さくさですっかり親しくなった結果一緒に行動することになったのである。
そして、ガンデリアへの途中にあるカシュラの街。道々シャグリアによる歌とこの地方の弦楽器であるシェタの猛特訓に耐えてきたミルフィーの成果が試される初舞台である。
「ミ、ミルフィー・・・・」
「あ・・ラード・・・わ、私、おかしくない?」
両肩は勿論、背中もほとんど丸見え、前もかなりの深めのカットである。最後の抵抗でそのドレスの上にショールを羽織ってはいるのだが、シャグリアが許可したのはほとんど羽織っていないような透明のショール。
ちょうど馬車から出てきたそのミルフィーの姿に、剣士姿しかみていないラードは言葉を忘れて見入る。
(け、結構着やせっていうか・・・ミルフィーって・・・)
「ラード?」
ラードの知っているミルフィーは、剣士姿とその腕からして女には到底思えない。かと言え、決して外見が男に見えるというわけでもないが、思いがけないドレス姿の彼女はまぶしすぎた。思わず確認するように目がいってしまったミルフィーの胸元は予想外にボリュームがあった。
「ラード?」
返事をすることも忘れて見入っていたラードは、ミルフィーに声をかけられ焦った勢いで、心にもない言葉が出る。
「あ・・そ、そだな・・いいんじゃないか?馬子にも衣装っていうか?」
−パシッ!−
「痛っ!」
持っていた扇子で頭を叩かれラードは声をあげる。
「中身は変わらないって言いたいんでしょ?」
「あ・・・そ、そうじゃなくって・・・・だな・・・・」
訂正しようとしたラードを無視し、ミルフィーはさっさと舞台へと歩いていった。
そして、一座の舞台が始まり、ミルフィーの出番が回ってくる。最初こそ上がっていたミルフィーだが、そこは本番に強いというかなんというか・・・歌い始め、2曲目、3曲目と重ねる毎に落ち着いていった。
そして・・・・
「わ〜〜〜!!ブラボーー!!」
嵐のような喝采とアンコール。
「やっぱりね。あたしの目に狂いはなかったよ。」
満足するシャグリアは、次にそのミルフィーとラードでナイフ投げを披露させる。
ラードが舞台の端に立つミルフィーにナイフを投げる都度、わあっ!きゃあっ!という観客の叫び声があがった。
勿論ミルフィーの風術で八百長投げである。一応座長であるシャグリアだけには話してあるが。
「かんぱ〜〜〜い!!」
「こんなにたくさんの実入りなんて初めてだよ!ご祝儀の多かったこと!」
その夜、一座は大成功に沸いていた。
そして、2日3日と舞台は続く。
その結果、ミルフィーは、思ってもみなかった大変な目にあうことになった。
街にいる間、宣伝にもなるから、とシャグリアが剣士の格好に戻ることを禁止したせいもある。そして、そこでの舞台が大成功すぎたせいもある。
とはいえ、舞台衣装ではなく、普通の女物のドレスを着ているのだが、それでも舞台を見に来た人にはミルフィーが誰なのかすぐわかった。
ということで・・・情報収集のため、一座の馬車を止めている広場を出、街を歩くミルフィーに寄ってくる者たちが、日に日に増えてきたのである。
日を追う毎に、舞台を重ねる度に歌姫ミルフィーの名はそして噂は瞬く間に街中へ広がっていった。
そこでの公演と滞在が1週間すぎたその日、ミルフィーが広場から出た途端に、まるで待ちかねていたように人々が、(しかもそのほとんどが男)集まり始め、あれよ、あれよという間にミルフィーの周囲は黒山の人。
「あ、あの・・・・」
魔物なら簡単に蹴散らすことができた。が、人間では、そして悪意を持っているわけでもない人間をそうすることはできず、そして、初めてのその体験に、ミルフィーはおどおどするばかり。
「ほらほら・・うちの大事な歌姫に怪我をさせないでおくれよ!なんせこういうことはまだ慣れてない初(うぶ)な子なんでね。」
その騒ぎに気づいたシャグリアが人々の間を分け入ってミルフィーを庇った。が、その庇った言葉がまたしても噂になって街中を駆け回る。
『旅芸人一座の歌姫としては珍しくまだ男がついていないらしい。』
『パトロン募集中?』
『どこそこの男爵が名乗りをあげたらしい。』
『その男爵の対抗馬が出たらしいぞ?』
云々・・・・様々な噂が飛び交うようになった。
「シャグリア!」
広場から一歩も外へ出られなくなったミルフィーが、ついに我慢しきれずシャグリアの馬車に飛び込むと同時に叫ぶ。
「まー、まー、いいじゃないか?おかげで資金がっぽり♪あんたの魅力が証明されただろ?」
「証明されたって・・・・これじゃおちおち外も歩けないわよ?」
「いいんじゃないか?」
「どこが?」
「あんたたちの旅の真の目的は知らないけどさ。」
ちろっと横目で見たシャグリアにミルフィーはぎくっとする。さすが座長として一座を率いてあちこち旅をしているだけある。なかなかにめざとい。
「これであたしたちと別れても稼ぎにゃ困らないだろうし。」
「え?」
「それにね、何を調べてるんだか知らないけどさ。確信を握ってるのは一部の力ある貴族や商人と相場は決まってるのさ。だからね・・・」
バチン!とウインクして微笑んだシャグリアに、ミルフィーははっとする。
歌姫として名をあげていけば、そういった屋敷に直接招待されることも可能である。それはつまり普通では入手できない情報もそれが可能となる可能性がでてくる。
「シャグリア・・・」
「本当はね、ずっとあんたにこの一座にいてもらいたいんだけど・・・・」
それが本音ではあったが、普通の少女ではない、とシャグリアはミルフィーに会ったときから感じていた。
「あ、ありがと・・。」
「ま、とにかく、ガンデリアまでは一緒に来てくれるんだろ?」
「え、ええ。」
「それまでがっぽり儲けさせておくれな。なにしろあたしはあんたの歌の師匠だからね。大丈夫!だれも剣士姿のあんたと歌姫と同一人物だなんて思いやしないからさ。上手に使い分けてうまいことやればいいんだよ。」
「あ・・はい。」
その手があった!とミルフィーは今更ながら気づく。
「だけどさ、欲を言うなら、もう少し色気がでないかね?」
シャグリアの温かいその気配りに感謝して微笑んでいたミルフィーは、どきっとする。
「い、色気?」
「ああ、そうだよ。こうさ・・ちらっと視線を流すんだよ。ちらっと・・・。」
「ち、ちらっと?」
「それでね、誰かと視線があったらね、軽〜く微笑むんだよ。顔でじゃないよ、目で微笑むのさ。熱い想いを瞳に浮かべてね。ただし、さりげなく少〜しね。そこがポイントなんだよ、わかるかい?」
「は、は〜・・・・」
できそうもない、とミルフィーは実際に手本を示してくれているシャグリアの流し目を見て思わず頬を染める。
「ホントにあんたは初って言うか・・・・」
笑いながらシャグリアは続ける。
「そうすりゃ、もっと人気が・・・あ、いや・・・そうだね〜〜・・そういったところもかえってそれなりに気を引くのかも知れないね〜?」
「シャグリア?」
「あはははっ!ともかくあんたは自分が美人で魅力的だってことをもっと認識するんだね。」
真っ赤になって上目遣いで見るミルフィーに、シャグリアは高らかに笑っていた。
「いいのか、銀龍?金騎士がこんなんで?」
なんとなくまるっきり違った方向へ進んでいるような気がし、ラードはシャグリアにからかわれているドレス姿のミルフィーをちらっと横目で見て呟いた。
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